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リーダーシップ

2025.12.7

組織を率いるリーダーに求められる「Lead the self」の原則

どんな理論を学んでも、最後は「自分」に戻ってくる

リーダーシップやマネジメントについてさまざまな学説や講義をたどっていくと、必ず最後は同じ場所に行き着きます。どんな学者やコンサルタントの話でも、最終章で出てくるテーマは「セルフマネジメント」。つまり、自分自身をどうマネジメントするかという話なのです。これはとても興味深いことで、結局すべては自分に返ってくるのだな、といつも実感します。

リーダーシップを考える上で、避けて通れない現実があります。それは、「人は何を言うかではなく、誰が言うかによって動く」というということです。どれだけ正論を語っても、「この人の言うことだから聞こう」と思ってもらえなければ、人は動きません。

逆に、多少言葉が拙くても、客観的な根拠が乏しくても、「この人が言うならやってみよう」と人々が感じるとき、はじめて組織は前に進むのです。この残酷な現実を理解することが、セルフマネジメントを考える出発点になります。

私たちは組織の中で仕事をしています。仕事には必ず「求められる成果」があり、その本質は付加価値の高い製品やサービスを創造し、提供することです。そして、その成果は組織のマネジメントの仕組みや、チームの人間関係・チームワークの結果として生まれてきます。

制度やルールがどう設計されているか、情報共有やコミュニケーションがどれだけスムーズかという「組織マネジメント」の結果によって、事業の成果は大きく変わってきます。

では、その組織マネジメントは一体何によって左右されるのでしょうか。突き詰めると、それは「そこで働く一人ひとりがどんな人なのか」に行き着きます。どんな価値観を持ち、どんな態度で仕事に向き合い、どんなふうに他者と関わっているか。

その集合体が、組織の雰囲気や人間関係となって現れます。だからこそ、最終的には個々人のあり方に辿り着き、個人の力を伸ばし、高めるためにもセルフマネジメントが問われるのです。

外側ばかりいじっても、組織の本質は変わらない

私はかつて、業績が右肩下がりに悪化していく会社に勤めていたことがあります。

売上のピークは1997年ごろで、そこからは何をしても売上が落ちていく一方という状況でした。当然、会社としてはこの流れを止めなければいけないので、さまざまな手を打ちます。しかし、その多くは「外側」をいじるものでした。

例えば、組織図を頻繁に変える。「○○室」を「○○部」に格上げする、別の部署と統合する、新しい部門をつくるなど、派手な組織改編が何度も行われました。それに合わせて、人事異動も繰り返されます。部長や課長を入れ替え、新しいリーダーを据えれば何か変わるのではないかと期待するわけです。実際、その会社では半年ごとに機構改革や人事異動が起きているような状態でした。

さらに、仕事の環境やしくみもよく変更されました。評価の仕組みを変える、等級制度を変える、報酬体系を変えるといった「制度改革」が次々に導入されます。加えて、ITシステムを入れ替えたり、オフィスの場所やレイアウトを変えたりと、ハード、ソフトの両面で仕事の環境を次々と変えていくのです。

しかし、結論としてどれも大きな成果には結びつきませんでした。なぜなら、変えたのは外側だけで、中身が変わっていないからです。組織の外側だけいくらいじっても、そこで働く人たちの意識や関係性が変わらない限り、根本的な成果の違いは生まれません。私はその時期の経験を通じて「外側だけを変えても限界がある」ということを強く学びました。

妥協・属人化・業務の重複が生む「低い付加価値」

では、なぜ外側ばかりいじっても成果が出ないのでしょうか。

その背景には、組織の内側で起きている「妥協」「属人化」「業務の重複」といった問題があります。本来であれば、意見の衝突が起きたときには、お互いの言い分を丁寧にぶつけ合い、納得できるところまで議論を重ねる必要があります。しかし、現実には「面倒だから」と妥協してしまう場面が多いのです。

例えば、「ああ、分かりました。じゃあもうそれでいいです」というように、本当は気になる部分があっても深く話し合わず、その場を流してしまうことがあります。こうした妥協が積み重なると、表面上は波風が立たないように見えても、実際には誰も本気で責任を取らない状態が生まれてしまいます。

