マネジメント
2025.10.11
目次
優秀な管理職とは、どのような人でしょうか。私は「部下に成果を出させることのできる管理職」と考えます。
管理職になる人は、多くの場合プレイヤーとしても優秀です。自分で結果を出し、実績を評価されてきたからこそ、管理職になるのです。
しかし、管理者になった後も、プレイングマネージャーとして自分一人で孤軍奮闘しても、成果は行き詰まります。どんなに優秀な人であっても、一人でできることには限界があるのです。
優秀な管理職は、部下を成長させてチーム全体で大きな成果を生み出します。たとえ部下の能力が、上司と同じレベルではなかったとしても、複数の部下が力を伸ばすことで、チーム全体の成果を大きく引き上げ、管理職個人の力を上回るのです。
では、その差はどこから生まれるのか。今回は、優秀な管理職に共通して見られる4つの特徴をご紹介します。
部下の伸び悩みを感じている、あるいは自分のマネジメントに自信が持てない方は、ぜひご覧ください。
1つ目の特徴は、部下にプレッシャーをかけることです。「このご時世で、部下に圧をかけるのは良くないのではないか」「パワハラにならないのか」と感じる方もいるかもしれませんが、成長を促す上で適切な負荷は欠かせません。
筋トレを思い浮かべると分かりやすいでしょう。軽いダンベルをどれだけ振り続けても、筋力は鍛えられません。自分にとって、少しキツイと感じるくらいの重量に挑み、ギリギリまで負荷をかけることで、鍛えられていくのです。
仕事も同じです。できて当然の水準の仕事をどれだけ繰り返しても、それ以上にレベルは上がりません。本人が「少しきつい」と感じる課題に挑ませることで、次の段階に進む力が備わるのです。
反対に、成果が出ない管理職は、パワハラを恐れるあまり遠慮の姿勢に傾きます。結果が出ていない人にも強く言えず、必要な負荷を避けがちです。そうなると、本人は「このままでいいのだ」と解釈し、楽な方へ流れていきます。
最悪なのは、成果を出している人と出していない人の評価や処遇があまり変わらないことです。懸命に努力する人ほど、徒労感や虚無感を抱き、やがて組織を去っていきます。優秀な管理職は、公正な評価を前提に、力量に応じたプレッシャーを満遍なくかけ、成長の階段を踏ませるのです。
私の経験をご紹介します。コンサルティング会社に勤めて2年目の頃、自分の実力不足と社内での知名度不足もあり、目標の半分程度しか売上を立てることができませんでした。
ここでやりがちなのが、翌年の目標を下げることです。目標が高すぎた、実力が伴っていなかったとして、低い水準にしてしまうのです。
しかし、当時の上司は決して目標を下げませんでした。翌年も同じ金額を目標とし、まずはそれをクリアするよう求めてきたのです。「一人前のコンサルタントであれば、この水準は達成しなければならない」という基準が明確だったのです。
期待水準が明確になり、それが動かないのであれば、どのようにしてそれを突破するかを考えざるを得ません。実際、私は3年目にその目標をクリアし、4年目以降はより高い目標を設定して、それを乗り越えるというのを繰り返していきました。
メッセージは明確です。水準は下げない。負荷をかけ続ける。その負荷は、決して部下への罰ではなく、将来への期待なのです。
「強い要求=パワハラ」ではありません。パワハラは故意の嫌がらせであり、期待とは真逆の行為です。
厳しい要求が期待として受け取られるか、ハラスメントと感じられてしまうかは、土台となる信頼関係の有無で決まります。信頼関係がある相手からの期待は「応えたい」という動機を引き起こしますが、信頼がない相手からの言葉はトゲとして刺さります。
したがって、優秀な管理職はベースの信頼関係を築きながら、あくまでも「あなたならできる」という前提で負荷を設計するのです。
求める基準を示し、安易に水準を下げず、達成に向けて伴走する。これが、単なる圧ではなく、成長へのドライバーとして機能するプレッシャーのかけ方です。
2つ目の特徴は、初期の成功体験を意図的に設計することです。これをあえて「偽装」と呼びます。もちろん虚偽の称賛ではありません。本人が成功体験として感じるように少し話を「盛る」のです。
ある会社で中途入社の営業担当者が、顧客への提案を行いました。訪問には先輩社員が同行し、適切にフォローをしたことで、結果として受注に至りました。
上司は、先輩社員のおかげであることは承知した上で、「初受注おめでとう」と、皆の前でその中途社員を称賛しました。
本人も先輩社員のフォローがあって獲得できた受注だと理解しています。それでも、実績として評価され、称賛されると、だんだん「その気」になってきます。
自己効力感が高まり、「自分にもできる」という感覚が、次の挑戦のハードルを下げ、行動量を増やす燃料になるのです。
同時に、上司は裏で先輩社員にも感謝と評価を返します。「君の支援があってこその成果だ」ときちんと伝えるのです。これで、先輩社員の尊厳も保たれ、労力も報われます。
大切なことは、早い段階から「成功の感覚」を味わせて、次の挑戦へ向かう意欲を引き出すことです。最初は「下駄を履かせる」くらいでちょうど良いのです。
