ニューノーマルの訪れ〜時代の変化は緩やかに始まり、急速に加速する〜

最近のバズワード(流行り言葉)のひとつに「ニューノーマル」があります。変化の激しい時代とされる現代を象徴する言葉のひとつです。

ある企業様からニューノーマルについての解説動画の収録をご依頼いただき、いま講義資料の準備を進めています。頭の整理を兼ねて、このバズワードが何を表しているのかの私見をまとめてみましたので、よろしければご覧ください。タイトルの通り、時代の変化は緩やかに始まるけれども、一定時点から急速に加速するというのが私の考えです。

現在は三度目のニューノーマル時代

「ニューノーマル」とは、文字通り「社会の急激な変化により従来の常識が通用しなくなり、新しい常識・常態が生まれること」という意味です。

コロナ以降に登場した言葉のようにも思われますが、元々は2003年にアメリカの投資家であるロジャー・マクナミーが提唱したとされる概念で、ITバブルの崩壊により従来の経済・ビジネスの常識が通用しなくなることを表したようです。その後、2008年のリーマンショックによる大きな変化が二度目のニューノーマルとされ、今回のコロナによる変化は三度目のニューノーマルとして位置づけれられます。

コロナによる大変化としては、リモートワークやオンライン・ミーティングに代表されるデジタル化・オンライン化がまず挙げられるでしょう。加えて、こと日本に関しては、長引く巣ごもり需要により家庭生活の充実が重要視されるようになったことや、リモートワークの普及により都市部から地方への回帰・移住(あるいは2拠点生活)の傾向も見られます。これらもニューノーマルに含まれると考えることができるでしょう。

さらには、従来からあった潮流が、コロナの影響によって促進されている面も見受けられます。例えば、所有から共有の時代へ向かう「シェアリングエコノミー」の潮流。カーシェアやルームシェアなどに加えて、冠婚葬祭衣装のレンタルなどもこの一部に含まれます。使用頻度があまりない高額なものは、もはや所有せずに、使いたい時に借りれば良いという考えに基づきます。

それから、近年の「サブスクリプション」の普及。Netflixなどの動画配信、Apple musicなどの音楽配信といった、これまで個々の商品ごとに決済していたものを定額料金で使い放題にするサービスが拡大しています。新聞や雑誌の定期購読など、古くからあったことはあったのですが、「サブスク」というネーミングの普及によりこのモデルの一般化が進みました。Amazon Primeやコストコなど定額のサービス利用料も広義ではサブスクに含まれるでしょう。これは事業者側としては、固定収入を確保し、将来の見通しを立てやすくできる点で、事業運営を安定化させる効果があります。今後、ますます多くの事業者が「サブスク」の拡大を目指すでしょう。

他にも、チャットツールやオンデマンド配信など、ビジネスシーンでも非同期(リアルタイム接続を必要としない)コミュニケーションが普及しています。今後、リモートワークのさらなる普及や副業・複業の拡大により、ビジネス対話の主流が非同期に向かうことも予想できます。

また、かつての大量生産・大量消費から、個別の価値観に合わせた最適化に向かう流れも加速するでしょう。コロナによる行動制限の影響は、個人の価値観の多様化に一層の拍車をかける結果となりました。今後はより特徴的なニッチな商材を、熱心なファンに長期的に継続してもらうというスタイルが定着していくことが予想されます。

しかし、こうした現在「トレンド」とされるものは、まだまだ「ノーマル」とは呼べないのではないかと疑問に思われる方もいらっしゃると思います。例えばテレワークを挙げてみても、実施できているのは都市部・大企業ばかりで、地方の中小企業には縁遠いのではないかと思われるかもしれませんし、実際そうした声も多数耳にしております。

