【岸田総裁人事】顔を立てることの大切さ

先週、自民党の総裁選が行われ、岸田文雄さんが新総裁に選出されました。他候補との個性や政策の違いが際立っていたこともあり、マスメディアはもちろん、SNSなどでも例年になく盛り上がりを見せていたように思います。組閣や党の重役などの人事が注目されますが、その中でも対立候補だった河野太郎さんの処遇について、こんな記事が出ていました。

「総裁選各陣営、人事にやきもき 河野氏側は冷や飯も」(Yahoo!ニュース/産経新聞)

岸田さんが総裁選前に、自分が勝ったら敗れた対立候補の処遇も考慮するとおっしゃっていたことから、河野氏の扱い(広報本部長)が冷遇ではないかとしているわけですが、これは冷遇でもなんでもなく極めて当然のことです。むしろ、影響力はないかもしれないが、名のあるポジションを用意しているだけ、ずいぶん優しいなとすら感じます。

また、組閣人事についても、ネットのコメントなどを見ていると期待外れだと批判が寄せられていますが、これも極めて妥当に見えます。外野からはなんとでも言えます。斬新さや思い切りが足りないと簡単に言う方は、組織のマネジメントに携わったことがないのだろうなと思ってしまいます。重要なのは派手に何かをやることよりも、確実に結果を出せる仕事をすることです。

理念の違う人をチームに加えるわけにはいかない

組織で活動するためには、共通の価値観や目標を持って、皆で同じ方向にむかって進むことが必要です。もちろん、一人ひとり考え方は異なるので100%一致させることは極めて難しいですが、各論では意見対立があったとしても、総論はみな合意している必要があります。でなければ、リーダーが何かを行うにしても、身内から和を乱され、足を引っ張られてしまいます。

組織で何かを行う上で、最も重要なのがビジョンと価値観です。ビジョンと価値観を明確にして中心に置き、そこから派生するように戦略と具体的な計画を作ります。物事を推進する上では一貫性が大事です。個々の施策が戦略や方針とつながっていて、ビジョンや価値観に辿り着くようであれば、文字通り「みなが同じ方向をむいて」力を結集することができます。その一貫性がないと、やっていることがちぐはぐになり、成果が結実せず、目標に辿り着きません。だからこそ、組織では何よりもまずビジョンと価値観を明確にし、それを組織のメンバー、個々の施策に浸透させる必要があるのです。

今回の件で言えば、理念や政策が大きく異なる人をチームの一員に入れられるわけがありません。そもそも、選挙で戦ってきた相手を自分のチームに加えること自体が不可解です。岸田さんが「終わればノーサイド」とおっしゃっていたようですが、スポーツではないのですから。真剣勝負をしていた相手に変に配慮をすれば、自分の信念や決意すら疑われます。

とはいえ、意思決定のプロセスが合議制である以上、自分がやりたい施策を進めるためには、多くの人から支持を得なければなりません。あまりに敵対構図が強すぎると、党内の反発によって足を引っ張られることも懸念されます。しかがって、プライドを傷つけない程度に距離を置けるよう、うまいことバランスをとる必要があるのです。その点では、内閣には入れずに、党の役職につける方が妥当な対応だと思います。むしろ、知名度のある河野さんを広報に置き、実務能力の優れた高市さんを政調会長に置くというのは絶妙な配置だなと感心すらしました。いずれにせよ、国内も対外も問題が山積しています。ご活躍いただくことを祈るばかりです。

重鎮の顔を立てるのは悪いことなのか

組閣人事にあたり、「顔ぶれが変わらない」「結局は派閥バランスを取るのか」といった声が聞かれます。これまでの流れを打ち破る大胆な改革を期待し、そして失望した声だとも取られますが、もし本当に派閥のバランスや重鎮の扱いをまったく考慮せず、能力主義だけで組閣をしたら、面子を潰された人たちが反発するようになり、おそらく何の法案も通せなくなります。斬新な人事はマスコミやネット住民にはウケるかもしれませんが、そこでおしまいです。必ずしも派手でなくても良いので、しっかり仕事をしていただく方が大事です。

