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マネジメント

2025.4.29

【2025年カスハラ防止条例】東京都・群馬・北海道で施行!企業が「顧客を選ぶ」時代へ

近年、接客業の最前線で深刻化する「カスタマーハラスメント(カスハラ)」に対し、2025年4月から複数の自治体でカスハラ防止条例が施行されます。東京都、北海道、群馬県をはじめとする自治体の動きは、従来の「お客様は神様」という文化に大きな変革をもたらそうとしています。この記事では、条例の具体的内容から企業の実務対応まで、ビジネスリーダーが知っておくべき重要ポイントを解説します。

1.カスハラ防止条例とは何か

1-1 社会問題化したカスタマーハラスメントの実態

カスタマーハラスメントは、顧客から事業者への一方的な迷惑行為として定義され、以下のような深刻な実態が報告されています。

カスハラの主要な形態

  • 暴言・脅迫:人格否定、乱暴な言葉遣い、威圧的な態度
  • 暴力・器物破損:物を投げる、直接的な暴力行為
  • 過度な要求:本来のサービス範囲を超えた要求の継続
  • SNSを使った脅迫:「悪評を書く」などの威嚇行為

カスハラが増加している背景として、以下の3つの社会的要因が挙げられます:

  1. SNSの普及と口コミリスク
    • 個人の投稿が一気に拡散される可能性により、企業が不当要求を拒否しづらくなっている
  2. 産業のサービス化進行
    • 顧客との接点増加により、ハラスメント行為が表面化しやすくなった
  3. 社会全体のストレス増加
    • 経済停滞とコロナ禍の影響で、理不尽な要求が増加傾向

1-2 条例の目的・定義・背景

カスハラ防止条例の基本理念は、事業者と顧客が相互に尊重し合い、安全・安心な取引関係を築くことにあります。条例では以下の要素が明確に定義されています:

東京都条例の要点(2025年4月施行)

  • カスハラの定義:「顧客が事業者に対して行う著しく不当な行為」
  • 禁止行為:暴言、脅迫、暴力、過剰な要求、長時間の拘束
  • 事業者の責務:従業員の安全確保、相談体制整備
  • 自治体の役割:啓発活動、相談窓口設置、情報提供

2.2025年4月に施行される自治体の動き

2-1 東京都・群馬県・北海道の条例内容比較

自治体施行時期主な特徴罰則・制裁措置
東京都2025年4月包括的な定義
事業者支援重視
罰則なし
(啓発・相談中心)
群馬県2025年4月地域密着型
中小企業支援
罰則なし
(指導・助言中心)
北海道2025年4月観光業界への配慮
広域対応
罰則なし
(普及啓発重視)

2-2 桑名市など先行自治体の事例と注目ポイント

市町村レベルでは、より具体的で実効性のある措置を導入する自治体が現れています。

三重県桑名市の画期的な取り組み

  • 実名公表制度:悪質なカスハラ行為者の氏名を公表可能
  • 段階的対応:注意→指導→勧告→公表の順序で実施
  • 客観的判定:第三者委員会による厳格な審査プロセス

現在検討中の自治体:岩手県、栃木県、埼玉県、静岡県、和歌山県など多数の自治体が2025年度中の施行を目指しています。

3.企業に求められる対応策とは?

3-1 社内ルール・対応マニュアルの整備

今日からできる3ステップ対応

ステップ1:カスハラ対応ポリシーの策定

  • カスハラの定義と判断基準を明文化
  • 対応手順とエスカレーションルールを設定
  • 従業員の安全確保を最優先とする方針を明記

ステップ2:対応マニュアルの作成

  • 具体的な対応スクリプトとフレーズ集
  • 記録・報告の標準フォーマット
  • 緊急時の連絡体制と避難手順

ステップ3:従業員研修の実施

  • ロールプレイング形式の実践的訓練
  • メンタルヘルス対策とストレス管理
  • 定期的な振り返りとマニュアル更新

3-2 IT活用・相談窓口設置による実務対応

デジタル技術を活用した効率的なカスハラ対策が企業の競争力向上にも寄与します。

IT活用による対策強化

  • 顧客管理システム(CRM):過去のクレーム履歴や対応記録の一元管理
  • 通話録音システム:客観的証拠の保全と品質向上
  • チャットボット導入:初期対応の自動化で従業員負担軽減
  • AIによる感情分析:リアルタイムでの危険度判定とアラート

