人事制度
2026.9.2

評価シートを集計したら、ほとんどの項目が3で埋まっていた。人事のご担当者であれば、一度は経験されていると思います。
原因は、評価者が甘いことではありません。5とは何ができている状態なのかが、どこにも書かれていないからです。書かれていなければ、評価者は説明できる点数しか付けられません。そして説明が要らない点数が、3です。
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評価の集計が終わり、分布を見ると3に集中している。そこで管理職に「もっと差をつけてください」とお願いする。翌年、また同じ分布になる。
この繰り返しを、私は多くの会社で見てきました。ご担当者はきちんと依頼しています。評価者研修も実施している。それでも変わりません。
管理職の側も、手を抜いているわけではありません。むしろ真面目な方ほど3を付けます。5を付ければ「なぜあの人が5なのか」と問われます。1を付ければ本人と揉めます。どちらにも答えられる材料が手元にないとき、最も安全な選択が3なのです。
これは、いわゆる中心化傾向と呼ばれる現象です。
差がつかない理由を、評価者の甘さや事なかれ主義に求めると、打ち手は「研修をやる」「強く依頼する」の二択になります。どちらも翌年には元に戻ります。
原因は別のところにあります。評価基準が、判断できる形になっていないからです。
「主体性がある」という評価項目があったとします。5段階で評価してくださいと言われて、何をもって5とするのか。どこまでできていれば4で、どこからが2なのか。この記述がなければ、評価者は自分の感覚で判断するしかありません。感覚で付けた点数は説明できません。説明できない点数は、極端な値にできません。
つまり、3に集まるのは評価者の問題ではなく、評価するしくみの問題です。
多くの会社の評価シートには、形容詞や名詞だけが並んでいます。主体性がある。責任感がある。協調性がある。
これらは、状態を表す言葉です。行動を表す言葉ではありません。人が観察できるのは行動だけですから、状態を尋ねられた評価者は、印象で答えることになります。
必要なのは、5段階のそれぞれについて、どういう行動が見えていればその点数なのかを文章にすることです。

書き分けの目安は、次のように考えます。5は、求められている水準を超えて周囲に影響を与えている状態。3は、その等級に期待される水準を満たしている状態。1は、指示がなければ着手できない状態。
この記述があると、評価者は「この人はここまではやっているが、ここから先はやっていない」と説明できます。説明できれば、5も1も付けられます。
兵庫県西宮市の株式会社スイカン様は、給排水衛生設備の点検・清掃・改修を手がける、社員約50名の会社です。同社でも、5段階評価の多くが3に集まっていました。社員からは「評価の基準が分かりづらい」という声も出ていたそうです。
制度改定にあたって取り組んだことの一つが、各評価項目に対して5段階の尺度を具体的に記述することでした。こういうことができていたら5、この段階で止まっていたら3、こういう状況であれば1、というように、目安を文章にしていったのです。
作業量は相当なものでした。しかし、これによって中心化傾向は避けられるようになりました。社員にとっても、何をすれば評価が上がるのかが分かるようになっています。
同社では、等級ごとの期待役割を言語化する作業も同時に進めました。評価項目は等級基準から抜き出すものですから、上位の定義が曖昧なままでは、評価だけを精緻にしても長続きしないためです。

評価者研修をやっても分布が変わらないのは、研修が悪いからではありません。順序の問題です。
基準がない状態で評価の技術だけを教えても、評価者は判断の根拠を得られません。逆に、5段階の記述がある状態で研修を行えば、内容が「この行動は4か3か」という具体的な議論になります。
基準が先、訓練が後です。この順序を逆にしている限り、毎年同じ研修を繰り返すことになります。研修が届く範囲については、研修を毎年やっても組織が変わらない理由をご覧ください。

そして、等級定義や評価項目を変える判断は、人事のご担当者の権限だけでは動かせません。経営が決めることです。だからこそ、まず現状を数値にして共有する必要があります。自社の4分野がどうなっているかは、10分の無料診断で数値になります。
全項目を書き換える必要はありません。今週できることを3つ挙げます。
1つ目で手が止まったら、それがそのまま評価者の状況です。人事のご担当者が書けないものを、現場の管理職が判断できるはずがありません。
2つ目と3つ目は、経営に持っていける事実になります。「評価に差がつきません」という相談は動きませんが、「主体性の項目は83%が3でした」という報告は動きます。
なお、評価項目は等級基準から抜き出すものです。等級の定義から見直す場合の進め方については、人事制度構築の支援内容をご覧ください。

5段階評価で全員が3に集まるのは、評価者が甘いからではありません。5とは何ができている状態かが書かれていないため、説明できる点数しか付けられないからです。基準を文章にすれば、分布は変わります。
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本記事の内容は、拙著『指示待ち人間からの解放』の第3章および第5章をもとに再構成したものです。
株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング 代表取締役社長。中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント。事業会社で人事制度の再設計や業務改善に携わったのち、2021年に独立。中小企業の人材育成と組織づくりを支援しています。
著作『指示待ち人間からの解放〜自ら考えて行動する社員を増やす4つの柱と7つのステップ〜』『指示待ち人間からの卒業〜自ら考えて行動する「自律型人材」になる方法〜』