時間管理
2025.8.28
目次
前回の記事では「時間とは相対的な感覚である」という視点から、時間管理の本質が「行動管理」であることをお伝えしました。ここで、もう一つ大切なテーマに入ります。それは「管理とは何か」という問いです。
私たちは日常的に「管理職」「マネジメント」「品質管理」「時間管理」といった言葉を使いますが、管理という概念を正確に定義しようとすると意外に難しいものです。
私自身、仕事柄マネジメントや管理について数多く学んできました。本を読み、講習会に参加し、さまざまな人の意見を取り入れようとしたのですが、学べば学ぶほど定義が良くわからなくなってきたというのが本音です。
というのも、学者やコンサルタントなど、人によって「管理」の意味づけがそれぞれに異なるからです。そこで私は考え方を切り替え、自分なりに管理を定義することにしました。その結論が「管理とは物事をあるべき状態に保つことである」というものです。
この定義を具体的にイメージいただくために、ひとつ例を挙げましょう。
ある工事現場で親方と弟子が作業をしていたとします。そこで、親方が弟子に「あれを持ってきてくれ」と頼むと、弟子は「分かりました」と答えて探しに行きます。しかし、いくら探してもその道具が見つかりません。最終的に弟子は「すみません、どこにあるか分かりません」と答えることになります。
親方が叱責するのは当然です。「ちゃんと管理しておけと言っただろう!」となるわけです。ここでいう管理とは、使いたいときにすぐに使える状態を保つことです。つまり、整理整頓をし、必要なものを必要なときに取り出せるように準備しておくことが管理に相当します。
この視点で見ると、私たちが普段行っている多くの「管理」という行為が、すべて「あるべき状態を維持する」ための取り組みであることが分かります。
では、別の例について考えてみましょう。例えば「売上管理」です。売上管理の第一歩は何かというと、まず「いつまでに、どれくらいの成果(売上)を出したいのか」を明確に決めることです。これが目標設定であり、「あるべき状態を決める」ことです。
仮に「1年間で1億2000万円の売上を達成する」という目標を立てるとします。このとき、逆算をして「そのためにどのようなプロセスを踏めばよいか」を考える必要が出てきます。これが計画です。均等に割り振れば「1か月で1,000万円」という計画になります。ここで初めて、日々の業務が具体的な数値目標に落とし込まれるのです。月に1,000万円の売上を立てるためには、どれくらいの顧客に、どれくらいの提案を行えば良いのか。それを逆算して考え、具体的な計画にしていきます。
そして、計画を立てたら、それを実行に移します。するとどうなるか。必ずといって良いほど、ズレが生じます。思い通りにはいかないのです。思い通りに進むことのほうが珍しく、予想外のトラブルや想定外の状況はほぼ発生します。
しかし、これは当然のことです。なぜなら、計画は未来を完全に予測できない中で作られた仮説に過ぎないからです。実際に動き出せば、計画と現実の間に差が出るのは自然なことなのです。
大切なのは、このズレを放置しないことです。例えば「今月は1,000万円を目標にしていたのに、実際には500万円しか達成できなかった」としましょう。この場合、残り11か月で1億1,500万円を達成するために、計画を立て直す必要があります。これが「軌道修正」です。
軌道修正した新しい計画をもとに次の月に取り組んでも、また何らかの理由でズレが発生します。そこで再び修正を加える。この繰り返しこそが、いわゆる「PDCAサイクル」です。計画(Plan)、実行(Do)、確認(Check)、改善(Act)のサイクルを回すことが、管理の本質と言えるのです。
ここで重要となるのが、修正のタイミングです。ズレを早期に発見し、傷が浅いうちに修正することが欠かせません。もし日々の売上や受注の状況を全く確認せず、10か月が過ぎた時点で「まだ2,000万円しか売れていない」と気づいたらどうでしょう。残り2か月で1億円を達成することはほぼ不可能でしょう。これではもはや手遅れです。
だからこそ、管理には「こまめにチェックする」という姿勢が必要となります。これは施工管理など、プロジェクトの管理でも同じです。2週間の工事で進捗確認を怠り、残り3日になって大幅に遅れていると分かっても取り戻せません。だから毎日進捗を確認し、少しのズレもその場で直すのです。これが管理の核心だと言えるでしょう。
ここまでの説明を読んでいただくと、「管理とはあるべき状態を保つ」という定義が、売上や施工だけでなく、あらゆる場面で当てはまることがご理解いただけると思います。
当然、この定義は時間の管理にも当てはめることができます。時間管理とは、予定していた時間の使い方と実際の行動を比べ、そのズレを放置せずに修正するなのです。
例えば「今日はこの3時間で資料を作る」と決めたとします。しかし、実際に取り組んでみると予想外に調査に時間を取られてしまい、1時間しか資料作成に使えなかった。こうした場合、そのズレを自覚し、「では翌日は調査を簡略化してでも仕上げに集中する」と修正を加えることが管理なのです。
もしこの修正を怠れば、「想定より大幅に遅れている」という状況に後から気付くことになります。売上管理や施工管理と同じで、傷が浅いうちに修正を加えれば立て直しは可能ですが、最後になって大きなズレに気付いても取り返しがつきません。だからこそ、時間管理においても日々の確認と小さな修正を積み重ねることが重要なのです。
売上管理、施工管理、時間管理など、分野が違っても管理の根本は同じです。最初に「こうあるべき」という目標や計画を立て、実際に行動してみて生じるズレを確認し、修正を加えて再度実行に移す。この繰り返しによって初めて「あるべき状態を保つ」ことができます。
品質管理も同じです。本来あるべき基準値を定め、それに対して製品やサービスの品質を測定し、基準から外れていれば修正する。原価管理もそうです。想定したコストと実際の支出を比較し、差が大きければ調整をかける。顧客管理も、理想とする顧客との関係性を基準に置き、それに照らして実態を点検し、必要に応じて改善を加えるものです。
こうして見ていくと、「管理」と名のつくものはすべて、実は同じ構造で成り立っていることが分かります。つまり「あるべき状態を設定する」「現実との差を把握する」「修正する」という3つの流れを繰り返すことなのです。
「管理」は複雑な理論ではありません。目標や基準を定め、それを維持するためにズレを見つけて修正を繰り返す。これがすべてです。難しい言葉で飾る必要もなく、非常にシンプルな手順なのです。
ただし、このシンプルさを軽視すると管理は形骸化します。「計画を立てたから大丈夫」と安心してしまったり、「多少のズレは仕方ない」と放置したりすれば、最後に大きな破綻を迎えることになります。だからこそ、日々小さな修正を積み重ねるという地道な姿勢こそが、管理を成功させる唯一の道なのです。
「管理とはあるべき状態を保つこと」。この定義を持って日々の業務にあたると、売上も時間も人材も、すべてのマネジメントが共通の構造で理解できるようになります。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次世代リーダーや自律型人材を育成する仕組みづくりや社員教育をお考えの経営者、管理職、人事担当者の方々。下記よりお気軽にお問い合わせください。(全国対応・オンライン対応も可能です)