確かに、いま現在だけを見ればそうかもしれません。しかし、ここ数年の間に上記に挙げたような物事が「本流」になる可能性は高いと考えます。なぜなら、これらはまだ全体から見たら少ないながらも確実に一定の規模存在していて、今後加速度的に普及していくからです。何事も変化は緩やかにはじまり、一定の段階から急激に加速するのです。

イノベーター理論から「ノーマル」の変遷を考える

改めて、ニューノーマルの定義を確認してみましょう。ニューノーマルとは「社会の急激な変化により従来の常識が通用しなくなり、新しい常識・常態が生まれること」です。

新しい常識・常態が突然現れて、全体を支配するわけではありません。従来の常識・常態と入れ替わる過渡期が存在するのです。別の言葉で言えば、従来のノーマル(普通)とアンノーマル(例外)の関係が逆転することを意味します。そして、それは新旧どちらの方を「ノーマル」と捉える人が多いかという構成比率の問題なのです。

これを考えるモデルとして使えるのが、スタンフォード大学のエベレット・M・ロジャース教授が提唱された「イノベーター理論」です。商品が世の中に浸透していく過程を5つの段階に分けるとする考え方で、物事が浸透していく過程を表しています。

イノベーター理論によると、普及の段階とその構成比は下記の通りとなります。

  • イノベーター(革新者)
    • 好奇心が高く、新しいものを積極的に導入する層。全体の2.5%
  • アーリーアダプター(早期採用者)
    • トレンドに敏感で、新しいもの情報を収集して採用する層。ただし、新しいければ何でも飛びつくイノベーターと異なり、価値やメリットを検討する。全体の13.5%
  • アーリーマジョリティ(前期追従者)
    • 新しいものに対して比較的慎重な態度を取るが、流行には乗り遅れたくない気持ちもあるため、平均より早く取り入れる層。全体の34%
  • レイトマジョリティ(後期追従者)
    • 新しいものに対してかなり慎重な態度を取る層で、世の中全体の動向を見て、多数派になったと判断した段階で採用する。全体の34%
  • ラガード(遅滞者)
    • 最も保守的な態度を取る層で、新しいものに関心がない。世の中の流れに突き動かされて、しぶしぶ取り入れていく。全体の16%

新しいものに最初に飛びつくのはイノベーター層なのですが、この層は全体のわずか2.5%としかいません。一般的な感覚からすると完全に「変わり者」であり、イノベーターの位置づけはアンノーマル(例外)だと言えます。

次にアーリーアダプター層に浸透していきますが、まだこの段階ではイノベーター層と合わせても全体の16%です。一般的な感覚からすると一部の「新しいもの好き」に過ぎず、依然としてアンノーマル(例外)だと言えます。多くの人にとってはまだ「自分には関係ない」と映るのです。

新旧の感覚が拮抗するのが、アーリーマジョリティ層に採用されていく時期です。この層に浸透すると全体の50%となり、新旧のノーマルが混在する状態になります。そして、レイトマジョリティ層に普及すると、ついに両者の位置づけが逆転します。新しいものを採用した層が過半数以上を占めることになり、この段階でついに「ニューノーマル」が定着することになるのです。

アーリーアダプター層の段階までは、全体に占める割合が小さいため、新しいものの浸透は比較的緩やかに映ります。しかし、マジョリティ層の段階に突入すると浸透のスピードは急激に加速します。全体に占める構成割合が大きいからです。アーリーマジョリティ層に浸透しはじめると、わずか16%の先進事例は、50%の人たちにとってノーマル(普通)と化すのです。

スマートフォンの普及はまさに常態変化

変化のスピードが加速する一つの事例として、国内におけるスマートフォンの普及率推移を見てみましょう。

出典:総務省「平成29年版 情報通信白書のポイント」数字で見たスマホの爆発的普及(5年間の量的拡大)

