何をやるかよりも、何をやらないかを決断することが大切

前回に引き続き、生産性の向上についてです。

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いま世間で叫ばれている「働き方改革」ですが、これは必ずしも残業の削減や労働時間の短縮を意味しているわけではありません。

働き方改革とはワークライフバランスであり、仕事と私生活の両方を充実させることを意味します。

私生活を優先させるために、仕事のパフォーマンスが下がってしまうようでは「働き方改革」とは呼べません。

 

ワークライフバランスは文字通り「バランス」です。

私生活に高い水準を求めるのであれば、仕事も高い水準にしなければなりません。

すなわち、ワークライフバランスは「私生活の充実を得るために、仕事のレベルを上げる」というシビアなテーマなのです。

そのためには、仕事のレベルを下げることなく、時間内に仕事を終わらせることが課題となります。

 

そして、それを実現するための解が「生産性の向上」です。

生産性の定義

前回のおさらいとなりますが、現代ビジネスにおける「生産性」はこのように定義できます。

生産性 = 価値創造に直結する業務量 ÷ (人の能力 × 人の時間)

※価値創造に直結する業務 = 総労働 - 付帯業務

すなわち、生産性の向上とは、付帯業務を削減し、事業・職種の本来業務(価値を作り出す業務)により集中することを意味します。

 

これを具体的に進めていく上で最初の課題となるのは、目の前にある数々の仕事を、

  • 本来業務(価値を生み出す仕事)
  • 付帯業務

に分類することです。

 

では、具体的にはどのように分類していくのでしょうか。

重要度 × 緊急度

時間管理マトリクスというフレームワークがあります。

 

業務改善や時間管理について学ぶと、必ずと言ってよいほど目にする有名な理論です。

  • 縦軸に仕事の「重要度
  • 横軸に仕事の「緊急度

をとり、それぞれ高低の2区分に分けたものを掛け合わせて、

  1. 重要度:高/緊急度:高
  2. 重要度:高/緊急度:低
  3. 重要度:低/緊急度:高
  4. 重要度:低/緊急度:低

の4マスに分類するというものです。

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基本的でかつ効果性の高いフレームではありますが、実際に運用しようとすると難しい面があります。

というのも、

  • 何をもって「重要」とするのか
  • 何をもって「緊急」とするのか

の基準が明確にできなければ、分類としてうまく機能しないからです。

 

実際、私も時間管理の研修やセミナーで、この理論をベースとした業務の分類ワークをたびたび行いますが、

受講生の多くの方々が、自分の仕事の大部分を「重要」かつ緊急に位置づけてしまいます。

 

なぜなら、誰もしもが、

自分がやっている仕事は、重要で、緊急である

と思いたい心理が働くからです。

 

しかし、これでは分類したことにならず、その先の目的である「付帯業務の削減」に結びつけることができません。

そこで、もっと明確な判断基準が必要になるのです。

価値創造性 × 時間拘束性

そこで、軸の設定を次のように定義します。

  • 縦軸:価値創造性
  • 横軸:時間拘束性

「価値創造性」とは、「その仕事を行うことによって、顧客や利害関係者にどれだけの便益を直接的にもたらすことができるか」です。

すなわち、「その事業・職種の本来のミッションとどれだけ結びついているか」を意味します。

 

例えば、営業担当者の本来のミッションは「顧客との商談を重ねて受注を獲得する」の一点に尽きます。

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移動時間、情報収集、資料作成、システム入力、社内ミーティング・・・

など商談以外の活動は、すべて商談という本来業務を遂行するための前段となる「付帯業務」であると考えることができます。

客先に訪問するためには、提案資料が必要ではないかと思われるかもしれませんが、極論を言えば、口だけで注文が取れればそもそも資料などなくても済む話です。

客先に行くには移動が必要ではないかと思われるかもしれませんが、極論を言えば、電話だけで注文が取れればそもそも訪問する必要すらないかもしれません。

 

このように極論から考えていけば、

最終的に何さえすれば、仕事を果たしたことになるのか

という、仕事の本来のミッションが浮き彫りになってきます。

  • 営業部門のミッションは、受注を獲得すること
  • 事業部門のミッションは、商品やサービスを納め、 売上として資金回収すること
  • 企画部門のミッションは、アイデアを生み、それを形にして、実行に移すこと
  • スタッフ部門のミッションは、基幹業務部門に本来の業務へ全力集中させること

