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時間管理

2025.9.3

【残業がなくならない理由】パーキンソン法則の罠〜仕事の量は時間に合わせて膨張する!〜

パーキンソンの法則とは何か

なぜ残業がなくならないのか。

この問いについて考えるにあたり、とても役立つ考え方として「パーキンソン法則」というものがあります。「仕事の量は完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」というもので、言い換えれば「その仕事のために使える時間の長さに比例して、仕事の量が決まってしまう」という理屈です。

一見すると「そんな馬鹿な」と思う人もいるかもしれませんが、これは実際に多くの場面で見られる真実だと言えます。人がいるから、時間があるから、できてしまうから、それに見合うだけの仕事量が生まれてくるのです。

この考え方を提唱したのは、イギリスの政治学者シリル・ノースコート・パーキンソンです。彼は官僚制度の非効率さを研究し、「なぜ官僚の仕事は無駄が多いのか」を突き詰めた結果、この法則にたどり着きました。人員が多い組織ほど、その余力に合わせて仕事量が肥大化していく。官僚の仕事が非効率で、無駄が多いのは、それでもなお「できてしまう」からなのです。

官僚制から日常業務へ

パーキンソンの研究は官僚組織に向けられていましたが、その本質は私たちの職場や日常業務にも当てはまります。官民問わず、業種や職種を問わず、あらゆる仕事に共通して適応できる普遍の真理だと言えるでしょう。

例えば「1枚の資料を作る」という仕事があったとします。もしその日1日、他に仕事が何もなくて時間が十分にあるとしたら、どうなるでしょうか。下書きをして入力し、印刷してチェックを重ね、やがて装飾やデザインにもこだわるようになり、グラフや図表まで作り始めてしまうかもしれません。つまり、本来必要以上の労力をかけてしまうのです。

一方で、他の業務で手一杯のときに、同じ資料作成の指示を受けたらどうでしょう。最低限の記載がされた報告書を3分でまとめて提出することだってできます。内容は「結論・理由・以上」というシンプルな構成。そんな対応で良いのかと思うかもしれませんが、場合によってはそれで十分なのです。

その仕事にどこまでの労力をかけるべきか。本来であれば、これを決めるのは「その仕事の目的」です。もし、それが重要な意思決定に関わる資料であれば、何時間もかけて丁寧に作り込む必要があるでしょう。しかし、「念のために記録用に残しておく」程度の目的であれば、3分で済ませてしまっても問題でしょう。どうせ、使われるかどうかもわからないのです。

オーバースペック納品という落とし穴

ところが、私たちは往々にして「仕事の目的を確認する」という手間を省いてしまいます。ただでさえ忙しいので、さっさと片付けてしまいたい。仕事の目的や詳細を確認している時間が欲しい。だから、二つ返事で引き受けてしまう。その結果、本来は簡潔に済ませられるものを必要以上に作り込み、過剰な品質となる「オーバースペック納品」をしてしまうのです。

提出した結果、上司から「ここまでやらなくてもよかったのに」と言われることもあるかもしれません。最初に確認しておけば、そこまで手をかける必要はないと判断することもできた。しかし、聞かなかったがために、どのレベルで仕上げるかを自分で勝手に判断してしまい、オーバースペックで納品してしまう。これは決して珍しいことではなく、多くの職場で実際に起きていることでしょう。

なぜ、このような無駄が生じるのか。

その根本的な理由は「できてしまうから」です。時間があるから、できてしまうから、余分な仕事をしてしまうのです。これがパーキンソンの法則が示す「仕事の量は時間に合わせて膨張する」という実態なのです。

残業がなくならない本当の理由

パーキンソン法則を前提に置くと、目を背けたくなるような真実に直面することになります。人はなぜ残業をするのか。その答えは非常にシンプルで、明快です。残業をしてしまうのは、「残業ができる」からなのです。

ふざけているように聞こえるかもしれませんが、これは真実です。人はできるから残業をするのです。仕事が所定労働時間内で終わらない時に「残業する」という選択肢があると、私たちは自然と残業によって問題を解決しようとするのです。自分の労働時間を延ばしさえすれば、他人に頼んだり、調整したり、交渉したりすることなく、自分の力だけで問題を片付けられるからです。

一方で「仕事を減らす」という選択肢もあります。業務の優先順位を見直したり、不要な作業を削ったり、人にお願いしたりして、仕事を減らすことで問題を解決することができます。しかし、それをするためには、調整や交渉、説得といったコミュニケーションコストが伴います。

