コミュニケーション
2025.12.16

目次
この数ヶ月間、様々な企業で研修を実施する中で、ずっと気になっていたことがあります。それは、若手社員、特に新入社員の方々の声が非常に小さいことです。
こちらから話しかけてもリアクションが薄く、ほとんど返答が返ってきません。研修の中で個人で考えたことをグループで話し合う場面を設けても、ボソボソと話していて、傍から聞いていても全く聞こえないのです。本人たちはそれでちゃんと聞こえているのだろうかと心配になるほどでした。
年々そういう傾向はありましたが、今年は一段とひどくなったように感じます。しかも新入社員だけでなく、20代中盤から後半、30歳近い方にもその傾向が見られます。正直、研修の進行にも支障が出るレベルなので、これは真剣に考える必要があると思いました。
研修の場面だけでそういう状態になるということは考えにくく、普段の職場でも同じような状況があるはずです。若手とのコミュニケーションがうまく取れずに困っているリーダーやマネージャーの方も多いのではないでしょうか。

最初は、これは若手社員側の問題ではなく私自身の問題なのではないかと考えました。自責思考で考えるならば、まずは原因を自分に求めるべきです。
私も年々歳を重ねています。コンサルタントとして駆け出しの頃は30代半ばでしたが、今は50歳近くになっています。新入社員との年齢差はどんどん開いていくわけで、自分では意識していなくても、知らずのうちに圧を与えてしまっているのではないかと疑いました。
そこで、他にも同じように感じている方がいるのか調べてみました。
コグニティ社が実施した『Z世代のコミュニケーション特性2024』というレポートによれば、AIを使って上場企業7社の商談や1on1の音声を解析したところ、Z世代は他の世代よりも発言量が少なく、話すスピードが約6%遅いというデータが出ているそうです。また、上司との会話が少なく、質問の数も半分以下だという結果でした。
他にも人事組織系のデータを調べてみると、日本の人事部の日本の人事部『若手社員の育成(OJT)に関する実態を調査』では、若手育成の最大の課題が主体性や積極性であり、入社時のやる気は高いものの、現場配属後にトーンダウンする傾向があるとのことです。
また、月刊総務『75%がZ世代社員のマネジメントに難しさを実感。主体性や責任感の弱さなどへの不満が高まる』では、回答企業の75%がZ世代のマネジメントに難しさを感じており、JMAM(日本能率協会マネジメントセンター)『若手社員は「打たれ弱い」は本当か? 最新調査で読み解く、イマドキ新入社員の8つの特徴』のデータでは、7割から8割の管理職が「若手のコミュニケーション能力が低い」と回答しています。どうやら私だけが感じていることではなさそうだということが分かりました。
なぜ声が小さく発言が少ないのか、原因を特定することはできませんが、いくつかの仮説を立てることはできます。
まず世代的な特徴として、「スマホネイティブ」と呼ばれる若者世代は、生まれた時からインターネットがあり、初めて持った携帯電話がスマートフォンという方々です。SNSやメッセンジャーアプリを使ってテキストでやり取りすることが当たり前で、文字で伝えることには慣れているものの、肉声で伝えることには慣れていないという可能性があります。
私の世代は高校生の時にポケベル、大学生の時にPHSから携帯電話、30歳頃にスマホが登場という経緯でしたから、テキストコミュニケーションではなく、肉声コミュニケーションが「標準」なのです。
また、Z世代は物事に慎重で、間違いたくない、変に思われたくない、目立ちたくないという傾向があると言われています。発言を選んでいるため、発言までのタイミングが他の世代と比べて遅くなるそうです。これは後から後悔するような発言をしにくいという良い面もありますが、会話がしづらいという面もあります。
時代の傾向としては、コロナ禍の影響も無視できません。感受性豊かな学生時代を、密を避け、ステイホームし、マスクをするという、口頭コミュニケーションが取りにくい環境で過ごしてきた影響は少なからずあるでしょう。
マスクをしている者同士の会話は聞き取りにくく、それがストレスになって肉声で話すことが面倒になり、テキストでのやり取りが増えていった可能性もあります。コロナと同時にデジタルシフトが加速し、効率重視のタイパという概念が出てきた時代に、わざわざ口頭で話す必要性を感じにくくなっているのかもしれません。
私たちの世代は口頭コミュニケーションで仕事をすることに慣れた後にコロナがやってきましたが、若い世代は初めからその状態を経験しているため、感覚が違うのだろうと思います。世代の特徴と時代の特徴が合わさって、若い世代は口頭コミュニケーションを取ることに慣れておらず、経験値が少なく、そもそもその必要性を感じにくくなっているのではないかというのが、私の考える原因仮説です。

