マネジメント
2026.9.22

「自分で考えて動け」と言っている会社ほど、社員に何ひとつ決める権限を渡していないことがあります。
これは矛盾しているように見えて、実際には線引きがないだけです。どこまでを自分で決めてよいのかが決まっていなければ、社員は動きようがありません。この記事では、範囲・情報・失敗の扱いという3点をお伝えします。
目次
ある会社の会議に同席していたときのことです。
若手の方が、業務の進め方について提案をされました。それ自体は筋の通った内容でした。
すると、その場で上司からこう言われました。「それ、誰の許可を取ったの」。
提案した方は黙りました。そして、その後の会議で、その方から発言は出ませんでした。
同じ会社の別の日、その上司の方が私にこうおっしゃいました。「うちの若手は、言われたことしかやらないんです」。
どちらも本心だと思います。矛盾させているつもりは、まったくありません。
自分なりに考えて動けば「勝手なことをするな」と言われる。何もしなければ「指示待ちだ」と言われる。
この2つを受け続けた人が出す結論は、ひとつです。言われたことだけやるほうが安全だ。ごく自然な判断です。
ここで確認しておきたいのは、上司の側に悪気がないということです。
許可を求めたのは、後で問題になったときに自分が責任を負う立場だからです。若手に主体性を求めるのも、本気でそう思っているからです。どちらも真っ当な動機から出ています。
問題は、どこまでが自分で決めてよい範囲なのかを、誰も決めていないことです。 範囲がなければ、部下は毎回確認するしかなく、上司は毎回判断するしかありません。
そして、この範囲を決められるのは経営だけです。現場の管理職に、権限の線引きそのものを変える権限はありません。
裁量という言葉は、役職や肩書きと混同されがちです。
そうではありません。裁量とは「ここまでは自分の判断で決めてよい」という範囲のことです。役職がなくても、範囲は渡せます。
具体的には、次のような単位で決めます。
この3つを決めるだけでも、日常の動きは変わります。

重要なのは、渡す範囲の広さではありません。線が引かれていることです。
範囲が狭くても、そこが明確であれば、社員はその中で判断を重ねます。判断の経験が積み上がれば、範囲を広げられます。逆に、線がないまま「自分で考えろ」と言えば、社員は範囲を探る作業に時間を使うことになります。
範囲を決めても、もうひとつ足りないものがあります。判断に必要な情報です。
たとえば、値引きの判断を任せるなら、その商品の原価と利益率を知っている必要があります。顧客対応を任せるなら、その顧客との取引の経緯を知っている必要があります。
情報が上司の手元に留まったままでは、部下は考えようがありません。材料を渡されていない人に、考えろとは言えないのです。
中小企業では、社長がすべての情報を把握していることが珍しくありません。それ自体は強みですが、判断も社長に集まります。どこまでの情報を、どの階層まで降ろすか。これも設計の対象です。
社員が指示待ちになる要因の全体像については、社員が指示待ちになる7つの原因|変えるべきは人ではなく環境をご覧ください。

3つ目は、任せた後の話です。
範囲を決め、情報を渡し、部下が判断した。そして、その判断が外れた。このときの対応が、次に自分で決めるかどうかを決めます。
「だから言っただろう」と言えば、その部下は二度と自分で決めません。範囲が書面に残っていても、実質的には返上されます。
必要なのは、判断の内容ではなく、判断の過程を確認することです。どういう判断材料で、何を基準に、そう決めたのか。過程に問題がなければ、結果が外れても任せ方は変えない。過程に抜けがあれば、そこだけを次に活かす。
これは心構えの話ではなく、技術の話です。管理職に練習の機会を用意する必要があります。日々の関わり方については、「うちの社員はやる気がない」と言う前に確認したい3つのことをご覧ください。

制度を作り直す必要はありません。今週から着手できることを3つ挙げます。
1つ目でゼロに近ければ、決定が経営に集中しています。会議が報告の場になっているということです。
2つ目で答えがばらついたら、範囲は共有されていません。管理職自身が自分の裁量を把握していない状態で、部下に渡せるはずがありません。
3つ目は、1つだけで構いません。たとえば「3万円までは担当者の判断で支出してよい」と決めて、書面にする。これだけで、その範囲内の確認作業がなくなります。
なお、任せ方そのものを管理職に身につけてもらう部分は、社内だけでは難しいことがあります。研修と職場のしくみをどう連動させるかについては、企業研修のご案内をご覧ください。
「自分で考えろ」と「勝手なことをするな」が同じ職場で出るのは、矛盾ではなく線引きの不在です。決めてよい範囲を決め、判断に必要な情報を渡し、失敗したときに過程を確認する。この3つがそろって、はじめて裁量を渡したことになります。
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本記事の内容は、拙著『指示待ち人間からの解放』の第1章をもとに再構成したものです。
株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング 代表取締役社長。中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント。事業会社で人事制度の再設計や業務改善に携わったのち、2021年に独立。中小企業の人材育成と組織づくりを支援しています。
著作『指示待ち人間からの解放〜自ら考えて行動する社員を増やす4つの柱と7つのステップ〜』『指示待ち人間からの卒業〜自ら考えて行動する「自律型人材」になる方法〜』