マネジメント
2025.10.16
目次
仕事をしていると、「部下が思うように動いてくれない」「頑張っているのに成果が出ない」「メンバーをもっと主体的に動かせるようになりたい」―そんな悩みを抱える管理職やリーダーの方は少なくありません。
今回のテーマは、そうした方々にぜひ知っていただきたい「リーダーシップとマネジメントの違い」です。
私はこれまで経営コンサルタント・研修講師として、10年間で1万5000人を超える方々とお会いしてきました。多くの管理職やリーダー育成研修を担当する中で強く感じるのは、成果を出す優秀なリーダーほど「リーダーシップ」と「マネジメント」の両方をうまく発揮しているということです。
反対に、なかなか成果が上がらない管理職は、このどちらか、あるいは両方が欠けているケースが非常に多いのです。
つまり、組織の管理職はリーダーシップとマネジメントの双方を発揮することが求められます。どちらかが弱い、もしくは両方がうまく機能していないと、チームの成果は出にくくなります。そこで今回は、両者の違いを明確にし、それぞれがどんな役割を担っているのか、そして優秀な管理職がどのようにこの2つの力をバランスよく発揮しているのかについて解説していきます。
まずは「マネジメント」について考えてみましょう。マネジメントという言葉には、「管理」や「統制」という意味があります。具体的に言うと、計画を遂行し、資源を分配し、発生した問題を解決していく活動全般のことを指します。
たとえば、会社には売上や品質など、達成すべき成果の目標があります。マネジメントは、その目標に到達するために現状を計画に近づけていくための取り組みです。加えて、人・モノ・金・情報といった「経営資源」に付加価値をつけ、最適に活用することもマネジメントの大切な役割です。
人員配置を見直したり、予算をどのように使うかを決めたりするのもマネジメントの一部です。そして計画を進めていく中では、必ず問題や課題が発生します。それらを一つひとつ解決していくことも、マネジメントの重要な仕事になります。
私はこのマネジメントを「あるべき姿を保つこと」と定義しています。組織として達成したい目標や理想の状態に近づく、もしくはそれを維持し続けるために行う一連の活動。それがマネジメントなのです。
では一方の「リーダーシップ」とは何でしょうか。これは先ほどの「あるべき姿を保つ」マネジメントに対して、「あるべき姿をつくる」ことです。
つまり、リーダーシップとはビジョンを示し、変革を推進し、人々を鼓舞していく力のことです。自分たちはどこを目指すのか、そしてなぜそこに向かうのか―この「Why(なぜ)」と「What(何を)」を明確に示すのがリーダーシップの役割です。
それに対してマネジメントは「How(どのように)」を考える部分です。目的を達成するために、どんな手順で、どんな仕組みを使って進めていくのかを考えることがマネジメントになります。
どちらが上か下かという話ではなく、どちらも欠かすことができない要素です。ただし、あえて重要度を比較するならば、リーダーシップのほうが先に来ると私は考えています。なぜなら、いくら効率よく物事を進めても、そもそも進む方向が間違っていれば意味がないからです。
「なぜやるのか」「何をやるのか」という方向性をリーダーシップが定め、その上で「どうやってやるのか」をマネジメントが支える。両者がかみ合ってこそ、チームは正しい方向に力強く進むことができるのです。
では、このリーダーシップとマネジメントの両方がうまく発揮されていない場合、何が起こるでしょうか。それは「惰性による現状維持」に陥ることです。
つまり、「余計なことはしない」「これまで通りでいい」という姿勢です。これは組織にとって最も危険な状態です。というのも、企業を取り巻く環境や社会の情勢は日々変化しています。昨日と同じことを今日も同じようにやっていては、結果は必ず下がっていく一方です。
変化する時代に対応するためには、新しいことへの挑戦や、既存のやり方のバージョンアップが欠かせません。しかし、リーダーシップもマネジメントも機能していないと、その一歩を踏み出すことができません。新しいアイデアが出ても、「余計なことをするな」と封じてしまう―それが「現状維持の罠」なのです。そしてこの先には、確実に衰退しか待っていません。
では次に、マネジメントだけが強く、リーダーシップが欠けている場合について考えてみましょう。このようなケースで陥りやすいのが「マイクロマネジメント」です。
マイクロとは「小さい」という意味で、文字通り細かすぎる管理を指します。たとえば「これをこうやれ」「この通りにやれ」「それ以外はダメだ」と、部下の行動に逐一介入してしまうパターンです。一見すると業務がスムーズに進み、成果が出ているようにも見えます。しかし実際には、メンバーが自分で考える力を失い、上司の指示待ちになっていく危険な状態です。