原因はどうであれ、声が小さいことは仕事上でデメリットがあります。
まず第一に、印象があまり良くありません。声が小さいと自信がない、やる気がないように映ってしまいます。頭の中で何を考えているか、心の中で何を思っているかはお互いに分からないため、目に映るものでしか判断できません。実際に口に出して言ってもらわないと、何も考えていない、当事者意識がない、やる気がないと思われてしまい、評価を下げることになります。
第二に、業務効率が低下します。声が小さいと単純に聞き返しが増え、無駄なコミュニケーションが増えます。特に、オンラインミーティングでは、ボソボソ話すと聞き取りにくく、コミュニケーションがスムーズにいかなくなります。
第三に、チームの士気が低下します。声が小さく、リアクションが悪いとエネルギーを感じません。チームの雰囲気はエネルギーの高さで決まります。発するものがないと躍動感や活発さが出てきません。雰囲気が停滞すれば仕事も停滞し、業績も停滞していきます。やはりエネルギーが高い方が良い仕事ができるのです。
マネージャーとしては、若手がこの状態のままでは本人も仕事がしづらく、自分も仕事がしづらいため、対策を練っていく必要があります。
コミュニケーション研修でよく申し上げていることなのですが、声の大きさはスキルです。自分の言いたいことや意見、意図を相手に的確に伝えるためには、大きく明るくはっきり言った方が、小さくボソボソ話すよりも相手により伝わります。
声を大きく話すことは、相手への優しさなのです。会話はエネルギーの交流ですから、声は大きい方が良いということを明確に伝えていくべきです。
会議で何人もいる中で一人ずつ意見を言わせるのではなく、全体発表の前にまず隣同士で意見交換してアイデアをまとめてもらい、そのペアで発表してもらうなど、発言することへのハードルを下げていく方法があります。
つまり、声が出しやすい場面を作ることで慣れていってもらうのです。研修でよく用いるスタイルですが、職場の会議に取り入れてみるのも一考です。
また、心理的安全性も重要です。変なことを言ったら笑われる、叱られる、馬鹿にされるという不安があると、慎重な世代は発言を選んでしまいます。言っても許される安心感があると、より話せるようになります。
傾聴と質問のスキルを用いて、相手の言っていることを肯定的、共感的に受け止めることで話しやすい聞き方をしていきます。
本人がうまく言えなさそうなことがあれば、closed質問(選択肢を限定する質問)やopen質問(自由回答の質問)を交えながら、相手の意見を引き出すよう導きます。上の世代が聞き上手になる努力をすることで、双方向のコミュニケーションが取れるようになっていきます。
高校生や大学生の頃からずっと、大きな声を出さなくても、口頭で話さなくても済む環境に慣れてきた人たちを大きく変えていくのは現実的に難しいです。仕事に必要なコミュニケーションが取れれば良いわけで、コミュニケーションは肉声だけに頼る必要はありません。
テキストコミュニケーションが得意なら、日常の仕事のやり取りをそちらに寄せていく方法もアリです。ChatworkやSlack、Messengerなどを積極的に活用して、若い世代に寄せていく方がうまくいくなら、それもアリではないでしょうか。
年長者には年長者の感覚があり、若手には若手の感覚があります。これは良い悪いではなく、そもそも違うのです。世代の違いも時代背景の違いもあるため、お互いがどういう感覚を持っているのかを知ることが大切です。
一つのテーマについて年長者はどう思うのか、若手はどう思うのかをそれぞれ発表し合い、異文化交流のようにお互いの意見を聞く場面を作るのです。
情報不足で知らないと「なぜ?」と思いますが、相手を知って「そういうものだ」と思っておくと、お互いに対処法ができます。若手にも年長者に寄って欲しい部分もありますし、年長者は若手の感覚を理解してそちらに寄せていく努力ができます。お互いが歩み寄るしかないのです。

若手社員の声が小さいのは、やる気がないとか消極的だということとは限りません。世代の特徴、時代の特徴があって、そういったものとして傾向が出ていると考えられます。それを無理に変える、若手世代の感覚を年長者の感覚に完全に合わせさせようというのは土台無理な話です。
やはり歩み寄りが必要で、若手の方々に期待をかけつつも、年長者も歩み寄ろうとする努力をしていく、お互いにそれをやっていくことが何より重要ではないでしょうか。ぜひこの5つの対策の中からできることを一つ一つ試してみていってください。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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