自分の時間を守るための「先手必勝術」

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先日、ある企業グループ様で時間管理セミナーの講師を担当したところ、講座の終了後、受講者のお一人からご相談を受け、次のように尋ねられました。(事務業務の受託事業に就かれている方でした)

「毎日、取引先から問合せの電話が数多くかかってくるため、まとまった時間が確保できない。重要なことを優先しなければならないことは理解できるが、現実的に、時間のやりくりのしようがない。どこから手をつけたら良いのか。」とのご質問でした。

そこで、ある程度その方の状況をお伺いをした上で、次のようにご提案しました。

「電話がかかってこないように、こちらから先手を打ちましょう。」

つまり、問合せがかかってくるであろう事項を、予めこちらから先に示しておくことで、電話がかかってくることを「予防」しようという作戦です。時間を確保する上で有効なのは、時間を奪われる存在に対して先手を打ち、自分の時間をしっかりと守ることです。

今回はその考え方をご紹介いたします。

前提:目の前のことに振り回されないようにするには

何度かこのメルマガでもご紹介している内容ですが、今回の話の前提となるため、時間管理の基本的な考え方をおさらいしておきます。

時間管理を行う上で効果的なのが、「重要度・緊急度マトリクス」という考え方です。これは、「重要度」と「緊急度」の2軸でそれぞれ「高」「低」を設定し、両者を掛け合わせた4つの領域に日々の活動を分類するというものです。

  1. 緊急かつ重要(緊急度:高/重要度:高)
  2. 緊急ではないが重要(緊急度:低/重要度:高)
  3. 緊急だが重要ではない(緊急度:高/重要度:低)
  4. 緊急でも重要でもない(緊急度:低/重要度:低)

「時間がない」という状態は、1と3に分類される事項が多すぎる状態を指します。緊急なことに振り回されているというイメージです。

そして、この4つの領域で最も重要なのが「2緊急ではないが重要」に分類される事項です。業務改善、定型化やシステム化、能力開発、部下育成など、決して急ぎではなく期日も決まっていないが、「それをやることによって根本的な状況の改善が図れる」ものがこの領域に含まれます。2の領域のことに着手すれば、1の領域に含まれる事項が減るので、時間にゆとりができます。

しかし、2の領域にあてる時間を増やすためには、3の領域に分類されるものを減らして時間を作らなければなりません。したがって、まずは「3緊急だが重要ではない」に分類される、「なんとなくやっていること」「惰性でやっていこと」を削減することからはじめましょう。

というのが、時間管理の基本的な考え方です。

▼重要度・緊急度マトリクスの詳細については、過去ログをご覧ください▼

時間泥棒のパターンを分類する

さて、ご質問をいただいた方についてですが、「問合せの内容は多岐に渡るのか」とお伺いしたところ、「いろいろな内容がある」との回答がありました。そこで、続けて「どれも同じくらいの比率なのか?」「特定の内容の割合が高いことはないのか?」と尋ねたところ、それはわからないとのことでした。

全部で何種類の問合せがあるのかはわかりませんが、それが10であれ、50であれ、100であれ、そのすべてが均等の割合で発生しているとは考えにくいと言えます。

「80:20の法則」という考え方があります。経済学者のパレートが示したモデルで、全体の80%のボリュームは20%の要素によって構成されるというものです。例えば、問合せの種類が100種類あり、1日に100件の電話を受けているとすれば、そのうち80件の電話は20項目のことについて話していると考えられます。正確に80:20であるとは限りませんが、かかってくる電話のかなりの部分が、特定の内容ではないかと推察しました。

そこで、「まずは数日で良いので、問合せの内容を記録してデータを取ってみてください」とご案内しました。問題解決の最初のステップは、現状を正確に把握することです。時間管理を進めるためには、時間を奪いにくる「時間泥棒」の正体を突き止めることが最優先課題となります。

予防活動を行い、先手を打つ

記録を取り、データを集計すると、

  • どの内容の問合せが
  • ○件あって
  • それが全体の○%を占めているか

が明らかになってきます。

そして、その上位のものについて、「よくあるお問い合わせ」と題してQ&Aを作成し、取引先に文書で送付したり、ホームページに掲載したりすることで、尋ねられるであろう内容を予め伝えておくことができます。

お勧めしたのは「先月のお問い合わせベスト10」と題して、会報誌(あるいはメルマガ)のような形式で、定期的に情報発信するということです。一度発信しただけでは、届けた情報も存在をも忘れられたり、捨てられたりすることもありますが、定期的に発信することによって、相手の手元に残り続ける可能性が高くなります。ランキング形式の表現にすることで、より興味を惹きつけることも想定されますし、作成したQ&A自体が新任者向けのマニュアルになったり、ノウハウとして社内に蓄積したりすることにもつながります。

これを地道に積み上げていくことで、決まりきったお問い合わせの電話はきっと減っていくだろうと私は考えます。ご質問をいただいた方が、これを実行されて、状況が改善されていることを切に願います。

「時間がない」と言いたくなるのは、自分の計画外の事項に時間を奪われて、やろうと想定していたことに手をつけられない状況にあるからです。あらかじめ、時間泥棒に対して先手を仕掛けることは、すなわち時間の消失を「予防」する活動とも言えます。そして、こうした予防活動がまさに「2緊急ではないが重要」に分類される、根本的な状況改善になるのです。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

  

投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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