人間には自由意思があり、自分で考えて工夫する余地がないと仕事は途端につまらなく感じてしまいます。やがてモチベーションは下がり、出社すること自体が苦痛になっていきます。結果として、生産性が下がり、チーム全体の雰囲気も悪化していくのです。
このように、マネジメントだけが強くリーダーシップが欠けていると、「なぜやるのか」という目的意識が薄れ、メンバーは指示されたことをこなすだけの存在になってしまいます。したがって、マネジメントを発揮する上でも、「何のためにやるのか」「どこを目指すのか」というリーダーシップの要素を同時に持つことが欠かせません。
では、今度はその逆です。リーダーシップばかりが強く、マネジメントが欠けている場合はどうなるでしょうか。
このようなケースでは、理念やビジョンがしっかりしていて、組織として「進むべき方向」は見えていることが多いです。「こうなりたい」「こういう未来をつくりたい」という理想像が掲げられ、メンバーの気持ちも高まっています。しかし、具体的に「何を、どう進めていくのか」という現実的な計画が存在しないため、結果的に動きが空回りしてしまうのです。
この状態になると、問題解決の手段が「気合い」や「根性」に頼るようになります。たとえば「もっと頑張れ」「頭を使え」「やまない雨はない」「ここを乗り越えれば明るい未来がある」といった精神論が飛び交うようになります。確かにモチベーションは一時的に上がるかもしれませんが、持続性はなく、やがて現場は疲弊してしまいます。
いくら理想や夢があっても、現実を動かすためには具体的な方法論が必要です。計画を立て、役割を整理し、進捗を管理して課題を修正していく。こうした合理的な行動を支えるのがマネジメントの役割です。リーダーシップだけで突っ走ってしまうと、メンバーは「何をすればいいのか分からない」という不安を抱え、せっかく高まった熱意が空回りしていきます。
したがって、理想を示すだけでなく、その理想を現実に落とし込む「仕組み」を持たせることが欠かせません。リーダーシップがチームのエンジンだとすれば、マネジメントはそれを走らせるためのハンドルと地図のようなものです。両方が揃って初めて、組織は正しい方向へ安定して進んでいけるのです。
では、この2つの力をバランスよく発揮できると、どのようなチームになるのでしょうか。筆者は、ここにこそ「成果を出す組織」と「そうでない組織」の決定的な差があると感じています。
まず、リーダーシップが発揮されているチームには「夢」と「誇り」があります。自分たちはどんな目的のために働いているのか、社会にどんな価値を届けたいのかという「意味」が明確です。人は、意味のない仕事には情熱を持てません。逆に、「自分の仕事が誰かの役に立っている」と実感できたとき、人は想像以上の力を発揮します。
「この仕事には価値がある」「自分は組織の一部として貢献できている」と感じることが、モチベーションを高め、維持してくれるのです。つまり、リーダーシップがチームに理念やビジョンをもたらし、「誇り」という感情的エネルギーを生み出します。
一方で、マネジメントがしっかりしているチームは「合理的な努力」を続けることができます。時間や人材、予算といった限られた資源の中で、どうすれば最も効果的・効率的に仕事を進められるかを考えられるのです。目的を見失わず、計画を立て、進捗を確認し、問題を修正しながら着実に前へ進む―これがマネジメントの力です。
このようにリーダーシップとマネジメントの両輪が噛み合うと、チームは「情熱」と「現実性」の両方を持つようになります。理想を掲げて感情を高めながらも、冷静に現実を見据えて軌道修正できる。これこそが、成果を出し続ける強いチームの姿です。
ここまで見てきたように、リーダーシップとマネジメントはどちらが優れている・劣っているという関係ではありません。どちらも不可欠であり、相互に補い合う関係にあります。
リーダーシップはチームの「エネルギー源」であり、マネジメントはそのエネルギーを「方向づける舵取り」です。リーダーシップが欠ければ停滞し、マネジメントが欠ければ混乱します。どちらか一方では、長期的に成果を出すことはできません。
目の前の業務をこなすだけではなく、「もっと上へ」「もっと前へ」とエネルギーを生み出すのがリーダーシップ。そのエネルギーを無駄にせず、合理的な努力へと結びつけるのがマネジメントです。両者をバランスよく発揮することこそが、デキるリーダー・マネージャーの条件です。
ぜひあなたも、「自分はリーダーシップを発揮できているか」「マネジメントが機能しているか」、そして「この2つがうまく噛み合っているか」を改めて振り返ってみてください。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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