相談窓口の設置要件:

  • 従業員が安心して相談できる独立性の確保
  • 24時間対応可能な体制(外部委託も含む)
  • プライバシー保護と守秘義務の徹底
  • 迅速な対応と適切なフォローアップ

4.顧客を選ぶ時代の到来とその影響

4-1 「お客様は神様」文化からの脱却

従来の日本企業では「お客様は神様」という考え方が支配的でしたが、カスハラ防止条例の施行により、この文化に根本的な変化が生まれています。

新しいビジネス関係の原則

ビジネスは本来、「価値」と「対価」が等しく交換される対等な関係で成り立ちます。事業者が提供する商品・サービスに納得すれば顧客は代金を払い、双方が尊重し合う健全な取引が成立するのです。

この転換により、事業者は以下の権利を行使できるようになります:

  • 理不尽な要求を断る権利
  • 悪質な顧客との取引を停止する権利
  • 従業員の安全と尊厳を守る義務
  • 適正なサービス範囲を明示する権利

4-2 対等な取引関係の確立による企業メリット

顧客との対等な関係確立は、企業に以下の具体的なメリットをもたらします:

経営面でのプラス効果

  1. 人材確保と定着率向上
    • 離職率の大幅改善(サービス業界では20-30%の改善事例あり)
    • 優秀な人材の応募増加
    • 従業員満足度とモチベーション向上
  2. サービス品質の向上
    • 本来業務への集中によるサービス改善
    • クレーム処理時間削減による効率化
    • 建設的な顧客フィードバックへの注力
  3. 企業ブランド価値の向上
    • 「従業員を大切にする企業」としての評価
    • ESG経営の観点からの投資家評価
    • 採用ブランディングの強化

ただし、「顧客を選ぶ」ためには企業側にも相応の経営基盤が必要です:

  • 高付加価値商品・サービスの開発:価格競争から脱却し、独自性で勝負
  • 従業員のスキル向上:適切な顧客対応能力の底上げ
  • ブランド力の構築:選ばれる企業としての地位確立

5.消費者が求められる品格と行動とは

5-1 SNS・クレーム時のマナー再考

カスハラ防止条例の真の効果を発揮するためには、消費者側の意識改革も不可欠です。特にSNS時代における適切なコミュニケーションが重要となります。

消費者に求められる基本姿勢

  • 相互尊重の原則:サービス提供者も同じ人間であることの認識
  • 適切な期待値設定:商品・サービスの合理的な範囲内での要求
  • 建設的なフィードバック:改善につながる具体的で冷静な指摘
  • 感謝の表現:良質なサービスに対する適切な評価

SNS利用時の注意点

  1. 感情的な投稿の前に一度冷静になる
  2. 事実と感情を分離して客観的に記述する
  3. 企業の改善機会として建設的な内容にする
  4. 過度な拡散や炎上を意図しない

5-2 カスハラ防止条例が描く共存社会

カスハラ防止条例の最終目標は、企業と消費者が互いに尊重し合う成熟した社会の実現です。

理想的な共存社会の特徴

  • 相互選択の時代:消費者が企業を選び、企業も顧客を選ぶ双方向の関係
  • 品質向上の循環:適切な顧客からの建設的フィードバックによるサービス改善
  • 働きがいのある職場:従業員が安心して力を発揮できる環境
  • 持続可能なビジネス:健全な取引関係による長期的成長

この新しい社会では、以下のような好循環が生まれることが期待されます。

  1. 従業員の労働環境改善 → サービス品質向上
  2. サービス品質向上 → 顧客満足度向上
  3. 顧客満足度向上 → 企業価値向上
  4. 企業価値向上 → さらなる投資と改善

まとめ:カスハラ防止条例がもたらす新時代

カスタマーハラスメント防止条例は単なる規制ではなく、日本のビジネス文化を根本から変革する契機となります。企業は今こそ、従業員を守りながら持続可能な成長を実現する新しいビジネスモデルの構築に取り組むべき時です。

条例施行を待つのではなく、今すぐカスハラ対策の体制整備を始めることが競争優位性の確保につながります。従業員が安心して働ける環境づくりは、必ず企業価値の向上という形で返ってくるでしょう。

誰もが尊重され、安心して働き、質の高いサービスを受けられる社会の実現に向けて、カスタマーハラスメント防止条例は重要な一歩を刻んでいます。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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