ブログ
2022.8.15
前回の続きです。顧客の課題解決に向けた助言を提供することを「コンサルティング」と呼ぶ時、それは必ずしも「コンサルタント」と名乗る者でなくとも、BtoBビジネスをしているすべての方に共通して求められる機能であると言えます。モノが飽和し、高度に情報化された現代では、すべてのビジネスにおいて「モノ(商品)」としてだけではなく、「コト(サービス)」として価値を提供することが欠かせないからです。
前回の意識編に続いて、今回はコンサルティングに求められる技能について考えてみます。全2回で完結させようと思っていましたが、想定していた以上に長くなってしまったので、予定していた行動編は次回でお伝えいたします。
「問題」とは理想と現実の間にズレが発生でしていることです。売上が足りない、人手が足りない、生産性が低い、離職率が高い、など、すべての問題は「現実が理想に達していないこと」だと定義することができます。問題を認識するためには、現実と理想の両方を正しく把握しておくことが必要です。
一見すると問題がないように見えることでも、背後に問題が潜んでいることがあります。理想を低く考えていたり、そもそも理想が明確になっていないことによって、問題の存在に気づかないこともありますし、現実を直視していなかったり、誤って捉えたりして問題なさそうに見えることもあります。第三者の視点から、現実の捉え方を変えたり、異なる理想や高い理想を提示することによって、埋もれていた問題を浮かび上がらせることができます。
上述の通り、問題とは理想と現実の間にズレがあることです。したがって、問題解決とは「理想と現実を一致させる」ことだと言えます。現実を理想に引き上げることで問題は解決できます。また、逆に理想を現実に引き下げることでも問題は解決できます。目先の問題を解決するために、応急処置として取り急ぎの解決策を導くこともできますが、根本的な原因が解消されていない場合は何度も同じ問題を繰り返すことになります。
そのため、本質的に問題を解決するためには、問題を引き起こしている根本的な原因を取り除き、再び同じような問題が発生しないようにすることが必要です。言わば、問題解決とは「問題の未然防止」だと言うことができます。問題解決は、問題定義→原因分析→課題設定→解決策立案のプロセスで行います。詳しくは下記の動画をご覧ください。
問題を解決するためには、問題を引き起こしている本質的な原因を分析し、効果的な解決策を導き出すことが必要です。そこで求められるのが仮説思考です。仮説とは「限られた情報から推測される仮の答え」という意味で、不確かな情報量の中で導き出される答えを指します。問題解決にあたって、はじめから問題に関する十分な情報量を持っていることは極めて稀であり、実際には限られた情報の中で手探りで分析を進めていくことになります。
仮説を検証するために、新たに情報を取得して裏付けをとっていくことももちろん重要ですが、問題解決にはスピードも求められ、また情報収集に人手や時間、お金をかけられないという場面もあります。その場合、限られた情報の中から、考えられ得る最善策を仮説として導き出す思考力が問われます。
とはいえ、あまりにも情報量が不十分であると、仮説もただの「当てずっぽ」になってしまいます。導き出した仮説が適切であるかを確かめるためには、新たに情報を収集して、仮説の妥当性を検証することが求められます。情報には、目的のために直接取得する「一次情報」と、別の目的のためにすでに収集されている情報を活用する「二次情報」があります。
一次情報を収集するためには、関係者へのヒアリング、現場観察、アンケートなどのスキルが求められます。また、二次情報を取得するためには、官公庁や業界団体、調査機関などのデータにアクセスするルートと、適切な情報を選択するスキルが求められます。
収集した情報から適切な仮説を導くために必要なのが、ロジカルシンキング(論理的思考)です。事実と論拠に基づいて、筋道立てて物事を考えることで、論理的な結論を導き出すことができます。人間は誰しも思い込みや固定観念、偏見、体験過信などがあるものです。どれだけ客観的・合理的に考えようと思っても、思考の偏りを矯正するのは容易ではありません。
こうした「思考のクセ」から脱却するためには、できる限りデータや事実に基づいて物事を考え、思い込みを乗り越えようとする思考の態度が必要です。これを「FACTFULNESS(ファクトフルネス)」と呼びます。
また、人間が陥りがちな思考のクセや思い込みのパターンを自覚し、「考えている自分」を第三者的に懐疑的・不偏的に見つめることで、本当に論理的に物事を考えられているかをチェックする思考の態度も必要です。これを「クリティカルシンキング(批判的思考)」と呼びます。
