リーダーシップ
2025.11.3

目次
多くの会社では、管理職や監督職は「リーダー」と「マネージャー」の両方の役割を同時に求められます。現場ではセットで語られ、区別せずに運用されがちです。ですが、実はこの二つは性質も目的もまったく異なる概念です。ここをあえて切り分けて理解することで、自分の強みと弱みがくっきりと見え、打ち手の精度が上がります。
私が行っているリーダー育成研修では、まず受講者さんに「リーダーは何をする人か」「マネージャーは何をする人か」を自分の言葉で整理してみてくださいと投げかけます。混同していると、頑張っているのに成果が伸びない、部下は動いているが空回りしている、といった行き詰まりが生まれます。それぞれの役割を捉え直すことが、最初の一歩になります。
この違いを理解するのに役立つのが、ハーバード大学でリーダーシップ研究を牽引したジョン・コッター教授の枠組みです。その定義によると、リーダーシップとは「環境変化に対応するために組織を変革する力」、マネジメントとは「複雑さに対処し、資源を配分して運用する力」と捉えられます。それぞれは、まったく別の能力なのです。

リーダーシップというと、方向性を示す、人々の気持ちを束ねる、モチベーションを高める、といったイメージが浮かぶでしょう。いずれも正しいのですが、その本質は「環境変化に対応して、今までと違うやり方へ組織を動かすこと」にあります。もし外部環境がまったく変わらないなら、今までと同じことを同じように続ければ良いのです。極端に言えば、リーダーシップは不要だということです。
しかし、現実は違います。国内では少子高齢化が進み、世界では人口爆発が起きています。戦争をはじめ、政治情勢も刻々と変化します。選挙の結果次第で政策が大きく揺れ、国際関係も一夜にして様変わりします。昨日までの前提が今日変わることがある世の中です。そこを走り続けるのは容易ではなく、時に従来のやり方そのものを変える必要も生じます。ここで必要になるのが、変化に対応し、組織の変革を推進する「リーダーシップ」です。
その上で大切なのは、何かを変えることは多大なエネルギーを要するということです。人間にとって最も楽なのは前例踏襲です。一方、未知のことには失敗がつきものです。新しい試みは一度では上手くいかない方が普通なのです。それでも試行錯誤を続け、周囲を巻き込み、前に進める推進力—それがリーダーシップの中核にあるのだと私は考えます。
一方、マネジメントとは、計画を立て、予算を組み、組織を編成し、人員を配置し、問題に対処する営みです。コッターは「マネジメントとは複雑な状況に対処すること」と表現します。
イメージを捉えるために、規模を小さくして考えてみましょう。あなたはラーメン屋を営んでいるとします。自分一人で切り盛りする小さなラーメン屋で、メニューは一種類のみ、席は2〜3席で、お客様は常連さんが数名のみ。こんなシンプルなビジネスなら、マネジメントはほとんど要りません。頭の中の感覚だけで十分回せるからです。
ところがメニューが増え、来店客が増え、従業員が増え、店舗が増え、業務が多様化すると、一気に複雑になります。そこで問われるのがマネジメントです。ヒト・モノ・カネの資源をどこにどう配分するか、工程をどう設計するかという「仕事を整える力」が不可欠になるのです。
ビジネスとは、経営資源を配分し、付加価値を生み、製品やサービスを提供することで、人や組織のニーズを満たす営みです。マネジメントは、その資源を「効果的に」「効率的に」運用する設計と統制の営みなのです。目先の段取りだけではなく、全体最適に向けた資源配分の意思決定こそが肝になります。

ここで重要な対概念が「効果的(Effectiveness)」と「効率的(Efficiency)」です。
「効果的」とは、自らが掲げた目的や目標に合致しているか、つまり「価値のあることをしているか」という基準です。どれほど一生懸命に働いたとしても、目的や目標に沿わない作業になってしまったら、それは効果的とは言えません。まず「それはやる意味はあるのか」を問う視点が欠かせません。
一方、「効率的」とは、同じ成果を出すために投入する資源をいかに減らすかというアプローチです。つまり、「必要最低限でやれているか」「賢くやれているか」という基準です。より短い時間、より少ない人員、より低いコストで同等以上の結果を出す工夫が求められます。
現場でよく起きるのは、効率ばかりを高めて、そもそもやる必要のない作業を短時間・高速化してしまうことです。どれだけうまいことやったとしても、それが目的や目標に沿っていなければ意味がありません。そのため、まずは「効果的」であることを考え、その上で「効率的」に進めていくことが必要です。順番が大切なのです。
私の拙い経験から申し上げるならば、マネジメントの成果の8割は「誰に、何を、どこまで任せるか」で決まります。担当の適性や意欲を見極め、任せる範囲と自分が関与する境界線を引くことです。理想は適材を採用することですが、現実には今いるメンバーで対処せざるを得ない場面が大半です。だからこそ、仕事の割当と育成をセットで設計し、足りない力は教育で補い、役割と期待を明確にする—これが資源運用の実際かと考えます。
リーダーシップとマネジメントは、どちらか一方で完結するものではありません。私はしばしば、リーダーシップを「何を、なぜ、やるのかの設計図づくり」、マネジメントを「どのようにしてやるのかの施工管理」と例えます。設計図そのものが間違っていたら、いつまで経っても建物は完成しませんし、建てたとしてもすぐに崩れます。一方で、設計図がしっかりかけていたとしても、計画や予算を作ってそれを管理していかなければ、現実的に建てることができません。
管理職にとって重要なのは、たとえ日々の仕事でマネジメントに追われていたとしても、環境変化を見据えて、設計図を描き直す時間を確保することです。目の前の仕事を回しながらも、将来を見据えて次の青写真を描く、そこに向けて具体的な一歩を踏み出す。リーダーシップとマネジメントの両方が必要になるのです。

