時間管理
2025.10.4
目次
前回までの続きです。
時間の使い方の現状を確認し、課題が見えてきたら、次にやるべきはスケジュールへの落とし込みです。何を優先的に行い、何を後回しにするのか。ここで判断を間違えると、重要なことが後手に回り、目先の緊急対応に追い回される日々から抜け出すことができません。
優先順位の判断の質を上げるためには、「重要度」と「緊急度」の二軸で考えることが必要です。
緊急度だけではなく、重要度も考慮する必要性をイメージするために、「きこりのジレンマ」という寓話をご紹介します。
森の中で木を倒そうと、一生懸命ノコギリをひいているきこりに会ったとしましょう。
旅人「何をしているのですか?」
木こり「見れば分かるだろう。この木を倒そうとしているんだ」
旅人「すごく疲れているようですが・・・いつからやっているんですか?」
木こり「かれこれもう五時間だ。くたくたさ。大変な作業だよ。」
旅人「それじゃ、少し休んで、ついでにそのノコギリの刃を研いだらどうですか。そうすれば仕事がもっと早く片付くと思いますけど。」
木こり「刃を研いでる暇なんてないさ。切るだけで精一杯だ。」
ノコギリの刃を研ぎ、切れ味を良くすれば、その後の作業効率が上がります。しかし、目先の木を切るのに手一杯なので、刃を研ぐ時間がない。これでは、いつまで経っても作業は楽にならないのです。
これは現代の仕事にもそのまま当てはまります。Excelの関数やピボットテーブル、マクロ、PowerPointのスライドマスターなどの技術を身につければ、その後の作業効率は格段に上がり、作業時間を大きく削減することができるでしょう。しかし、目先の仕事を優先し、学習や能力開発を後回しにするので、「効率の悪い仕事を長い時間かけて行う」という状態から抜け出せないのです。
優先順位を本質的に考える上では、「刃を研ぐ」優先度を上げ、その時間を意図的に確保する必要があります。時間を確保するために、重要度と緊急度の2軸をどのように活用して優先順位をつけるべきかを考えてみましょう。
まず緊急度についてです。納期が決まっている、日時が指定されている、今日中に対応しなければならない—こうした仕事は、誰もが優先することでしょう。理由は単純で、遅れれば「誰かに迷惑がかかる」あるいは「怒られる」からです。つまり私たちは、「他人の都合」を重視して、優先順位をつけているのです。
もちろん、他人の都合を優先することが悪いわけではありません。社会で仕事をする以上、他者に迷惑をかけないよう、円滑に仕事を進めるのは大切なことです。ただし、問題は「緊急性の高い仕事だからといって、それが重要な仕事だとは限らない」ことです。
そもそも、すべての人にとって最も重要な仕事は「自分の仕事」です。誰にとっても、自分の仕事は緊急で重要なのです。相手が言うことを鵜呑みにして、すべての仕事を緊急なものとして扱っていたら、それだけで常にスケジュールが埋まってしまいます。木こりのジレンマに例えると、切れ味の悪いノコギリで木を切り続けるようなものなのです。
ノコギリの刃を研ぐことは緊急ではありません。やらなかったからといって、誰からも責められることも、迷惑をかけることもありません。言わば「自分の都合」なのです。そのため、常に後回しになりがちになります。
しかし、刃を研がなければ、仕事の生産性は永遠に上がりません。状況を変えるためには、緊急度は低いが重要な「自分の都合」も優先させるようなスケジュールを組む必要があるのです。
仕事を重要度と緊急度の高低で分類すると、以下の4つの領域に分かれます。
このうち、優先順位を上げて意図的に時間を確保する領域が、「②緊急ではないが重要」です。ここがまさに「刃を研ぐ」に値する領域です。つまり、未来の状況を良くするための「投資」とも呼べる活動なのです。
筆者は、この「②緊急ではないが重要」に該当する活動を「投資活動」と呼んでいます。それをすることによって、未来を改善したり、問題を未然防止したりするための活動です。
具体的には、以下のようなものが該当します。
いずれも、今日の成果には直結しないかもしれませんが、「明日以降が良くなる」活動ばかりです。仕事をする上での資源を増やしたり、質を良くしたりするような活動です。
例えば、ナレッジ(知識や知恵)の共有は、まさに投資活動です。組織内で成功事例を展開すれば、次に似たような状況に直面した時、複数のメンバーが同じ成功を得ることができます。
