人材育成
2026.1.4

目次
人事制度とは、企業が従業員を管理・育成するための体系的なルールのことです。優秀な人材を採用し、育成し、配置し、評価する -こうした人事の仕事を行う中でも、人事制度は特に従業員を採用した後、その方々に働き続けていただく上での処遇や評価のルール・基準を定めたものと言えます。
人事制度は従業員の能力開発を促進し、より高い成果を上げるためにとても重要な存在です。また、モチベーションの向上と維持により、生産性や業績の向上につながります。さらに定着率の向上も期待でき、人手不足が課題となっている現代において、既存の従業員に長く働いていただくための環境整備が可能になります。こうした取り組みを通じて、組織の安定性や成長を図り、業績向上や経営理念の実現へとつなげることができるのです。

従業員の評価、報酬、昇進・昇格に明確な基準を設けることで、人事面での公平性と透明性を担保することができます。従業員の立場からすると、基準が明示されていることで、なぜ自分のポジションやランク、給料がその位置や金額なのかが理解できます。
また、次のステージに進むには「何が」「どれくらい」できるようになればいいのか、何年後に「どういうポジションで」「どれくらいの給与」をいただけるのか、その見通しが立つようになります。
明確なルールが決まっていないと、経営者の好き嫌いによって評価されたり昇進・昇格したりするのではないかという疑念が拭えません。「一生懸命頑張っても、結局好き嫌いで決められる」と感じてしまえば、やる気が下がってしまいます。明確なルールがあることで公平性・透明性が担保され、組織の秩序と安定を保つことができるのです。
経営者の側からしても、従業員一人ひとりに対して何を評価すべきなのか、貢献度に応じてどれくらい給与を上げたり下げたりすればいいのか、基準がないと毎回ゼロベースで考えなければならず、意思決定がしづらくなります。基準が決まっていれば、それに則って評価・処遇していけばよいので、自信を持って評価や処遇を伝えることができます。企業が安定的に事業を進めていく上で、人事制度は欠かせないものなのです。
人事制度の中心となるのが、「等級制度」「賃金制度」「評価制度」の3つです。これらは「人事制度の3本柱」と呼ばれます。そこに「教育制度」が加わって「4本柱」となる場合もあります。
その他に、労働時間や休暇に関する制度、福利厚生(社会保険、企業年金、転勤、住宅手当など)、退職金に関する制度などもありますが、人事制度の大枠を理解するには、まずはこの4つを押さえておく必要があります。
この4つの中で最も重要なのが「等級制度」です。等級制度が起点となって、他の3つの制度が運用されていくという位置関係にあります。等級制度とは、従業員の能力、職務内容、役職・責任の大きさによって、従業員のランクや階層を決めていく制度です。決め方は様々で、1級・2級・3級のように数字で表す方法、グレード制でP(一般階層)・L(リーダー層)・M(マネジメント層)のようにアルファベットで表す方法、一般社員・主任・係長・課長のように役職とグレードをリンクさせる方法などがあります。
等級制度があることで、それぞれの従業員が次にどのステージに行くのかが見える状態になり、昇進・昇格の基準も明確になります。これがキャリアアップ・スキルアップのモチベーション維持につながり、等級ごとに求められる能力や役割を見ることで、どういう能力を開発していけばいいのかが分かるようになります。
等級制度を設計する際に、最初に決める必要があるのが「会社が求める人物像」です。自社に即した等級制度を作る上では、すべての職種や等級に共通する要素をまず最初に定める必要があります。その要素を、役割や能力、責任範囲に応じて配分することで、一貫性を保ったかたちで職種や等級ごとの期待役割を明確にすることができます。
当社の人事制度コンサルティングでは、この「会社が求める人物像」を明文化することにかなり時間をかけます。人事のための人事であってはならず、目的はあくまでも「経営理念の実現」です。会社が目指しているビジョン、大事にしたい使命感・価値観、長期的な方針・戦略と人事制度(特に等級制度)が合致していなければなりません。
まず会社の事業があり、そこから「求める人物像」が定まり、その人物像を階層別に具体化したものが等級制度となります。これが、賃金や評価、教育のあり方を決めていく土台となるのです。

