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2022.11.7
先日、ある企業様で新卒採用の面接官を担当する方に向けた勉強会を行ってきました。まずは前編となる1日目。近年の新卒採用市場の動向や採用基準を確認した上で、話をきくスキルを磨きます。今週に後編の2日目があり、話を伝えるスキルを訓練した上で、面接のロールプレイングを行います。
ロールプレイングは学生役として役者の方を呼ぶという徹底ぶり。以前は受講者同士で学生役と面接官役に分かれて演じてもらう形式でしたが、お互い顔馴染みの方ですし、外見的にもとても学生ではないのでどうしても無理があります。外部から若い方を呼び学生を演じてもらうことで、ロールプレイングの臨場感とリアリティが劇的に向上します。
この勉強会も今回で5年目。市場の動向こそ毎年何かしらの変化がありますが、話をきく、伝えるなどのコミュニケーション技術については、お伝えする内容は毎年ほとんど同じです。新鮮さを加味するため多少の新ネタを加えるよう努力はしていますが、本質は変わらないので講義も演習も毎年同じことを繰り返しています。
とはいえ、コミュニケーションの技術は一度や二度話を聞いて練習をしたくらいで劇的に変わるものでもなく、どれだけ上達したとしても決して終わりが訪れるようなものでもありません。高いレベルを追い求めようとするなら、際限なくどこまでも追及できるものだとも言えます。
ありがたいことに、先方にも毎年繰り返すことの重要性を認識していただいております。仮に少し上達したとしても、日々の習慣として定着しない限り、技術も衰えていってしまいます。年に一回、継続的に基本を思い出すことが必要であり、対話の練習はどれだけやったとしても十分と呼べるようにはなりません。むしろ、上達すればするほど次の課題が明確になっていきます。
今回は、対人関係スキルの中でも特に重要な、話を「きく」技術についてお話しいたします。
「きく」を漢字で表記すると、3種類の表し方があります。
一つ目が「聞く」。最も日常的に使用される表記です。耳と門が表す通り、耳で話をきく動作を表します。言わば、音として聞いている状態だと言えます。当たり前ではないかと思うかもしれませんが、音としてだけ聞くのであれば、何か別のことをしながら聞くなど、意識が別のものに向いていたとしても、聞いていることにはなります。
それに対し、単に音としてだけ聞くのではなく、他の感覚器をフル動員して意識を集中して話をきくのが二つ目の表記である「聴く」です。「耳+目(90°回転しています)+心」できくと記載する通り、目や心など全身全霊で話をきくのが「聴く」です。
そして、第三の表記が「訊く」です。これは常用漢字ではありませんが、質問する、尋ねるといった意味で用いられる「きく」です。
これらの表記の違いは、話をきく側の意識の傾け度合いや積極性を表しています。最も受け身で話をきくのが「聞く」。より主体的、意識的にきくのが「聴く」。さらに積極的に働きかけ、話に介入しながらきくのが「訊く」です。
私はこれを「傾聴レベル」と呼んでいます。ビジネスシーンで、相手と良好な関係を図ったり、深いレベルの相互理解を図ったりする際には、最低でもレベル2の「聴く」が必要です。そして、話をより発展的に進める上では、レベル3の「訊く」技術が求められます。
レベル2の「聴く」という動作は、しばしば「傾聴」と表されることがあります。心を傾けて聴くという意味です。上述の通り、意識を相手に集中して聴くことで、表面的な会話に止まらず、心と心を通わせた深いコミュニケーションができるようになります。
例えば、「言葉では大丈夫だ」と言っている相手が、今にも泣きそうな顔をしていたとしましょう。話を「聞く」だけでは、文字通り大丈夫だと受け取ってしまうかもしれませんが、相手の表情をしっかりと観察していれば、その言葉は建前や強がりに過ぎず、本音では苦しんでいることが窺えます。これは、言わば目で話を「聴いて」いる状態だと言えます。
コミュニケーションは必ずしも言語だけで行うわけではありません。表情や視線、体の動き、声の大きさや明るさ、空気感などいろいろな情報を受け取って相手の内心を読み取ることで、言葉にできない本音を捉えるのです。これが、意識を傾けて聴く「傾聴」です。
