週3日休みとか言っている場合じゃないよ

先日、政府が「選択的週休3日制度」の導入を検討する議論をはじめたとの記事がありました。

「週休3日制普及へ議論開始、政府 学び直し、育児両立を支援」(共同通信)

正直な感想としては、ただただ残念です。どうしてこういう方向に向かってしまうのか。。。

いまこの国に必要なのは、働く時間を減らすことではなく、稼ぐ力を上げることです。そして、稼ぐ力を上げるためには、一時的にはむしろ働く時間が増えることも想定しておく必要があります。

賃金はどうなる前提なのか?

週3日休み(週4日勤務)にするとして、賃金の水準はどうなる前提なのでしょうか。

もし、労働日数を減らして今までと同じ賃金を支払う前提であれば、多くの中小企業が潰れることになります。コロナ禍で消費が冷え込んでいる現状では、コロナ特需で業績が伸びている一部の企業を除いては、収益性が悪化していると考える方が自然です。実質的に1.25倍の賃上げを意味する、この制度を導入する余力がある企業など、ごく限られた一部に過ぎないだろうと思います。

もし、労働日数を削減した分、賃金も下がる前提であれば、個人の生活はますます困窮することになります。GDP(国内総生産)の半分以上は個人消費です。個人の所得が減れば、ますます経済が低迷することが考えられます。稼ぎが減って、使える額が少なくなり、消費が冷え込んで、生産量も低下します。その結果、倒産や賃下げが相次ぐことになります。経済が縮小の一途を辿る、悪魔のスパイラルに突入です。

もし週休3日制度を導入して、週休2日の時と同じだけ収益を上げて賃金を確保しようとするのなら、それは労働生産性を現在の1.25倍向上させることを意味します。これはちょっとした業務改善や効率化、スキル向上などで実現できるような水準ではなく、これまでの事業モデルや業務プロセスを抜本的に改めて、もはや別物と呼べるレベルに変えていくような「イノベーション」が求められることになります。

どのシナリオであったとしても、まったく現実味がわかないのが素直な感想です。

休日の日数の問題ではない

選択的週休3日制度を検討する目的の一つとして、「大学院などで学びながら働ける環境を整備し、従業員の学び直しによるスキルアップを支援する」ことが挙げられているようです。

休日を使って学習するということは、業務ではなく自己啓発として行うよう推奨しているということです。向上心や危機感があって、学ぶ意欲がある人なら、週休3日にしなくてもすでに自発的に学習に取り組んでいます。仕事の合間の時間や休日を使ってすでに学習している人に対して、さらに休日を与える必要はないように思います。むしろ学んだことを実践する機会を削減することにつながるので、学習効果は低下します。また、そもそも収入が下がるシナリオであれば、学習に投資する資金も減ることになります。質の高い学びにはお金も必要です。

自己啓発をしないタイプの方が、休日が増えたからといってその時間を学習に充てるようになるとは考えにくいです。余暇の時間が増えておしまいです。もちろん、余暇が増えることを否定するものではないですが、こうした方々に学習の機会を提供するのであれば、職場で研修会や実践型プロジェクトを提供するなど、業務の一環として場を設けることが必要です。

私自身、以前に勤務していた職場では、基本的なビジネススキルを学ぶ機会を職場から提供されることはありませんでした。通信教育の費用を補助する自己啓発制度はありましたが、動機づけとしては決して十分であったとは言い難いです。外部から講師を招いて行う研修会など、ほぼゼロに等しかったです。約10年間で一度だけ、モチベーション向上の研修を受講させていただきましたが、それも単発の研修であったため一時的に知識を習得しただけで終わり、残念ながらほとんど身になっていません。もし、その頃に論理的思考や問題解決、戦略思考、マーケティング、コミュニケーションや業務改善を学んでいたら、以前の職場でできることがもっとあったのではないかとも思います。

勉強しようとしなかった自分が悪いのですが、外部の研修会や講師に触れる機会がゼロである限り、危機感を感じたり、学習の必要性を自覚したりすることすら難しいと思います。結局、私の場合は、ビジネススキルを学習する機会を得たのは、コンサルタントになって「教える側」に回ってからになりました。

もし、本当に「学びながら働ける環境」を提供しようというのであれば、休日を増やして自己啓発に委ねるのではなく、職場で学習機会を提供するような施策を行うことが優先ではないかと考えます。

ワークライフバランス=休日増加ではない

同じく、制度検討の目的として「育児や介護との両立や副業などの多様な働き方を後押しする狙いもある」という記載もあります。果たして休日が1日増えたからといって、それが両立支援につながるのでしょうか。

育児や介護は毎日のことです。仕事のように「従事する日」「従事しない日」が分けられるものではありません。たとえ休日が増えたとしても、残りの4日間の就労日にしわ寄せがよって、時間外労働が増えたり、精神的・肉体的に疲労が重なるようでは本末転倒です。

毎日コンスタントに「家庭の時間」を確保できるようになることの方がはるかに重要です。また、病気や怪我、学校の行事など、不測の事態やイベントに対応するために「丸一日休みが必要なわけではないけども、一時的に仕事を離れる必要がある」というニーズに対応できるようにすることの方が、現実的な課題です。もしワークライフバランスを志向するのであれば、家庭生活の状況に応じて、就労形態や時間を柔軟に変更できるようなシステムを構築することが必要です。

