「うちの会社はリモートワークできない」という思考停止

新型コロナウィルの新規感染者数が再び急増しはじめ、第3波とも呼べる状況を迎えてきました。PCR陽性者の人数に比べれば、重傷者数は決して高いとは言えませんが、重傷者数も確実に増加の一途を遂げており、警戒が必要な状況には変わりありません。

出典:Googleニュース

出典:厚生労働省

緊急事態宣言時にもたらした経済的なダメージの深刻さを考えると、おそらく政府は今後も具体的な強硬策を打ち出すとも考えにくく、閣僚の方々が発信されている通り「国民の判断」に委ねられていくことになるでしょう。

入院治療が必要な人数や重傷者数は第1波、第2波と同等の水準に迫りつつあります。自分や周囲の人たちの安全を守り、少しでも感染拡大を止めるように努めて行く必要があると言えるでしょう。つまり、決して強制されることはなかったとしても、緊急事態宣言時と同じレベルの行動規範が求められる状況にあると考えることができます。

定着しないリモートワーク

今月、私が担当したコンサルティングや研修の案件は13日間の稼働でしたが、うち実地での集合形式だったものは3件で、残り10件はオンラインでの実施です。その間に顧客やパートナーとの打ち合わせが9件ありましたが、すべてオンライン会議で行いました。

緊急事態宣言が発令された4月〜5月からすでに半年が経過し、リモートで就業ができる環境がどんどん整ってきています。ツールの改良スピードも著しいですし、ビジネスパーソンの多くがオンラインでの仕事に慣れはじめてきており、抵抗感はだいぶ下がってきていると言えます。

私は昨年までは出張仕事が多かったので、実地でのコンサル稼働以外は仕事をする場所はほとんどホテルや喫茶店などの外出先でした。一年前に比べると、今はずいぶんリモートワークがしやすくなったと思います。オンライン通話やチャットツールでコミュニケーションを取ることのできる人が圧倒的に増えたため、かなりスピーディに、効率的に仕事ができるようになってきています。

しかし、その一方で、通勤して出社する従来型の仕事をしている人の割合もまだまだ非常に多いです。朝の通勤電車の混雑具合は、昨年までとほとんど変わらない程度にまで戻ってしまっているように感じます。

商品やサービスを生産したり、提供したりすることがどうしても対面でないと成立しない職務は、仕事をするために通勤をしなければならないですが、もしそうであれば通勤電車の中は私服の人が大多数を占めているはずです。生産や販売の仕事の多くは、制服を着用して行われることが多いからです。

ところが、朝の電車の大多数を占めているのはスーツを着用した人です。つまり、オフィスで勤務する方々と考えることができます。果たしてこの方々は本当に出社しないと仕事ができないのでしょうか。

あくまで知人や顧客に聞いた限りの話ではありますが、リモートワークで仕事をしようと思えばできる環境にはなっているケースが多いようです。にもかかわらず、会社からの指示で出社するように命じられているとのことです。つまり必ずしも必要がないのに出社をしているということになります。

なぜそうなるのか。一言で言えば、リモートで仕事をができる環境を整えたり、マネジメントを行えるようにすることが「面倒くさい」からだと考えます。

難しいことに挑むには慣れからの脱却が必要

リモートワークで業務を安定的に正常運営するためには、既存のやり方をいろいろと見直さなければなりません。そして、経営者、管理職、一般従業員みながリモートワークに適した能力を鍛えていく必要があります。

例えば、リモートワークではあらゆるコミュニケーションがオンラインで行われるようになります。ビデオ通話を行うのであれば、それに適した話の伝え方、聴き方が求められますし、アプリケーションの操作スキルも必要です。また、リモートワークではビデオ通話だけでなく、メールやチャットなど、文字でのコミュニケーションが増えることになります。その場で意思疎通の摺り合わせができる直接の会話に比べて、文字のやりとりで齟齬がおきないようにするには、表現力、言語化力、論理構築力が求められます。

