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2017.6.29
前回の続きです。
新人や若手が仕事に対して「受け身の姿勢」に映る時、主体的に、意欲的に仕事に取り組んでもらうためには、「本人の口から発してもらう」ことが大切であると述べました。
今回は、当事者意識を喚起し、主体性を発揮してもらうために、話を「聴く」こと、「訊く」こと、そして「待つ」ことについてお話いたします。
新人育成の研修で、先輩役と新人役に分かれて面談のロールプレイを実施すると、先輩役が一方的に話して終わりになってしまうケースが多く見受けられます。
事前に「聴く」ことの重要性を講義でお伝えし、ご本人たちもそれを認識しているにもかかわらずです。
先輩役が延々と話を続けてしまい、たとえ途中で新人役に質問を投げかけたとしても、相手が一言答えたら、続いて先輩役がまた話を続けます。
これでは、新人役は口を挟むタイミングがありません。
日頃からコミュニケーション不足であれば、先輩側にも伝えたいことが山積しているかもしれません。
それでも、新人の主体性や意欲、当事者意識を引き出すことを目的とするならば、自分が話す以上に、相手が口を開く機会を数多く作り出していく必要があるのです。
先輩や上司からの一方的な情報伝達が多すぎると、新人はより受け身の姿勢へと向かってしまいます。
これが、「指示待ち族」という、言われたことしかやらない人を生み出す結果になるのです。
したがって、自分が言いたいことはいったん我慢して脇に置き、純粋に相手の思考・感情・意思を聴こうとする姿勢を保たねばなりません。
話を聴く上では、うなずきやオウム返しなどの傾聴テクニックももちろん有効ですが、それ以上に重要なのは「自分の意見を言いたい」衝動を抑えることです。
そして、新人が発した言葉について、否定も肯定もせず、一切の評価をせず、ただただ「聴く」に徹することです。
この「聴く」姿勢が、相手に対して「思ったことを話しても良いんだ」という安心感を与えてくれます。
(必ずしも話を「受け入れる」必要はありません。ただし、「受け止める」ことは必要です)
次のステップは、さらに内省を深め、自分自身を洞察してもらうために、話を「訊く」ことです。
すなわち、質問です。
ただし、話を聞く側が自分の言いたいことありきで話を訊いてしまうと、まるで誘導尋問のようになってしまいます。
相手の主体性を引き出すための質問は、自分の意見に同調させるためにするのではなく、相手に自問自答を促すものであることが求められます。
主体性を引き出す質問のポイントは大きく2つです。
質問の目的は、質問する側が「知りたいこと」を知ることではありません。相手がより一層自分の深い部分に目を向けて、自分の考えや感情を掘り下げていくことです。
極端な話、話を聞く側は相手の状況を正確に把握しなくても構いません。相手が何かの気づきや学びを得て、次へ向かおうとする意思が芽生えれば良いのです。
*ただし、話をちゃんと聴いているという姿勢を示すために、前提知識として相手の状況を聞いておくことが必要な場面もあります
ミスやトラブル、期待外れの結果などがあった場合に、「なぜ、そうなったのか?」と原因を追求する質問をすることは、必ずしも適切ではありません。
原因の追及は、起きてしまった過去を振り返ることを意味します。「なぜ」は過去志向の質問なのです。
もちろん、経験を学びに変えるために、原因を追及しなければならない場合もあります。しかし、原因追求が過ぎると自責や後悔など負の感情が強くなり、前へ進む力が減退することにもつながるのです。
むしろ、「どのようにしたら、次は同じ結果を招かないで済むか?」と、対策を考える質問を投げかける、視線を未来に向けることができます。
「どうやって」は未来志向の質問です。視線を前に向けることが、主体的に動く原動力になるのです。
問いかけや未来志向の質問を投げかけられると、相手は心の中で自己対話(自問自答)を開始します。
そして、会話は途切れ、沈黙が訪れます。
質問の内容が良いほど、深みがあるほど、沈黙は長くなります。
そう簡単に答えが出ないため、自己対話がより深くなるからです。
質問をした結果、会話が止まり、相手が自分の頭で考えはじめたら一歩前進です。
あとは、相手の口から言葉が発せられるのを、ただ「待つ」のです。
ここで、質問を投げかけた方が沈黙に耐えられなくなると、話を進めようとしたり、先に答えを提示しようとして、つい自分から話を再開してしまいます。
しかし、相手に主体的に、意欲的に動いてもらうためには、次に向かうために必要なことは、相手の口から発してもらわなければなりません。
現実には、どうやっても自力では答えに辿りつけない場合もあるかも知れません。
しかし、その場合であっても、
「もし~だったら?」
「具体的には?」
「他には?」
など、できるだけ質問の形式でヒントを出し、あくまでも「自分でたどり着いた答え」を発してもらう必要があります。
そのためには、とにかく「待つ」ことです。
すぐに答えが出なくてもいい。自分で考えて、自分の言葉として口にしてもらうことに意味があるのです。
話を聴き、問いかけて、待つ。
このシンプルな対話の積み重ねが、少しずつ、相手の主体性や意欲、当事者意識を醸成していくのです。
それが、自分で考え、自分で行動する自律型人材の育成につながります。
こうした人材育成のアプローチが、一件でも多く行われることを、切に願っています。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。