そもそも、オフィス系の仕事であれば、労働時間ではなく「仕事の成果」に対して賃金を支払う制度にすれば、本人のニーズに合わせて、働く時間を自分の裁量で調整することができます。仮に、期待される成果を1日で挙げることができれば、残りの6日は休んでいても良いという道理になります。逆に言えば、週7日働いても期待する成果に到達しない可能性もありますが、それは「本人がその仕事を遂行するために必要な能力を備えていない」「仕事の進め方が悪い」「上司のマネジメント能力や組織のシステムが悪い」ことを意味します。こんな状況で週3日を休日にしてしまったら、それはもはや事業として成立できないレベルであることも言えます。

もちろん、これは時間や場所を問わない職種に限定されますので、工場や店舗、医療機関など商品やサービスの生産・提供に「物理的な場」が求められる場合にはそのまま適応できません。しかし、今後の老齢社会社会に対応するためには、できる限り本人の生活ニーズに合わせて働き方を柔軟に調整できるシステムの構築に今から取り組んでいく必要があると言えるでしょう。

また、オフィス系の仕事であったとしても、自分の裁量による労働時間管理は、自己管理能力の高い人でないと実際に運用するのは難しいと考えます。管理能力が低い人の場合、目標設定や計画、優先順位設定がうまくいかず、むしろ労働時間が増えて生産性が低下する事態を招く可能性の方が高いです。その点では、個人の能力向上もますます求められていくと言えるでしょう。

稼ぐ力を身につけよう

日本が「世界第2位の経済大国」であったのは2009年までの話。それからすでに10年以上が経過しています。

GLOBAL NOTE よりグラフ作成

成長を遂げるアメリカや中国との差は開く一方であるのに加えて、将来的にインドや東南アジア諸国にも追い抜かされることが予見されています。

(文部科学省資料「各国のGDPの推移 各国のGDP成長率」より)

この状況にも関わらず、世の中の論調を見ていると、のんびりしているというか、危機感がないというか、あまりにも楽観視している気がしてなりません。10年以上前のイメージをずっと引きずっているようも見えます。とはいえ、少子高齢化・人口減少の一途をたどる日本では、経済全体規模が縮小すること仕方のないことかもしれません。問題は全体の規模ではなく、一人あたりのGDPです。

GLOBAL NOTE よりグラフ作成

推移で見ると、2015年以降少しずつ向上しているように見えますが、かつて「世界第2位の経済大国」であったことを考えると、とうてい高い水準とは言えません。働き方改革の取り組みによって、短時間労働に従事する方が増えた影響も頭によぎりましたが、単純にGDPを人口で割った数値ですので、労働人口には直接関係がないと考えられます。なお、2020年の数値はほとんどの国で数値が低下していますが、これはコロナウィルスの影響で経済活動をストップした影響だと考えることができます。

今後、少子高齢化により働く人口が減ることを考えると、一人あたりの「稼ぐ力」をもっと向上させる必要があると考えますが、実態としてはかなり厳しい状況にあると考えます。個人のスキルアップはもちろん大切です。何もしないより、取り組んでいただいた方が良いことは確かです。しかし、個人の能力向上が生産性に与える影響は限定的です。組織や社会全体のシステムを改善する方が、影響力ははるかに大きいです。

今が新しいことに取り組むチャンス

デジタル庁の発足とともに「脱・ハンコ」によるペーパーレス化がますます推進されるようになり、先日は河野大臣が「FAXの廃止」に言及されました。これは嬉しいニュースです。もし本当にFAXの利用がなくなるようになれば、情報処理がはじめからデジタル化される(転記としての単純データ入力がなくなる)ことになり、生産性の向上に大きく寄与すると考えられます。デジタル化を推進しようとするなら、IT補助金や給付金などの「太陽」施策だけではなく、外圧による「北風」施策も必要です。今後、具体的な施策が打ち出されることを期待します。

一方で、慣れ親しんだ従来のやり方を捨てて、新しい形態に移行するためには、経済的なコストだけではなく、精神的なコスト、時間的なコストも生じます。人間、慣れていることをやる方が楽です。新しいことに取り組むのは、初めの頃はぎこちなく、失敗もしばしばあるでしょう。トライ&エラーを繰り返す。そのためには、時間の投資も必要です。

仮に、コロナ禍により一時的に仕事が減っているのだとしても、それは「今までの事業を」「今までの領域に」「今までのやり方」で行う仕事が減っているだけです。見方を変えれば、今後を見据えて、新しいことに取り組む最大のチャンスであるとも言えます。新しい取り組みで成果を得るためには、時間がかかります。はじめてしばらくの間は、目に見える結果が得られれなくて、自信や意欲を喪失してしまいがちになるものです。コツコツと、淡々と、仮説に基づいた取り組みを続けていく必要があります。そして、試行錯誤を繰り返しながら、成功するまでやり遂げられた人だけが成功できるのです。

心身の健康やワークライフバランスのためには、適度な休みは必要です。しかし、休みを増やして「稼ぐ力」が上がることはありえません。今後の自分たちの、そして子どもたちの社会を豊かに保つために、私たちは「今できること」を見つけて、そこに時間を投資していくべきなのではないかと考えます。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

   

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