さらに、属人化も大きな問題です。1人ひとりが「自分のやり方」で仕事を抱え込み、「自分の仕事は自分だけが分かっている」という状態になると、全体像が見えなくなります。情報共有がされないまま、それぞれが一人親方の職人のようにバラバラに動いてしまう。そうすると、同じような仕事を別の部署でもやっていた、という業務の重複が起きます。

蓋を開けてみると、「それ、あっちでもやっていたんですね」「だったら一緒にやればよかったのに」という無駄がたくさん見つかることがあります。しかし、日頃から情報共有がされていなければ、そのことに誰も気づきません。結果として、組織全体の効率が下がり、付加価値も上がらないままになってしまいます。

無関心・不信感・足の引っ張り合いがチームを壊す

こうした非効率の背景には、職場の「空気」の問題があります。

自分の同僚がどんな仕事をしているのか分からない、興味もない。「自分は自分の仕事をちゃんとやっていますけど、何か問題ありますか?」というスタンスの人が増えてくると、チームワークは機能しなくなります。

そこに、不信感や責任転嫁が加わると、状況はさらに悪化します。うまくいったときは「自分のおかげ」、うまくいかなかったときは「人のせい」にする人たちが一定数いると、安心して仕事を任せることができません。「この人に仕事を頼んで、もしうまくいかなかった時、自分のせいにされたらたまらない」と感じれば、誰だって共同作業を避けるようになります。

その結果、「だったらもう自分一人でやるよ」という人が増えていきます。誰にも頼らず、自分の守備範囲だけは何とか守ろうとする個人プレーの集まりになり、チームとしての力は発揮されません。こうして、無関心・不信感・足の引っ張り合いという負の連鎖が、業績不振や生産性の低下につながっていきます。

本来目指すべきは、その逆側の状態です。役割分担と相乗効果で高い付加価値を生み出し、チームとして成果を出していく。その前提として、仲間意識があり、お互いを信頼し合い、協力しながら仕事ができる関係性が必要です。さらに、個々人が技能的にも精神的にも成熟していることが求められます。そうでなければ、仕事を任せることも、頼ることもできません。

「人」に投資しなければ、組織は変わらない

こうした状況を本気で変えようとするならば、企業には「人への投資」が欠かせません。

例えば、私が今年、年間で6回ほど研修に伺っている会社があります。若手向けのクラスが2つ、中堅層向けのクラスが2つ、管理職向けのクラスが2つです。しかも、それを毎年続けている計画になっています。会社から見れば、かなりのコストがかかります。それでも、この会社が研修を実施するのは、人材投資の重要性をご理解いただいているからでしょう。

一方で、多くの会社はそこまでやりません。研修といえば新入社員研修くらいで、会社の理念やビジョン、戦略の説明をして、部署紹介をして、あとは現場に配属してOJTで学ばせる、というパターンが一般的です。もちろん実務能力はOJTでしか身につかない部分もありますが、仕事に必要な力は実務スキルだけではありません。

例えば、物事を論理的に考える力、人に分かりやすく伝える力、人の話をしっかり聞く力などは、意識して学ばなければなかなか身につきません。にもかかわらず、「そこは自分で努力しなさい」とすべて自助努力に丸投げされてしまうケースが多いのです。さらに、仕事をする力は能力と人間性が両輪ですが、多くの会社はスキルにはまだ投資しますが、人間性の部分にはほとんど手をつけません。

「当事者意識を持て」「責任感を持て」「リーダーとしての自覚を持て」。こうした言葉はよく聞きますが、単に言葉として投げかけるだけでは、人は簡単に変わりません。にもかかわらず、会社側はそこに具体的な支援や学びの場を用意せず、「後はあなた次第」とばかりに個人に委ねてしまう。これではなかなか組織は変わっていかないのです。

組織を変えたければ、「自分が変わる」と決める

最終的には、個人が自立し、自分で自分を統制できる人たちの集まりでなければ、強いチームにはなれません。しかし現場でよく聞く声は、「自分はちゃんとやっているけれど、周りが変わらない」「上が変わってくれないからどうしようもない」というものです。気持ちはわかるのですが、残念ながらこの発想にとどまっている限り、変化は起きません。

