リーダーシップ
2025.11.17

目次
これまで多くの企業でリーダー育成やマネジメント支援に携わっている中で、私はリーダーに求められる行動は大きく分けて2つあると考えています。
1つは「目標を達成するための行動」、もう1つは「チームを作るための行動」です。 この2つのバランスが取れてこそ、生産性が高く、モチベーションの高い組織が生まれます。
まず前者の「目標を達成する行動」についてです。これは企業にとって欠かせない基本的なプロセスであり、日々の業務を円滑に進めるための柱です。具体的には、目標を立て、計画を立案し、実行に移し、その進捗を管理し、必要に応じて修正していく―いわゆるPDCAサイクルを指します。
あなたの職場でもきっと、この行動が行われていることでしょう。例えば、建設業であれば工事の進捗を確認し、納期に間に合うように段取りを調整する。営業であれば、顧客対応や数字の管理を行いながら、売上目標を追っていく。
その経験の蓄積によって計画の精度が上がり、チームの段取り力が磨かれ、結果的に生産性が向上していくのです。これがリーダーとしてまず求められる行動のひとつです。

そしてもう一つの行動が「チームを作るための行動」です。
これを支えるのがコミュニケーションです。リーダーにとって、コミュニケーションの取り方をどう工夫するかは非常に重要なテーマです。なぜなら、目標を達成する力がいくら高くても、人がついてこなければ組織としての力は発揮できないからです。
このコミュニケーションには、2つのタイプがあります。1つは「パーソナル・コミュニケーション」、もう1つは「マス・コミュニケーション」です。
パーソナル・コミュニケーションとは、「1対1で話すこと」です。部下やメンバーと個別に対話し、相手の考えや状況を理解しながら関係性を築いていくスタイルです。
一方、マス・コミュニケーションとは「集団でのやりとり」です。たとえば会議やミーティングのように、複数人を相手に同時に情報を共有したり、意思決定を行ったりする場面がこれにあたります。
この2つのコミュニケーションは、どちらが良い・悪いというものではありません。
それぞれ目的が違います。会議やミーティングのようなマス・コミュニケーションには、複数のメンバーに一度に情報を伝えられるという効率の良さがあります。また、そこにいる全員の意見やアイデアを集めることで、より良い意思決定ができるという利点もあります。
しかし、部下を育成したり、指導したり、モチベーションを高めていくといった「個人に働きかける」という面では、個人的なアプローチが欠かせません。
例えば、会議の中で特定の個人の課題について詳しく話し込むのは、他のメンバーにとっては退屈で非効率です。成果を上げているメンバーにとっては、「それは2人でやればいいのに」と、かえって士気を下げてしまうことでしょう。
私も以前、会社員時代に定例的な会議を数多く経験してきました。よくあるのが、マネージャーが「じゃあ先月の実績を○○君、報告して」と順番に発表させていくスタイルです。発表している本人以外のメンバーにとっては、正直それほど関係のない話が続く時間でもあります。
そして、達成できていない人がいると、その場でマネージャーが詰め始めます。答えに詰まりながら必死に言い訳する部下の姿を、他のメンバーが白けた目で見ている―そんな場面を何度も見てきました。
「早く終わらないかな」と思っている人が多い中で、こうしたやり取りを全体の前で行うのは、決して生産的ではありません。むしろ、うまくやれている人にとっては「時間の無駄」にしか感じられないのです。

ではなぜ、多くの職場でこのような非効率な会議が繰り返されるのか。理由のひとつは「時間がない」からです。リーダーもメンバーも忙しく、全員で手早く情報共有を済ませようとする。だから、本来は個別に話すべき内容も全体会議の中に押し込まれてしまうのです。
しかし、このやり方では部下のモチベーションもチームの士気も下がっていきます。1人ひとりが抱える課題や想いは、全体の中では扱いきれません。本来1対1で話すべきことを全体(マス)の場で扱ってしまうと、チームの温度が下がり、生産性も落ちていくのです。
だからこそ、リーダーには「2つのコミュニケーションを上手に使い分ける力」が求められます。会議やミーティングで全体をまとめる力も必要ですが、個別に向き合って、指導やコーチング、フィードバックを通じて信頼関係を築く力も同じくらい大切です。この両輪が噛み合ってこそ、チームを作っていくことができます。
とはいえ、現代の職場では圧倒的に「パーソナル・コミュニケーション」が不足していると考えられます。 理由はシンプルで、皆が忙しすぎるからです。リーダー自身が業務に追われ、部下との時間を取る余裕がないのです。
「コーチングをしよう」「傾聴しよう」「フィードバックを丁寧にしよう」と頭ではわかっていても、実際には時間が足りないのです。しかし、この「時間が取れない」という課題の根底には、実は「生産性の問題」があります。
本当に大切な1対1の時間を確保するためには、無駄な仕事を減らし、不要な会議を削り、仕事の効率を上げる必要があるのです。 業務がパンパンに詰まっていて、目の前の仕事を回すのに精一杯の状態では、当然ながら十分なコミュニケーションの時間を確保することができません。
つまり、「生産性を上げること」と「十分なコミュニケーションを取ること」は密接に連動しています。 余白のないスケジュールでは、部下とじっくり話すこともできません。リーダーが意識的に時間を生み出し、その時間をメンバーとの対話に使うことが、チームの成長には欠かせないのです。

