リーダーシップ
2025.11.21

目次
リーダーシップの考え方は、時代の流れとともに変化してきました。
最も古典的なリーダーシップ理論は「特性理論」と呼ばれるものです。これは、リーダーには生まれつき備わった資質があるという考え方です。知性や意欲、粘り強さなど、リーダーに求められる資質を様々な要素として仮説立て、その測定をすることによって「リーダーに向いている人」を見つけていくという考え方です。1940年頃までは、この考え方が主流とされていました。
しかし、時代が流れるとともに、この特性理論に疑問が持たれるようになります。もし、リーダーシップが生まれ持った資質であれば、その特性がある人は生涯を通してリーダーシップを発揮していくことになります。
しかし、実際にはそうではありません。かつてリーダーとして優秀だった人がその力を失ったり、逆に年を重ねてからリーダーとして覚醒する人もいます。
すると、リーダーシップは生まれ持った資質ではなく、リーダーにふさわしい行動をしているかどうかの問題なのではないかと考えるようになります。これが「行動理論」です。リーダーに求められる行動を学び、それを実践することで、リーダーにふさわしい能力を身につけていくという考え方です。1960年ごろに入ると、この理論が普及していきました。
今でも、行動理論の考え方は十分に通用します。とはいえ現実には、「リーダーとしてふさわしい行動」というのは画一的なものとは限りません。時と場合、状況、あるいはメンバー構成によって、リーダーに求められる行動は変化するものであり、「その場面に応じた振る舞い」を選択的に行っていくことが求められます。
そこで登場したのが「条件適合理論」という考え方です。中でも有名な理論の一つに「状況適合型リーダーシップ(SL:Situation Leadership)理論」というものがあります。この考え方の特徴は、メンバーの「仕事の成熟度」によって、リーダーが取るべきスタイルは変わるという点です。
つまり、リーダーシップ行動はひとつの形式に偏るのではなく、メンバーの状態に合わせて柔軟に変える必要があるということです。

状況適合型リーダーシップにおいて、メンバーの成熟度が最も低い段階で必要となるのが「指示型」です。これは、リーダーが具体的な行動を細かく指示し、管理と監督を強めるスタイルです。「はい、これをやってください」「次はこれです」「この手順で進めてください」といった具合に、1から10まで明確に伝える必要があります。
例えば、新入社員ばかりのチームや、中途入社したばかりで仕事の流れがわからないメンバーが集まっている場合には、この指示型が最も有効に働きます。右も左もわからない段階で「自分の判断で動いてみて」と言われてもできるはずがありません。だからこそ、この時期は丁寧に指示を出すことが正しいリーダーシップになります。
また例外として、メンバーが成熟している場合でも「緊急時」には指示型が望ましいケースがあります。災害、事故、重大トラブルなど、一刻も早く判断が必要な場合には、リーダーが独断で決めていかなければ事態は収束しません。多くの意見を聞いている余裕がない状況ではリーダーが指示を一本化し、チームを迅速に動かしていく必要があります。
メンバーは指示型で仕事を覚えていくにつれ、少しずつ成長していきます。
仕事に慣れ、基本動作が身につき始めると、これまでのように細かく指示を出してしまうことで、かえって成長を妨げることになります。そこで必要なのが、徐々に指示の度合いを弱め、本人が考えるきっかけを与えていく「コーチ型」への移行です。
コーチ型では、完全に指示をゼロにするわけではありません。これまでのように細かく説明するのではなく、メンバーが迷った時にこちらから問いかけをし、思考を促す形へと変えていきます。例えば「どうしたらいいですか?」と聞かれた時に「君はどう思う?」と返すようなイメージです。
このように対話を通してメンバーは自分で考える力を身につけ、応用力が鍛えられます。臨機応変な対応ができるようになり、自分で判断して動けるようになることで、仕事の質もスピードも向上していきます。指示型からコーチ型へ移行するタイミングは、メンバーが「基本的な仕事はできる」段階に達した頃です。

メンバーがさらに成長し、かなりの仕事を自力でこなせるようになってくると、次に必要となるのが「支援型」です。支援型は、メンバーの主体性を尊重しながらも、必要なリソースやサポートを提供していくスタイルです。
仕事自体はできるが、社内の人脈が少ない、権限が不十分、予算が足りないなどの理由で「力はあるのに成果が出しにくい」状況にある人を後押しするために機能します。例えば、上司や他部署との関係をつないであげる、社外の協力者を紹介する、過去の資料や有益な情報を提供する、一定の金額までの権限委譲を行うといった支援が当てはまります。
この支援によって、メンバーはより高いパフォーマンスを発揮できるようになります。リーダーとしては、裏側で環境を整える役割を担い、メンバーの仕事がスムーズに進むように後押ししていくことが重要です。
支援型の段階を経て、メンバーの能力がさらに成熟し、必要な経験・人脈・資源なども揃ってくると、いよいよ「委任型」の段階へと進みます。委任型とは、メンバーが自走できる状態を前提として、仕事を全面的に任せていくスタイルです。しかし、ここで重要なのは「任せる」と「丸投げ」は全く違うということです。
仕事を「任せる」と言っても、リーダーは依然として関心を持ち続ける必要があります。「うまくいっているかな」「困っていることはないだろうか」と見守り、必要な時には相談に乗れる距離感を保っておくことが大切です。ただ「任せたから、あとは全部よろしく」という態度を取ってしまうと、メンバーから見れば「結局自分がやりたくない仕事を押し付けているだけ」と感じられてしまう恐れがあります。
理想的な委任とは、メンバーが自らの力を発揮しやすいように見守りながら、リーダー自身はより重要な仕事に集中していくことです。任せれば任せるほど、チーム全体の生産性は上がり、リーダーは自分が担うべき高付加価値な仕事に時間を充てられるようになります。これが委任型リーダーシップの究極的な姿だと言えるでしょう。

