マネジメント
2026.8.18

「うちの社員はやる気がない」。研修の現場でも、経営者の方との面談でも、この言葉を何度も聞いてきました。
しかし、やる気の話をする前に、確認していただきたいことが3つあります。期待を言葉にしたか。決めてよい範囲を渡したか。やった仕事に反応を返したか。この3つが揃っていない職場では、やる気のある人でも動けません。順番が逆なのです。
目次
研修の休憩時間に、管理職の方からこう言われることがあります。「うちの若手はやる気がなくて困っています」。
同じ日の午後、その若手の方に演習の中で話を聞くと、まったく違う言葉が出てきます。「これで合っているのか、誰も教えてくれないんです」。
同じ職場の、同じ半年間を、二人はまったく違う側から見ています。片方は「動かない部下」を見ていて、もう片方は「反応のない上司」を見ている。この光景を、私は何度も見てきました。
マイナビが2025年に実施した調査では、必要最低限の業務だけを淡々とこなす「静かな退職」の状態にある人が44.5%にのぼりました。半数近くです。これだけの割合になると、個人の性格の話としては説明がつきません。
そして「やる気がない」で診断を終えてしまうと、打ち手は「気合いを入れる」か「人を入れ替える」の二択になります。どちらも、翌週には元に戻ります。
やる気は、行動の原因ではありません。結果として後から表れるものです。動ける状態にある人は、動いた手応えを得て、さらに動きます。動けない状態に置かれた人は、動かないうちに意欲を失います。
私がコンサルティングの現場で見てきた限り、「やる気がない」と言われている社員の多くは、動く条件が揃っていないだけでした。そして、その条件を用意できるのは、社長と管理職だけです。 社員の側から自分への期待を明確にすることも、自分に裁量を渡すこともできません。
ですから、やる気を問う前に、条件のほうを確認します。次の3つです。

「もっとちゃんと仕事をしてほしい」。経営者の方からよく聞く言葉です。もっともな要求だと思います。
しかし社員の側からは、「ちゃんと」が何を指すのか分かりません。どこまでやれば期待に応えたことになるのか、その基準がないのです。求める人材像と、等級ごとの役割が言葉になっていなければ、社員は自分なりの基準で動くしかありません。
そして人は楽なほうに流れます。基準が曖昧であれば、最低限で済ませる方向に傾きます。これは意欲の問題ではなく、判断の問題です。
確認していただきたいのは、「うちが求める人材像を一言で言うと」という問いに、幹部が同じ答えを返せるかどうかです。ここが割れている会社は、社員に揃った動きを求めることができません。
「自分で考えて行動しろ」と言っている会社ほど、社員に何ひとつ決める権限を渡していないことがあります。
自分なりに考えて動けば「勝手なことをするな」と叱られる。何もしなければ「指示待ちだ」と言われる。この矛盾したメッセージを受け続けた人が出す結論は、ひとつです。言われたことだけやるほうが安全だ。ごく自然な判断です。
裁量とは、役職や肩書きのことではありません。「ここまでは自分で決めてよい」という範囲のことです。金額でも、顧客対応の判断でも、手順の変更でも構いません。
その範囲が決まっていなければ、判断に必要な情報も現場には降りてきません。材料を渡されていない人に、考えろとは言えないのです。
若手からよく聞くのは、「これで合っているのか分からないまま仕事をしている」という声です。何も言われないから続けているが、問題が起きれば責められるのは自分だ。そう思えば、ブレーキがかかります。
1on1を導入している会社でも、中身がこうなっていることがあります。
上司「今週の進捗どう?」
部下「〇〇は順調です。△△は少し遅れています」
上司「そう。じゃあ△△は今週中に終わらせて」
これは確認と指示であって、フィードバックではありません。フィードバックとは、その仕事がどうだったかを具体的な言葉で返すことを指します。
「何が一番の引っかかりだと自分では思う?」。ここで問いかけに切り替えたところから、部下の思考が動き始めます。手応えのない仕事は、不安ですし、面白くありません。
3つを並べると、共通点が見えてきます。期待を言葉にしていない。決めてよい範囲を渡していない。反応を返していない。
主語は、すべて会社の側です。社員の性格や能力は、一度も出てきません。
やる気は、この3つが揃った先に出てくるものです。順番を逆にすると、何年でも「やる気がない」と言い続けることになります。同じ構造をより広く整理したものは、社員が指示待ちになる7つの原因にまとめています。

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制度をつくる話ではありません。今週中に確認できることを3つ挙げます。
1つ目でゼロに近ければ、確認2がそのまま自社に当てはまります。2つ目で書き出す内容が人によってばらつくなら、裁量は渡っていません。3つ目で数えられないほど少なければ、確認3が起きています。
3つとも、社長ひとりで今週中にできます。そして、ここで出た数字は次の一手を決める材料になります。全部に同時に手をつける必要はありません。一番ひどかったものから始めてください。
なお、問いかけに切り替えるという行為は、意識だけでは定着しません。管理職に技術として身につけてもらう必要があります。研修としくみをどう連動させるかは社員教育・研修のご案内をご覧ください。

「うちの社員はやる気がない」と感じたときに確認したいのは、期待・裁量・反応の3つです。この3つは社員の側では変えられません。やる気は原因ではなく、条件が揃った結果として表れるものです。
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本記事の内容は、拙著『指示待ち人間からの解放』の第1章および第3章をもとに再構成したものです。
株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング 代表取締役社長。中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント。事業会社で人事制度の再設計や業務改善に携わったのち、2021年に独立。中小企業の人材育成と組織づくりを支援しています。
著作『指示待ち人間からの解放〜自ら考えて行動する社員を増やす4つの柱と7つのステップ〜』『指示待ち人間からの卒業〜自ら考えて行動する「自律型人材」になる方法〜』