テクノロジーはビジネスパーソンにとって敵なのか?味方なのか?


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事業のデジタル化が避けられない現代

先日、ある企業でイノベーションと事業立案の研修を行いました。階層別研修やビジネススキル研修など、日頃よくやっているテーマに比べるとレベルの高いプログラムで、演習のフィードバックにはコンサルタントとしてのこちらの力量も試されます。意欲も能力も高い受講者の方々だったので、私にとっても非常に刺激的で、とても楽しいお仕事をさせていただきました。仕事が楽しいと言えるのは本当に幸せなことだなと思います。

さて、現代において事業にイノベーションを起こしたり、新しい事業を企画しようとする上では、デジタル技術の存在を無視することはできません。インターネット、特にスマートフォンがこれだけ人々の生活の中に浸透している状況下では、顧客やユーザーとの接点をつくる上で、インターネットをまったく介さないルートはほぼ考えられないと言っても良いでしょう。立地が集客に影響する店舗型のビジネスであっても、SNSでの広報・宣伝を行っています。また、商品やサービスの付加価値を作っていく上でも、デジタル技術の活用は欠かせません。

商品や顧客、販売に関するデータ収集や集計、分析はもちろんのこと、人工知能やロボットを使って業務オペレーションを効率化、自動化することももはや珍しいことではなくなってきました。デジタル技術をうまく活用できるかどうかが、事業の収益性や生産性を大きく左右するといっても過言ではありません。

DXは単なるデジタル化ではない

近年では、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が盛んに使われています。デジタル技術による企業変革やビジネスモデル変革を表す概念です。ところが、あまりにもバズワードとして普及してしまったため、マーケティング目的でやたらとDXを用いる例も散見されます。単なる情報システムの導入、ITによる作業レベルの効率化など、本来の意味ではDXとは呼べないようなものまで、何でもかんでもDXと言われてしまっており、この概念の本当の意味が正しく認知されていないように思います。

経済産業省では、デジタル化を大きく3つの段階に分けています。一つ目がDigitization(デジタイゼーション)で、作業やツールのデジタル化を指す言葉です。言わば、デジタル技術によって担当者レベル、小さなチームレベルでの業務の改善、効率化が行われるケースがこれに相当します。

二つ目がDigitalization(デジタライゼーション)で、業務プロセスのデジタル化を表します。業務フローを最適化するなど、部門レベルでの業務改善・効率化が相当すると言えるでしょう。

そして三つ目がDigital Transformation(デジタルトランスフォメーション)で、企業・組織のデジタル化やビジネスモデルのデジタル化を表します。会社そのもの、事業そのものがデジタル化して変容することを意味すると言えます。Transformationとは変革・変容・変態を表す言葉で、何か別の物に生まれ変わるくらいの変化を表します。単なる現状の改善ではなく、跡形もなく別のものに変化するのがDXです。あらゆる業態の事業においてもデジタル化が避けられない現代においては、イノベーションを起こすことはすなわちDXを実現することだと言えるでしょう。

テクノロジーの進化は歓迎すべきもの

メディアの記事を見ていると、デジタル技術の進化や普及を脅威的な存在として語る記事もまだまだ少なくありません。一時期によく見られた「テクノロジーが人間の仕事を奪う」といった話がその際たる例です。危機感を煽ったり脅したりした方が記事が注目されページビュー数が伸びるので、マーケティング効果を狙うとこの方が効果的なのでしょう。しかし、デジタル技術を脅威に感じたり、デジタル変革に抵抗を示すのは、変化を好まない現状維持志向の表れだと言わざるを得ません。本気でそんなことを言っているのだとしたら、現代で仕事をしていくのは非常に難しいです。

ビジネスの本質はお客様の課題を解決することです。そして、環境が変化するということはお客様の課題が新しく生まれたり、課題の質が変化することを意味します。つまり、外部環境が変化するからこそ、ビジネスチャンスが新たに生まれるのです。そして、テクノロジーの進化は、これまでに解決できなかった課題を解決できるようにしてくれる、歓迎すべきことなのです。変化や成長を好み、世の中に付加価値を提供したいとする事業者にとって、テクノロジーの進化はチャンス以外の何者でもありません。

人工知能が進化すると、単純で定型的な仕事に就いている人の仕事がなくなるという話があります。それがさも悪いことであるかのように語る記事の方がどうかしています。人工知能の進化によって、人が単純で定型的な仕事から解放され、より高度で難易度の高い仕事に集中することができると捉えることだってできるのです。それに抵抗するということは、高度な仕事、難しい仕事をやりたくない。つまり、勉強したりスキルを高めたりすることなく、今のまま何も変わらず続いて欲しいと言っているようなものです。こういう人たちに合わせていたら、世の中の進歩が止まってしまいます。