状況適合型リーダーシップでは、メンバーの成熟度に応じて「マネジメントの強さ」と「リーダーシップの強さ」のバランスが変化します。成熟度が低い初期段階では、マネジメントを強めて細かく指示を出し、ビジョンや方向性を語って引っ張る割合は小さくなります。
逆に、成熟度が高くなるほど、細かい指示を続けるのは逆効果となり、むしろメンバーは窮屈さを感じるようになります。そのため、指示は弱め、ビジョン・目標・方向性といった「上位概念」で動機づける比率を高めていく必要があります。
このように、リーダーは常に同じ接し方をするのではなく、メンバーの状態を見ながら役割を変えていくことが求められます。チーム内には成熟度の高い人もいれば低い人もいるため、リーダーは複数のスタイルを併用していく柔軟性も欠かせません。状況に応じたスタイルの使い分けこそ、状況適合型リーダーシップの核心となります。
弊社では、自分のリーダーシップスタイルを振り返るための「リーダーシップスタイル診断」をご提供しています。5段階評価で設問に回答することで、あなたのスタイルは指示型・コーチ型・支援型・委任型のどこが強く表れているかを確認することができます。
リーダーは本来、どのスタイルも状況に応じて使える状態が理想ですが、多くの人は無意識のうちに得意な型・慣れた型に偏りがちです。
診断をすることで、自分の普段のスタイルが偏っていないか、あるいは今のチーム構成と照らし合わせて適切かどうかをチェックできます。診断結果は正解・不正解を判断するものではなく、あくまで「自分を客観視する材料」として活用することが重要です。

状況適合型リーダーシップでいう「成熟度」は「技能的成熟度」と「精神的成熟度」の2つで構成されます。この2つは必ずしも同じレベルではなく、アンバランスなケースもあります。
例えば、仕事の腕は確かで技能的には高い成熟度にある人でも、自分で考えることを避け、指示に頼る態度を取ってしまうと精神的成熟度は低い状態になります。この場合、能力はあるのに主体性が欠けているため、指示型に戻らざるを得ない場面も出てきます。
反対に、精神的にはやる気満々で、自分でなんでもやろうとするものの、技能が追いついていない人もいます。この場合は、本人の意欲が裏目に出てしまい、無謀な判断につながる恐れがあります。能力と精神が噛み合わない状態では、リーダーは適切なスタイルを見極める必要があります。
だからこそ、成熟度を判断する時には「技能」と「精神」の両方を見ることが求められます。どちらか一方だけが高くても十分ではなく、両方のバランスを見ながらスタイルを選び、成長をサポートしていくことが大切です。
現在のチームには、経験豊富なベテランもいれば、新人や中途入社でまだ慣れていないメンバーもいるでしょう。そのため、リーダーは相手に合わせてスタイルを変えられる柔軟さが必要になります。例えば、ベテランには委任型が適していても、新人には指示型で細かく教える必要があります。
スタイルをひとつに固定するのではなく、必要に応じて使い分けられるようになることが、リーダーとしての器の広さにつながります。どれか1つが優れているのではなく、状況に応じてすべてのスタイルを使い分けることが理想です。
診断結果を見て、自分のスタイルの強み・弱みを把握した上で、今のチームに最適なスタイルを考えることが大切です。成熟度が低いメンバーには指示を強め、高いメンバーには委任を増やすなど、現場の状況を踏まえてスタイルを調整することが、チーム全体の成長につながります。
状況適合型リーダーシップは、リーダーが常に同じ姿勢でいるのではなく、相手に合わせてスタイルを変える柔軟性を重視した理論です。指示型・コーチ型・支援型・委任型にはそれぞれの役割があり、メンバーの技能と精神の成熟度によって最適なスタイルは変わってきます。
リーダーは、自分の得意なスタイルだけではなく、すべてのスタイルを状況に応じて使えるようになることが望ましいです。診断ツールなどを活用して自分の傾向を知り、チームの現状と照らし合わせながら適切な関わり方を選んでいくことで、チーム全体の成長と成果につながります。リーダーの成長とは、状況を読み取り、柔軟に対応していく力そのものだといえるでしょう。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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