腹を括り、現状を疑え 〜VUCAの時代と21世紀型スキル〜

お盆休み期間が空けて一週間ほど経過し、仕事の案件にも再び動きが見られるようになってきました。

例年9−11月頃は企業研修やセミナーの案件が多くなる時期です。特に今年はコロナウィルスの影響で春に予定していた研修が秋以降に相次いで延期になったこともあり、かなり過密なスケジュールが予定されています。

多くの研修やセミナーは、オンラインでも実施できる環境を5月頃にはすでに整えておりましたが、できれば集合形式で実施したいというご要望が多いのが実態で、3月以降、延期、そして再延期と開催予定を先延ばしにしているものも少なくありません。

というのも、企業や団体で実施する研修の目的は、必ずしも意識変容や能力開発だけではなく、日頃離れて仕事をしている社員の交流の機会という側面も兼ね備えているからです。

ところが、ここ数週間の間、オンライン開催に切り替えたいというお話が相次ぐようになりました。依然として感染者数は高い水準で推移しており、あと数ヶ月ではこの状況はおさまらないだろうという判断をされたのだと思います。

つまり、腹を括られたのです。

今までと同じようにはできない。そういう判断をされたという証だと、私は捉えています。身近にこうした具体的な変化が増えてきたことで、いよいよ本格的にコロナウィルスと共存して社会・経済活動を行っていく「withコロナ時代」が幕開けしたのだと実感するようになりました。

引用:Googleニュース

新規感染者数は8月上旬に比べるとやや少なくなっているように見えますが、それでも緊急事態宣言が発令されていた4−5月よりも高い水準です。

もちろん、検査数が増えているから発見される陽性者数も増えているという側面もあるでしょうが、少なくとも今は緊急事態宣言よりは社会・経済活動が活発になっています。感染リスクは上がっていることでしょう。4−5月と同水準、あるいはそれ以上に増えていると考えても何ら不思議ではありません。

いろいろな記事や番組を見るようにしていますが、この状況はあと2年ほど続くとする声が多いように思いますし、私もそう思っています。とはいえ、状況を特別視した緊張感は、そんなに長いこと続けられません。私たちは、次第にこの状況に慣れていくことでしょう。

感染防止に留意しながら、社会・経済活動を止めないようにする。一人ひとりが、その挑戦を強いられている状況にあります。そして、そのためにはやはり「自分を変化させられる力」が必要になります。

VUCAの時代に問われる「現状を疑う力」

コロナショックが起きる以前から、現在は環境変化の著しい時代だと言われていました。

少子高齢化による人口構造の変化、経済のグローバル化、産業構造の変容、テクノロジーの急速な進歩。こうした、複雑かつスピーディに環境が変化し、今までのやり方では通用しない時代を表す言葉として「VUCA」という言葉があります。

  • Volatility(変動性)
  • Uncertainty(不確実性)
  • Complexity(複雑性)
  • Ambiguity(曖昧性)

の頭文字をとったものです。要するに「わかりづらく、先が読めない」ということです。

見通しが立たないので、何が正解なのかを判断するのは非常に難しいです。周囲の状況を観察しながら、スピーディーに、小回りの効くやり方を繰り返して、試行錯誤を重ねていくしかありません。

ただし、何が正解なのかはわからなくとも、何が誤りなのかは明らかだと言えます。それは「何の変化も起こさないこと」です。

どんな形であるにせよ、何かしら自分を変化させようと動いてさえいれば、誤りに気づいた段階で軌道修正を図ることができます。しかし、何の動きのないものを変えることはできません。少なくとも、ビジネスにおいて現状維持は、即ち停滞だと言えるでしょう。

しかし、変わろうと思って容易に変れるほど、人の思考や行動の習慣はカンタンなものではありません。特定の業界、組織、職務、その他の環境に身を置いている時間が長ければ長いほど、自分の経験則に基づく思考と行動が「正解」であると強く思い込んでしまいがちです。

そのため、私たちは何よりもまず、「現状を疑う目」を養う必要があります。

21世紀型スキル

国際団体ATC21s(21世紀型スキルの学びと評価プロジェクト)が提唱した「21世紀型スキル」というモデルがあります。下記の4カテゴリ・10スキルから構成されるものです。

