コミュニケーション
2025.12.19

目次
先日、ある企業様に来年度の研修提案に伺った際、思いがけないご要望をいただきました。
若手層、中堅層、管理職層それぞれの研修テーマを検討する中で、管理職層に対して「文書作成スキルの研修」を実施してほしいというお話です。正直なところ、「今さらですか?」と思いましたが、よくよくお話を伺うと、技術系の仕事から管理職になった方々も多く、実務の腕は確かなのですが、文章を書くことをそもそも体系的に習っておらず、苦手意識を感じている方が少なくないとのことでした。
ただ、そのまま「文書作成スキル研修」という名称で実施すると、若手向けの研修のように見えてしまい、管理職の方々のプライドを傷つけかねません。どう打ち出すかは宿題として残っていますが、このニーズは確かに存在すると実感しました。
本来、実務とマネジメントは異なるスキルです。実務で成績を出してきた方や腕を上げた方が管理職になるというキャリアパスを描いている会社が多いのが事実です。マネジメントの専門職が横から入ってきて現場の人たちを動かせるかというと、それも難しい面があります。
仕組み上、実務経験者が管理職になるのが妥当ではありますが、事務仕事の訓練を受けていない方がいきなり管理職になって「はい、やってください」というのは、さすがに厳しいものがあります。
とはいえ、予算をかけて外部講師を呼んで研修を実施するかというと、なかなか踏み切れない企業も多いでしょう。そこで、文章を書く機会があまりないまま現場の実力が認められて管理職になった方、文章を書くのに苦手意識がある方、なんとなくやれているけれど「これでいいのかな」と思っている方に向けて、この記事を書きます。自分のやり方を振り返るきっかけになるようであれば嬉しいです。

管理職になると、実務能力が問われるというよりも、人を動かすことが求められるようになります。
人を動かすには言葉が必要です。それは部下への業務指示のメールであったり、他部署に対する連絡事項であったり、取引先に対する依頼であったり、あるいは上司に対する報告であったりします。管理職になると文章を書く機会はどんどん増えていきます。
職場におけるコミュニケーションの目的は相手を動かすことです。自分の意図をしっかりと伝えて、相手に期待通りの行動を取ってもらう。そのために文章を書くスキルは極めて重要になります。単純に報告・連絡・相談をするだけではなく、相手に判断を促すための材料を与えたり、基準を揃えたり、相手に納得してもらったり、協力を得たりする。そのために文書を書く必要があるのです。
文書に書き記していく中で、読み手はそこから発信者の思考の質や判断力を見ることになります。よく分からない文章を書いていると、「この人は頭が整理できていないな」「自分でもよく分かっていないんだな」と思われ、信用を損ねてしまうこともあります。
そういう意味では、文章を書く力を上げていくことは、自分の思考を研ぎ澄ます能力を鍛えることにもなります。
もちろん、文章にすることによって、口頭で伝えるよりも拡散力があり、情報を広げていけるという利点があります。また、言ったことをきちんと記録に残す、保存するという効果もあります。様々な面で、管理職にとって文書作成スキルは重要なのです。
では、分かりやすい文書とは一体何なのでしょうか。大きく3つのポイントがあります。
1つ目は「読み手に合わせる」ということです。これは、誰に向けた文章なのかを明確に意識して書くということです。相手によって言い回しはもちろんですが、文書の目的そのものが変わります。
例えば、自分よりも上位の経営者の方に何かを伝える時には、当然それは決裁を仰ぐ、意思決定をしてもらうために書きますので、そのために必要な情報を書きます。
なおかつ、上層部の方々は忙しいですから、いらない情報を載せず、必要最低限だけれども不足のないような情報を整理して、いちいち考えなくてもすっと入ってくるような構成で文章を書いていくことが大事になります。
一方、現場の担当者に向けて書く場合は、彼らが実際に仕事を進めるために必要な具体的な情報が必要になります。それがないと仕事ができないからです。
これは文章に限った話ではありませんが、人に何かを伝える時の鉄則は、自分が言いたいことではなく、相手が知りたいこと、相手が聞きたいことに焦点を向けて伝えるということです。相手はどんな人で、何を求めているのかを想像しながら書くことが何よりの大前提になります。
2つ目は「簡潔に書く」ということです。とにかく、分かりにくい文章は長いのです。だらだらと続く文章は、ずっと読んでいても頭に入ってきません。
