有事の際に求められるリーダーシップ、スピード、シンプル

昨日のニュース記事で、GW明けに予定されている緊急事態宣言の解除が延長されるというものがありました。

緊急事態宣言“来月6日全面解除は困難”政府内の意見強まる(NHK)

結論はもう少し先になるでしょうが、宣言解除が即収束になるわけでもなく、依然として長期戦の様相が感じられます。いまこうしている間にも、毎日懸命にお仕事をされている医療、流通、インフラの方々に感謝申し上げるとともに、安全を祈るばかりです。

評価の分かれ目は何か

外出自粛が本格的に呼びかけられるようになって、1ヶ月以上が経過しました。めまぐるしく状況が変わる日々が続いていますが、世論の声には一定の傾向が見られるようになってきたように思います。

北海道の鈴木知事、大阪府の吉村知事、東京都の小池知事らを高く評価する声が多く見られる一方、国の政策に対しては非難の声が目立ちます。自治体と国では役割が異なり、自治体の首長は前線で具体的なアプローチを取る立場なので、良い目立ち方をしやすいという面はあります。

とはいえ、国も決して無策というわけではなく、この1ヶ月強の間にいろいろな政策を打ち出しています。それでも、これだけ評価が分かれるのは、政策が直接的か間接的かということだけではないように思います。政策内容の是非は別として、支持を集めるリーダー像を考察する上では、行政をめぐる一連の動向は非常に関心深いです。

高評価のポイントは、リーダーシップ、スピード感、シンプルさにあると考えます。

これは行政に限ったことではなく、民間企業を含め、あらゆる組織に共通する話でもあります。そして、有事の際に限った話でもなく、オンライン化、デジタル化によって変わりゆくこれからの世の中で、こうしたリーダー像は非常に重要になってくるのではないかと思います。

リーダーに求められる行動

リーダーシップ論の権威の一人であるジョン・P・コッターによれば、リーダーの役割は「変化に対処すること」です。いま私たちが置かれている状況は、新型コロナウィルスという未知の脅威への対処ですので、平時に比べてもより一層強いリーダーシップが求められることになります。

そして、リーダーに求められる行動として、マッキンゼー出身のコンサルタント伊賀泰代さんは、次の4つを挙げています。

  1. 目標を掲げる
  2. 率先して行動する
  3. 決断をくだす
  4. 伝え広める

高い評価を得ている首長の方々は、これらをすべて網羅しているように見えます。

目標を掲げるという点については、国も他の自治体も概ね、感染拡大を防止するという目標で一致しています。評価の差を分けているのは、それ以外の3項目です。人の心を動かす説得力が発揮できるかどうかは、リーダー自身が率先して行動しているかに大きく影響します。

他人に求める前に、まず自分から

Twitterで「#吉村寝ろ」「#百合子ありがとう」などのハッシュタグが広まっているように、献身的な仕事の姿勢は人の心を打ちます。

今回の外出自粛などのように、他人に対して何かを要求する時ほど、この率先行動が重要です。

リーダーシップ教育のNPO法人を主宰されている野田智義さんは、リーダーシップの発達を次の3段階に分けています。

  1.  Lead the Self(自分自身をリードする)
  2.  Lead the People(人々をリードする)
  3.  Lead the Society(社会をリードする)

人々をリードする前段階として、まずは自分自身をリードすることが求められます。つまり、他人事ではなく当事者意識を持って、他人に言う前にまず自分がやるべきことをやっているかが問われるということです。

その点、連日のように記者会見で矢面に立つリーダーは率先している「感」が強く、Lead the Selfを感じさせてくれます。手作りマスクを着用して会見に臨む姿も、マスクの着用を要請する説得力として非常にパワフルです。

一方で、国民にマスクの着用を求めていながら、自分たちがマスクをしていないという閣僚の姿は、人々からの反発を強く招きました。民間にリモートワークを求めていながら、国会は3密状態での審議を続けていますし、助成金を申請しようにも官庁(自治体もですが)は人であふれかえって感染リスクが極めて高い状態になっています。

すぐにオンライン化できない状況があることは否めないにせよ、自分たちを棚に上げて、他人にだけ変化を求めるのは反発を招くだけだというのが見て取れます。やはり、「他人を変えようとする前に、まず自分から」が黄金律なのです。

スピードは質を凌駕する

2月28日、北海道の鈴木知事は全国に先駆けていち早く、独自に緊急事態宣言を発令しました。とても勇気のある決断だったと思います。また、大阪府では、食品デリバリーの500円引き、防護服不足に対処するための雨合羽の買い取り、営業しているパチンコ店の公表など、かなり積極的なアプローチが矢継ぎ早に打ち出されています。

有事の際には様々な決断が求められます。確実な正解はなく、判断が難しいものばかりだと思います。それでも、決断に評価が得られるかどうかは、スピード感に大きく影響されます。どんな結論であったとしても、判断は早く出すことが望ましいです。