長老たちが強い影響力をもって、それがしがらみになるのは政治の世界だけではありません。産・学・官すべての組織で起こりうることです。そして、やっかいなことに影響力と実務能力は必ずしも一致しません。能力が高いことよりも、立ち回りのうまい人が高い評価を得て、影響力を強めていきます。そして、影響力が高い人はそれを駆使し、さらに影響力を強めていきます。その人の怒りを買ってしまうようなことがあると、配下にいる大勢の人がみな自分に背くようになってしまいます。独断専行でやれるしくみならまだしも、合議制で意思決定をする以上、何の予算や法案を通すにしても、大勢の支持が必要になります。自分のやりたいことを実現するためには、強い影響力のある人の「顔を立てる」ことが欠かせないのです。これは国会に限らず、取締役会でも株主総会でも同じことです。

正しいことをしようとしている人が報われないのはおかしいと思う方もいるかもしれませんが、それが現実であり、嘆いても仕方のないことです。むしろ、本当に優秀な人はそれを理解して、自らもうまく立ち回ろうと努めます。周囲の支持と協力を得られなければ、自分のやりたいことも実現できないからです。それが面倒に思うのならば、大きな組織で活躍するのは諦めて、一人で動くようにするか、小さくても自分の組織を作ることです。実際、私もそうしています。大きな組織で地位を得たり、影響力を及ぼしたりすることが自身の目標でない限り、自分の身のたけにあったサイズ感で、好きなことを好きなようにやるのは生き方として幸せです。意識と時間を好きなことだけに向けていたい。そうやって組織を去る人もいます。しかし、それもまた一人の考え方に過ぎません。結局のところ、自分が何に重きを置くかという価値観の問題に辿りつきます。

しかし、民間ではいくらでもやりようがありますが、政治の世界ではそうはいきません。システムが完全にでき上がっており、加えて、それ以外の方法がありません。となると、「顔を立てる」「うまく立ち回る」は、自分の理念や政策を実現するためのれっきとした戦術であり、批判されるものではありません。組織には常にパワーバランスがあり、そのパワーバランスの中で、うまく調和を取りながら自分のやりたいことを進めていく必要があります。

変化を起こすためには人員構成を変える

パワーバランスが変わらなければ、変化は起きません。言い換えれば、組織を構成するメンバーとその関係性が変わらない限り、大胆な変化は起きないということです。よく民間企業で「イノベーションを起こせ」という掛け声が聞かれますが、同じ人員構成で、同じように仕事をしていてイノベーションが起きるはずがありません。イノベーションとは過去と現状の否定であり、ゼロから新しいやり方を構築することです。これまで何年、何十年と同じことを同じようにやってきた同じ人が、突然まったく新しいやり方を編み出し、それにすぐに適応するなんてことがあるわけがありません。

イノベーションを起こすのは簡単です。幹部メンバーを全員入れ替えれば良い話です。考え方も経験も違う人がリーダーや中心メンバーになれば、組織は完全に別物になります。当たり前ですが、すべてにおいて従来とは新しいやり方をしていくので、その組織にとっては何もかもがイノベーションになります。しかし、この方法を実際に取れる覚悟がある企業はほとんどありません。当然と言えば言えば当然です。誰しも自分の生活も守らなければならないのですから。

話を政治に戻すと、旧態依然とした構造に辟易し、斬新な改革を願うのであれば、その方法は一つしかありません。それはパワーバランスを変えることです。いま影響力を持っている人たちが国会議員でなくなれば、その権威と影響力は瞬く間に失墜します。そして、それに替わる人が影響力を強めるようになります。結局のところ、今の状態を作り出しているのは、私たち国民一人ひとりなのです。もし何十年も構図が変わらないということは、それは私たちの考えや価値観が何十年も変わらないことを意味しています。そもそも選挙に行かない人がこれだけ多いということは、政治を放置しているのと同じことです。たとえやりたい放題やられたとしても文句も言えません。この状況を作り出したのは、選挙に投票した(もしくはしなかった)私たち全員なのです。

いずれにせよ、岸田総裁には、選ばれた以上は今の制約の中でやれる範囲で存分にご活躍いただきたいですし、何よりもまず私たち一人ひとりがしっかりと選挙権を行使することが大切だと考えます。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

   

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