簡単に言ってしまえば「面倒くさい」のです。仕事を減らす方が面倒なので、自分の時間を犠牲にするだけで済む「残業」という、楽な選択肢を取り続けてしまうのです。

残業という選択肢がない人たちの働き方

しかし、世の中には「どうしても残業ができない」という方もいます。

例えば、小さな子どもを育てながら働く子育て世代、両親など家族の介護を担っている人たちはどうでしょう。保育園への送り迎え、帰宅後の家事や育児、介護など、仕事以外にも「必ずやらなければならないこと」が山積している方々には、最初から「残業をする」という選択はありません。

仕事が終わらない時に「残業で解決する」という選択肢が取れない以上、日頃から「時間内に終わるように仕事を進める」「仕事量が増えないようにする」という進め方をするしかないのです。

限られた時間の中で優先順位をつけたり、不要な業務を削減したり、効率的に終わらせる工夫を日常的に続けていきます。結果として、残業に頼らずとも成果を出すスキルが身につき、非常に「仕事がデキる人」として評価されることになるのです。つまり、残業できない状況がプラスに働き、むしろ生産性を高める効果をもたらすのです。

「できてしまう」人の落とし穴

一方で、20代の独身時代の私のように、時間の制約がほとんどなく「いくらでも働ける」という環境にある人はどうでしょうか。残業ができるからこそ、際限なく仕事を引き受けてしまいがちです。上司に頼まれたら断らずに対応する。無理な仕事も「まあ自分がやればなんとかなる」と考えて背負い込んでしまう。

その結果、膨大な仕事をこなす一方で、自分のプライベートは犠牲になり、いつの間にか生活のバランスを崩してしまいます。心身の不調をきたすこともあるでしょうし、生きる目的も楽しみも見失い、まさに「仕事の奴隷」のような生活を送ることになるのです。

パーキンソンの法則が示す通り、時間をかけられる環境があるからこそ、仕事の量も必然的に増えてしまうのです。たとえ大量の仕事に対応できるようになったとしても、これは本当に「仕事がデキる」と言えるのでしょうか。実際には、極めて不健全な働き方と言わざるを得ないでしょう。

引き受けるべき仕事と断るべき仕事

では、残業に頼らず、健全に働くためにはどうすればよいのでしょうか。

必ずしも、家事や育児、介護などの制約を設けなくても、同じように「残業を前提としない仕事の仕方」をしていけば良いのです。そのためにまずは必要なのは、「時間内に終える範囲内に仕事を抑制する」という決意です。

そして、それを実際に進めていく上で有効なのは、「時間をかけるべき仕事」と「時間をかけるべきでない仕事」を見極めることです。すべての仕事が重要で、十分な時間をかけなければならないという前提では、仕事を減らすことも抑制することもできません。時間をかけるべき仕事に集中するために、時間をかけるべきでない仕事を減らす。1分1秒でも時間をかけないようにする姿勢で、仕事そのものを調整していくのです。

もちろん、これは決して容易なことではありません。仕事を断るためには相手を説得する交渉力や、代替案を提示する企画力、プレゼンテーション能力が必要です。また、日頃から上司や同僚、取引先との信頼関係を築いていなければ、仕事を断ったり延期させたりする交渉のテーブルにつくこともできません。そのため、日常的に人間関係を構築し、断っても角が立たない環境を整えておくことが大切です。

まとめ

パーキンソンの法則が示すのは、「仕事の量は与えられた時間に合わせて膨張する」という残酷な現実です。そして、残業がなくならない理由もここにあります。残業という手段があるからこそ、私たちはそれに頼ってしまい、結果として仕事の量が減らないのです。

しかし、残業ができない状況にある人ほど、生産的な働き方を身につけています。それは、仕事の目的を明確にし、必要以上の労力をかけず、効率的に成果を出す工夫をしているからです。私たち一人ひとりも「時間をかけるべき仕事を見極める力」を養い、残業に依存しない働き方を選んでいくことが求められます。

残業は「できるからしてしまう」ものです。しかし、その構造を理解し、自分の働き方を見直すことで、より健全で生産性の高い時間の使い方ができるようになるでしょう。ぜひあなたも、自分の仕事を改めて見直して、どの仕事を減らせるか、縮小できるかを考えてみてください。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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