マネジメント
2026.3.3

目次
問題解決研修や業務効率化研修を行っていると、しばしば話題に上がってくるのが「業務の属人化」です。特定の人しかできない仕事がある状態。これが組織にとって大きな問題となります。
例えば、担当者が不在になると、その仕事が停滞します。特定の誰かが休暇を取っていたり、昼休みに席を外していたりする際に、お客様から問い合わせがあったり、取引先から確認が入ったりしても、誰も答えられません。その人しか知らないからです。当然、相手にも迷惑をかけることになります。
また、仕事が属人化すると、業務がブラックボックス化していくという問題もあります。何をやっているのかが周囲から分からないため、その仕事がうまくいっているのかどうか、果たしてそのやり方で本当に良いのか、誰も評価ができない状態になります。
さらに、作業量の偏りによる不公平感も生じます。特定の誰かに仕事が集中して非常に忙しい一方で、それ以外のメンバーが手持ち無沙汰になっている。そうなると、仕事が集中している人は不満が溜まっていき、場合によっては、それが積み重なって離職にもつながりかねません。
実際、いろいろな企業を訪れる中で、「職場を離れられないので昼休みにも行けない」「有給休暇が取れない」「まとめて休んで旅行に行くことができない」といった声もよく聞かれます。

そこで、「なぜ業務が属人化しているのですか?」と尋ねると、「マニュアルがないから」「業務内容が専門的なので簡単に引き渡せない」「引き継いだり共有したりしたいけれど、教える時間がない」といった答えが返ってきます。
しかし、実は属人化の理由がそうだと思っている時点で、いつまで経っても解消できません。仮に、自分がやっている仕事のマニュアルがあり、引き継ぎたい相手が専門的な知識や高い能力を持っており、教える時間も確保できたとします。それでも、その仕事を誰かに引き渡すかといえば、おそらくやらないでしょう。これらは本当の理由ではないからです。
業務が属人化する本当の理由は、属人化していても困らない、あるいは属人化していた方が都合が良いからです。もし、本当に心の底から困っていて、何とかしたいと感じているのであれば、その属人化はとっくに解消されているはずです。現在もなお属人化しているということは、属人化している方が都合が良いからに他なりません。「そんなことはない」と否定したくなるかもしれませんが、これが真実なのです。
そもそも人間の行動原理は、大きく分ければ「痛みを避ける」「快楽を追求する」の2つだけです。その観点から考えると、いま仕事が属人化しているのは、それが「自分の利益に叶っている」ということなのです。
属人化を解消しようとするなら、マニュアルを作らなければならず、他の人に教えるための時間や労力を確保しなければなりません。これは痛みです。面倒くさいのです。そのため、痛みを避けるべく属人化を放置します。だからいつまで経っても解決されないのです。
また、自分にしかできない仕事があることで、自尊心が高まります。これは快楽です。仕事が属人化することで、組織の中で自分の「立ち位置」や「存在意義」が確立されます。もし、その仕事が誰でもできるようになってしまうと自分の存在意義を失い、居場所がなくなってしまいます。それは痛みです。痛みを避け、快楽を保ちたい。だから、仕事が属人化するのです。
加えて、目先の仕事だけしていれば十分で、情報共有のためのコミュニケーションコストも一切かかりません。ラクなのです。仕事が属人化している限り、自分のことだけに集中すればいい。「これは私にしかできない仕事だ。だからこのチームには私が必要だ」という自己重要感を感じられます。これは快楽です。個人のレベルで考えれば、仕事は属人化していた方がいいのです。だから、属人化がいつまで経っても解消されません。
しかし、組織のレベルで考えると、仕事の属人化はデメリットしかありません。担当者の欠勤や退職のリスク、業務の個人最適化による引き継ぎにくさ、特定の個人への依存による不公平感など、組織全体の生産性と業績を悪化させる要因ばかりです。組織を率いるリーダー・マネジャーとしては、仕事の属人化を防ぐ環境を作っていく必要があります。
まず取り組むべきは、「誰が」「何を」「どれくらい」やっているかを見える状態にすることです。具体的には、仕事の記録を時間単位でつけてもらったり、自分の業務一覧を作成してもらったりします。この段階はどうしても負荷はかかりますが、現状を把握しなければどこを改善すべきかが見えません。
記録をとったら、それをチーム全体で共有することも重要です。自分の仕事しか見えていない状態では、他のメンバーが何をやっているか分からず、相対的に自分の負荷が大きいのか小さいのかも判断できません。まず見える状態にした上で、本来どのように仕事が配置されるべきかをゼロベースで考え直す必要があります。
そして、担当者が休んだり異動になったりした際のリスクに備えて、どのような順番で仕事を共有・引き渡していくかの計画をチーム全体で考えていきます。「属人化を何とかしなければならない」という危機意識と、「どうすれば解消に向かうか」というイメージを、チーム全体で共有することが最初の一歩です。
次に行うべきは、「属人化している方が痛みになり、属人化が解消された方が快楽になる」という目標を設定することです。これが実現できれば、多くの人は自然とそちらに向かっていきます。
具体的には、評価の基準を変えることです。例えば、これまでは「自分の担当業務を正確に、速く処理すること」を評価していたとすれば、今後はそれだけでは評価しないようにするのです。自分の仕事の幅が広がらず、今までと同じことしかやっていない人は評価を下げます。一方で、自分の仕事を誰かに教えたり、他の人の仕事を教わったりすることを評価していきます。
