相手の目にどう映り、相手がどう思っているか

先週は新入社員研修週間でした。2社の研修を担当いたしました。

毎年この時期になると、岩瀬大輔さんの『入社一年目の教科書』を読み直します。ベストセラーであり、新入社員への推薦書の鉄板とも呼べる著作ですが、読むたびに新しい気づきがあり、自省することもしばしばです。書かれていることは社会人として当たり前と思えるようなことばかりです。あいさつ、マナー、礼儀・礼節、報告・連絡・相談、クイックレスポンスなど。おそらく誰に聞いても「そんなの当たり前じゃないか」と回答するような話です。

でも、知識として知っていることと、実際にやっているか/できているかはまったく別の話。実際、どの階層や職種に対して講義をする時にも、表現が異なるだけで伝えていることの本質は何も変わらないです。結局のところ、「何をするべきか」ということについては、大切なことは最初からすでに教わっているわけです。やはり「わかる」と「できる」の差は大きく、「継続してできている」との差は一層大きいと言えます。

相手の目にどのように映るかを考えるのがマナー

ビジネスマナー講座の冒頭は、身だしなみとあいさつです。 まさに対人関係の基本中の基本であり、誰でも知っているようなことだと言えますが、果たして本当にみな実践できているかどうかと考えさせられる場面もあります。

コロナショックを引き金にリモートワークが普及して、はや1年が経過しました。オンラインで面会する機会は劇的に増え、今ではお客様や取引先など外部の方とオンラインで商談を行うのも当たり前と化してきています。 コロナ以前からオンラインミーティングのツールはありましたし、私も出張が多かったため身内ではたびたび使用していましたが、外部の方と接続する機会はほとんどなかったです。物理的に訪問することが敬意の表れであるという、暗黙の了解があったように思います。

外部の方々とリモートミーティングをするようになって、世の中にはいろいろな考えや感覚の人がいるのだなと改めて思い知らされます。「いくら在宅勤務とは言え、その格好で外部の人と会うのか」という方に遭遇したこともあります。別に在宅でまでワイシャツネクタイである必要はないとは思いますが、Tシャツやカットソーで登場するならせめてジャケットくらいは羽織っても良いのではと思うこともあります。たかが服装かもしれませんが、それだけで「こちらが軽んじられている」という印象を受けます。

服装以上に気になるのが、照明の明るさや画角です。部屋が薄暗くて顔の表情が読み取りづらい方もいますし、カメラ位置の問題なのか顔が見切れてしまう方もいます。画面に照明が映り込んでしまい、見ているこっちが眩しいと感じる方もいます。さらには、終始カメラをOFFにして顔を出さない方もいます。通信回線の問題で、ネットワークに負荷をかけないようにカメラをOFFにされているケースもあって、個人の配慮ではどうにもならない場合もあるので一概に言えませんが、個人的には、相手が顔を出してきているなら自分も出すべきではないかと思います。

何かトラブル対応などで急遽ミーティングをしなければならない場合など、顔を映せる状況にないこともあるでしょう。その場合は話が別です。しかし、多くのミーティングは事前にアポイントを取って計画的に行われるはずであり、オンラインとは言え他人と接見をするわけなので「人にお会いする準備」くらいはして臨むべきではないかと思います。服装、所作や振る舞い、表情などのビジュアルも含めてコミュニケーションです。視覚的な情報が遮断されるだけでも、コミュニケーションが取りづらくなり、相手にストレスがかかります。

マナーの本質は「相手を不快にさせないこと」です。接見している相手が不快になっていないか、あるいは困っていないかを考えれば、身だしなみを整え、自分の姿がしっかりと映せる環境を整えて臨むのが最低限の礼儀ではないかと思うのですが、私の感覚の方が世の中とズレているのでしょうか、、、

あいさつに始まり、あいさつに終わる

オンラインミーティングと同様、コロナ以降に普及したものにslackやMicrosoft Teamsなどのビジネスチャットがあります。チャットはとても便利です。文書やメールように儀礼的な部分に労力を割く必要がないので、必要なことだけを単文でやりとりでき、手軽でスピーディーに連絡を交わし合えます。

