マネジメント
2024.9.28
目次
近年、「人的資本経営」という考え方が注目を集めています。人材を単なる「コスト」ではなく、積極的に投資すべき重要な「資本」と捉えるアプローチです。つまり、人材育成に真剣に取り組み、人材を将来への成長要因や競争力向上の基盤として重視することだと言えます。
短期的な視点で考えると、人材への投資は「効果が見えにくい」「即効性がない」として軽視されがちです。しかし、長期的に見れば、企業が成長し、業績を伸ばしていくためには、設備投資やITインフラ整備と同様に、人材への投資も欠かせません。
人的資本、すなわち人材への投資は、企業の生産性を向上させ、企業文化や商品・サービス品質のさらなる向上にも貢献します。組織の中核を支える人材を育成したり、質の高い人材を確保したりすることは、企業の未来に向けたとても重要な戦略なのです。
業績が悪化する原因として、商品やサービスの競争力の低下、生産性の低下が挙げられますが、その多くは人材の質の低下に起因します。
企業が競争力を保ち、市場で価値を提供し続けるためには、経営資源「ヒト・モノ・カネ・情報」の中でも、特にヒト(人材)の質が重要になります。なぜなら、モノもカネも情報も、すべてヒトから生み出されるからです。ヒトの質が低ければ、そこから生まれるモノ・カネ・情報の質も低下します。
人材の質が下がると、提供する商品やサービスのクオリティは低下し、提供できる付加価値が縮小することによって、生産性も低下します。生産性が低下するため、業績が悪化するのです。
そして、業績が悪化すると、企業は短期的な利益を確保するため、人件費や教育投資を削減しがちになります。しかし、これが生産性のさらなる低下を招く悪循環に陥る原因となってしまいます。
業績が悪化するので、人材への投資を減らす。そのため、人材の質が低下する。その結果、商品やサービスの質が劣化し、生産性も低下する。それが業績悪化につながり、ますます人材への投資が縮小される。これが業績悪化を招く負のスパイラルです。
人材への投資は、短期的には即効性を感じられないかもしれませんが、長期的には商品やサービスの質を高め、生産性を向上させ、競争力の維持や強化につながるのです。
企業が持続的な成長を目指す上で、研修などの教育投資は欠かせない要素となります。研修やスキル開発への投資は、即座に成果が上がるものではなく、あくまで中長期的な成果を見据えた取り組みです。短期的な視点では、効率の悪い投資にも映りますが、だからこそ継続的に一定の投資をし続ける必要があります。
例えば、新入社員に対する基礎研修や、中堅社員のスキルアップを目的とした定期的な階層別研修、テーマ別研修は、必ずしもすぐに業績に直結するわけではありません。しかし、長い目で見れば企業の生産性向上や業績改善へ有効に働きます。
教育を受けた優秀な人材は、将来のリーダーとして組織の成長を牽引する、重要な役割を果たすことが期待されます。中核人材は突然覚醒することはありません。来るべき時に備えて準備をしておくからこそ、役割を担う力が備わるのです。
業績が停滞している企業ほど、積極的に教育に投資を行い、負のスパイラルを逆転させて好循環に導く必要があります。それが、長期的に組織の活力を高めることにつながります。また、研修の継続的な実施は、従業員のモチベーションを維持し、企業への貢献意識を育む効果もあります。
教育投資は、優秀な人材の確保と成長、それによる競争力の強化、生産性の向上に寄与するのです。企業にとって、従業員は投資の対象であり、人材の価値を高めることで組織の価値を高めることが、人的資本経営の真髄だと言えるでしょう。
企業が持続的な成長を遂げるためには、早い段階から高待遇な給与や条件を提示し、優秀な人材を確保することが有効です。一時的にコストが上がるとしても、好条件で優秀な人材を確保することで、その後の教育コストを削減することができます。
要するに、採用にお金をかけるか、教育にお金をかけるかという選択です。採用にお金をかけると、採用時点での支出は大きくなりますが、その後の教育に必要な経済的・精神的・時間的コストを減らすことができます。
とはいえ、少子高齢化による就労人口、特に若い世代の人口が減少の一途をたどる現代では、たとえ好条件を提示したとしても、必ずしも優秀な人材が応募してくれるとは限りません。採用で妥協するとしたら、教育にお金をかけて挽回を図る他ありません。
また、既存の人材に対しても、スキルアップを支援する教育プログラムを提供することが重要です。必ずしも短期的な利益をもたらすわけではありませんが、日々の業務に求められるスキルを継続的に高め、リーダーシップやマネジメントスキルを開発することにも繋がります。
企業が教育投資を続けることで、従業員教育のマネジメントサイクルが強化され、研修内容も質の高いものへと進化していきます。継続的な教育投資は、企業の競争力を高め、従業員のパフォーマンス向上を通じて、生産性の向上につながります。これが好循環への道につながります。
人材育成に対する投資は、単なるコストではなく、組織の将来に対する先行投資なのです。
不況や業績低迷に直面しているときこそ、人材育成に対する投資を止めてはなりません。経営状況が厳しくなると、人件費や教育予算を削減し、短期的なコスト削減をしがちになりますが、これは長期的には企業の競争力を低下させ、悪循環に陥る要因となります。
バブル崩壊後、新卒採用を抑制した企業は、その期間に採用するはずだった世代の従業員を失うことになりました。その結果、本来であれば組織の中核を担う30〜40代の人材が不足し、20代と50代が相対的に多くなる、いびつな人口ピラミッドを形成することになります。これが、マネジメント人材不足や、世代間コミュニケーションのギャップによる生産性低下につながっています。
業績が低迷している状況でこそ、従業員への投資を行い、スキルアップやモチベーション向上を図ることで、将来的な成長に向けた「立て直し」を行うのです。
教育投資の継続は、生産性向上はもとより、従業員のエンゲージメント向上にもつながります。意欲の向上が、定着率の向上につながり、従業員の職務遂行レベルが向上します。労働市場が活発になってきたとは言え、やはり在籍年数の長さによる業務習熟度が、付加価値を生み出す源泉になっていることは否定できません。
企業が困難な時期を乗り越え、成長を再加速させるためには、短期的な利益を追求するのではなく、長期的な視野での人材育成が欠かせません。人的資本経営を実践する企業こそが、逆境を乗り越えることのできる、強い生命力を保つ組織となっていくことでしょう。
人的資本経営は、企業の未来をつくる重要な経営戦略です。優秀な人材の確保、従業員への投資を惜しまないことが、企業の持続的な成長を支えます。業績が好調な時はもちろん、業績が不調な時こそ、短期的なコスト削減ではなく、長期的な人材投資を行うことで、組織の足腰を強くし、継続的な成長を図ることができます。
教育投資は、一朝一夕で成果が出るものではありません。しかし、長期的に見れば企業の生産性や競争力向上の鍵となります。優れた人材を雇い、育て、その力を活かすことで、組織がより高い価値を生み出して市場に提供し、顧客から支持を得ることができるのです。
人的資本への投資は、企業が未来にわたり成長を続け、その価値を高めるための重要な戦略です。人材に投資し、人材の価値を高めることこそが、盤石な組織を作ることにつながるのです。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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