人材像
2026.8.12

「うちの社員は指示待ちだ」。この言葉が口癖になっている経営者の方に、最初にお伝えしたいことがあります。
指示待ちは、社員の資質ではありません。職場の中にある7つの環境的な要因が、本来やる気のあった人から意欲を削り取っています。7つとも、組織のしくみの話です。しくみの話であるということは、変えられるということです。この記事では、その7つを順番に見ていきます。
目次
私は新入社員研修を数多く担当してきました。入社時点でやる気のない社員に出会ったことは、ほとんどありません。皆さん、目を輝かせて研修に臨んでいます。
ところが、配属されて半年も経たないうちに、状況は一変します。目の輝きが失われ、指示を待つだけの姿勢が目立つようになる。入社1年目にして、必要最低限の仕事だけを淡々とこなす状態に陥っている社員も、決して珍しくありません。
キラキラしていた新入社員が、数か月後にはすっかり覇気をなくしている。その光景を見るたびに、私は胸が痛みます。
これは一社だけの話ではありません。アメリカのギャラップ社が2023年に実施した調査では、仕事に熱意を持って働いている日本人の割合は5%でした。調査対象145カ国中の最下位です。リ・カレント株式会社が2021年に行った若手社員への調査では、「完全な指示待ち」または「ほぼ指示待ち」と答えた人が42.2%に達しました。

半年のあいだに何が起きたのか。私がコンサルティングの現場で見てきた限り、原因はほぼ例外なく環境にあります。
良い環境にまずまずの人が入れば、しっかり育ちます。問題のある環境に能力の高い人を入れれば、並の人になります。同じ人が、置かれた場所によってまったく別人のように見える。これは何度も目にしてきた事実です。
指示待ちは、人の性質ではありません。環境が生み出している現象です。そして、その環境を用意できるのは経営者だけです。 現場の上司にも、人事のご担当者にも、しくみそのものを変える権限はありません。

1つ目は、組織からの期待が不明確であることです。経営者の立場からすれば、もっとちゃんと仕事をしてほしいと思うのは当然でしょう。しかし社員の側からは、「ちゃんと」が具体的にどういう状態なのか分かりません。どこまでやれば期待に応えたことになるのか。
求める人材像と、役割ごとの期待が言葉になっていなければ、社員は自分なりの基準で動くしかありません。そして人は楽なほうに流れます。基準が曖昧であれば、最低限で済ませる方向に傾きます。
2つ目は、自分の意思で仕事を進める裁量がないことです。自分で考えて動いたら「勝手なことをするな」と叱られる。何もしなければ「指示待ちだ」と言われる。
この矛盾したメッセージを受け続けた社員が出す結論は、ひとつです。言われたことだけやるほうが安全だ。ごく自然な判断です。情報も権限も渡されていなければ、考えようにも材料がありません。
3つ目は、意欲的に働いても報酬に反映されないことです。問題意識を持って動き、期待以上の成果を出しても、給与や賞与が変わらない。最低限の仕事しかしない同僚と、処遇がほとんど同じ。この状態が続けば、意欲が落ちるのは当然の反応です。
4つ目は、評価基準が曖昧で透明性がないことです。成果を出しているのに、上司との相性で処遇が決まっているように見える。大した仕事をしていなくても、上司と仲の良い同僚のほうが高い評価を得ている。
これは評価される側ではなく、評価するしくみの問題です。等級ごとの役割と、5段階のそれぞれで何ができていればよいのかが文章になっていなければ、評価は人によってぶれます。
5つ目は、やった仕事に対する承認やフィードバックがないことです。フィードバックとは、その仕事がどうだったかを具体的な言葉で返すことを指します。若手からよく聞くのは、「これで合っているのか分からないまま仕事をしている」という声です。何も言われないから続けているが、問題が起きれば責められるのは自分だ。そう思えばブレーキがかかります。
6つ目は、仕事の内容が何年も変わらないことです。一通り覚えてしまえば、この先10年、20年と同じことの繰り返しなのかと考えます。中小企業では異動や転勤の機会が限られるため、この傾向は強く出ます。
7つ目は、教育や訓練を受ける機会に乏しいことです。新しいことを学び、職場で試し、成果が変わる。この循環のきっかけがないままでは、意欲は静かに下がっていきます。
7つを並べると、共通点が見えてきます。期待を明確にしていない。裁量を渡していない。正当に評価していない。反応を返していない。学ぶ機会を用意していない。
主語は、すべて会社です。社員の性格や能力は、一度も出てきません。
そして、この主語はそれぞれ別の場所にあります。期待は求める人材像に、評価と報酬は人事制度に、反応は日々の管理職の関わりに、学ぶ機会は育成のしくみに属します。7つの要因は、この4つの領域に整理できます。ひとつの施策だけでは解決しないのは、そのためです。
この4つの領域をどう組み立てるかは、自律型人材が育つ4つの柱にまとめています。
自社の4つの領域のうちどこが弱いかは、10分の無料診断で数値になります。
7つすべてに同時に手をつける必要はありません。小さく始めて構いません。明日から確認できることを3つ挙げます。
1つ目で答えが割れたら、1つ目の要因がそのまま自社に当てはまっています。2つ目でほとんど思い当たらなければ、5つ目の要因が起きています。3つ目で手が止まるなら、4つ目の要因です。
いずれも、社長ひとりで今週中にできることばかりです。ここで見つかった弱点が、最初に手をつける場所になります。
なお、期待と等級を言葉にする作業は、社内だけで進めると「今いる人に合わせた定義」になりがちです。外部を部分的に使う方法もあります。弊社が実際にどう関わっているかは、人事制度構築の支援内容に記載しています。

指示待ちは、社員の資質ではありません。期待・裁量・報酬・評価・承認・仕事の変化・学ぶ機会という7つの環境的要因が、意欲のあった人から意欲を奪っています。7つとも組織のしくみの問題であり、しくみを変えられるのは経営者だけです。
自社の7つがどうなっているかは、内側からは見えにくいものです。人材像・人事制度・マネジメント・人材育成の4分野について、どこが弱いかを10分で数値にする無料診断をご用意しています。今回の内容は、診断の「人材像」の項目に対応しています。
ご関心があれば、お使いください。
本記事の内容は、拙著『指示待ち人間からの解放』の第1章をもとに再構成したものです。
株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング 代表取締役社長。中小企業診断士、国家資格キャリアコンサルタント。事業会社で人事制度の再設計や業務改善に携わったのち、2021年に独立。中小企業の人材育成と組織づくりを支援しています。
著作『指示待ち人間からの解放〜自ら考えて行動する社員を増やす4つの柱と7つのステップ〜』『指示待ち人間からの卒業〜自ら考えて行動する「自律型人材」になる方法〜』