テクノロジーを恐れるのではなく、むしろうまく活用して、自分がやるべきことに集中したり、より高度で難しい仕事に挑戦できる武器にしたりしようとする気概が必要です。テクノロジーの進化は、現状維持志向の方にとっては脅威になり、変化と成長に意欲を持つ方にとっては機会や武器になる。どう映るかは本人のマインドの問題なのだと思います。

より高度でクリエイティブなことに集中できる

デジタル技術を脅威に感じるのではなく、好意的に受け入れて活用していこうとすることで、本来やるべき重要な仕事に集中できるようになります。

私の場合、企業研修やセミナー、コンサルティングが、自分が集中するべき重要な仕事です。それ以外の仕事はすべて、本業を運営・管理するために付随的に行う「付帯業務」だと言えるでしょう。付帯業務を可能な限り削減・効率化し、本来やるべき仕事にかける時間や労力を増やすのが生産的な仕事の進め方です。

例えば、私は経理業務にマネーフォワードクラウドというサービスを使っています。銀行やクレジットカードのデータを自動的に収集してくれるので記帳入力が不要で、自動入力されたデータの勘定科目を確認してボタンを押すだけで複式簿記の帳簿を勝手に作ってくれます。現金で支払いをすると手入力で記帳が必要になるため、最近では100円ショップなど単価の安いものを購入するにもクレジットカードを使うようにして、自動記帳ができるようにしています。加えて、税理士さんに事務手続きをお願いしていることもあり、経理業務に関する自分の労力を最小限に抑えています。インターネット以前の時代であれば、もっと膨大な事務作業をしなければならなかったと思います。

最近注目を集めているITツールがChatGPTというチャットボット(人工知能)です。アメリカの大学で論文作成に使用した学生が、あまりの論文の出来の良さに、教師陣から逆に怪しまれたというニュースで脚光を浴びました。「Googleがいらなくなる」と言われるほど、非常に優れたツールです。テキストで会話をするように質問や指示出しをして、人工知能が回答をしてくれるのですが、このクオリティが非常に素晴らしい。複雑な質問や指示に対しても、短時間で明快な回答が返ってきます。長文の物語を作成することすらできます。

情報収集や文書作成まで人工知能ができるようになったら、職を失う人が出るとか、今までの仕事の前提が変わってしまうと言う方がいますが、私からすればこんなに歓迎すべきものはありません。例えば、自分が未知のテーマについて短時間で概要を理解しなければならない時、おおまかな情報を集めて整理するのに役立つため、研修のアウトライン設計やコンテンツ制作にとても重宝しそうです。物語が書けるので、ケーススタディを作ってもらうことも期待できます。他にも、youtubeのネタ作成や、ランディングページの原稿作成にも活用できそうですし、用途は無限に広がりそうです。

もちろん、ChatGPTが作成した文章がすべて正しいとも言えず、最終的には人間の目で確認や修正が必要です。しかし、ゼロから自分で考えてキーボードで入力することを考えたら、成果物を作成するまでのスピードが格段に短くなります。その分、稼働を増やすこともできますし、マーケティングや営業、講義の準備に時間を割けるようになります。時間短縮だけではなく、心理的な効果も大きいです。自分でやるのが面倒な仕事を人工知能にやってもらえれば、ますます自分が好きなことや得意なことに集中できるようになるので、仕事が一段と楽しくなるでしょう。

作業はテクノロジーがやり、仕事は人間が行う

文章作成だけでなく、画像生成や作曲までもを行う人工知能が、誰もが使える状態で公開されています。今年または来年には映画を作成する人工知能が生まれるとまで言われています。それがあれば、低コストで大量の映像教材を作成することができ、研修サービスで提供できることがますます充実していきます。

しかし、非常に便利な人工知能(AI)ですが、個々のAIができるのは単一の作業だけです。課題解決に向けて複合的に作業を組み合わせるほどの能力は備えていないため、AIに指示を出す作業だけは人間のやるべき仕事ととして残ります。また、どれだけ優れた成果を短時間で出せるとしても、機械学習がベースになっている以上、最も確率的に高い回答を導いているだけなので、必ずしもそれが正解であるとは限りません。極端な話、世の中に出回っている情報がデタラメばかりであれば、そのデタラメを学習してデタラメの回答を導き出すようになるわけです。データが豊富なことと、事の真偽は必ずしも一致しません。人工知能はあくまで、既存の情報を統合してくれるだけなので、それがクリティカルな答えになるとは限らないのです。

すなわち、人工知能や最新テクノロジーが進化した先に人間がやるべき仕事は、課題そのものを設定する(発見する)ことと、人工知能が導き正した答えを多面的に評価して判断・意思決定を下すことだと言えます。単純な作業はテクノロジーが行い、人間はより高度で難易度の高い仕事に集中することになります。これからの時代で活躍するためには、着眼力や思考力を鍛えて、課題発見力と課題解決力をトレーニングすることが欠かせないと言えるでしょう。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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