原則はすごく簡単で、一文を短くすることです。この「短く」というのはどれくらいかというと、大体60文字に1回は句点(。)がつく程度です。もっと短くても全く問題ありません。正直なところ、仕事の場面では文芸作品を書くわけではないですから、短い文章の羅列でもまったく構いませんし、箇条書きでもいいわけです。とにかくシンプルに書くということです。
なるべくいらない情報を削ぎ落としていくことが大事になります。冗長な表現や回りくどい言い回しはなるべくカットします。
また、これを知っておくと便利なのですが、主語と述語を近づけるとだいぶ伝わりやすくなります。例えば、「◯◯についてご説明を申し上げますが、まず最初に前提条件を共有させていただきたいと思います」というものを、「◯◯について前提を申し上げます」とすれば、言っていることは同じなのに、回りくどさがまるで違います。簡潔に短くしていくと読みやすくなるのです。
だらだら長い文章よりも、短くコンパクトな文の方が、書き手の頭が整理されているなという印象を与えることができます。そういうやり取りをメールや書面でしていると、当然相手からの信頼度が上がっていきます。なるべく短い文章を端的に書く練習をしていくことが必要になります。
3つ目は「論理的に書く」ということです。論理的というのは、「筋道が立っている」とか「順序立っている」と説明されることが多いですが、要は流れを作ることによって、相手が「これはどういう意図だろう」と考えなくても、そのままスッと頭に入ってくるように書くということです。
実践的なテクニックとして、仕事の場面ではこの2つのパターンを使いこなすことで、確実に文章力を上げることができます。
1つ目は「主張→理由→具体例→結論」の順に書くということです。これは「PREP法」と呼ばれるもので、Point(要点)、Reason(理由)、Example(具体例)、Point(結論)の順番に話すと分かりやすいというプレゼンテーション技術なのです。これを文章にも活かせます。
「これは⚪︎⚪︎です。なぜかというと××だからです。例えば、△△があります。だから、○○なのです」といった形で、流れを作って説明すると、相手の理解や納得を促しやすいです。
私も一時期、ずっとこれを練習していました。メールや文章、提案書を書く時はもちろん、講演や講義で話をする際にもPREP法を意図的に用いて練習をしていました。
また、実際の仕事の場面では問題解決をすることが多いので、その時には「結論→事象→原因→対策」の順に書くことも有効です。「まず、結論として◯◯です。というのも、××ということがありました。原因は△△です。なので、□□のような対策が必要です。」という形で、順を追って説明すると、やはり流れが分かりやすいのです。
相手が「これは何が言いたいんだろう」と考えなくても、書いてある通りに読み込めばいいので、非常に分かりやすくなります。当然、「よく考えられているな」「整理されているな」という印象を与えますので、読み手の好感度も上がっていくことでしょう。
この3つを意識するだけでも、文章力はかなり上がります。細かい表現や語彙力よりも前に、短く、構造的に、論理的に書くことが大事なのです。

それでは、文章力を上げるための、具体的なトレーニング方法をご紹介いたします。
まず1つ目は、「日々の文章を上記3つのポイントで書く」練習を積むことです。日報やメールなど、日常的な仕事の場面でどんどん練習していきましょう。
もちろん、ある程度の礼儀的な要素も必要かもしれませんが、現代はみな忙しいですから、あまり長い文章はそれだけで敬遠されてしまいます。短く書いてあると、読んでもらえやすいのです。日報やメールを簡潔に書く、論理的に書くという積み重ねで文章力は上がっていきます。
2つ目に有効なのが、「良い文章をパクる」ことです。これは私も、以前はかなりやっていました。私はもともと、飛び込み営業から仕事をスタートしましたが、その頃は文章を書く機会などほとんどありませんでした。
その後、内勤に移って会社の中でやり取りをすることはありましたが、それでも社内ですから「お疲れ様です。◯◯です」のような文章で対応できてしまいます。その後に転職をして、社外の方とやり取りをすることがかなり増えていったのですが、礼儀的な要素も含めて、本当にどう書いて良いのかが分からなかったのです。
