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2022.6.13

【パーパス経営】「何のために働いているか」が従業員の意欲を引き出す

先日、ある銀行様のセミナーを担当させていただきました。テーマは「パーパス経営」。組織の社会的な存在意義を理念として掲げ、社会課題の解決に向けてビジネスを行っていく経営のあり方です。パーパス経営は、必ずしも企業価値を高めるといった難しい話だけでなく、働く一人ひとりにとっても仕事への意欲と成果を引き出し、生活を向上することにつながります。

今回のセミナーにあたっては、数ヶ月かかりで準備をしてきました。単純に概念や事例を説明するだけではなく、いかに「自分の言葉」として伝えるか。私の持ち味は「自分の言葉」で伝えることにこだわっていることなので、今回もお伝えする内容を咀嚼して、自分の身に置き換えて話せる準備をしてきました。その甲斐あってか、この案件をいただけたことで私も事業の目的を再考し、どのように伝えたら伝わるかを考えるよいきっかけになりました。

セミナーも無事に終わり、ひと安心。今回取り組んだことを残しておきたく、今回はパーパス経営の概要と私なりの考えをお伝えします。

パーパス経営とは

パーパス経営は近年注目を集めている企業経営のあり方です。パーパスとは「いま、自分たちが何のために存在しているのか」という企業の存在意義や志を指す言葉で、その企業の「社会的な存在意義」を表します。

現代では商品やサービスが飽和して、消費者の選択肢が無数に溢れています。商品やサービスのコモディティ化(どれも似たり寄ったりになってしまうこと)が進み、品質や価格では差別化が進みにくくなったことから、人々は単に商品やサービスを買うのではなく、自身の価値観と合致したり、パーパスに共感したりする企業を好んで利用しようとするのです。そのため、企業は自分たちのスタンスを明確にして、商品やサービスを通じて世の中をどうしたいのか、誰にどのように貢献したいのかを発信することで、自社ならではの価値を顧客に伝えていくことが求められます。

とはいえ、独りよがりなスタンスを発信しても、それが世の中に受け入れられるはずもありません。人々に支持されるためには、人々が共感したり、価値観を共有したりできるパーパスであることが要件となります。そのため、パーパスはソーシャル・グッド(社会的に良い)であることが求められます。自社の事業が社会課題の解決につながるというストーリーを描き、それに共感された時、顧客は自社を支持し、応援してくれるようになるのです。

経営の理念を明確にし、伝えていくこと自体は決して新しいことではありません。従来から、企業は社是・社訓、ミッション・ビジョンのような形で経営理念を定めて、それを自社の価値や目的として社内・社外に発信をしてきました。パーパスがそれらと異なるのは、自社を社会の一部として位置づけるということです。従来の経営理念が、自社を基点として一人称(主語は「私たち」)で語られていたのに対し、パーパスは自社を社会に内包された一部として位置づけ、どのような社会を作りたいかを第三者視点を持って語ります。

自分たちがなぜ社会に必要なのか、社会にどのような貢献をするのかを定め、その実現に向けて事業を進めていく。その姿勢が、従業員や取引先、そして顧客の共感と支持を集め、事業の継続や拡大につながっていくという考え方です。

パーパス経営が求められる背景

なぜ、今こうした考え方が企業に求められるのか。そこにはいくつかの背景があります。ここでは大きく3つの要因を挙げてみます。

一つには、他の機関への信頼度が低下していることで、相対的企業への信頼性が上がっていることです。偏向や虚偽に満ちた情報発信、度重なる不祥事、問題に真摯に向き合おうとしない不誠実さから、政府やメディア、NGO団体など従来から「公的な存在」とされてきた機関への信頼度が低下し、代わりに企業の政治的・社会的スタンスに注目が集めるようになりました。Edelmanの2019年の調査によれば、企業は27ヶ国中18ヶ国で政府よりも信頼される結果となったと言われています。政府やメディアに対する不信感が、引き金の一つとなっています。

二つ目として、ミレニアル世代の台頭が挙げられます。ミレニアル世代とは、1980年〜1995年生まれ(現在27〜42歳)の世代で、未成年の頃からインターネットに接している「デジタルネイティブ世代」として呼ばれます。デジタルツールを使いこなした情報の収集と発信に長けており、個々の企業やブランドがどのようなスタンスで事業を行っているのかを容易に確認することができます。この世代が消費の中核を担うようになってきたことで、企業にはミレニアル世代を意識した事業展開を行っていくことが求められるようになっています。