評価制度そのものを変えられれば理想ですが、そのハードルが高い場合は、MBO(目標管理制度)を活用する方法もあります。年度初めに計画を立て、年に1回もしくは期中に自分の仕事を手放したり、誰かの仕事を受け入れたりすることに挑戦するという目標を設定します。やると決めたことをやらなければ評価が下がり、ボーナスが下がり、昇格が遅れる。逆に、仕事の共有に向けて具体的な成果を出した人を評価すれば、ボーナスが上がり、昇格に近づく。それが見えるようになり、実感するようになれば、人は自然と動き始めます。
「業務の引き継ぎをしよう」「みんなでできるようにしよう」と合意できたとしても、引き渡すこと自体が大変すぎると、実現は難しくなることも否めません。属人化を解消して、誰でもその仕事ができる状態にするためには、前提としてその仕事は簡単でなければなりません。
仕事を簡単にするためには、「作業の工程を減らす」か「条件分岐を減らす」ことが必要です。特に条件分岐が重要で、「この場合はこう、この場合はこう」というパターンが多すぎると、マニュアルを作ろうとしても膨大な量になりますし、咄嗟の判断では対応しきれなくなります。
個人に最適化された仕事になればなるほど、業務は複雑になり、「この仕事は自分にしかできない」という謎の自尊心が芽生えて悪循環に陥っていきます。条件分岐が煩雑で、しかも暗黙知として個人の頭の中にしかないので、他の人と共有できないのです。
ここでも価値基準を変える必要があります。「難しいことを難しくやっている人が優秀」なのではなく、「難しいことを簡単にする人が本当に優秀だ」という考え方に変えるのです。
例えば、「マクドナルドでフライドポテトを揚げる」という仕事をするのに、何年もの修行が必要だったとしたら、どうなるでしょう。マクドナルドはあれほどの巨大チェーンにはなれません。今日入ったアルバイトの方でも美味しく仕上げられるような仕組みがあるから、規模を拡大できるのです。その仕組みを作ることこそが、本当の仕事です。ポテトを揚げることが仕事なのではなく、誰でも美味しいポテトを揚げられるような工程や環境を作ることが優秀な仕事なのです。
仕事を簡単にして若手社員や新入社員に渡せるようになれば、自分はより上のステージで、より難しい仕事に取り組むことができます。それが本来の順当なキャリアアップの姿です。
特定の部下がいないとチームが回らない状態では、マネジメントができているとは言えません。人は流動的です。離職や退職もあり、新しい人もやってきます。安定的に成果を出すためには、誰がやっても職場が回るようにする仕組み化が不可欠です。業務をできる限り簡素化できることが、優秀なマネージャーの条件と言っても過言ではないでしょう。
業務をチームで共有する際に最大のネックとなるのが、作業手順書(マニュアル)の作成です。マニュアルを作るのが面倒だから属人化が進み、他の人と共有したくないという気持ちになるのです。その気持ちは非常によく理解できます。マニュアルを作るのは本当に面倒くさいです。
しかし、今は時代が変わりました。生成AIというものが登場し、この2年ほどで性能が飛躍的に向上しています。よほど高度で専門的な仕事でない限り、AIがマニュアルの8割程度の完成度のものを作ることができます。
一般的な事務作業、営業活動、生産活動の作業手順書であれば、ChatGPTなどに試しに作らせてみてください。かなりいいものを書いてくれます。これまでマニュアル作成で大変だったのは「0から1」の部分、つまりWordやPowerPointを立ち上げて、どのような構成にして何から書き始めるかを考えることでした。この部分がAIで簡単にできるようになりました。
具体的な活用方法としては、まず「〇〇の仕事の作業手順書を作ってください」とラフに依頼します。最初は目次レベルのものが出来上がります。次に、その目次の各項目について「この具体的な内容を教えてください」「この作業のチェックリストを作ってください」と繰り返しやり取りを重ねていくと、AIだけでゼロから8割程度の完成度まで仕上げることができます。残りの2割は、会社独自のルールや部署名・担当者名などの固有名詞を補う作業ですが、書かれたものを編集するだけですので、さほど負担は大きくありません。
私自身、実際に研修プログラムの設計や登壇時の事前準備など、頭の中には漠然とあるものの「言語化するのが面倒くさい」内容をAIに書いてもらった経験があります。たたき台があると、「ここは違う」「こういう内容もある」という形で自分独自のエッセンスが言語化しやすく、追記できるようになっていきます。ある程度出来上がったものに手を加えるだけですから、その負担はそれほど大きくありません。
属人化の解消に限らず、いつの日か異動、転職、独立などキャリアチェンジのタイミングが訪れた際には、必ず仕事を引き渡さなければなりません。その時に備えて、ぜひAIを活用して、簡単なレベルでもいいので、業務の手順書や引き継ぎ書づくりに挑戦してみてください。生成AIの習熟度も上がりますし、どこまでのことができるかを確認する良い機会にもなるでしょう。

業務が属人化するのは、マニュアルがないからでも、業務が専門的だからでも、教える時間がないからでもありません。属人化していた方が都合が良いから、属人化したままになってしまっているだけなのです。
人間の行動原理は「痛みを避ける」「快楽を追求する」の2つだけです。属人化を解消することが痛みになり、属人化している方が快楽になっている以上、どうやっても解消できません。これを逆転させること、つまり属人化している方が痛みになり、属人化を解消することが快楽になれば、人は自然とそちらに向かい始めます。
業務の可視化、痛みと快楽の逆転、業務の簡素化、AIを活用した手順書の作成、この4つのステップを順番に踏んでいくことで、属人化の解消は着実に進んでいきます。
自分の仕事を誰かに引き渡し、チームの仕事を誰でもできる状態にすることで、休みが取りやすくなり、苦しい時に助け合える関係が生まれます。全員が協力意識を持ち、余裕を持って仕事ができる組織を目指していきましょう。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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