  • 思考の方法
    • 創造力とイノベーション
    • 批判的思考、問題解決、意思決定
    • 学びの学習、メタ認知
  • 仕事の方法
    • コミュニケーション
    • コラボレーション
  • 仕事のツール
    • 情報リテラシー
    • 情報通信技術に関するリテラシー
  • 社会生活
    • 地域と国際社会での市民性
    • 人生とキャリア設計
    • 個人と社会における責任

イノベーションとは、すでに存在している何かを別の形態で結びつけて「新しい何か」を生み出すことです。批判的思考とは、自分の日頃のモノの見方とは異なる前提、立場、視点でものを考えることです。そして、メタ認知とは(すごくざっくり言うと)自分を客観視すること、つまり自分の思考や行動を第三者の視点で捉えることです。

21世紀型スキルにおける思考の方法とは、すべて何かしらの「現状」を疑うことからスタートします。現状を否定し、「新しい何か」を追い求めることが、これからの時代の仕事の進め方の前提になるのです。

そして、その「新しい何か」を具体的に実現させるために、仕事の方法としてのコミュニケーション(情報の相互伝達交流)とコラボレーション(協働)が必要です。

コミュニケーションの重要さは今にはじまった話ではありませんが、リモートワークの浸透によりコミュニケーションの形態も変化しています。デジタルコミュニケーションでは、阿吽の呼吸や空気感は伝わらないため、言語化する力や論理的に話す力が一層求められます。

加えて、VUCA時代を生き抜く上では、コラボレーションの実現力がとても重要です。常に「新しい何か」をしていくことが前提なので、事業に必要な資源もその都度変わることになります。その時々で、必要な知恵や能力を持った人を探し、手を組んで仕事を行っていく必要があります。何もかもを自社でやろうとすると、資源不足でプロジェクトが立ち往生することになります。

チーム編成は常に流動的になります。事業(プロジェクト)によって、必要なメンバーが招集され、目的を果たしたら解散する・・・これを繰り返すことが求められます。もちろん、縁あって優秀なパートナーを見つけたら、「次も一緒にやろう」と関係が継続していくことはあります。ただし、前提はプロ人材が必要に応じて集合と離散を繰り返すことになるので、次第に社内/社外という垣根は薄れていくことになるでしょう。優秀な人と手を組まないと、この難しい時代の価値提供は実現できないからです。

また、VUCA時代で仕事をするためには、高い情報処理能力が必要であり、それを実現するための情報リテラシとITリテラシが不可欠になります。コロナショックはまさにこの状況に追い打ちをかけています。少なくとも、リモートワークは一定のデジタルスキルがあることを前提に仕事が計画され、管理されますので、ITツールの操作スキルが低いと仕事にありつけることすら困難になります。

最後に、21世紀型スキルが特徴的なのは、一人の人間として社会生活を営むことが、ビジネススキル領域のひとつとして位置づけられたことです。私たちは「どう働くか」だけではなく、「どう生きるか」という課題に向き合うことが求められます。

なぜ、それをするのか

かつて栄養ドリンクのCMであった「24時間戦えますか」のような仕事人間としての生き方が、いよいよ終焉を迎えています。VUCA時代に求められるのは「何をするか」以上に、「なぜするか」という思想・哲学であり、仕事に意味や意義を見出すことです。

目的は同じでも、方法は無数にあります。「何をするか」に固執していると、現状を疑うことは難しいです。しかし、「なぜするか」に焦点をあてれば、思考の抽象度が上がるので必然的に視座が高くなり、その目的を果たすための「新しい何か」を見つけやすくなると言えます。

緊急事態宣言下にあった4−5月には「今の状況を耐えれば、元の日常がやってくる」という空気感が根強くあったように思います。しかし、第2波がやってきて、それが長引いていることで、世間の空気感が変わりはじめているように感じます。

元の日常はやって来ない。

そう腹を括った人が増えている。そんな気がしてなりません。

最終的なトドメはコロナウイルスに刺されたかもしれませんが、VUCAの考え方も、21世紀型スキルも、コロナ以前からあったものです。時代の流れが加速したという側面はありますが、向き合わなければならない課題は何も変わっていないのです。

 

自分の仕事や生活において、何の「現状」を疑うことができるか。

これを問い続ける力が、この難しい時代を生き抜く何よりの力になることでしょう。

 

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

  

投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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