人間性を回復して、新しい自分に生まれ変われ 〜「持続可能社会」に求められるビジネスパーソンになるために〜

神戸に移住して一週間が経過しました。まだ家の中には未開封のダンボールが山積みの状態ですが、少しずつ日常生活に戻りつつあります。10日間ほど止めていた仕事も、先週から再開しました。

とりあえずインターネットとパソコンがあれば仕事ができる、この環境には改めて感謝です。コロナ禍がきっかけになってしまったことは素直に喜べない面はありますが、リモートワークやオンライン面談がこれだけ一般化しなければ、仕事を継続しながら住居を大きく変えるのはこれほど容易ではなかったと思います。

先週から比べると、だいぶ自室の仕事場の環境も整ってきました。(お見せできない部分の方がまだまだ多いですが)

自然の存在を身近に感じる生活

まだ一週間ほどしか経過していませんが、これまでの暮らしとの違いをいろいろと感じています。

私は高校生の時から、27年間ずっとマンション暮らしでした。小学校高学年から中学生までは借家の戸建てに住んでいましたが、そこには庭はなかったので、庭付きの戸建てに住むのは小学校低学年のころ以来、30年以上ぶりです(お借りしている家ですが)。戸建てに住んでいる方には当たり前に思われるすべてのことが新鮮に感じます。

まず、家の中で歩く量が格段に増えました。仕事場を2階に設けているので、飲み物を汲みに行ったり、トイレに行ったり、家族が外出している時に宅急便を受け取りに行ったりと、とにかく階段の登り降りで歩きます。引越の荷解きをしているからというのもありますが、一歩も外に出ない日であっても1日の歩数が5,000歩以上に達していました。昨年の緊急事態宣言でリモートワークになった時に、巣ごもりの日は1日200歩くらいしか歩かなかったのに比べると雲泥の差です。

そして何より、自然の存在を感じます。玄関の前の落ち葉を掃除したり、庭の雑草を抜いたりと、これまでの生活にはまったく登場しなかった家事がこれから発生することになります。もちろん、これまでも近所の公園から旅行に至るまで、たびたび自然に触れに行く機会はありましたが、これらはいずれも「イベント」です。つまり、自ら場面を作り出そうとしない限り、自然と触れる機会がなかったとことを意味します。

玄関の落ち葉や庭の雑草は、こちらが願わなくても勝手に登場してきます。大袈裟な表現になってしまいますが、否応なしに自然の存在を感じる機会があり、生活空間を確保するためにはこれらの自然と対峙する(掃除や草むしりなど)ことが必要になるのです。当然ながら、マンション住まいの時にはこうしたことは管理人さんがやってくれていたわけですが、自分のタスクになってようやく、自然の存在を30年ぶりに「思い出す」機会となりました。

こう考えると、マンション暮らしというのは都会で仕事に集中する生活をする上では、実に合理的で、効率的な暮らし方だったと思います。しかし、それは大量生産・大量消費により経済的な効率と成長を追求するという前提であればこその話です。経済成長が頭打ちとなり、一方で地球環境との共存が重視される「持続可能性を追求する社会」においては、ビジネスシーンにおいても人間性やイノベーションが求められます。

数学・言語・論理の左脳的なアプローチに偏りがちだった従来の仕事のスタイルと異なり、感覚や感性、直感と行った右脳的なアプローチも併せて追求していくべき現代においては、たかが落ち葉や雑草も、自分がこれまで忘れていた感覚を思い出させ、刺激してくれる存在になりそうです。

ただ、誤解がないように申し上げておくと、必ずしも都会のマンション暮らしを否定しているわけではありません。マンション暮らしの中で、それぞれのスタイルで自然の存在を感じる機会が得られれば良いのだと思います。コロナ以降、都市部と地方の2拠点生活が流行しはじめているのも、その潮流の一つではないかと思います。私の場合は、単に仕事に傾倒しすぎてそうしたものを軽視していた面は否めず、掃除や草むしりが自分のタスクになったことでようやく、向き合わざるを得ない機会となったというだけの話です。

人間性の回復

毎週楽しみに拝見しているNEWS PICKSのWEEKLY OCHIAI が、先週で今シーズンの最終回を迎えました。「人間性の回復」というタイトルで、落合陽一さんとナビゲーターの佐々木紀彦さんが、スノーピークの山井梨沙さんと対談しておられました。

現代の暮らしはとても便利です。「現代人の”普通の生活”は、歴史上のどの王様よりも裕福だ」という話をどこかで聞いたことがあると思いますが、本当にその通りだと思います。少なくとも日本では、自分の身の丈に合う範囲ではあるものの、行きたいところに行き、食べたいものを食べ、着たいものを着ることができます。

これらは私たちの先人たちが、産業革命以降に経済合理性を追求し続けてきた賜物であり、このおかげで暮らしはますます安全に、便利になりました。いま私たちはその恩恵を存分に享受しながら、このありがたい生活を送っていることは否めません。しかし一方で、この便利な生活により、古来より人類が備えていたはずのいろいろな感性や感覚を失っている面は確かにあるのだろうと思います。

