K社様(運送業)
「どんな研修をすべきか」の前に決めたこと|等級設計からの育成体系構築
「どのような研修をすればよいか」
このご相談から、この案件ははじまりました。 当社が申し上げたのは、「研修の中身を決める前に、キャリアパスを設計しませんか」ということです。
等級ごとの期待役割を言葉にする。 求められる能力と、標準的な滞留年数を定める。 そこから逆算して、研修を配置する。
この順序で進めた結果、3年で研修が一巡する体系ができました。 昇格の時期がどのタイミングになっても、必要な研修を受けられる設計です。
ただし、計画したすべてを初年度から実施できたわけではありません。 教育予算の制約があり、実施は段階的なものになりました。 一部の研修は、社内で担っていただく形に変えています。
この記事では、設計の考え方と、その過程でうまくいかなかった点を記載しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業種 | 運送業 |
| ご支援内容 | 育成体系の構築 |
*企業の規模と所在地は、ご要望により非公開としております。
長らく、本社主導の研修は行われていませんでした。 社員の育成は、現場の判断にゆだねられていた状態です。
転機は、人事部長の交代でした。 新しい人事部長が、人材育成に本格的に取り組むことを決められました。いただいたご相談は、こうしたものでした。
「どのような研修をすればよいでしょうか」
それに対し、当社から申し上げたのは「研修の中身を決める前に、キャリアパスを設計しませんか」ということです。
理由は単純です。 どの等級の社員に何を期待するかが決まっていなければ、必要な研修は決まらないからです。 研修から入ろうとすると、その年に流行っている内容をただ並べることになります。
K社様には、役職も等級もすでにありました。 制度がなかったわけではありません。足りなかったのは、各等級への期待が言葉になっていることでした。
「課長にはこうあってほしい」という感覚は、社内にありました。 ただし、それは人によって少しずつ違っていました。明文化され、規定されていなかったからです。
各等級に何を期待するのかを、あらためて定義しました。 経営層と人事部で、認識をそろえる作業です。
期待を果たすために必要な能力を、等級ごとに整理しました。 あわせて、標準的な滞留年数を設定しました。その等級に、およそ何年いるのか。 これが決まると、育成にかけられる時間が決まります。
求められる能力に対応する研修を洗い出しました。 そのうえで、等級別の研修コースとして組み立てました。設計の要点は、滞留年数と研修の周期を合わせたことです。K社様の場合は、3年ほどでその等級の研修が一巡します。
これにより、昇格の時期がいつであっても、次の等級に上がるまでに必要な研修を受けられます。 「あの人は受けていない」が起きにくい設計です。
運用がはじまってから、人事部よりいくつかの変化をうかがっています。
ひとつは、離職率が下がったというお話です。 ただし、私は数値そのものを確認しておりません。 ここでは、社内での実感としてお伝えするにとどめます。
はっきりと現れたのは、社内の空気の変化でした。
まず、若手の意識が変わりました。 自分が今どの等級にいて、何を期待されているのかが分かるようになったためです。 次に何を身につければよいかが見えると、話す内容が変わります。
その結果として、中堅層の危機感が高まりました。 下の世代が具体的に動きはじめる。 下からの突き上げは、時に上司からの指示よりも強く働きます。
そして、その中堅層にも研修の機会が用意されました。 育成の対象は若手だけではない。 そう分かったことで、意欲が上がったと聞いています。 新しい役割に挑戦したいという声も出るようになりました。研修を受講したいという声を上げる方も出てきました。道筋が見えることで、学習意欲も高まったのです。
キャリアパスの設計は、若手のためのものだと思われがちです。 しかし結果的には、中堅層に最も効いた事例となりました。
設計した研修体系を、そのまま全部は実行できませんでした。すべてを実施すると、教育予算が想定を大きく超えたためです。 結果として、段階的な実施に切り替えました。
やり方は2つです。
ひとつは、外部の役割分担を整理したことです。 当社だけでは対応できない領域もありました。 他の研修会社も含めて、どの研修を誰が担うのかを一覧に整理しました。
もうひとつは、内製化です。 若年層向けの研修は、社内で実施することになりました。 当社からは、社内講師養成講座をご提供し、研修の設計から実施までのノウハウをお伝えしました。

育成体系を描いた時点では、予算の総額まで見きれていませんでした。 先に上限を確認してから設計していれば、優先順位の議論をもう少し早く始められたと考えています。
研修の内容は、育成体系の出口にあたります。 出口から決めると、毎年似た研修を繰り返すことになります。
先に決めるのは、等級ごとの期待です。 それが決まれば、必要な研修は自然に決まります。
そして、体系はつくって終わりではありません。 予算という制約のなかで、どこから実施するかを決める作業が必ず残ります。 その順序を決めるためにも、期待の言語化が先に必要になります。
人材像が先、研修は後です。研修は人材育成の手段に過ぎませんので、まずは「どのような人材を育てたいのか」という目的を定めることが重要です。
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