コミュニケーションのスピードが速くなり、生産性が上がることに加えて、いいね!などのリアクションや絵文字を使えることもあって、感情表現も豊かになります。 もちろん、リアクションや絵文字は相手との関係度によるので、関係が浅い相手から絵文字が多用されるようなことがあれば感覚を疑ってしまいますが、関係が深い相手とはむしろ積極的に活用しても良いかと考えます。メッセージに感情表現を乗せられるので、テキスト表現にありがちな「過度に冷たい印象を与える」という効果を和らげることができます。

一方で、チャットのやりとりであっても、最低限のあいさつは必要ではないかと思います。しばらく連絡がなかった相手から、突然要件のみを単文で送られてくると、こちらもあまり良い印象は受けません。その前に一言あっても良いんじゃないかと思います。しばしば連絡を交わし合う相手であったとしても、その日の第一声には「おはようございます」や「こんにちは」は欲しいところです。友達とLINEするのだってあいさつくらいはします。ましてやビジネスシーンで交わす会話なのですから、最初の第一声はあいさつであるべきでしょう。

そして、会話の始まり方以上に配慮が必要なのが終わり方です。「ありがとうございました」「失礼します」「おやすみなさい」などのあいさつが交わされれば「今日の話はこれでおしまい」と認識し合えるのですが、あいさつがないと「まだ話は続くのかな」とスタンバイ状態を維持しなければならなくなります。

もちろん、都合の良い時に返事をすれば良いだけの話なのかもしれませんが、ある程度ラリーが続いていた話が中途半端な状態で突然止まってしまうと、今日はこれで終わりなのか/まだ続くのか、気分がモヤモヤした状態が続くことになります。 日中であれば「相手も仕事中だし、都合が良い時にまた返事がくるかな」くらいに捉えられるのですが、夕方以降にこの状態に陥ると、こちらも切り上げて良いのかどうかの判断がつきません。たった一言「今日はもう切り上げますので、続きはまた明日にしましょう。お疲れさまでした」と交わせば、お互いを開放する意思確認が交わせます。ちょっとしたことですが、度重なると次第にストレスになります。

あいさつに始まり、あいさつに終わる。ただそれだけで、お互いに気持ちよく仕事ができるようになります。リモート、オンラインの環境になっても、対人関係の基本は変わらないのだなと改めて思います。

当たり前のことを、当たり前に

職場の退職理由として挙げられる主な要因の一つに、職場の人間関係があります。もちろん、致命的に相性が合わない、組織風土に合わないというケースもあるでしょうが、それ以上に、日々の小さなストレスの積み重ねが原因なのではないかと考えます。

人間関係を良好にするために必要なことは、誰でも知っているようなことばかりです。あいさつ、礼儀・礼節、相手への配慮。いずれも、幼児や小学生の時に教わるようなことです。誰しも、日常的にあいさつや雑談を交わして「知った仲」になった相手のことを、さほど悪くは思えないものです。特定の相手に対して、悪い印象を抱いてしまうのは、多くの場合コミュニケーションの量や頻度が不足していることに起因します。

今なお猛威を振るうコロナウィルスの感染も、いずれは鎮静化していくことでしょう。しかし、リモートワークの普及度やオンラインでのコミュニケーションは、決してコロナ以前の水準に戻ることはないと思います。リモート&オンライン環境においても、マナーやコミュニケーションの重要性は変わりません。物理的に接しているか/いないかの違いがあるだけで、人と人との関係構築における本質は同じなのです。

当たり前のことを、当たり前に行う。子どもでも知っているようなことをキチンと行う。ただそれだけで、多くの問題は大きくなる前に未然に防げます。大きくなってしまった問題を鎮静化するのは一苦労です。問題が発生しないように未然に防ぐ。それには日々の小さなことの積み重ねが必要です。

一流のスポーツ選手ほど、キャッチボールや素振り、ドリブルやパスワークなどの基本動作を疎かにしないはずです。トップレベルになればなるほど、基本能力と基本動作のレベルの高さが成果を大きく左右します。ビジネスシーンにおける基本はどこまでいっても、あいさつやマナー、報告・連絡・相談、スケジュール管理です。専門的な知識や技術を活かして活躍できるかどうかは、基本動作ができているかどうかに左右されることになるでしょう。

毎年、新入社員研修を担当するたびに、自省を求められるような気分になります。私も、今年も襟を正していきます。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

  

投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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