ソフトバンクがiPhone3Gを発売したのは2008年の頃です。圧倒的多数の人が「2つ折りのガラケー」を持っている当時では、iPhoneに機種変更する人は一部の「変わり者」でした。当時のiPhoneはまだコピー&ペーストも、絵文字入力もできなかったので、絵文字メールが主流だった当時ではコミュニケーションツールとして不完全だったのです。私がiPhoneを使い始めたのは2009年のiPhone3GSからですが、不慣れなことを差し引いても機能面で不便を感じていましたし、友人たちからはかなり不評でした。

総務省の統計によれば、2010年段階でスマートフォンの普及率はわずか9.7%。アーリーアダプター層の段階に差し掛かっていますが、この段階ですでに3年を要しています。ところが、翌年2011年には29.3%となり、ついにアーリーマジョリティ層に普及します。その翌年2012年には普及率は49.5%となり、ついにこの段階で「新ノーマル」のスマートフォンと「旧ノーマル」のガラケーが五分五分の関係となります。そして、2013年にはスマートフォンの普及率が62.6%となりここでついに新旧ノーマルが逆転します。かつて「ノーマル」だったガラケーが時代遅れの産物と化します。「まだスマホじゃないの?」と言われ出したのがこの頃です。

もちろん、2012年のiPhone5からauが、2013年のiPhone5SからNTTドコモが取り扱うようになり、三大キャリアすべてで購入・機種変更ができるようになったことが、マジョリティへの普及を加速させた大きな要因ではありますが、こうした環境整備こそがまさに「ノーマルが変化した」ことの表れだと言えます。

ノーマルの「逆転」は突然訪れる

コロナ以降に加速したデジタル化・オンライン化の流れは、ニューノーマルの訪れを明らかに早めています。上述のシェアリングエコノミー、サブスクリクション、テレワーク、オンラインに加えて、D2C、ライブコマース、カスタマーサクセスなど聞き馴染みのない言葉が、ここ1−2年で頻出するようになりました。まだまだ一部の先進事例として映るこうした物事も、すべてニューノーマルと化す可能性を秘めています。いずれもまだ導入初期段階であり、変化は緩やかに見えますが、マジョリティ層に差し掛かった時に急激に普及するのです。

まだ「都市部や大企業でないと難しい」と思われがちなテレワークやオンライン会議・面談・商談も、ニューノーマルになるとして数年のうちに定着することになります。もちろん、リアルでの勤務やコミュニケーションがなくなるわけではありませんが、コロナ以前に戻ることも考えにくいです。おそらくリアルとオンラインを併用するハイブリッド型が「ニューノーマル」と化すでしょう。なぜなら、大企業にとってリモート・オンラインが完全に「ノーマル」になったら、取引先の地方・中小企業にも同じことを求めるようになるからです。一度味をしめてしまった通勤・移動の時間コストの削減効果を手放そうとするはずがありません。

これは、かつてEDI(電子データ交換による帳票の電子化)が普及した時の構図によく似ています。電子データで受発注や請求処理ができるようになって業務の効率化を実現した大企業が、紙帳票での取引をやめてしまいたいと思うのは当然のことです。EDIの導入が取引の条件と化してしまい、この流れについていけない中小企業は相手にしてもらえなくなるのです。今後、オンライン商談の可否がこれと同等の位置付けになることが予測されます。もしかしたら、副業や複業、男性の育児休暇など、まだまだ「アンノーマル」に映るようなことも「ニューノーマル」になることも考えられます。

しばしばダーウィンの進化論の誤解として、このような話が用いられます。

「生物は環境変化に適用して進化したのではなく、環境に適用できた者だけが生き残ったのだ」と。

新しい時代の変化を疎み、遠ざけようとすることは、社会が進化する中で自ら置いてけぼりの道を選ぶようなものです。以前の投稿でも申し上げた通り、世の中の流れに抗うことは困難です。イノベーター志向を持ち、自らを新しい環境に適用させて行こうとする姿勢が、逆説的に生活や仕事の安定をもたらすのではないかと私は考えます。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

   

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