手で触れて、手で考える 〜ビジュアルシンキングのすすめ〜

前回の投稿では、「論理的思考による問題解決の限界」と題して、デザイン思考の必要性についてお話ししました。

そして、デザイン思考について学ぶ過程で「ビジュアルシンキング」という思考法の存在を知りました。その名の通り「ビジュアルで考える」というもので、思考を整理したり具現化したりする際に、イラストを用いていくというアプローチです。面白そうだし効果もありそうなので、さっそく仕事に取り入れ始めているのですが、これが実に良いです。創造性が求められている現代のビジネスシーンにおいて、かなり有効なスキルだと実感しています。

今回は、ビジュアルで考えることの必要性と効果について、私見をお話しします。

▼ビジュアルシンキングについて詳しく学びたい方は、下記をご覧ください▼
ダン・ローム『描いて売り込め! 超ビジュアルシンキング』(講談社)

百聞は一見にしかず

ビジュアルから得る情報は、文字から得る情報量よりはるかに多いです。

例えば、ある自然風景の素晴らしさを伝えたく、その特徴を次ように文字で表現したとします。

  • 晴れわたる青い空のもとに連なる山脈
  • 山の上部には雪景色が残り、中腹には自然豊かな森が広がっている
  • 麓では木々が囲むようにして砂浜が広がり、そこに透き通るような水面の浅瀬が広がっている

どのような情景を思い浮かべましたでしょうか。これまであなたが見聞きしたものを総動員して、情景を思い描いたことと思いますが、その認識が必ずしも私のイメージと合致しているとは限りません。というよりも、イメージがズレていると考えた方が自然です。仮に情景の描写について、さらに詳細な情報をより多く伝えたとしても、文字で伝えている限りイメージを完全に合致させるのは不可能に近いと言えるでしょう。

しかし、この情景を次のように写真で示したらどうでしょうか。
ほぼ同じイメージを共有できると思います。これが文字とビジュアルの情報量の圧倒的な違いです。

私たちは日頃、何かの問題解決、企画、発想などにあたって、通常は文字で情報を集めることが多いです。何かを調べようと思ったら、本を読んだり、インターネットの記事を読んだりします。しかし、文字は読むのに時間がかかります。すわなち収集した情報の処理に時間がかかるのです。収集した情報をイメージとして再構築するのに時間がかかる上、そのイメージもかなり抽象度が高くて、細部に行き渡るまでイメージするのは困難です。上述の通り、他人に伝えるのも一苦労です。

そもそも、人間の脳は細部を組み上げて全体像を把握するようにはできていません。仮に文字情報から、山や森、空を部分的に思い描いたとしても、位置関係を含めた全体像を描くのは非常に難しいです。まず全体像を捉えて、そこから細部を理解するアプローチの方が適しています。まずは大まかなイメージを捉えて、そこから細部を描いていく。これが脳の使い方として自然な流れなのです。そして、このアプローチを文字だけで行うのにはかなり高度な概念形成力が求められます。であれば、はじめからビジュアル情報を取り扱った方が手取り早いと言えます。

例えば、上述の「デザイン思考」について調べようと思った時、Googleの検索窓に「デザイン思考」を入力すると、次のようにページの一覧が表示されます。

もちろん、概念的に深く理解しようとするなら、表示されたページを一つひとつ読んでいけば良いのかもしれませんが、それにはかなりの時間が要します。どのページから読めば良いのかの判断も難しいです。

しかし、同じキーワードのまま検索結果を「画像」表示すると、次のようになります。

すると、表示された画像のほとんどがデビッド・ケリーのフレームワークで占められており、ひとまずこれを理解すれば良いのだろうという察しがつきます。加えて、すでにこの時点でデザイン思考のプロセスがイメージとして捉えられることになります。先にイメージを捉えておき、そこから詳細な記事を文字で読んでいく。この「全体から細部」「イメージから概念」の順で情報を集めていくことが、理解のスピードを促進することになります。

デザイナー、あるいはデザイン思考を本業としている方々は、インターネット検索であれ、自力での情報収取であれ、まずはこのように大量のビジュアル情報に触ることでインスピレーションを得て、そのインスピレーションをすばやく具体的に形にするため、絵でアウトプットするというアプローチを取るそうです。デザイン思考とは、こうしたデザイナー的な情報収集と情報処理のやり方をビジネスに応用しようとするものです。

クリエイティブになるには?