「他人は変えられない、変えられるのは自分だけ」という言葉は、少し使い古された表現かもしれませんが、永遠不変の真理でしょう。特にリーダーとしてこれから活躍しようとする人にとっては、「人を動かす前に自分を変える」という覚悟が必要になります。それが「Lead the self(自分を導く)」という考え方です。

多くの管理職・リーダー向けの研修は、多くの場合、「メンバーをどう動かすか」「どのようにチームをつくるか」といった内容になりがちです。しかし、これは本来リーダーシップの開発段階で考えれば「レベル2」の話なのです。その前段階として、まずは自分自身を統制する。つまり、自律した個人としてセルフマネジメントを行うという「レベル1」をクリアしなければ、本当の意味で人に影響を与え、人を動かすことはできません。

ビジョンを掲げ、目標を示し、「みんなでここを目指そう」「そのためにこれに挑戦しよう」と呼びかけるのは簡単です。しかし、その発言に行動が伴っていなければ、部下はすぐに見抜きます。「そこまで言うなら、まず自分がやれよ」と思われた瞬間に、発言の説得力は失ってしまいます。

だからこそ、まずは自分自身が「言っていること」と「やっていること」を一致させる必要があるのです。口では立派なことを言いながら行動が伴っていない人の話に、人は本気で耳を傾けません。人は「何を言うか」ではなく「誰が言うか」によって動くのです。

一人でも歩き出す覚悟が、周囲を動かし始める

リーダーがビジョンを掲げ、目標を示し、「ここを目指して頑張ろう」と呼びかけるのはよくあることです。しかし、言葉だけでは人は動きません。本当に必要なのは、「まず自分がやる」という姿勢です。ビジョンや目標に対して、誰よりも自分が先にコミットし、自分自身が率先して行動を起こすこと。これをやり抜くことで、はじめて周囲は「あ、この人は本気なんだ」と感じ始めます。

しかしこの段階ではまだ、多くの場合、周りはついてきません。人間は基本的に変化を嫌う生き物です。不確実なことや新しい取り組みには慎重になり、できれば現状維持を選びたいと思うのが本音です。そのため、リーダーが新しい方向性を示しても、「余計なことしないで欲しい」「面倒なことはしたくない」と反発されることもあります。

しかし、そこで引き返してしまえば、変革は進められません。だからこそ、「いいよ。みんなが賛成してくれなくても、自分一人でもやるよ。」と腹をくくって行動し続けることが大切です。「Lead the self」を実践している人は、最初は孤独です。理解されない、協力されない、時には否定される。けれど、それでも目標の方向へ歩き続けるのです。

ところが、その姿勢を貫いていくと、次第に周囲の目が変わってきます。「あれ?この人、本当にやる気だぞ」「ここまで一貫してやっているなら、もしかすると正しいのかもしれない」「本当に何かが変わるかもしれない」。こうした関心が生まれると、少しずつ協力者が現れ始めます。「手伝わせてください」「一緒にやってみてもいいですか」という人が増え、仲間が集まってきます。

こうして初めて、レベル2である”Lead the People”、つまり人を巻き込みながら進んでいく段階へ移ることができます。人を動かす前には、まず自分が変わることが必要であり、”Lead the self”が先であるという理由がここにあります。

信念・理念・ストーリーを語ることが、周囲の共感を生む

リーダーが自分の足で歩き出すとき、ただ黙って行動するだけでは不十分です。「なぜそれをやるのか」「どんな未来を見ているのか」「何を実現したいのか」といった、自分の思いや理念を言葉にして伝えることもまた欠かせません。

人は、何事にもまず「意味」を求めます。どんな正しい行動でも、その背景にある理由や物語が見えなければ共感できません。しかし逆に、理念が明確で、そこに矛盾がなく、熱量を感じれば、「この人についていってもいいかもしれない」と思えるようになります。