そして、このミレニアル世代のもう一つの特徴が「金銭的なインセンティブよりも、意味や意義を重視する」ということです。特に日本においては、この世代が社会人になった頃には、すでにバブルが崩壊して失われた30年に突入しており、経済成長を肌で実感したことがありません。現在20代の方に至っては、働き始めた時にはすでに超高齢社会に突入しており、これから将来が良くなりそうな希望が持ちにくい状況下で過ごしてきたと言えるでしょう。そのため、経済的な動機がインセンティブとして働きにくく、ガムシャラに働いて経済的に成功するというよりも「今の環境の中で楽しく過ごす」という意味的な価値を重視します。消費行動においても、単純に安いから選ぶというよりも「この企業が好きだから」「この企業のやっていることを支持しているから」という考え方を持つ傾向にあると言えます。

三つ目は、社会課題の解決が世界的に急務となっていることです。世界的な人口爆発と工業化によって地球環境へのダメージが蓄積しており、地球温暖化や絶滅危惧種の増大などの影響が現れています。2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)が2015年に国連サミットで採択され、地球環境の保全に向けた社会課題の解決が、国策を超えて世界的な共通課題となっています。ミレニアル世代、そしてさらに若いZ世代(1996〜2012年生まれ)は社会課題への関心が高く、こうした社会課題に取り組む企業や活動を支持する傾向にあります。また、SDGsが一種のブームになっていることからビジネスチャンスにも結びついており、資本が社会課題解決に集まるようになってきた背景もあります。

「何のために働いているのか」がイノベーションや生産性向上へ導く

理念に基づいた経営も、社会課題の解決に向けたビジネスも、決して今にはじまったことではありません。松下幸之助氏の水道哲学、稲盛和夫氏のフィロソフィ経営など、小倉昌男氏の「サービスが先、利益が後」など、歴史に名を残す経営者の方々は、それぞれの哲学と理念に基づいて事業を発展させてきました。自分の思いを具現化して、社会に価値として提供するのがビジネスであり、その根本となる思想を生み出しているという意味で、経営とは哲学であるわけです。

また、日本には古来から「近江商人の三方よし」という考え方があります。売り手よし、買い手よし、世間良し。良い商売とは、自社にとっても、顧客にとっても、社会全体にとっても良いものであるというこの考え方は、パーパス経営そのものであるとも言えます。

つまり、パーパス経営の考え方自体に必ずしも斬新さがあるというわけではなく、長期的に成功するために必要なことは不変の真理であるということです。ただし、地球レベルでの社会課題解決が求められるようになり、デジタル化によって、特に若い世代を中心に容易に広い社会との接点が持てるようになったことが時代の流れとして後押しし、一層「何のために事業を行っているのか」が問われるようになってきたということだと思います。

そして、パーパスは企業理念として掲げるためにあるのではなく、人々の実際の行動につながっている必要があります。単純に理念として文字にして、朝礼で読み上げるという程度では、実際のビジネスを変えていく力には繋がりません。理念は浸透してはじめて力を持ちます。顧客や取引先、投資家に共感してもらい、支持を得るといった、ブランディング・マーケティング的なニュアンスで語られることも多いパーパス経営ですが、企業経営は社長や幹部だけで行っているわけではなく、むしろ日々の現場を動かしているのは従業員です。従業員に浸透しなければ、パーパスが持つ本来の力はおよそ発揮されません。

パーパスが浸透するということは、従業員一人ひとりが「何のために働いているのか」を自覚し、主体的・自律的に働けるようになるということです。指示されたからやる。仕事だからやる。こうした考え方で働いている方々に、自律的な行動、独創的なアイデア、たぬまぬ工夫と改善を期待することは難しいです。人はみな、自らの欲求と目的意識に従って行動します。自分のやっている仕事に意味や意義を感じ、顧客や社会の役に立っているというリアリティが、仕事への意欲を引き出します。そして、目的意識と貢献意欲が高い従業員が、高水準の商品とサービスを提供し、その活動が理念に沿っているものと映ってはじめて、顧客や取引先、投資家といった外部の利害関係者に認識され、パーソルへの指示や共感につながっていくのです。

当社ビジネスキャリア・コンサルティングの目的は「デキる人を増やして、失われた30年から抜け出す」です。仕事はデキるようになれば楽しいし、仕事が楽しくなれば人生が楽しくなる。そして、デキる人が増えれば、優れた商品やサービスが増え、世の中はより豊かで快適になります。みんなが価値と意義のある良い仕事をして、みんなが稼げるようになれば、長い長い暗闇だった失われた30年からようやく抜け出せるようになります。

パーパスの実現に向けて、今週も一つひとつのお仕事を大切にして取り組むとともに、新しいことに意欲的にチャレンジしていこうと思います。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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