目的志向 ~「なぜ」の問いを立てる~

働き方改革の潮流もあって、業務の効率化や時間管理、会議運営などのテーマで研修やワークショップを担当させていただく機会が増えています。

その中で、受講者の方々から非効率な業務としてよく挙げられるのが、「事務処理」「会議」「メール」などです。

これらの業務の特徴は、形骸化していること。すなわち、作業や実施がルール化されており、それを「やること自体が目的となってしまっていること」だと言えます。

「目的」と化す「手段」

誰から見ても明らかに不要な業務であれば、いっそのことやめてしまえばいいとも言えます。完全にやめるわけにはいかないのであれば、そこには何かしらの必要性があるということです。

そもそも、それが業務として成立する背景には、もともと必要性があったはずです。言い換えれば、その業務を行う「目的」があったはずなのです。

それが、業務として定着化を図る中で、期間や頻度、手順、形態のバラツキによって何かしらの不都合を生じる経験があって、それを是正するために細かなルールが制定されることになったのだと考えられます。

例えば、

  • 経費の精算は翌月x営業日までに提出しなければならない
  • 部門の会議は月1回必ず開催しなければならない
  • 外部へのメールには、上司にccを入れなければならない

などです。

ルールが制定されるということは、ルールが守られなければ業務の目的を果たすことができないことを意味します。ルールは目的を達成するために必要となる「手段」なのです。

ルール通りにやらなければ目的が果たせないことを理解していれば、安易にそれが「効率が悪い」「ムダな業務」と結論づけることにはならないように思います。

それでも、こうした業務が効率化のやり玉に挙げられるのは、業務の本来の目的を見失っている、もしくはその業務の目的をそもそも知らないからではないかと考えられます。

それが、「何のためにやるのかはよく分からないけど、ルールだからやっている」という状態を招きます。

つまり、やること自体が目的にすり替わってしまうのです。

これがしばしば言われる「手段の目的化」です。

後工程を考える

形骸化したルールのもとに行っている業務の目的を「再発見」するためには、その業務の後工程を考えることが大切です。

例えば、経費精算であれば、申請者本人からすれば立て替えたお金を会社から返還してもうことが目的になります。しかし、それなら金額だけ伝えれば良いという話になります。

一方で、経費精算を受付する経理部門からしてみれば、適切な税務申告を行うために、その出費が事業経費として認められるものであるかどうかを判断しなければなりません。また、法令の定めに従い、金額に加えて日付、品目、用途を正確に把握し、かつ追跡可能な状態に正しく記録しておくことが求められます。

年度決算や定期の仮決算は期間が定められています。期日までに正しく計算を終えるためには、伝票が集中して事務処理作業がパンクすることがないように、日頃から着々と処理を進めておかなければなりません。

加えて、管理会計を導入している組織であれば、部門単位やプロジェクト単位で、どの程度の支出があって、結果的にいくらの収益を上げているのかを常に把握しておく必要があります。

それゆえ、経費精算に伴う申告項目は緻密になり、申告にも期日が設けられます。これが、異なる立場(申請者)からすれば、事務処理が煩雑になっているように映るのです。

続いて、非効率業務として挙げられる代表格とも呼べる「部門の定例会議」について考えてみます。本来、会議は意思決定や合意形成、情報共有を行うための場であり、それらを行う「手段」に過ぎません。

全員の理解や納得を図り、徹底的に議論するべきことがあれば、会議がムダだという話にはならないはずです。

ところが、準備不足で十分な議論ができない、全員で議論するほどの議題ではない、特定の人だけがしゃべっていて残りの人が口を開かない・・・などの状態になると、本来話すべきことが十分に話せず、時間を浪費しているという感覚になります。

これは会議そのものが悪いのではなく、会議のやり方が悪いのです。定期的に開催することがルールとして決まっているからやるというのでは、効率が悪いのは当然です。会議も業務として行うからには、後工程を想定しておくことが求められます。

「この会議では何を決めなければならないのか」「この会議が終わった後、どうなっていなければならないのか」といった目標を設定する。それが時間内に遂行できるように十分な計画や準備を行う。参加者全員が発言できるように進行の手順を決める・・・など、こうした段取りを整えておけば、会議も「時間のムダ」にはならないでしょう。

また、情報共有が目的であれば、会議以外の方法で同じ効果を得ることができないかと考える余地があります。定期的に上司と部下の対面時間を用意しておく。ITツールを使うなど、日頃から部門内の情報共有ができる状態にしておく・・・などの方法で同様の効果を得ることができるかもしれません。その分、会議の時間を問題解決や意思統一といったより重要な議題に割くことができるようになります。

上司へのccメールについても、本来の目的があります。部下の認識不足や注意力低下によって状況が悪化することがないよう、プロジェクト進捗や関係者への連絡などの状況を上司と共有し、トラブルを未然に防ぐようにすることが狙いです。

本来であれば、報告に値するレベルの内容かどうかを部下が適切に判断し、必要なものだけ同報すれば十分なのですが、部下にその判断能力がなかったり、判断が面倒になったりすると、「とりあえず全部ccを入れておけばいいや」という状態になり、上司の受信トレイがccメールで山積みになるのです。

その結果、上司の時間の多くがメール処理に費やされてしまい、より重要で本来やらなければならないはずのマネジメント業務に、十分な時間を費やすことができなくなってしまいます。

どのような業務をするにせよ、そこには常に立場の異なる別の人が関わっていて、必ず後工程が発生します。自分の行う業務が、その後で「誰に」「どんな影響を与えるのか」という想像力が求められるのです。

目的志向を持つ

どんな業務にも、それを行う「目的」があります。業務そのものは目的を果たすための「手段」に過ぎません。

盲目的に行うのではなく、「これは誰の、何のためにやっているのか」という目的志向を持って仕事にあたれば、自分が果たすべきことは自ずと見えてきます。

目的志向とは「『なぜ』の問いを立てる力」です。業務の一つひとつに「なぜ、これをやるのか」を考えることができるようになれば、周囲にあるほとんどが効率化の対象に見えるようになるでしょう。

手段が目的化しているうちは、業務効率化に着手することは困難です。プロセスそのものが大切なので、そこに自ら疑いを持とうという発想になりにくいと言えます。

業務の効率化は目的志向があってこそ、実現することができます。「最低限、何ができていればこの業務の目的は果たせるのか」を常に自ら問い続ける視点があれば、より速く、より正確に、必要以上の労力をかけずに仕事を全うすることができるようになります。

高いパフォーマンスを上げる方は、目的志向を持っています。仕事の目的を考え、目的を完遂するための最短プロセスを設計し、工夫や改善を常に重ねていきます。

業種や職種を問わず、これからの時代に求められるのは、これができる人だと言っても過言ではないでしょう。

 

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

  

投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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