早く結論を出すことで、前に進む行動が取れるようになりますし、仮に判断が間違っていたとしても、早く決めておけばその後のリカバリーが効く可能性が高いと言えます。決断が遅くなってしまうと、後から誤りに気づいたとしても、すでに手遅れになってしまうこともありえます。

世帯へのマスクの配布にしても、10万円の支給にしても、もし決断が1ヶ月早かったら評価は現状とは大きく異なったのではないかと思います。

ビジネスシーンでも同じですが、人は待たされれば待たされるほど、無意識のうちに期待値を上げてしまいます。早く結論を出せば問題なかった内容だとしても、それが遅くなるだけで「さんざん待ったのに、結論それかよ」という気持ちになります。内容はまったく同じだったとしても、評価はまるで異なるのです。

スピードは質を凌駕する。一連の動きの中で、改めてそれを思い知らされます。

シンプルに伝える

また、決断と並ぶリーダーの重要な役割が「伝える」ことです。特に、老若男女も問わず、価値観も多様化している人々を一同に動かすためには、明確にわかりやすく伝えられることが必要です。「リーダーは言葉で人を動かす」のが仕事だとも言えます。

小池都知事が評価を急激に上げてきたのは、東京オリンピック延期が決まって以降、毎日のように新たな打ち手を講じ、それを記者会見でプレゼンするようになってからかと思います。(オリンピックの結論が出るまでは難しい立場だったと思いますが、それまでは批判の声の方が多かったように思います)

前職のご経験もあり、声や言葉づかい、話し方などが長けていらっしゃることもありますが、それでも最初の頃は「ロックダウン」「オーバーシュート」などカタカナ語の多様に批判の声も少なくありませんでした。ところが、次第にそれが修正されて「外出自粛」「集団感染」など、わかりやすい言葉に置き換えられていき、また日増しに訴求内容がシンプルになっていったように思います。

YouTuberヒカキンさんとの対談がニュースでも話題になりましたが、話題の動画の中では視聴者層が若者だったこともあってか「3つの密を避ける」「家にいてください」というシンプルなメッセージを、何度も繰り返していました。

複雑な内容、長い発言は人々の記憶に残りにくいです。覚えてもらい、理解してもらう上では、メッセージはシンプルであることがとても重要であり、かつ記憶に残すようにするためには、それを何度も繰り返すことが有効です。

スピード&シンプル

事態が混乱を極める状況下では、物事はシンプルであることが大切です。複雑になればなるほど、印象はより悪くなっていきます。

一律10万円支給が決まる前、特定条件の方に30万円を支給することが検討されていましたが、批判の声が多かった要因は金額の大小というよりも、支給条件や手続きの複雑さにありました。

また、休業要請に応じた企業に対する雇用調整助成金の上限が8,330円まで引き上げられることが決まりましたが、書式が複雑で社会保険労務士でなければ書けない、審査に時間がかかりすぎる(その前にキャッシュが回らなくなる)など批判の声が多く見受けられます。

雇用調整助成金の全額助成を決定、厚労省 中小企業に一定額まで(TBS News)

変更が相次いでいるので、窓口となるハローワークの職員も制度理解が追いついていない状況もあるようで、金額の大小以前に、手続きの煩雑さと支給までの期間(2-3ヶ月かかるそうです)が反発を招いています。

こちらも、今より少額だったとしても、手続きがシンプルで、申請から受給までの流れが早いものであったらなら、高い評価を得たのではないかと考えます。

「変化の時代」のリーダー像

緊急事態宣言の解除はともかく、ワクチンの開発と臨床が完了して、それが世界中に行き渡るまでにはまだまだ時間がかかります。1年半を要するという主張が有力なように見えますが、HIVやSARS、MERSのワクチンもまだできていない状況を考えると、果たして本当に、そんなに簡単にできるのかという疑問もあります。

当面の間は、2mの社会的距離と3密回避を保ちながら、ゆるやかに活動範囲を戻していくことになると思います。そして、この間に経済・社会面でのオンライン化、デジタル化が急速に進みます。数年かかって、人類が新型コロナウィルスを克服できる時がきたとして、その頃にはすでに違う世の中になっていることは想像に難くありません。つまり、しばらくは激しい変化が起き続けるのです。

変化への対処はリーダーシップそのものであり、その行動にはスピード&シンプルが求められます。

そして、組織上の職位を要するマネジメントと異なり、リーダーシップは誰しもに求められる要件になります。リーダーシップに役職は必要なく、リーダーシップがなくては世の中の変化についていけなくなるからです。

言わば、一億層リーダー時代を迎えることになったということです。もはやリーダーシップは私たち一人ひとりに求められるようになったと言えるでしょう。

 

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

  

投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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