希望退職募集と定年70歳から、自律的なキャリアデザインの重要性を考える

今年に入ってから、どういうわけかキャリアデザイン研修についての相談が非常に増えています。若手層を対象にした案件が多いですが、中堅クラスやミドルクラスを対象としたお話もあります。

ここ2~3年はどちらかというと働き方改革、生産性向上、時間管理といったテーマでの講演や研修の依頼が多く、特に昨年は労働基準法が改正された影響もあって時間管理研修の案件が相次ぎました。キャリア案件はごく一部といった印象です。

今年は一変して、相談される案件がキャリア、またキャリア。中には自律型人材の育成といったテーマもありますが、プログラムの中にキャリアデザインの要素を組み込んで欲しいといったものもあります。

数週間前から妙に多いなと感じていましたものの、たまたまだろうと考えていました。しかし、ここ一週間でもまた相談が相次ぎ、一方で雇用に関する世の中の動向を見ていると、単に偶然と片付けることのできない、キャリアデザインへの機運の高まりを感じます。

従来型のキャリア形成が確実に終焉を迎えている

先日、ファミリマート様で行った希望退職の応募が、募集800人を上回る1025人に達したというニュースがありました。

「ファミマ、1025人が希望退職 全社員の約15%」(日本経済新聞)

またその前には、味の素様で50歳以上の管理職を対象に100名の希望退職を募るというニュースがありました。

「味の素、管理職の希望退職募集 50歳以上から100人」(IT mediaビジネスオンライン)

 

他にも、みずほ銀行様、富士通様などでも同様に希望退職を募られています。

希望退職制度そのものは何年も前からありましたが、ここ1~2年で一段と実例が増えてきたように思います。背景としては、グローバル競争の中で経営体力が落ちてきたこともあるでしょうが、様々な業種で大手企業が実施はじめたことで「やりやすくなった」ことも挙げられると思います。

年功序列や終身雇用が崩壊して久しいと言われながらも、私がお付き合いしているクライアント様を見る限り、実態として企業の雇用や人事管理では従来型の日本型雇用が依然として根強く残っています。

労働基準法がある以上、日本では多少の経営環境の悪化では従業員を解雇することは極めて困難です。また、職務や成果に基づく評価や報酬の制度構築は、設計も運用もかなり大変で、実際に導入するハードルは高いと言えます。

そのため、多くの企業では能力主義「風」の年功序列式で人事制度を構築されているケースがまだまだ多いです。正直なところ、心理的にも運用面でも、これが一番無難で楽だからだと言えます。

しかし、希望退職を実施する企業は今後も増え続けるでしょうし、いまの管理職を減らすだけでなく、今後を見据えて「新たなに管理職をなるべく生み出さないようにする」取組も増えてくると考えられます。

一方で、国会では高年齢者雇用安定法の改正案が提出される予定で、定年を70歳まで延長する取組が国策として打ち出される見込みとなりました(通称「70歳定年法」と言うそうです)。

新卒で入社し、現場経験を積んで管理職になり、定年を迎えるというモデルは確実に終焉を迎えています。働き始めてからリタイヤするまでのキャリアが、とても描きにくい世の中になったことは否めないと言えるでしょう。

何をして生きていくか

オックスフォード大学のオズボーン教授が「10~20年以内に労働人口の47%が機械に代替されるリスクがある」と提唱されたのが2013年。それからすでに7年が経過しようとしています。

事務処理作業を自動化するRPA(Robotic Process Automation)技術は、すでに企業の中で実用的に使用される段階に入りました。小売店では無人店舗への実験もはじまり、建設業や運送業の人手不足を解消するためのドローン活用も進んでいます(細かい問題はいろいろあると聞いていますが)。

次世代技術の代表格とも言える人工知能(AI:artificial intelligence)も、すでにサポートセンターや窓口業務で実用段階に入っていますし、5G(第5世代移動通信システム)の大容量高速通信が整備されるようになれば、自動車の自動運転など人工知能の活躍の場がさらに広がるものと目されています。

果たしてあと13年で「職業」の半分がなくなるのかは定かではありませんが、少なくとも「作業」の多くは省力化・自動化の技術に置き換えられていくことは疑う余地がありません。

そして、作業が自動化されるということは、仕事の内容が定型的になり、必要な人手が減ると言うことです。必然的に、管理職の人数は少なくて済むことになります。希望退職に代表される雇用状況の変化と、次世代技術は切っても切れない関係にあります。

今後ますます、従来型のキャリアモデルが変わり、仕事の内容も変わります。企業にも個人にも、将来の見通しが立たない暗中模索の中で生き抜いていく力が必要です。

そして、時代を生き抜くための能力の一つとして、自律的なキャリアデザインを行う力は重要です。キャリアデザインとは単に「将来どうなりたいかを考える」のではなく、どういう時代、どういう環境になったとして、それに適合して生きていく備えをしていくことだからです。

自律的なキャリアデザインをするためには

自律とは「他からの支配・制約を受けずに、自分自身で立てた規範に従って行動すること」という意味です。

言い換えれば「何を為すべきかを自分で考え、考えたことを実行すること」です。よって、自律的なキャリアデザインとは「自分の職業人生のあり方とやり方を自分で考え、自分の考えに基づいて行動に移すこと」だと言えます。

ちなみに、自律と似て非なる「自立」は「他への従属から離れて独り立ちすること。他からの支配や助力を受けずに、存在すること」という意味です。言い換えれば「他人に依存せず、自分の力で仕事を成し遂げること」であり、新入社員が一人目になったという状況が相当します。

「自分の頭で考えて、決めたことを実行する」ことが自律であり、自立よりもはるかに高度な領域です。

そのため、自律的なキャリアデザインを行うためには、前提として次の4つが必要になると私は考えています。

  1.  自分の頭で考える
  2.  自分にとっての仕事の意味と意義を考える
  3.  偶然を生み出し、チャンスに変える
  4.  決めたことを実行する

それぞれについて、後日改めて詳しく解説したいと思います。

 

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

  

投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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