失敗事例の共有も同様です。他者が似たような状況に陥った時に、失敗を回避できるようになるでしょう。これは「代理学習」と呼ばれる行為で、他者の経験を擬似体験として取り入れることで、さも自分もやったことがあるかのように、知恵やノウハウを身につけることができます。組織として働く最大の価値は、個人の経験を集合知へと繰り上げできる点にあると言えるでしょう。
部下や後輩の育成も投資活動です。忙しさを言い訳に「なんちゃってOJT」で丸投げや放置をしてしまうと、本人は成長が滞り、自分は仕事を任せることができず、いつまで経っても自分の負荷が軽くなりません。人材育成には手間や時間がかかりますが、そのための時間を確保して計画的に育成を行えば、やがて成長した部下や後輩に仕事が委任できるようになり、自分はより重要で本質的な仕事に集中できるようになるのです。
人間関係の構築も「②緊急ではないが重要」に属する典型的な活動です。人間関係の構築は「効率化」することはできません。時間をかけることが関係構築に直結します。豊かな人間関係を育むには、定期的に時間を投じていく必要があるのです。
例えば、営業の例で考えてみましょう。月末に数字が届かず、しばらく顔を出せていなかった顧客に久々に訪れたとします。すると、「こういう時しか来ないよね」と冷たく対応されてしまうことでしょう。
逆に、日頃から顔を出し、情報提供を続けて、相手にとって有益な存在であろうとし続けている人は、同じ状況に陥ったとしても「いつも来てくれているからね。何か仕事が出せないか考えてみるよ」と協力的な態度を示してくれることでしょう。人間関係の構築は「急がば回れ」なのです。
こうした「投資活動」には緊急性はありません。やらなかったからといって、当面は何かに困ることもないでしょう。しかし、日頃から有益な人間関係を育むことによって、いざという時に「① 重要かつ緊急」への対処に役立ちます。日々のスケジュールの中に「人間関係への投資」を組み込むことで、仕事を円滑に進める土壌を築くことができるのです。
ここまで見てきた通り、本質的な優先順位をつける上では、「②緊急ではないが重要」の活動に割り当てる時間を優先的にスケジュールに組み込むことです。後回しをしている限り、永遠にこの領域に着手することはできません。切れ味の悪いノコギリで木を切り続けるが如く、効率の悪い仕事を続けていくことになるのです。
こうした時間を意図的に確保していかないと、時間は瞬く間に他の領域の活動で埋まってしまいます。緊急ではないが重要なことを先にするスケジュールが必要なのです。
とはいえ、目先の仕事でスケジュールがすっかり埋まっている状況では、「②緊急ではないが重要」の時間を確保するのは至難の業です。時間を作り出すためにも、残りの3領域の性質を理解し、それらの活動にかかる時間を減らしていくことが必要になります。
最も優先順位が高くなる活動は「①重要かつ緊急」に分類されるものです。
ここに含まれるのは、組織の存続や人命に関わる事件・事故、顧客からのクレーム、設備の故障など、放置できない出来事です。これらの本質はイレギュラーやトラブルです。ひとたび発生してしまうと、他の業務を停止してでも最優先で対処に当たらねばなりません。
例えば、2023年1月に岐阜県で発生した「スシロー迷惑動画事件」はその代表例です。少年が醤油差しをなめる様子をSNSに投稿し、それらが拡散したことにより、全店休業、株価下落、オペレーション大幅変更という大規模な対応に追い込まれました。まさに重要かつ緊急な案件であり、通常業務を停止させるほどの影響がありました。
決して好ましいものではなく、少ない方が良いに越したことはありません。しかし、ひとたび発生してしまったら放置することはできず、最優先で対処に当たらねばなりません。いかにして「発生させないか」が重要な課題になります。そして、そのためには平時から「②緊急ではないが重要」な活動を進めておく必要があります。
例えば、「顧客からのクレーム対応」を考えてみましょう。これも「①重要かつ緊急」の代表例です。クレームが発生したら、いち早く顧客のもとに訪れ、謝罪の上、原因究明と再発防止に努めなければなりません。しかし、納品する商品やサービスを入念にチェックしたり、あるいは顧客との信頼関係を構築しておけば、クレームは最小限で済みます。
