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人材育成

2025.12.22

人事部が今さら聞けない「人事の基本」

人事部の全体像を理解する重要性

先日、ある企業の人事部の方にお目にかかった際に、人事業務の全体像をご説明する機会がありました。営業部から異動になったばかりとのことで、「人事が何をするところなのか、よくわかっていない」とのことでした。

日本型雇用の特徴として、他部門から人事部に異動になるケースは決して珍しくありません。なにせ、私自身も営業企画部やマーケティング部から人事に異動した身です。他国では多くの場合、「人事のプロフェッショナル」として勉学や経験を積んできた人が人事をやるのが通例なので、畑違いの人に突然人事業務をやってもらうという形式はとても異例です。

また、人事部門で長年働いている方であっても、採用業務だけを担当していたり、給与計算だけを行っていたりと、特定の領域に特化しているために、人事領域の全体像を把握しきれていないこともあります。

人事部門に新しく配属された方はもちろんのこと、経営者や管理職の方々が「そもそも人事とは何をするところなのか」を大まかに理解することは、組織運営において非常に重要です。「企業は人なり」という言葉もある通り、人的資源は事業の重要な源泉であり、それを管理する人事部門の役割はとても大きいです。

人事の仕事を一言で表現するなら、「企業の成果を最大化するために人と組織を最適化する仕事」です。とはいえ、この定義では具体的なイメージが湧きにくいかもしれません。もっとシンプルに言えば、人事の仕事は「良い人を採る、教育する、辞めさせない」ことです。以下、詳しく見ていきましょう。

人事の6つの主要業務

人事の仕事は大きく6つの業務に分けることができます。それぞれの業務が相互に関連しながら、組織全体のパフォーマンスを高めていく役割を担っています。

1.採用

第一の業務は「採用」です。採用は人事業務の中でも特に重要な位置を占めています。極端な話、優秀な人材を採用できれば、その後の業務は比較的スムーズに進むと言っても過言ではありません。

ただし、単に人手不足を補うために誰でもいいから「人手」を採用するのではなく、事業の未来に必要な「人材」をしっかりと確保することが求められます。

そのためには、まず「どのような人材が必要なのか」を明確にする必要があります。会社の経営理念や戦略を踏まえた上で、部門や職種を問わず必要となる要素と、特定の専門性を持つ部門や職種において必要となる要素を整理し、それを採用基準に落とし込んでいきます。

そして、そうした人材からの応募が期待できるルートに求人を出したり、人材エージェントに募集を依頼したりします。近年では、人材プールの中から有望な人材を探してスカウトを送るといった積極的なアプローチも行われています。

現在、社会全体が人手不足の状況にあり、求人数が求職者数を上回っている状態です。このような環境下で自社を選んでもらうためには、会社を魅力的に説明することはもちろん、仕事のやりがいだけでなく、給与や福利厚生といった労働条件も魅力的に提示しなければなりません。特に新卒採用においては、給与をかなり引き上げないと応募すら得られないという状況が生じています。

しかし、新卒の初任給を引き上げると、入社2年目や3年目の社員の給与を超えてしまう可能性があり、既存社員の不満や離職につながるリスクがあります。かといって全体の給与を引き上げると人件費が大幅に増加してしまいます。

実際、複数の給与テーブルが混在してしまい、ある世代は給与が高めで、ある世代は低めになっているという状況が生じ、それを是正したくても方法が分からないという企業も少なくありません。このように、人材確保は非常に重要である一方、実務上は大変な課題を抱えているのが現実です。

2.配置・異動

第二の業務は「配置・異動」です。これは平たく言えば、「誰に何の役割を任せるかを決める」ことです。優秀な人材を採用することはもちろん重要ですが、その後、誰に何をやってもらうかという配置が非常に大きな意味を持ちます。マネジメントとは経営資源である人・物・金・情報を効果的・効率的に分配していくことですが、人材を適切なところに配置することは、その中核をなす業務です。

配置・異動の判断は非常に悩ましいものです。組織全体の中で飛び抜けて優秀な人材は、どうしても一握りになります。そうした人材を、伸びている事業をさらに盛り立てる役割に配置するのか、それともうまくいっていない事業の立て直しを任せるのか、判断が難しいところです。しかも、能力だけで決められるわけではなく、人間関係も考慮しなければなりません。その辺りを勘案しながら、最もバランスが取れる組織像を作って配置していく必要があります。

実際にこの業務を担当すると、とにかく大変です。あるポジションにふさわしい人材が複数いれば良いのですが、そうでない場合、限られた候補者の中から選ばなければなりません。しかも、「この人とあの人は馬が合わない」「仲が良くない」といった人間関係も考慮する必要があります。