さらに、より共感的な傾聴をする上で有効なのが「伝え返し」です。相手の話に頷いたり、相槌を打ったり、微笑んだり、視線を合わせたりすることで、相手の話を聴いているという意思表示をすることができます。相手の話を受け止めていることを態度で伝え返すことで、相手は安心して話をすることができ、これがさらに話を促すことにつながります。
傾聴レベルの最終段階が、話を「訊く」ことです。レベルとして表現している通り、話を「訊く」ためには、まず話を「聴く」段階をクリアしている必要があります。傾聴ができてはじめて、効果的に話を訊くことができます。
相手の話で何か疑問点がある時、話の深掘りをしたい時、相手の意向や意思を確認したい時、受け身で話を聴くだけでなく、こちらから主体的に質問を投げかけます。そして、質問の回答を受けて、話がさらに展開していくのです。
質問には大きく2つの型があります。一つが「クローズドクエッション(閉じた質問)」です。これは選択肢を限定して尋ねる形式で、「はい」「いいえ」で答えられるような質問が代表例です。
もう一つが「オープンクエッション(開いた質問)」です。回答者が自由に回答できるように尋ねる形式で、「なぜ?」「何が?」「誰が?」「どうやって?」などが代表例です。
どちらの形式にも一長一端があります。
クローズドクエッションは、提示された選択肢から選んで回答するだけなので、答える方にとっては負担が少なく答えやすいです。一方で、限定的な回答しか得られないため、得られる情報量は少ない上、選択肢を用意して尋ねなければならない分、質問する方の負担が大きくなります。
一方、オープンクエッションは相手が自由に回答するため得られる情報量は多くなりますし、尋ねる方も楽です。その分、回答する方が内容を考え、組み立てなければならなくなるため負担が大きくなります。そのため、場が暖まっていない段階や、相手の頭が整理されていない状況でオープンクエッションを多用すると、回答者の心理的な負担が大きくなりすぎて、コミュニケーションの流れが悪くなり、場の空気感が重たくなっていきます。
質問をする際には、クローズドクエッションとオープンクエッションを組み合わせて尋ねていくことが有効です。話の序盤や話題の切り替え時にはクローズドクエッションを多用し、追加・関連質問としてオープンクエッションを交えることで、話の流れを作っていくことができます。
例えば、次のような流れです。
「今度の週末、何か予定ある?」
「ないよ」
「一緒にどこか遊びに行かない?」
「いいね」
「どこにいこうか?」
これが、はじめから「今度の週末、どこに行こうか?」と尋ねてしまうと、週末予定がないこと、一緒に遊びに行くのに同意していることが前提なってしまっているため、この前提が成立しない時には相手の誘いを否定しなければならなくなります。相手に過度な負担を与えることになってしまい、話の流れが悪くなります。小さな確認を重ねて前提を共有し、条件が整ってから自由回答の質問で尋ねる。こうすることでスムーズなコミュニケーションを図ることができます。
話を「きく」と言っても様々な段階があり、個々の段階で多様な技術が求められます。それらを知識として理解することはできても、自分のものとして無意識レベルで実践できるようになるためには、数回程度の練習では不十分です。長い時間をかけて繰り返し何度も実践し、トライ&エラーを重ねながら技術として習得していくことができます。
ましてや、日々の仕事や生活の場面で人と話をする時に、コミュニケーションの技術的な側面に集中して会話をする場面は決して多くはありません。話の中身に意識を向けるのが自然です。そのため、定期的に基本の知識をおさらいし、練習を行うことで必要な技術と態度を思い出し、さらに磨きをかけていくことが求められます。
基本的なことであればあるほど、同じことを何度も振り返り、反復して訓練していくことが大切です。経験を重ねていくことで、スキルとして習得し、定着させていくことができるのです。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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