そもそも、クレームは日頃からの小さな不満(コンプレイン)が蓄積し、我慢の限界を超えたところでいよいよ表面化するという現象です。日頃からこまめなコミュニケーションを取っていれば、事前に察知して大事になるまえに防止することができるのです。そして、これらはすべて「②緊急ではないが重要」の活動なのです。
「①重要かつ緊急」は発生したら早急な対応が求められます。これを防ぐためには、問題が発生する前に「②緊急ではないが重要」な活動をコツコツと進めておく必要があるのです。
「①重要かつ緊急」を減らすためには、次のような活動を日常的にしておく必要があります。
いずれも、「②緊急ではないが重要」に該当する投資活動です。こうした活動は「いつかやる」ではなく「いつやるか」を計画的に決めておくのです。
設備の保全、1on1ミーティング、マニュアルの更新など、後回しにしたくなるような活動をカレンダーに入れましょう。日付を入れて、タスクにすることで、実行力を高めていけます。
さらに、人間関係への投資も重要です。日頃から顧客や社内の関係者に情報を渡し、困る前に相談できる関係を築いておけば、火種が見えた段階で声がかかります。イレギュラーやトラブルを未然に防止することができるのです。
次に考えたいのは、「④緊急でも重要でもない」の領域です。ここには、見せかけの忙しさ、漫然としたネット徘徊、雑談、愚痴、長電話、待ち時間の浪費、二度手間ややり直しなどが該当します。
当然、少ない方が望ましいですが、実際のところ完全にゼロにすることは難しいです。なぜなら、この領域の本質は「ストレス解消」だからです。さらに言えば、「①重要かつ緊急」が増えると、「④緊急でも重要でもない」が増えます。
例えば、午前中にずっとクレーム対応に追われたとしましょう。昼過ぎにそれが落ち着いたとして、午後にそれを挽回すべく猛烈に仕事ができるでしょうか。すっかり疲弊してしまい、午後は仕事にならなくなります。ついつい、長めの昼休みやデスクの片づけ、漠然とした情報収集に逃げたくなることでしょう。
「④緊急でも重要でもない」を直接減らすことは難しいのです。この領域を減らす鍵は、「①重要かつ緊急」を減らすことです。そして、上述の通り、「①重要かつ緊急」を減らすためには「②緊急ではないが重要」に時間を割かねばならないのです。
そうなると、時間を捻出する先は「③緊急だが重要ではない」しかありません。ここには、形式的な会議や報告、形骸化した資料作成、付き合いで参加する会合などが入ります。いずれも、日付や締切はあるため緊急性は高いが、決して重要とは呼べないようなものばかりです。
私が以前勤めていた会社では、月一の部門会議が最終営業日の午後に設けられていました。そして、月によっては上司から次のようなことを言われるのです。
「今月、議題が少ないので、話すネタを出してくれ」
これがまさに、手段の目的化です。本来、話すべきことがあるから会議をするはずなのです。しかし、会議の開催が目的になってしまい、そのための議題をわざわざ作り出す。そして、無理やり作り出したどうでもいい議題に対して、あーでもないこーでもないと、不毛な議論に時間をかけるのです。本末転倒です。
ここからしか時間は捻出できません。
これが、重要・緊急マトリクスの使い方であり、優先順位設定の流れなのです。
目先の「緊急なこと」に振り回される日々から抜け出すには、重要なことを先に行う優先順位づけが欠かせません。
誰からも何も言われないからと、つい後回しにしたくなりがちな「②緊急ではないが重要」を、計画的に、日常的に行う。そのために、まずは自分にとっての「③緊急だが重要ではない」は何かを特定し、1分でも、1秒でも削ることが大切です。その積み重ねによって、長時間労働に頼らないパフォーマンスの出し方が可能になるのです。
優先順位づけを行うためには、判断軸と判断ルールが必要です。投資活動を優先し、他の領域を減らす流れをつくることで、明日の時間に余白を生み出すことができます。
まずは、あなたも「③緊急だが重要ではない」を極限まで減らして、限られた時間を効果的な活動に充ててみてください。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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