部下を育成し、高い意欲を持って自律的に仕事をしてもらうためには、リーダーが「パーソナル・コミュニケーション(1対1)」にリソースを割くことが求められます。
しかし、実際の職場では、「1対1で話す時間を作っても、何を話せばいいのか分からない」という声もよく聞きます。これは、今のリーダー層の多くが「手取り足取り育ててもらう」という経験をしてこなかったことに原因があります。
昔の職場では、「仕事は背中を見て覚えろ」「現場で盗め」という文化が主流でした。 指導というよりは、先輩や上司の行動を見て学ぶのが当たり前。
そのため、「人を育てるための会話とは何か」というノウハウを体系的に学ぶ機会はおろか、自身の経験もない人が多いのです。昔は部下を1対1でじっくり育てるという発想は、今ほど一般的ではなかったと感じています。
加えて、当時の上司たちが「手厚く育ててくれた」という実感を持っている人は、正直あまり多くないように思います。「自分が困っていても放置された」「怒られて覚えた」「厳しく言われて育った」という経験を経て今に至る人が大半ではないでしょうか。
ですから、今になって急に「1on1をやれ」「部下と対話しろ」と言われても、やり方が分からないのは当然なのです。
もう一つ、現代ならではの難しさもあります。それは、かつて通用した指導方法が、今では通用しなくなっているということです。
昔は「厳しく指導する」ことが当たり前でした。しかし、今の職場ではそれをやるとすぐに「パワハラだ」と言われかねない時代です。もちろん、明らかに行き過ぎた叱責や人格否定は論外ですが、注意や助言までもがハラスメントと受け取られるケースも増えています。
だからといって何も言わずに放置してしまうと、成長の機会を奪うことにもなります。
こうした背景の中で、リーダーは「どうすれば適切に伝えられるか」「相手のやる気を引き出すにはどうすればいいか」を考えながら話す必要があるのです。つまり、今の時代のリーダーは「伝えるスキル」と「聴くスキル」の両方を持っていなければ、効果的なパーソナル・コミュニケーションを成立させることができないのです。

世代の違いも、コミュニケーションの難しさを生む要因です。昔は「企業が強く、社員は働かせてもらっている立場」という認識が一般的でした。いわゆる買い手市場であり、会社側が優位な構図があったのです。
しかし、今はまったく逆です。若い世代は「働く場所は選べる」「自分に合わなければ辞めればいい」という「売り手市場」の中で育っています。彼らにとって、職場は「教えてもらうのが当たり前」であり、上司は「サポートしてくれて当然の存在」なのです。
この価値観のギャップが、リーダー側のストレスにもつながります。「自分の時代はそんな甘えは許されなかった」と感じてしまう人も多いでしょう。しかし、今の時代は「上司の常識」よりも「部下の感じ方」が重視される時代です。「どうしても昔のやり方が通じない」という前提に立ち、時代に合わせて自分の伝え方をアップデートしていく必要があります。
では、現代のリーダーに求められるコミュニケーションのスタンスとは何か。それは「相手の求めるものを理解し、それを提供できる知識とフィードバック力を持つこと」です。
リーダーは単に指示を出す人ではありません。部下が「何を知りたいのか」「何に悩んでいるのか」「どんなサポートを必要としているのか」を理解し、それに対して適切な情報や助言を与える存在でなければなりません。
つまり、部下の「学びたい気持ち」を支えるパートナーであり、同時に「成果を出せるように導く人」である必要があるのです。
これは決して「甘やかす」という意味ではありません。リーダーが一方的に教えるのではなく、「どうしたら本人が自分で気づき、行動を変えられるか」を一緒に考えることがポイントです。相手の話をよく聴き、タイミングよく質問やフィードバックを返す。その積み重ねが信頼関係を生み、チーム全体のモチベーションを高めていくのです。
ここまで、「リーダーに求められる2つの行動」として、
についてお話ししてきました。
この2つはどちらか一方だけでは機能しません。いくら業績目標を達成できても、人が疲弊してしまえば成果は長続きしません。逆に、人間関係が良くても、業績が不振であれば組織は維持できなくなってしまいます。
リーダーの役割は、目標達成とチーム作りをつなぐことです。この両立を意識できるリーダーこそが、生産性向上とチームビルディングをともに実現し、組織を強くすることができるのです。
特に、1対1のコミュニケーションは手間と時間がかかります。しかし、そこに時間を投資し、人材を育成することが、組織の未来を育てる「急がば回れ」の方法なのです。
あなたもぜひ、まずは不要な仕事をできる限り削減し、メンバーとのパーソナル・コミュニケーションに時間を割こうとしてみてください。その一歩が、マネジメントの認識を変える重要なステップになるかもしれません。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
次世代リーダーや自律型人材を育成する仕組みづくりや社員教育をお考えの経営者、管理職、人事担当者の方々。下記よりお気軽にお問い合わせください。(全国対応・オンライン対応も可能です)