番組の中で山井さんが「現代の子どもたちが火を見る機会がない」という話をされていました。家がオール電化でガス調理すらしない環境で生まれ育てば、キャンプにでも行かない限り、確かに「生の火」を見る機会はないのかもしれません。落合さんのお子さんが、誕生日ケーキのろうそくの火をおもしろがって、何度も点けては吹き消すという話をされていましたが、確かに火が珍しく、面白いのだと思います。

私は幼少期から虫が苦手で、小学生がよくやるようなセミやカブトムシを捕まえるような遊びもあまり好んでしませんでした。ファミコンとミニ四駆にのめり込んでいた、典型的な街っ子です。それでも、周囲には夏休みに虫カゴを持って遊ぶ子たちは大勢いましたし、私の愛娘(3歳)は草花が好きで、そこに這っている虫を素手で捕まえて遊んだりしています。

幼少期には比較的身近であった「自然」も、やがて塾通いをはじめ、受験して進学してと、年を重ねるにつれて触れる機会がどんどん減っていきます。もちろん、住んでる地域や個人の趣向の差はありますが、街っ子がお受験をして、都会人としてビジネスパーソンになった人は、幼い頃から左脳に偏った頭の使い方を何十年もしてきています。

それでも、大量生産・大量消費を前提とした「経済合理性至上主義」の世の中では、それで良かったのかもしれません。しかし、世の中がこれだけ、SDGs(持続可能な開発目標)だのESG(環境・社会・ガバナンス)だの叫ばれるようになると、ビジネスパーソンにも創造性やイノベーションを求めるように方針転換が迫られます。そして、創造性を発揮するには直感的なアプローチ(右脳を用いた頭の使い方)が不可欠です。要するに、都会人が長らく使わないようになってしまったものを、急に求められているのが現代のビジネス環境だと言えます。

論理的思考による問題解決の限界(デザイン思考が求められる背景)

改善とイノベーションは根本的に異なる活動

実際、先週もある企業様との研修の打ち合わせで、社員に求めるものとして変革、創造、イノベーションを挙げられていました。確かに、これからの生き残りを考えれば必要なことですし、取り組んでいくことは大切です。とはいえ、既存の社員にこれを求めるのはかなり酷です。

イノベーションとは破壊と創造であり、現状を否定することが起点となります。過去の商材ややり方はもちろん、現有の経営資源(もっとストレートに言うと”人間”)をも否定し、まったく別の新しいものを用いて、過去の延長線上にないものを作っていくことが必要です。仮に現有勢力でイノベーションに挑戦するなら、せめてまったく違う企業に転職したくらいの異質な環境を作る覚悟で望まなければうまくいきません。

これまでの組織人に求められていたものは「改善」です。これまでの組織、商材、やり方、つまり過去の延長線上に、より効果的・効率的な方法を追求するアプローチです。根本的にまったく異なる活動であり、求められる能力がまるで違います。改善活動で成果を上げた人がイノベーションを起こせるべくもなく、むしろ足を引っ張る結果になりかねません。

もし本当に組織にイノベーションを求めるなら、手っ取り早いのは経営陣から管理職、現場社員に至るまで、全員を入れ替えてしまうことです。とんでもない方法に思えるかもしれませんが、目的はイノベーションであればこれが最善かつ最速な方法です。しかし、あまりにもこれは非現実的です。実際には、既存の社員の雇用を守り、目の前の収益を確保しながら、次の時代に向けたイノベーションを同時並行で進めなければならない環境にあります。そうなると、残された選択肢は一つしかなく、既存の社員が「生まれ変わる」しかありません。

自分の人格や経験まで否定する必要はありませんが、慣れ親しんだ環境や方法など、自分の外側にあるものを全面的に否定して、新しい何か(Something New)に自分自身が変容する必要があります。そして、そのためには、とにかく従来とは異なる物事に触れ、自分の身を置き、自分の中に眠っている様々な感覚や感性を呼び起こしていくことが求められます。

コロナ以降、リモートワーク、ワーケーション(観光地やリゾートで働くこと)、二拠点生活など、およそ2年前ではとても一般的とは呼べない働き方が存在感を増してきました。兼業や副業、複業も然り。いま様々な価値観が新しく変容しはじめています。とにかくいろいろ試して、実際にやってみることです。何事も、新しい物事には実務上の課題は生じます。それでも、これまでの自分と異なるものに触れ続けることが、自分自身の「生まれ変わり」につながります。

2025年、2030年へと向けて、変化のスピードがどんどん加速していきます。人生100年、職業人生70年時代を生き抜くためには、自分自身が「時代遅れ」にならないように、生まれ変わりを何度も重ねていく必要があります。人間性の回復は、その具体的な取り組みの一つになるのではないかと思います。

私も今週から、神戸に移っての仕事が本格的にスタートします。家の中はまだてんやわんやですが、慣れない環境に適応していくことは、何よりも自分の「生まれ変わり」につながると考えています。玄関の落ち葉掃除や庭の草むしりにも励みます。30年ぶりに自然の存在を感じ、触れていくことが人間性の回復につながるのではないかと期待しています。

東京オリンピックまであと2週間となりました。東京は再び緊急事態宣言に突入しましたが、オリンピック後にコロナをめぐる状況がどうなっているのか、皆目見当がつきません。しかし、確実に言えることは「変化への耐性を強くする」ことが、短期的にも、長期的にも「生きる力」につながっていくのではないかと私は考えます。

今週も一週間、頑張りましょう。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

  

投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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