コミュニケーション
2025.4.18
目次
新年度が始まり、職場に新入社員が入ってきたという方もいらっしゃるかと思います。若い新入社員の加入は、職場のエネルギーを高めてくれます。実際、中高年ばかりだった職場に若い世代が一人入るだけで、職場が明るくなり、活気がわくという事例もしばしば見聞きします。
しかし、その一方で、若手社員とのコミュニケーションに苦戦している中高年の管理職の方も少なくありません。「話しかけても最低限の反応しかない」「任せた仕事も言われた範囲しかやらない」「雑談で距離を縮めようとしても、まったく縮まらない」──そんな声を耳にすることもたびたびあります。
こうした世代間ギャップは、必ずしも今に始まったことではありません。「最近の若者は…」というフレーズは昔から繰り返し言われてきました。年長者と若手との間には、常に何らかのズレが存在してきました。そういう意味では「現代の若者は」と特別視する必要はないかもしれません。
とはいえ、昔と違うのは、現在は少子高齢化時代であるということ。若い世代の人数が多かった頃に比べて、現代では若手世代は非常に希少な存在です。組織を存続させるため、職場に活気とエネルギーを得ていくためにも、若手世代に入社してもらい、職場に定着してもらうことは重要な経営課題の1つです。
そんな中で、近年特に感じるのが、若い世代のリアクションや関心、当事者意識の薄さです。私自身が10年以上にわたり新入社員研修や若手研修を担当してきた中でも、年々そうした傾向が強まっていると感じています。真面目ですし、一生懸命やっています。しかし、リアクションが薄くて、こちらも張り合いがなくなってしまうのです。
どうして、リアクションが薄いのか。
どうして、話が通じないのか。
どうしてこちらの想いや言葉が響かないのか。
その根本には、世代間による「価値観の違い」があります。価値観とは、ものごとの優先順位や意思決定の基準のこと。何かを選んだり、決めたりする時の基準になるのが価値観、つまり物事の考え方や捉え方です。これが世代間で大きく異なるため、物事の受け取り方が違ってしまうのです。
たとえば、バブル経済やその余韻を知る世代にとっては「頑張って仕事をすれば、業績が良くなる」「会社に貢献して精一杯働く」というのは「当たり前」の感覚です。終身雇用が世の中の前提で、最初に入った会社で定年まで勤め上げるというのが、多くの人にとっての労働観であったことでしょう。何より、日本経済が元気で、勢いがあった頃を体感しています。私自身は、働き始める頃には就職氷河期に突入してしまっておりましたが、少なくとも中学生や高校生の頃までは、まさに”Japan as No.1”のごとく世の中はキラキラしていました。
しかし、今の20代30代の多くは、そうした状況を目にしたことがありません。生まれたときから「失われた30年」に突入していた彼らにとっては、日本はすでにピークを迎えた国であり、人口は減り、高齢化が進み、経済は低迷し続けています。「頑張れば報われる」なんていうのは幻想で、実際には状況は悪くなるばかり。
その一方、インターネットとスマートフォンの恩恵で、大したお金がなくても、そこそこの娯楽は得ることができる。デフレ経済の中で、必ずしも高い金額のものを買わなくても、ある程度の生活は担保できる。
そうした状況の中では、「頑張って会社に貢献する」よりも、「先行き不透明な将来に向けて、自分がどう備えるかを心配する」方を優先するのが当然です。経済が伸び続けている時は、そんな心配をしなくても、頑張って仕事をしていれば報われるという前提に立てます。しかし、今は頑張っても報われないのです。だったら、自分を第一優先に考え、自分の心配をする方が優先です。
どうせ何をやっても少子高齢化は止まらないし、経済は良くならない。諸外国にどんどん抜かされて、日本は落ちていく一方。本当に嘆かわしい世相になってきたと思います。
将来を前向きに見てきた世代と、将来が不安と失望に見舞われた世代。あらゆる価値観が根底から異なります。年長者の世代が、若手世代に「寄り添う」のには無理があります。寄り添う姿勢は大事ですが、それを理解するのは非常に困難でしょう。
したがって、「寄り添う」のではなく、対話をして、理解し合い、尊重し合うことが重要です。お互いが違う存在だと認識する。その上で、お互いの価値観の違いを認め、そこに共通の目的を見出し、すり合わせていく。それが世代間ギャップを乗り越えるコミュニケーションなのです。
そして、両者の共通の目的は何かと言えば、もちろん「仕事をすること」です。
世の中の見え方は異なっていたとしても、良い商品やサービスを作り、顧客のニーズに対して価値を提供し、世の中を良くしていくという一点においては、目的を合わせることができます。その過程や方法論において、異なる価値観同士の「対話」を重視することで、結果的にはより良いアイデアが導き出されるのです。
では、実際にどのように新入社員に接すれば良いのでしょうか。