第4次産業革命、DX(デジタル・トランスフォーメーション)などのバズワードが飛び交い、世の中のオンライン化とデジタル化が急激に加速しています。人間がいまやっている仕事のうち、定型的で単純なものは人工知能が代替するようになると言われて久しいですが、やがては高度で複雑なものであっても、テクノロジーが代替するようになるだとうと思います。

言語、数学、論理に基づく分析的アプローチはコンピュータの得意領域です。必ずしも定型的な作業、単純な作業でなくても、分析的アプローチで果たせるものはコンピュータができるという道理です。結果として、人間はより「創造的」で「人間的」な仕事に従事することが求められていくようになるでしょう。

長らく続く経済低迷により、あらゆる職場で「過去の経験や固定概念に囚われず、クリエイティブになれ」と言われるようになりました。しかし、とはいいながら、みな就業規則に基づいて判を押したような生活を送り、朝から晩までデスクに座ってパソコンに向き合って仕事をしています。

体を動かすのはマウスとキーボードの操作のみで、手以外の器官がほとんど動いていません。同じ建物の中で同じ空気を吸い続け、ほとんど同じ体勢のまま過ごす。人に会うのも画面越しのオンラインミーティングです。人間に備わっている器官の大部分が、ほとんど使われないまま1日が終わります。こんな状態で、クリエイティブになどなれるわけがありません。

いろいろな感覚器を刺激することで脳が活性化して、様々なアイデアを生み出します。いろいろな場所に行き、いろいろなものに触れ、いろいろな人と会うことでアイデアが生み出されていくのです。創造的にものを考えるにしては、私たちの生活は、感覚器への刺激がなさすぎるのです。

加えて、コロナショックによる度重なる緊急事態宣言の連発で、多くの人たちが「引きこもり」状態を余儀なくされています。ただでさえ不活性な私たちの創造性は、この1−2年で一層失われていっているように思います。

手で触れて、手で考える

今回、デザイン思考をテーマにした案件をいただき、その準備を進める中でビジュアルシンキングというものの存在を知りました。スキルとして磨いていきたいと思い、先月から自分の仕事にも取り入れはじめています。

上の写真は、7月に登壇をお声がけいただいたセミナーの内容を考えた際の下書きです。これまでは、こうして講演内容のアウトラインを作成する際には、メモ帳やWordのアプリに思いついたことを文字で箇条書きしながら考えていました。この方が効率的だと信じ切っていた面があったように思います。

ところが、実際こうして付箋に手書きでスライトイメージを作成して、並び替えたり書き加えながらやることで、脳が活性化した心地を感じることができ、そして思っていた以上に早く思考を整理できました。もっと早く挑戦すべきだったと悔いるほどです。

そして何よりも、やっていて楽しい!自分のアイデアを絵にして、それを直したり、並び替えたり、入れ替えたりしていくプロセスがとても楽しいのです。

定型的で、単純で、無機質な仕事は、進化するテクノロジーがどんどん代わりにやってくれる時代が眼前に迫っています。すでに一部はそうなっているかもしれません。人間の仕事は、ここ数年で一層、より創造的で人間的なものに収斂していくことになるでしょう。来たるべきその時に備えて、今のうちからその両方を磨いておく必要があると私は考えています。そのためには様々な物に触れて感性を刺激しながらインプットを行い、手を動かしながら考えるというアプローチが有効です。

「手で触れて、手で考える」これを続けていくことが、オンライン化・デジタル化が進む現代において、「人間ならではの仕事」として期待されることに応えられるようになるための、効果的な訓練になるのではないかと思います。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

  

投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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