また、リモートワークを行う上では、一定のITリテラシも必要です。パソコンやスマートフォンなどのハードウェア、アプリケーションのインストール、操作、アップデート、通信ネットワークに関する知識がある程度ないと、何かトラブルが起きた時に自力で解決ができず、仕事をする環境が維持できなくなってしまいます。

そして、リモートワークをする上では、課題の設定やタスク管理、スケジューリング、何より仕事への意欲喚起などを自分自身で行うセルフマネジメント能力が必要です。職場に他のスタッフがいれば、周囲の目もあるし、仕事をする「雰囲気」もあるので外発的に規律を保つことができますが、一人の場合はすべて自分自身で管理をしていかねばなりません。加えて、仕事をしている過程が見えないので、管理職層には仕事の良し悪しを成果から評価する能力が求められるようになりますし、成果を生み出すために必要な行動プロセスの量的な基準、質的な基準、評価の指標などを定義することも必要となります。

いずれも、多くの方にとってはこれまでやってきた以上のことであったり、これまでには必要とされなかったことであるような行動や能力です。個人や組織がこうした素養を身につけるためには、「生みの努力」が必要になります。リモートワークで仕事の成果を上げ、それを定着させていくためには、具体的にどういうことに取り組めばいいのか、どれだけやればいいのか、それを考える必要があります。これまでになかった新しいことや難しいことを成し遂げるには試行錯誤が不可欠です。繰り返し、何度も考え、考え続けることが求められます。

何か難しい課題に直面した時に、それに取り組もうとしないということは「どうすればそれが実現できるか」を考えていないことを意味します。つまり思考停止に陥っていると言えます。そして、思考停止を招く原因は、それまでの方法や環境に対する「慣れ」にあります。

人間は経験を蓄積したことに対して慣れができるものです。慣れは行動を定着させたり、物事を効率的に行う上では強力ですが、一方で新しいことや難しいことに対する心理的な抵抗を生み出す側面もあります。つまり、慣れは成長の阻害要因になると言い換えることができます。

私たちは職場に通勤し、出社して仕事をするという形態を何十年にもわたって続けてきました。出社型の就労形態に慣れているのは当然であり、こちらの方が「楽」に感じてしまうのは自然なことです。

しかし、外部環境が安定している状況ならまだしも、これだけの大きな変化が訪れている中で楽を求めていて、事業がうまくいくはずがありません。コロナの影響で深刻なダメージを受けた企業もありますが、ダメージを緩和したり、むしろ伸びている企業もあります。

情報通信産業や通信販売など、環境変化自体が追い風になった業界ももちろんありますが、一般的には向かい風だと言われている業界であっても、例年以上の収益を生み出している企業もあります。そして、そうした企業は「新しいこと」「難しいこと」に挑戦し、収益が出るところまで試行錯誤を続けてこられたと考えることができます。

以前、高額セミナーを回っていた頃に「人生の秘訣は、難しいことをすることだ」という言葉を聞いたことがあります(どなたの言葉だったか覚えていませんが)。周囲の環境が変化し、難しい課題に直面した時が、自分が著しい成長を遂げるチャンスです。これを何度も乗り越えることが、自分の器を広げ、人生を豊かにしてくれます。

仮に、たとえ最終的に出社勤務の形態に戻るのだとしても、そこに至るまでにリモートワークで成果が出せるようにどれだけ取り組んだのか。他にやれることはないかを考え抜き、あらゆる手を尽くしてそれでもダメだったのか。多くの場合は、そもそもリモートワークへの具体的な挑戦をすることなく「自分の会社には無理」と安易な判断をしてるのではないかと思います。

そして、このような思考停止状態に陥っている限り、たとえ新型コロナウィルスが収束したとしても、また別の危機が訪れ、その度に苦しい戦いを強いられることになります。どんな状況になっても生き延びていくためには「動やったらできるか」を常に考え、挑戦をしていく姿勢が必要です。これは時代や環境を問わない、不偏の真理なのではないだろうかと私は思います。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

  

投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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