私は会社の理念を「デキる人を増やして、社会をもっと快適にする」と掲げています。ストーリーはシンプルです。仕事がデキるようになれば、仕事が楽しくなる。仕事が楽しくなれば人生が楽しくなる。人生が楽しい人が増えれば、社会が明るくなる。そして、仕事がデキる人が増えれば良い製品やサービスが増え、結果として世の中全体が快適になっていく。これが私、そして弊社が追い求めている物語です。

もちろん、これに共感してくれる方もいれば、そうでない方もいます。「アンタ、何を言ってるの?」と冷めた目で見る人がいるのも事実です。しかし、それで構わないのです。理念や想いというものは、すべての人に受け入れられるものではありません。むしろ、味方が増えれば、反対側の無関心層も増えるものです。

それでも、自分が本気で信じている理念に共感してくれる人とチームを組むことができれば、仕事の質は大きく変わります。共通の価値観を持ち、同じ方向を見て行動できる仲間がいることは、大きな強みになります。

リーダーに欠かせない基準の高さと「言行一致」

理念を掲げ、行動を起こしていく上で、最も重要であり、最も難しい課題があります。それが「基準を高く保つこと」と「言行を一致させること」です。

「言っていること」と「やっていること」が一致しているかどうかは、相手に対する信頼を大きく左右します。どれだけ立派なことを言っていても、行動が伴っていなければ信頼は一瞬で崩れます。逆に、不器用でも、言ったことを確実に行動に移す人は信頼されます。

この言行一致は、決して簡単なことではありません。正直なところ、この生き方を追い求めずに済むのであれば、その方が楽な人生でしょう。基準を上げれば上げるほど、自分に課される負荷も大きくなります。リーダーとして、常に自分の行動を見直し、言葉とのズレを修正し続ける必要があるからです。

リーダーシップは能力であり、誰でも発揮することができます。しかし同時に、実際にリーダーシップを発揮し続けられる人は決して多くない、という厳しい現実もあります。言行一致を徹底し続けることは、それほど難しく、覚悟が必要なことなのです。

それでも、「自分のキャリアを伸ばしたい」「組織を良くしたい」「周囲に良い影響を与える人になりたい」と本気で考えるのであれば、このチャレンジから逃れることはできません。まずは自分が基準を上げ、その基準に沿って行動し続けること。この積み重ねが、周囲の信頼をつくり、結果として組織全体に影響を与えていくのです。

現代の組織が直面する課題と、「セルフマネジメント」への帰結

どの本を読んでも、どの講座を受けても、最終的にセルフマネジメントに行きつく理由がここにあります。組織を変えるには制度ではなく「人」が変わる必要があります。そして、他人を変えることはできません。変えられるのは自分だけです。

だからこそ、リーダーシップの本質は「自分をどう導くか」にあるのです。”Lead the People”(人を動かす)はあくまでその先にある段階であり、最初に向き合うべきは”Lead the self”です。

外部環境の動向を捉え、変化の兆しを読み、自分のビジョンを掲げる。必要だと感じたことには自分が率先して取り組む。そして、その背景にある理念を語り、信念のストーリーを周囲と共有する。さらに、言行一致を徹底して信頼を積み重ねていく。

この流れを進めていくことで、リーダーシップの発達段階を前に進め、やがて人々を自然と巻き込む”Lead the People”の状態へと到達します。周囲の人たちが「この人は本物だ」と感じ、自然とついてきてくれるようになるのです。

変化を恐れず、率先して動く人が組織を変える

最後に、セルフマネジメントの重要なポイントをまとめておきます。

  • 変化を恐れず、一歩踏み出すこと
  • 理念やビジョンを語り続けること
  • 言行一致を徹底し、基準を高め続けること。

これらを実践していく中で、リーダーとしての「軸」が強くなり、周囲にも影響力を発揮できるようになります。組織を率いるとは、誰かに指示や命令をすることではありません。自分自身が率先して行動し、その姿勢が周囲に波及していくことで、結果として組織全体が動いていくのです。

セルフマネジメントとは、決して華やかではありません。むしろ孤独で、地味で、継続が難しい領域です。しかし、真のリーダーシップを発揮したいのであれば、必ず通るべき道でもあります。どれほど大きな変革も、最初の一歩は「自分の変化」から始まります。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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