賃金制度は、従業員に支払う給与や賞与の金額を決める基準となるものです。基本給や役職手当、通勤手当、家族手当、住宅手当など様々な項目について、基準と金額を規定します。
特に、基本給は等級制度と密接に関連しています。等級によって基本給の範囲が定められ、同一等級の中で幅があるものの、基本給を大きく引き上げるには等級が次のランクに昇格することが求められる設計となることが多いです。
仕事のやりがいや楽しさも大切ですが、賃金がモチベーション維持の重要な要素であることは否めません。たとえ満足度の高い仕事であっても、金銭面で生活が成り立たなければ、その仕事を続けることは難しくなります。働きぶりに応じて正当な賃金を払うことが、その人に報いることになり、会社に残ってもらうための動機付けにもなります。さらに、賃金水準が高ければ優秀な人材が応募してくれるため、採用面でも賃金制度の設計は非常に重要です。
給与と賞与は基本的に考え方が異なります。給与は「日常の働きぶり」に対して支払うもので、基本的には等級や役職に紐づいて決まります。一方、賞与は「利益の還元」という側面を持ち、会社が儲かったことに対して従業員に還元するものです。等級や役職が基準になるものの、賞与では仕事の成果をより大きく評価します。
成果には波があります。今年は成績が優秀でも、来年は全然ダメだったという場合もあります。しかし、その場合でも、基本給を大きく下げることは極めて困難です。社会通念上も許され難いです。成果によって賞与を変動させることはあっても、月々の給与を成果によって上げ下げすることは現実的ではありません。
そのため、「やるべきことをやってくれているかどうか」に対して基本的な給与を支払い、出た成果に応じて「今期はすごく頑張ったからボーナスを増やす」「成績が出ていないからボーナスを減らす」という運用をしていきます。
このように、給与と賞与では支給根拠が異なることを理解すると、なぜ今年このボーナスだったのかという納得が得られやすくなります。
評価制度は、従業員の貢献度、能力、行動を定期的に測定して適切に判断・評価するための仕組みです。その人が会社に貢献しているかどうかを何で測るのか、貢献している/していないをどういう基準で判断するのかをまとめたものが評価制度です。
評価項目や評価基準も、等級制度がベースになります。職種や等級に求められている勤務態度、能力、行動が、何級の場合にどの程度できているべきなのかという基準を定め、その基準に対して上回っているか下回っているかで評価の高低を決めていきます。
一般的に評価項目は3つの要素で構成されています。1つ目が「業績や成果」、2つ目が「能力や行動」、3つ目が勤務態度や就労姿勢など意識面を評価する「情意評価」です。
これらの要素が具体的に何で、どれくらいの水準を期待するのかを、等級に基づいて決めることになります。例えば、チームを率いるリーダーやマネージャーには仕事に「成果」が求められます。そのため、評価においては「成果」のウェイトが高くなります。一方、若手社員など入社間もない方は、まずはしっかりと仕事をしていただくことが大事なので、勤務態度や姿勢などの情意評価をより強く評価するという形で、ウェイトを調整します。
上述の通り、基本的に給与は等級や役職に基づいて決まり、賞与は成果を反映します。評価の結果によって、昇進・昇格が決まったり、賞与に影響を与えることになるので、評価は間接的に処遇を決める存在となります。

教育制度は、従業員の知識、能力、スキル、あるいは望ましい行動を定着させるための仕組みをまとめたものです。具体的には、人材育成の3つの要素である「OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング:実務を通じた教育)」「Off-JT(職場を離れて行う研修やセミナー)」「自己啓発(就業時間外での自主的な能力開発)」に対するルールやサポート体制を定めます。
「教育制度=研修体系」と捉えている方もいますが、研修だけが教育ではありません。OJTのやり方を定めたものも教育制度に含まれます。例えば、月に1回、新入社員が指導担当の先輩と定期的に面談する、チェックリストに基づいて「何ができるようになったか」を評価する、といったことを決めていくのも教育制度です。
また、eラーニングや通信教育などの自己啓発に対して補助を出す制度を設けている企業もあります。特に、仕事をするにあたって資格が必要な場合、資格取得費用の全額または一部を会社が負担することを定めているというケースもしばしば見られます。
教育制度の元になるのもやはり等級制度です。等級・階層に応じてどういう能力が求められるのかを定めることで、その能力を身につけてもらうための訓練を設計する必要が生じます。例えば、階層別研修で考えると、新入社員にはビジネスマナーや仕事の基本的な進め方を身につけてもらう研修やOJTが必要です。主任、係長、課長になると、リーダーシップ、マネジメント、コミュニケーション、問題解決といったスキルを上げてもらう必要があります。
これらの能力は、必ずしも日頃の仕事を通じて身につかない能力です。研修体系を組むことで、その等級にふさわしい能力を発揮してもらうため、または次の等級に上がるために必要な能力開発の場を提供していきます。
さらに、評価の結果によって、ある能力が高く、ある能力が低いという評価が出た場合、次の等級に進むためにはその低かった部分を補ってもらう必要があるため、それが翌年の目標設定に使われたりします。このように、評価制度と教育制度も繋がっているのです。
等級、賃金、評価、教育という4つの仕組みがうまく連動することで、従業員が意欲を高め、能力を伸ばし、成果を上げていくことができます。
仕事は成果が出ると面白くなります。また、業務に対する理解度や習熟度が上がることでモチベーションがより高くなっていきます。もちろん、仕事の働きがいだけでなく、働きやすさを給与面で実現したり、福利厚生などで実現したりします。こうしたものが様々に補完し合って、人事の基本的な活動である「優秀な人材を採用する」「教育する」「配置する」「評価する」がうまく機能するようになります。これらを包括的に統合したものが「人事制度」なのです。

人事の方は、こうした人事制度の全体像を理解した上で、自分の担当業務の位置付けや役割を見てみると新しい発見があることでしょう。例えば、給与の担当や教育の担当の方が、その起点になっているのは等級制度であり、等級制度の元になっているのは会社が求める人物像、さらには経営理念や戦略であることを理解することで、「仕事の目的」が見えてきます。
事業に対する理解度が上がっていけば、個別の制度をどのように設計して運用していくべきなのかが見えてきます。個々の制度が単独で動いているわけではなく、それぞれが連動しています。それぞれに対する理解を高めることで、自分が担当している業務のクオリティを上げることができるでしょう。
人事以外の方についても、自分の処遇、評価、キャリアパスがどのように設計されているのかを理解することで、仕事の面白みが変わってきますし、目標設定もしやすくなります。大抵の場合、人事制度は公開されているはずです。簡単に見られる状態になっている場合もありますが、そうでなくても人事部に見せてほしいと言えば必ず見せてくれるはずです。
一度、自分の会社がどういう制度に基づいて運用されているのかを見ていただくと、自分の仕事に何が期待されていて、どういう条件を満たすと評価が上がっていくのかが分かるようになり、仕事が一層面白くなるでしょう。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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