まず大前提として、「聞くが9割」というスタンスを意識することです。人は「理解してから、理解される」のです。相手の言い分を聞くことなく、自分の意見を主張しても、受け入れられることはありません。まずは言い分を聞く。それから言い分を伝える。これが原則です。
聞く練習として、私は管理職研修などでしばしば、面談のロールプレイングを行います。聞く重要性を解説し、面談においては「9割は相手の話を聞いてください」と伝えていても、実際には一方的に上司側が話をして終わってしまうこともしばしばです。9割聞いている感覚でようやく五分五分。半々で話しているように感じたら、それはほとんど自分が話をしているようなものなのです。
なぜなら、上司や年長者の方が、知識も経験も豊富にあり、こと仕事に関する話題では情報量が圧倒的に優っているからです。言語化にも慣れています。対等に話をしようとしている限り、対等にはならないのです。力量の差が、そのまま会話量の差になって表れます。だからこそ、意識的に、かなり我慢して自分の話を抑え、相手の話に耳を傾ける必要があります。
また、指示を出す際も工夫が求められます。自分の考えのすべてを伝えるのではなく、相手の意向も汲み取ろうとするのです。たとえば、「このレポートを明日の朝までに提出しておいて」という言い方を、「このレポート、どういう進め方が良いと思う?」と問いかける形に変えるだけでも、相手の主体性を引き出すことができます。
「そうは言ったって、ウチの新入社員は無反応だし、何も返ってこないよ」
「聞いたって、わかりませんって言われるだけだよ」
と思われるかもしれません。しかし、こちらがそう思って接している限り、相手はますます受け身の姿勢になってしまいます。一度や二度聞いてダメだったからと諦めず、相手が自分の意見を考えたり述べたりするようになるまで繰り返し尋ねて、自分の意見を述べなければならないと自覚するまでトレーニングを重ねるのです。
これが機能できるようになるためには、最初が肝心です。何もわからない新入社員の時だからこそ、あえて自分の意見を述べるように求めるのです。これが常態化してくると、「仕事の場面では自分の意見を述べなければならない」ことが標準として認識されるようになります。
加えて、今の若手世代は、目的が曖昧で不明確な仕事に対しては、モチベーションを感じづらい傾向にあります。だからこそ、仕事の目的や背景をしっかりと伝えることも大切です。「やってみればわかる」と言いたくなる気持ちもわかります。しかし、それでは動いてくれないのです。
「なぜこれをやるのか」「これをするとどうなのか」を明示できれば、彼らも最適な方法を考える姿勢を持つようになります。そのためには、年長者側には論理的に伝える力や、言語化する能力も求められます。
指示をする時だけではなく、仕事が終わった後の関わり方にも工夫が必要です。仕事の結果や進め方について上司からフィードバックを与えることも重要ですが、それと併せて新入社員が自分の仕事を振り返る「リフレクション(内省)」の機会を設けましょう。「どうだった?」「やってみてどう感じた?」といった問いかけを通じて、本人の感情や考えを引き出すのです。
フィードバックは上司からの評価や助言であり、もちろんそれも大切ではありますが、新入社員が「自ら考えて行動する自律型人材」として活躍するためには、自分の意思や考えが欠かせません。リフレクションは「本人が自ら気づく」プロセスです。自分自身で振り返り、学んだことの方が、主体的な次の行動へつながります。加えて、感情を共有することで信頼関係も深まりやすくなります。
もちろん、上司としての意見や価値観をまったく伝えないというわけではありません。ただし順番が大事です。まずは相手の話を十分に聞く。そのうえで、自分の意見を「対話」の形で共有する。そうすることで、押し付けや誘導ではなく、本人の考えや意思を尊重しつつもさらに高いレベルへ導く、相互理解と協働が生まれます。
若手社員とのコミュニケーションで悩む中高年の方は多いかもしれません。しかし、それは単なる「世代の差」ではなく、「価値観の違い」という本質的なテーマです。そして、価値観の異なる相手との対話こそが、ビジネスパーソンとしての本当のコミュニケーション力を育ててくれます。
価値観の違いは世代だけではありません。民族や地域、生活スタイルの違いなどによっても起こります。そうした価値観の違いが、わかりやすく表れている一つの形態が世代である、ということに過ぎないのです。
ビジネスは複数の人ととの理解と協働によって進められます。共通の目的を持ち、「どう思う?」と問いかけ、対話を積み重ねていく。結果として信頼関係が築かれ、若手の自律性も高まっていく──そんな職場を目指して、まずは声かけから実践してみてください。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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