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2020.3.9
2/25の投稿で、自律的なキャリアデザインを行うために、次の4点が前提として求められるというお話をいたしました。
1.自分の頭で考える
2.自分にとっての仕事の意味と意義を考える
3.偶然を生み出し、チャンスに変える
4.決めたことを実行する
今回は2点目である「自分にとっての仕事の意味と意義を考える」について解説いたします。
▼これまでの流れはこちらから▼
希望退職募集と定年70歳から、自律的なキャリアデザインの重要性を考える」(2/25)
「自分の頭で考える」力を鍛える(3/2)
新型コロナウィルスをめぐる騒動により、全国的にマスクやアルコール消毒液、トイレットペーパーなどが品切れになっています。
(トイレットペーパーは感染症対策とは関係ないのではと思っていたら、やはりデマの流布が発端だったようですね)
スーパーやドラックストアには閑散とした棚の前に、入荷未定の立て札や張り紙が掲示され、たとえ入荷したとしても「お一人様1点限り」など、販売に制限を設けるケースも少なくないようです。
ドラッグストアの店員さんに対する風当たりも強いようで、下記のような残念なニュースも見かけます。小売店ではどうしようもない、流通網全体の品不足にもかかわらず、顧客の声に真摯に対応する店員さんの信条を思うと、ただただ頭が下がります。
“「コロナよりも怖いのは人間だった」。ドラッグストアの店員が語る恐怖の体験”(Yahoo!ニュース/BuzzFeed Japan)
一方で、品不足のマスクやトイレットペーパーを大量に買い占め、インターネットなどで高値販売する「転売ヤー」に対する批判の声も少なくありません。(政府が罰則を設けるよううごきはじめたようですが、インターネットが主戦場なので、いたちごっこになって効果は限定的なような気もします。放置するよりはよっぽど良いことですが)
確かに「安く売って、高く売る」は商売の原理ですが、そこには経済的な取引以上の価値はありませんし、需要と供給のバランスによって価格が変動するというのは、あくまで正常な市場状態において許される考え方です。
人命に関わる商品であればなおさらのこと、マスクやトイレットペーパーを高値転売するのはおよそ正常な商売とは言いがたいです。
「人の弱みにつけこんでいる」と批判する声もあります。弱みにつけこんでいるどころではなく、商品の価値を歪めて提供しているわけで、何の理念の意義もないやり方だと断じて然るべきでしょう。
もちろん、ビジネスは利益を上げなければ継続できませんし、お客様に価値を提供した対価として正当な利益を受け取るのは当然のことです。むしろ、生み出した価値が大きければ大きいほど、正当に高い報酬をいただくべきです。
ただし、それは「正当な価値」を生み出した場合に限る話です。そして、ビジネスとしてどのような価値を提供するのかは、そのまま「何のために働いているのか」という考えに直結していると言えます。
イソップ寓話に「3人のレンガ職人」という話があります。
レンガを運び、積み上げている3人の職人がいます。そこに通りかった人が「ここで何をしているのですか?」と尋ねました。
一人目は「レンガを運んで積んでるんだよ。なんで、こんなことばかりしなければならないのかなぁ。」と疲れた顔で答えます。
二人目は「大きな壁を作っているんだよ。この仕事のおかげで俺は家族を養っていけるんだ。」と淡々とした顔で答えます。
三人目は「歴史に残る偉大な大聖堂を造っているんだよ。ここで多くの人が祝福を受け、悲しみを払うんだぜ!素晴らしいだろう!」と、明るく輝いた表情で答えます。
3人ともやっている仕事はまったく同じで、レンガを運び、積み上げて、建物を作っています。しかし、3人の動機、すなわち「働く意味・目的」はまったく異なるものだと言えます。
一人目は「言われたからやっている」だけの状態です。目的意識も主体性もなく、作業としての労働をしているだけです。
二人目は「お金のために働いている」状態です。一人目に比べれば、目的意識を持って仕事に取り組んでいますが、その目的はあくまで経済的な価値(=お金)だけです。したがって、仕事自体の意味や価値には関心がなく、稼げれば何でもいい考えだと言えます。