ハンス・ロスリング 『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP)
仮説思考とロジカルシンキングに基づいて導き出したアイデアを「目に見えるカタチ」に表すために必要なのが「概念化(言語化)」のスキルです。ビジネスシーンにおける問題解決では、解決策を一人で実行できるケースは少なく、様々な利害関係者にアイデアを説明し、理解・納得してもらい、合意形成を図ることが求められます。
どれだけ優れたアイデアであったとしても、他人に伝わらなければ、実際に前に進めることができません。考えたアイデアを言葉に表して、他人に伝わるように表現する「言語化」の力が必要です。また、複雑に入り組んだ問題や、スケールが大きくて全体像が伝わりにくい問題など、言語だけで伝えるのが困難な場合があります。その場合、物事の関係性をチャートや図に表すことが有効な場合があります。言語に限らず、イラストや図などのビジュアル表現も含めて、情報を目に見える状態に表すことを「概念化」と呼びます。
コンサルティングとは「課題解決に向けた助言をすること」です。ビジネスの主役はお客様です。コンサルタントはお客様の支援者・伴走者に過ぎません。したがって、当然のことながら、サービスの提供にあたってはお客様の良好な信頼関係を築くことが求められます。
信頼とは「期待に応えてくれそう感」であり、信頼を築くためにはその根拠となる信用(実績)が必要です。信用を積み上げるには、一つひとつの行動を丁寧に誠実にしていくことが欠かせません。この点については、次回の行動編で詳しくお伝えします。
また、コンサルティングはお客様との共同作業で行うものです。問題の当事者はお客様です。コンサルタントは助言や支援をすることはできても、実際に問題解決にあたるのはお客様ご自身です。そのため、解決先の立案フェーズから実行フェーズに至るまで、お客様との良好で円滑な情報伝達や意思疎通が求められます。言わば、スムーズなコミュニケーションを取ることが求められます。
一言でコミュニケーションと言っても、場面ごとに様々な発揮の仕方があります。お客様の悩みや課題をお伺いする、つまりヒアリングの際には、「共感的な傾聴力」と「質問力」が求められます。複数の方で話し合い、合意形成を図る際には、会議の仕込みと捌きをするための「ファシリテーション能力」が問われます。
また、問題解決のアイデアや実行策を伝える上では「プレゼンテーション能力」が求められますし、口頭でなく文書で伝える場合もしばしばあるため「ドキュメント作成(ライティング)」のスキルも必要です。言わば、総合的な対人関係スキルが必要になるのです。
前回の導入部分で、コンサルティングは必ずしも専門知識や情報を提供するものではないと記しましたが、それでもビジネスのコンサルティングをする以上、一定レベル以上の経営知識は必要です。上述の通り、問題解決にあたっては仮説思考が必要であり、精度の高い仮説を導き出すためには、当然ながらビジネスや経営に関する広範な前提知識が求められます。マネジメント、組織論や戦略論、人的資源管理、会計や財務、ファイナンス、マーケティング、現場オペレーション、情報システム、法律など、多方面の知識を総動員することで、お客様が気づかなかった視点や切り口から新たなアイデアをご提示することができます。
とはいえ、すべての分野に関して高い専門性を取得するのは決して容易ではありません(というか、ほぼ不可能でしょう)。何かの領域に特化したコンサルティングを行うためには、もちろん高い専門性が必要になりますが、総合的な面から経営課題の解決に取り組む上では、知識は「浅く広く」で構わないと私は考えています。課題解決の前にまず、「取り組むべき課題を特定する」段階が必要です。この段階では、浅く広く多方面から物事を見つめて考えるタイプの仮説構築が必要です。いざ、課題が特定されて、そこに専門的な知識が要求される場合、その領域の専門家をプロジェクトに加えれば良いだけの話です。
とはいえ、何の専門性もなければプロとしての仕事にならないこともまた事実であり、実際には「広く浅い知識+1つ以上の専門知識」から自分の領域を確立していくことも必要でしょう。
次回は今回の続編として、コンサルタントに求められる行動について考えてみます。(次で本当に完結させます)。本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
神戸・大阪で人材育成・社員教育をお考えの経営者、管理職、人事担当者の方々。下記よりお気軽にお問い合わせください。(全国対応・オンライン対応も可能です)