単に仲が良い悪いのレベルならまだ良いのですが、実際に何かトラブルを起こしたことがあるような場合は、いわば「共演NG」の状態になってしまいます。

さらに、業務の都合だけでなく、本人の意向も組み入れなければなりません。本人の希望にあまりにも反した配置をすると、その人が辞めてしまうかもしれません。説得して一時的に引き受けてもらったとしても、そこで定着してしまうと、今度は動かしにくくなってしまいます。

どの会社の人事担当者も、この配置・異動には非常に気を使っているのではないでしょうか。

3.評価・報酬

第三の業務は「評価・報酬」です。従業員に主体的、積極的に働いてもらい、成果を上げてもらうためには、やはりモチベーションも重要です。人間は期待されればその期待に応えようとしますし、やったことを評価されれば次にもっと頑張ろうと思います。

逆に、自分の期待に見合わない評価を受けると、やはり面白くなくなり、ふてくされてしまうものです。そのため、評価は非常に大事な要素となります。

ただし、人事部が直接評価をつけるわけではありません。実際には現場の上司が評価をつけることになりますので、上司が評価する際の公平性、透明性、明確さを担保するような仕組みを作っていくことが人事の役割です。全員に高い評価をつけるわけにはいきません。

全員がハイパフォーマーということは考えにくく、仕事をよくやっている人とそうでない人がいるのが現実です。

それをきちんと区別できるような仕組みにしておかないと、一生懸命頑張って成果を出している人からすれば、「なぜ自分の評価と、あまり仕事をしていない人の評価があまり変わらないのか」という不満が生じます。給料やボーナスもそれほど変わらないとなれば、その不満が蓄積し、優秀な人から会社を離れていくことになります。

ですから、本人の成果や成果につながるための行動、能力、勤務姿勢などを、なるべく客観的に評価できるようにしていく必要があります。

評価制度は、完璧なものを一度に作り上げることは困難です。試しにやってみて、様々なフィードバックを受け、修正を重ねていくというプロセスが必要です。さらに厄介なことに、評価する内容は時代や会社の事業戦略によって変わっていきます。

会社の方針や戦略に合わせて評価項目も変わっていくべきですが、評価制度を改定するには大きなエネルギーを要します。あまり細かくしすぎるとメンテナンスもできなくなり、現場も運用できなくなります。

しかし、抽象的すぎると好き嫌いの評価に近づいてしまい、なぜその評価になったのか本人が納得できないという事態になります。このバランスを考えていくことが、実務上の難しいところです。

4.育成

第四の業務は「育成」です。社員全体のレベルを上げていくことも必要ですし、エリート選抜として幹部候補に集中的に投資していくことも必要です。どちらも欠かせません。また、実務に直結する能力と、ビジネススキルと呼ばれる「どの仕事をするにも必要となる土台となる能力」があります。

さらに、コンプライアンス、ハラスメント、情報セキュリティなど、仕事をする上で知っておかなければならないことを身につけてもらうという要素もあります。このように、育成は非常に多岐にわたります。

育成の手法としては大きく3つあります。まず「OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」です。これは実務を通じて、仕事の能力を身につけていくものです。実際には人事部がOJTを行うわけではなく、現場の先輩や上司が担当しますが、「なんちゃってOJT」にならないような仕組みを構築する必要があります。

単に仕事を一回教えて、その仕事を任せ、「後はよろしく」というのではOJTにはなりません。On the Job “Training”、つまり「訓練」として仕事をしてもらうためには、計画性が必要です。習熟度の進捗を管理するためのツールや、それを運用するルールが必要であり、人事の役割はそれを整備することです。

また、OJTで実務能力は身につきますが、仕事の成果を高めるためには、実務に直結しない基本的な能力(例えば、思考力やコミュニケーション能力、マネジメント能力)なども身につけてもらう必要があります。

それを補うのが、2つ目の手法である「Off-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)」です。これは職場を離れてトレーニングを行うもので、最も分かりやすいのが「研修」です。体系的に理論立てて様々なことを教えていき、実務ではなかなか得られない知識や技能を習得していきます。

ただし、職場を離れて行うため、必ずしも実務に直結するわけではありません。学んだことを仕事に活かそうという意識が本人にないと、Off-JT研修の効果は出にくいのです。「いい勉強になりました」で終わってしまっては困りますので、フォロー研修や中間課題を設計して、学んだことを実際にやってもらう「仕掛け」を盛り込むようにします。

外部講師を呼んだり、参加者を呼び集めたりするのにお金がかかるので、そこまで予算がないというケースの方が多いのですが、研修は本来、知識習得(INPUT)だけではなく、実践と振り返り(OUTPUT)をセットで行うのが望ましいのです。