三人目は「世のため、人のため、そして自分のために働いている」状態です。歴史に残る偉大な大聖堂を建てるという大きな志を持って、自分の仕事に意味と価値を見い出しています。この段階に達すると、レンガ運びも単なる「作業」ではなく、意義のある「仕事」だと言うことができるでしょう。
「金銭への対価として、労働を提供する」という仕事の考え方は、Job(ジョブ)の視点です。働くことはお金のためなので、仕事そのもの意味や価値はどうでも良いと考えられます。
マスクやトイレットペーパーを転売する人たちは、これと同等(実際にはもっと悪質ですが)のレベルです。短期的にはお金を稼げるかもしれませんが、仕事を通じて得られるお金以外のもの(思考、技術、人間性、実績、経験、信用など)を手に入れることはできません。
一方、「意義のあることをして、価値を提供する」という仕事の考え方は、Career(キャリア)の視点です。ビジネスなので当然ながら金銭的な報酬も得ますが、提供しているのは労働ではなく価値なので、相手(顧客)のニーズを満たすためであれば、商品やサービスにプラスαの価値を加えられないかと考えます。
自らの仕事に意味や目的を持ち、価値を生み出そうとする仕事の姿勢。その経験の蓄積が、自分のキャリアを形成していきます。
後述する欲求5段段階説から考えれば、経済的な欲求は次元の低い欲求として位置づけられます。経済力も「生きる力」の一つではあるので必要ではありますが、ある程度満たされれば、人はそれより高次元の欲求を満たそうという動機が生まれます。
第四次産業革命時代、単なる労働としてのジョブはAI(人工知能)やロボットなどに徐々に代替されていきます。キャリア自律を図るためには、単なる労働を超えた「キャリアとしての仕事観」が求められると言えます。
人間の欲求を階層的に表した有名なモデルとして「欲求5段階説」があります。
心理学者のアブラハム・マズローが生み出したモデルで、「人間は低次元の欲求が満たされると、より高次元の欲求を満たそうとする」という考え方です。
欲求の段階は、次元の低い物から順に下記の通り位置づけられています。
経済的な欲求は、欲求5段階説で考えると1~2の段階です。
もちろん、それが満たされなくては生活が成り立たないため、極めて人間の根源的な欲求だと言えますが、これだけ社会環境に恵まれた豊かな現代においては、純粋に「生きるために最低限必要なレベルとしては比較的満たしやすい段階だと言えます。(欲を言えばキリがないですが)
経済的な欲求が満たされると、次第に社会的な欲求に向かいはじめます。
職を得て、地に足がついた生活基盤を作り、周囲の人々と関係を構築する。それも満たされると、次第に自分の自尊心を満たしたいと思うようになり、それすら超越すると最終的には「なりたい自分になる」という自己実現への欲求へ向かうことになります。
望ましいキャリアを構築するというのは、言い換えれば自己実現の欲求を満たすことです。
したがって、自分が望ましい生き方をするのであれば、1~4までの段階の欲求はすでにクリアしている必要があります。単に夢を追うことがキャリア実現ではありません。今いる場所で十分に活躍し、そのさらに上を目指そうとする、非常に厳しい世界だとも言えます。
将来的にどんな人になりたいのか。そこに至るまでには、どれほどの時間と労力をかける必要があるのか。それは人によって異なります。
ただし、いま自分がいる場所を軽んじて、望ましい自分になることはできません。自己実現を図りたいのであればなおのこと、いま自分がいる場所、いま自分がやっている仕事に意味と目的を持ち、しっかりと果たすべき役割を果たすことが重要です。
そして、キャリア実現の秘訣は「急がば回れ」です。自分の将来像と直接つながらなくても、今できることに焦点をあてて、いろいろなことに挑戦することが、結果的に望ましいキャリアにつながります。これが、次の配信でお話しする「3.偶然を生み出し、チャンスに変える」ということです。
本日も最後まで読んでいたき、ありがとうございました。
(追伸)
いまの仕事に意味や目的が持てないという方へ。
意味や目的は探す物でも、見つけるものでもありません。ましてや、天から降ってくるものでもありません。意味や目的は「創る」ものです。
半ば強引にでも、それを仕事の意味・目的として言葉にしてみましょう。何度も修正しても構いません。そう思って仕事をしているうちに、自分にしっくりくるものに変化していきまし、やがて「嘘から出た誠」になって自分の価値観になっていくでしょう。
(追伸2)
仕事の意味や意義についての解説は、過去ログもご参照ください。