そのため、文例のようなものを勉強もしましたし、お客様から送られてきたメールで良いと思ったものは、コピーして保存していました。それをテンプレートのような形にして、必要な部分を書き換えるといった形で転用していました。
何度も同じフレーズを繰り返し使っていると、だんだん覚えてきます。いずれ自分のものとなり、無意識で使うようになります。私自身、仕事でのメールやメッセージの書き方は、ある意味ワンパターンです。
特に、「誠に恐れ入りますが」「お手数おかけいたしますが」「ご面倒をおかけいたしますが」などのクッション言葉は、いつも同じような言い回しですが、それで何ら困ることはありません。
自分にとってはワンパターンでも、相手によっては初見であったり、久しぶりだったりして、しつこい印象になるとは限りません。自分の中で「文章の型」ができてくると、文章を書くことへのストレスがかなり軽減されます。良い文章を集めて真似るというのは、シンプルで簡単ですが、かなり有効な方法だと考えます。
3つ目は「話す前に書く」です。これは文章力を直接上げるというよりも、自分の思考の質を上げる、頭の回転を良くするトレーニングの一環です。
人間は「考える→書く→話す」のプロセスで思考が研ぎ澄まされていきます。私の研修では、まず個人で考える→考えたことを紙に書き出す→書き出したことを隣同士やグループで話す、といった簡易な演習を繰り返し行います。形式はワンパターンなのですが、これには意図があるのです。
何かお題が出された時に、人はまず頭の中でイメージを作ります。これはただのイメージですから、自分でも「なんとなく」の理解しかできていません。それをまず紙に書き出します。すると、イメージが「言語化」されます。
これで一応は具現化するのですが、いざそれを伝えようとするとうまく伝えられない。それは、まだ「自分の中でも整理できていない」「分かっているようで、分かっていない」という状態にとどまっているからなのです。
そこで、これを他人に話そうとすると、紙に書かなかった部分の行間を補って、前提を補足したり、順序立てたりして、「論理を構築」していくのです。それにより、自分自身の理解度も一層高まります。そのため、「考える→書く→話す」のプロセスが大切になってくるのです。
例えば、会議で何かの発言をする、商談で何かの情報提供や提案をするという時に、いきなり話そうとすると「何をどの順番で話せばいいんだろう」と詰まってしまいます。
そこで、事前に「今日はこういう話をしよう」「こう聞かれたらこう返そう」といったシナリオを整理しておくのです。いざとなったら、それを読んだって構いません。
この積み重ねで、現場対応力を上げていくことができます。準備の過程の中で自分の考えが言語化され、思考が研ぎ澄まされ、いざ文章を書く時にもスラッと書けるようになるのです。
私は週に2回、YouTubeの動画を投稿しています。多くの場合、大まかにですが、台本を用意して話しています。忙しい時は、キーワードを箇条書きにして、後はアドリブで話したりもするのですが、結局、話が長くなってしまうのです。事前に整理しておかないと、うまく話せないのです。
実際には、台本通りに話すことは稀で、話しているうちに「ノって」くるので、台本を見ずに頭の中に浮かんだことを話すようになります。
しかしそれでも、事前にある程度、殴り書きであったとしても、言いたいことを整理しておくことが重要です。正直なところ、字が汚くて何を書いているのか分からないレベルであったとしても、その思考のプロセスが記憶に残っていますから、ある程度うまく喋れるようになるわけです。
とにかく書く場面を増やして、書く練習をしていくことが文章力の向上につながるのです。

管理職の役割は、実務から一歩引いて「人を動かす側に回る」ことです。
人を動かすには言葉で伝えることが必要です。そして、言葉で伝えるというのは必ずしも口頭での伝達だけではありません。むしろ拡散性や保存性の観点から、文章で伝えていくことが重要になってきます。
文章スキルを上げていくと、シンプルに業務効率が良くなっていきますし、コミュニケーションが円滑になっていきます。
たとえ、今は文章を書くのが苦手であったとしても、「読み手に合わせる」「簡潔に書く」「論理的に書く」といったポイントを地道に練習していきながら、文章作成スキルを上げていき、文章を書くことへの抵抗感を減らしていっていただけたらと思います。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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