であり、それ以外の仕事はすべて「付帯業務」です。

 

したがって、この基準を用いるならば、

  • 本来業務 → 価値創造性:高
  • 付帯業務 → 価値創造性:低

と明確に分類することができます。

 

そして、時間の使い方を冷静に分析すると、

自分の時間の大部分が付帯業務に奪われてしまっている

という事実に直面することになるのです。

 

一方、横軸となる「時間拘束性」とは、「その仕事を実施する時間が、他人によって決められているか否か」を意味します。

かかってくる電話、お客様とのアポイント、社内のミーティング、回答期限が決まっている文書やメール、提出期限が決まっている提案や入札・・・

など、対応・実施する時間の決定権が100%自分にない仕事は「時間拘束性:高」と位置づけられます。

 

それに対し、実施する時間を100%自分の裁量で決められる仕事が、「時間拘束性:低」と位置づけられます。

自分の仕事の計画づくり、新しい事業や企画のアイデア出し、新しい知識や情報のインプット、入手した情報の整理・・・

これらは、やらなかったからと言って、誰かに迷惑がかかるわけではありません。

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しかし、こうした仕事に着手せずに時間拘束性の高い仕事ばかりを行っていては、仕事のレベルは上がらず、創意工夫が生み出されず、苦しい状況は改善されず、小さな問題は時間とともに肥大化していきます。

 

その先に待っているのは自転車操業です。

仕事を進めるにつれてどんどん疲弊していき、やがては機能不全をきたします。

やがては、心身の健康を奪うことにもなるのです。

「投資活動」を確実に行う

この「価値創造性」「時間拘束性」をそれぞれ高低の2区分に分けたものを掛け合わせて、4マスに分ける時、次のように捉えることができます。

  1. 価値創造性:高/時間拘束性:高 → 生産活動
  2. 価値創造性:高/時間拘束性:低 → 投資活動
  3. 価値創造性:低/時間拘束性:高 → 運営活動
  4. 価値創造性:低/時間拘束性:低 → 浪費活動

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生産活動とは「現在の方法で売上をつくる活動」です。

これを行わなければ、目の前の売上を作ることができないため、仕事における最優先業務と言えます。

 

しかし、外部の環境は常に変化し続けるため、現在の手法もいずれは陳腐化します。あるいは、市場が縮小することもあります。

時間や資源をすべて生産活動に充ててしまうと、いつか失速してしまうのです。

そこで、「現状の方法の改良・改善を図る活動」「新しい価値創造を模索する活動」である投資活動に対しても時間や資源を割き、確実に進めていくことが求められます。

 

この「生産活動」「投資活動」の2つが、その事業や職種における「本来業務」です。

企業も個人も、時間や資源を可能な限り最大にこの2領域に投入することが、生産性をあげることにつながります。

 

なお、スタッフ部門においても、この考え方は有効です。

スタッフ部門の利害関係者は、社員や取引先、そして官公庁です。

利害関係者が求める価値を直接的に生み出す活動が「生産活動」であり、その生産活動をさらに効率的、先進的に進める環境をつくるのが「投資活動」と考えることができます。

 

一方、「運営活動」とは、「現状の方法で売上をつくるために、管理上行わなければならない活動」を指します。

議題をムリヤリ作って開催する定例会議、慣習化した社内文書、惰性で行っているプロジェクトなどが、この領域に分類されます。

ゼロにすることは現実的には困難ですが、限りなくゼロに近づけるようにすることで、生産活動と投資活動に充てる時間や資源を増やすことができます。

 

そして、「浪費活動」とは、「余裕のない生産活動」「ムリ・ムダ・ムラによって時間が浪費される活動」です。

生産活動が過剰な状態になると、その反動として浪費活動が比例的に増えます。浪費活動を直接的に削減することは困難であり、投資活動によって生産活動を適切な状態に導くことが求められます。

言わずもがな、この「運営活動」「浪費活動」が付帯業務に類されます。

 

生産性を向上させるということは、

  • 付帯業務である「運営活動」「浪費活動」を可能な限りゼロに近づける
  • 価値創造業務である「生産活動」「投資活動」に充てる時間と資源を増やす

ことです。

 

これはあらゆる業種・業態・職種について言えることであり、加えて、家族や所属コミュニティ、自分自身の生活と人生の設計についても通じる考え方です。

何をやらないかを決めることで、あなたの仕事や人生の質は劇的に向上することでしょう。

 

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

  

投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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