ここまで、リーダーシップとマネジメントがまったく異なる性質を持つことを見てきました。では、実際の現場ではどのように両者を使い分け、あるいは組み合わせればよいのでしょうか。
私たちは誰しも得手不得手があります。リーダーシップに優れている人もいれば、マネジメントに強い人もいる。どちらかが欠けると組織は長続きしません。両方を一定の水準で維持し、相互補完しながら機能させることが、管理職の役割です。
リーダーシップが強くマネジメントが弱い人は、勢いはあるものの「どんぶり勘定型」になりがちです。目標を掲げ、チームを鼓舞し、勢いで前へ進もうとするものの、計画や進捗管理、予算管理が甘くなる傾向があります。やる気はあるけれど、現実的な制御が効かず、結果的にチームを疲弊させてしまうことも少なくありません。
逆に、マネジメントが強くリーダーシップが弱い人は、「事なかれ主義型」に陥りやすいです。進捗や予算の管理、計画の実行などは正確にこなしますが、現状を変えようとしない。「去年と同じでいい」「余計なことはしない方がいい」という考え方で、安定を重視しすぎるのです。結果として、変化に対応できず、組織は徐々に時代遅れになってしまいます。
このように、どちらかに偏ると短期的には成果が出ても、長期的な成長は見込めません。リーダーシップとマネジメントは、まさに両輪のようにバランスを取って動かすことが大切です。
私がこれまで100社以上を見てきた経験から言えば、日本企業の管理職には「事なかれ主義型」が圧倒的に多い印象があります。どちらかというと真面目で慎重で、無難にまとめようとするタイプです。
例えば、「何か課題はありますか?」と聞くと、「特にありません」と答える管理職が非常に多いのです。しかし、本当に課題が一つもない組織など存在しません。問題がないように見えるのは、理想を高く掲げていないからです。
理想を高く掲げれば、現状とのギャップが必ず見えてきます。そのギャップこそが課題です。しかし、理想を掲げない人にとっては、現状が「ちょうどいい」状態に見えるため、課題が見えません。これが、変化に取り残される組織の典型的なパターンです。
マネジメントだけに偏ると、短期的には秩序が保たれますが、長期的には環境変化に対応できず、組織は硬直化していきます。だからこそ、管理職こそがリーダーシップを発揮し、未来志向の課題設定を行う必要があるのです。

ここで一つの問いが生まれます。「結局どちらを優先すべきか?」ということです。もちろん両方とも大切なのですが、私の考えでは、あえて言うならリーダーシップのほうが重要です。なぜなら、リーダーシップは「何を」「なぜやるのか」を定める力であり、マネジメントは「どうやるか」を整える力だからです。
いくら上手に「どうやるか」を最適化しても、「何を」「なぜやるのか」が間違っていたら、意味がありません。どれほど効率よく動いても、効果的でなければ欲しい成果が得られないのです。つまり、方向性を誤ったまま完璧に管理することほど、危険なことはないのだと言えるでしょう。
リーダーシップとは、理想を描き、それに向けて人々を動かす影響力です。理想がなければ、マネジメントは単なる現状維持の装置に過ぎません。だからこそ、まずリーダーが「何を目指すのか」を明確にし、その後で「どう実現するか」をマネージャーとして設計していく。この順番を守ることが、成果の出る組織運営につながります。
では、リーダーシップとマネジメントを現場でどのように両立させれば良いのでしょうか。私は、次のようなステップで考えることをおすすめします。
まず、リーダーとして「理想を掲げる」。組織が今より少しでも良くなるためのビジョンを明確にします。これは壮大である必要はありません。「このチームをより主体的にしたい」「顧客満足度をもっと上げたい」など、現場に根ざした理想で構いません。
次に、マネージャーとして「実現の仕組みを作る」。その理想を実現するために、どの業務を見直すか、どこに人と時間を配分するかを整理します。必要であれば育成や教育も組み込み、理想に向かって進むための道筋を整備します。
そして、実行段階では、再びリーダーの出番です。チームのモチベーションを高め、方向性を示し、壁にぶつかった時に前へ進む勇気を与える。こうしてリーダーシップとマネジメントを交互に発揮することで、組織は「安定と変革」を両立できるようになります。

リーダーシップとマネジメントは、どちらも管理職に欠かせないスキルです。リーダーシップは「何を、なぜやるか」を定める力。マネジメントは「どうやるか」を整える力。この二つを両立させることが、組織の持続的成長につながります。
特にこれからの時代、変化を恐れず挑戦するリーダーシップの比重が高まっています。現状維持に安住するのではなく、理想を掲げ、その実現のためにマネジメントを駆使する。この順序を意識することで、組織もチームも、確実に前進していくことができるはずです。
リーダーシップとマネジメント—その両輪をバランスよく回しながら、時代に応じた柔軟な組織運営を目指していきましょう。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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