成功体験が積み上がるほど、部下は自分の力を信じて自律的に動き始めます。やる気は掛け声だけでは生まれません。小さくても確かな成功を繰り返すことで、「自分はやれる」という確信が少しずつ形になるのです。ここまで来れば、管理職は押すのではなく、支える側へと役割が移っていきます。
3つ目の特徴は、成功体験を「言語化」させて再現性をつくることです。成功体験を一度きりのラッキーパンチで終わらせないために、結果が出た後に振り返りの場を用意し、経験からの知恵を引き出します。
1つ事例をご紹介します。ある企業にて、マーケティング担当者がSNSキャンペーンで、たまたま高い反応を得ることができました。そこで上司は「どうやってうまくいったのかを皆に説明してほしい」と社内勉強会での講師役を依頼します。
偶然の結果ですので、説明できることなど何もないと担当者は困惑します。それでも、上司は「やってきたことを振り返って、法則を見つけてみて」と促します。担当者は準備段階から投稿の設計、コピーや配信タイミングの試行錯誤、、想定したターゲットの反応仮説など、何気なく無意識で考えていたことを「言語化」することを試み、なんとか自分の経験を理論として整理してみる。そこに発見があるのです。
本人にとっては偶然の産物でも、構造化を試みると何かしらの法則や型が見えてきます。こうして可視化されたノウハウは、本人の次の成功確率を上げることはもちろん、それをチーム全体で共有することで、組織力の強化にもつながるのです。
この方法は、デービッド・コルブの「経験学習サイクル」に相当するものです。経験を内省して状況や思考、感情を振り返り、そこから教訓(抽象概念)を取り出し、次の実践で検証するという循環です。言語化は「抽象化の核」であり、再現可能な手順として共有できる形式に変換する作業でもあります。
優秀な管理職は、結果の賞賛で終わらせません。必ず「なぜうまくいったか」を問い、経験からの学びを次へと繋げていきます。言語化が進むほど、部下は自分の強みを自覚し、学びを得て、環境や状況が変わっても対応できる力を育んでいくのです。
4つ目は、裁量を与えて、プロセスは任せることです。つまり、目標と制約だけを明確にして、手順は委ねるというスタイルで仕事を渡すのです。
私がコンサルティング会社に勤務していた頃、とても恵まれていたと感じるのは、私の上司がまさにこのスタイルであったことです。受注金額、売上管理金額、コンサルティング稼働金額の3つが評価基準として明確になっていて、これをどう達成させるかは本人の自由意志に委ねられていたのです。(なお、成果が上がらない同僚にはかなり介入をしていたので、相手によってアプローチを変えていた模様です)
プロセスに自由度があると、人は自分の強みを最大に活かす仕事の進め方を設計し始めます。私の場合、自分で営業活動に入ったプロジェクトを自分で管理し、自分でコンサルタントとしての稼働をするという形式で、1つの仕事がダブルスコア・トリプルスコアで評価されるように仕事の進め方を設計しました。そうやってやり方を工夫することで、同僚と比べて2倍も3倍も高いような評価点を得ることができたのです。
こうした「自分なりの工夫」や「自分に合った方法」は、上司から具体的な指示や手順を示されたのでは辿り着けない発想です。自分のモチベーションの上げ方、集中しやすい時間帯、周囲の協力の仰ぎ方など、「自分の取り扱い説明書」は、ある程度の職業経験を積んできた人であれば、本人が一番よく知っています。
もちろん、本人の自由にやらせるのは、丸投げするのとは異なります。達成すべき目標、やってはいけない禁止事項、使える資源、締切や品質基準は、最初に明確に示します。その上で、途中の口出しは最小限に抑え、定期的に報告をもらいながら、必要に応じてフィードバックやアドバイスを行う。「成果に責任を持ち、方法は任せる」という原則が、部下の自律性を育て、創意工夫を引き出すのです。
管理職の最終目標は、上司が不在でもチームが回り、メンバーの自律的な判断や行動によって成果が出続ける状態です。細部に介入し続けるほど、組織は上司という「ボトルネック」に縛られるようになります。上司が不在だと機能しないチームになってしまうのです。
今回取り上げた4つの特徴は、独立した技術ではありません。それぞれが連鎖し、循環していきます。
期待という名のプレッシャーを適切にかける
↓
初期の成功体験を演出して自己効力感を高める
↓
成功を言語化して再現性をつくる
↓
裁量を与えて自律性を伸ばす
という循環をつくることが肝です。この循環が動き始めると、部下は自ら挑戦し、成功の要因を自覚し、再現して広げ、さらに大きな目標に自ら挑むようになります。
管理職は、基準を下げることなく、メンバーとの信頼関係を土台に、節目で適切な問いかけ、フィードバックをして自律的な仕事の進め方を促します。これを続けていくことで、やがては「上司が前に出るチーム」から「部下が自走するチーム」へと変化していきます。
部下が自分の頭で考え、主体的に動き、互いに学び合うチームは強いです。四つの特徴をつなげたマネジメントの循環を、あなたの職場でも回し始めてください。小さな一歩が、やがて自走する組織を生み出していくことでしょう。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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