私は、外部研修に払う予算が確保できないのであれば、導入の講座は外部講師が行い、その後のフォロー講座を内部で行ってはいかがでしょうかという提案をすることもあります。単純な勉強で終わらせず、それを仕事に活かしていく設計にすることが重要です。

3つ目は「自己啓発」です。この環境を整えていくのも人事の仕事です。具体的には、自己学習教材を準備したり、外部講習を受講する支援を行うことです。近年では動画教材が充実しているので、グロービス学び放題、schoo、Udemyなどの動画配信サービスを導入している会社も増えています。

空いた時間や隙間時間、自分の都合の良いタイミングに必要な知識を勉強してもらうサービスが充実していますので、それを会社単位で契約して社員が使えるようにしています。また、資格の勉強のために学校に行く費用を補助する制度を設けている会社もあります。

事業環境は常に変わっていきますから、今までと同じことを同じようにやっていたら、今まで以下の結果しか出ません。ですから、社員の方々に勉強をしてもらう、勉強しやすい環境を整えていくことは、人事の重要な仕事なのです。

5.労務・コンプライアンス

第五の業務は「労務とコンプライアンス」です。労務も非常に幅広い分野ですが、一言で言えば、「社員が安心して働ける環境を整える」ことです。

例えば、社会保険や福利厚生を充実させることがこれに当たります。他にも就業規則など、働きやすい環境を作るための制度を整えていきます。安心して働くという意味では、安全衛生も含まれます。また、当然ながら、残業時間などを計算して給与額を算出し、それを遅滞なく、間違いなく支給することも、労務管理の重要な仕事です。

近年では、メンタルヘルスケア、ハラスメント防止、コンプライアンスの徹底など、働きやすい職場をつくるための施策を全社的に推進していくことも、人事の重要な仕事となっています。

6.組織開発

第六の業務は「組織開発」です。これが最も大事であり、また容易には実現できない重要業務です。組織開発をごく簡単に言えば、「企業文化や組織の質を高めていく」ことです。これもやるべきことが多岐にわたります。

人事の基本的な流れは、採用して、育成して、評価して、配置するというサイクルを回していくことですが、その中で社員の方々にもっとパフォーマンスや生産性を上げてもらったり、気持ちよく働いてもらったりするための様々な施策を打っていくことが必要です。

最近のキーワードで言えば、「心理的安全性」があります。これは、思っていることを率直に、立場に関係なく誰もが言えるような空気を作っていくことです。また「エンゲージメント」、つまり仕事に対する愛着や忠誠心を高めていくことも重要です。

さらに、本人の成長実感を感じてもらうために、現場レベルで1on1ミーティングを実施し、フィードバックやコーチングをしてもらうための施策も必要です。そして、部門間で協力し、部分最適ではなく全体最適が進むような職場の雰囲気や空気を作っていくことも求められます。

非常に大きな仕事ですが、こうした組織に関わる全社的なアプローチを取っていくのが人事の仕事です。もちろん現場レベルでマネージャーが様々なことを行いますが、その一貫性を保っていくような様々な施策を展開していくわけです。

様々な施策の方向性をしっかりと揃えていき、「いい人を採用する」「教育する」「なるべく辞めさせないようにする」という目的を果たすべく、社員の方が定着して生き生きと働くような組織を作っていく、これが人事の重要で大きな仕事だと言えます。

おわりに:人事部の価値を再認識する

人事部は裏方のイメージがあります。事業を行う上では、「作る」「売る」「管理する」という3つの機能がありますが、収益を上げる上ではどうしても「作る」「売る」に資源を集中しがちになります。しかし、そこで働く人を採用し、育成することは、事業を継続する上で、非常に重要な仕事です。

にもかかわらず、実態としては、人事部にエース人材が配置されにくいというのが、多くの会社で見られる現状です。例えば、「営業でなかなか成果が上がらなかった人が、人事に異動する」とか「現場の仕事ができない人が、人事や総務にやってくる」という会社が、現実に存在します。これは本当に困ったことです。

事業の成否は「誰が何をやるか」によって大きく決まります。したがって、人材を確保し、運用・管理する人事部にこそ、エース人材が必要なのです。また、人事が営業や生産よりも下位にランク付けられていて、なかなか発信力や影響力を持たないという会社もあります。

しかし、人事がもっと社内での発信力や影響力を高め、経営目標の実現に向けた人材確保と育成、定着に向けて、積極的に存在感を高めていくことが必要です。そして、人事部にこそ、会社としてもリソースを投入していくべきだと私は考えます。

人事は、企業の成果を最大化するために、人と組織を最適化する仕事です。いま人事部に勤めている方、あるいは人事部に配属になった方には、人事はとても重要で有意義な仕事だと、ぜひ誇りをお持ちください。

「人事が変われば会社が変わる」

こう言っても過言ではないほど、人事部が果たす役割は重要で、影響があるのです。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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