マネジメント
2026.3.27

目次
「部下の話をきちんと聞いてあげたいのだが、自分の仕事で手いっぱいだ。」
「1on1をやりたいし、やらなければいけないことは分かっているのだが、どうしてもまとまった時間が取れない。」
「上司としての役割を十分に果たせていないのではないか」と自己嫌悪に陥ってしまう。
組織を率いるリーダーやマネージャーの皆さんの中には、こういった悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。決して部下育成をしたくないわけではない。したい気持ちはあるのだが、なかなか思うようにいかない。
しかし、ご安心ください。その悩みは今日で完全に解決できます。部下の育成を行うのに、会議室で30分や1時間を確保することは必ずしも必要ではありません。必要なのはたったの1分です。
今回は、忙しいあなただからこそ実践していただきたい「1分コーチング」についてご説明いたします。この考え方を取り入れることで、あなたが席にいない時でも部下が自ら成長するチームへと変わっていきます。

まず、世の中で一般的に常識とされていることを疑ってみましょう。昨今、1on1ミーティングをはじめとして、部下へのコーチングやフィードバックの重要性が盛んに語られています。しかしその前提として、「コーチングやフィードバックは会議室で時間をかけてやるもの」という認識が広く持たれています。これが実は大きな間違いなのです。
忙しいリーダーやマネージャーがその前提のままで取り組もうとすると、どうなるでしょうか。「今週はちょっと忙しいから、1on1は来週にしよう」「今月は仕事が立て込んでいるから、来月でいいか」という形で、どんどん後回しになっていきます。そして、この後回しの積み重ねこそが、部下からの信用・信頼を失っていく最大の原因になるのです。
一気にまとめてやろうとする必要はありません。部下との信頼関係の構築や育成は、貯金箱と同じようなものです。年に1回まとめて大金を入れようとしてもなかなか貯まらないように、毎日100円、場合によっては10円でも、コツコツと積み重ねることで気がついたら相当な額が溜まっているものです。
部下へのコーチングやフィードバックもまったく同じです。まさに「塵も積もれば山となる」なのです。まとまった時間が取れるのであれば、取ることに越したことはありませんが、取れないのであればコツコツと積み重ねていけば良いのです。つまり、隙間時間を活用していけば良いということです。
エレベーターの待ち時間でも、会議が終わった後の片付け中でも、廊下でばったり出会った瞬間でも構いません。こうした隙間時間こそが、むしろ最強の育成タイムになり得るのです。私はこれを「1分コーチング」と呼んでいます。
1分コーチングのイメージを具体的につかんでいただくために、悪い例と良い例を実演しながらご説明します。上司が部下の田中さんに対応する場面を想定してみてください。
まず悪い例です。上司がパソコンで作業しているところへ、部下の田中さんが話しかけてきます。「うん、何? 相談? ごめん、今日は締め切りがあって手いっぱいなんだ。来週の水曜日なら少し時間が空いているから、そこでまとめて聞くよ。それまで自分で考えておいて。」
いかがでしょうか。田中さんは、「自分のことは後回しにされているんだな」「この人には相談しづらいな」と感じてしまうでしょう。仮に来週の水曜日に時間を設けてもらったとしても、その頃にはすでに相談への熱が冷めてしまっているかもしれませんし、問題がすでに解決しているかもしれません。これでは信頼関係も築けませんし、部下を成長させるきっかけも逃してしまいます。
では、1分コーチングを実践するとどうなるでしょうか。廊下でたまたま田中さんとすれ違った場面を想定してみてください。
「田中さん、昨日のプレゼン資料を見たよ。競合比較のグラフ、あれ、すごく良かったよ。分かりやすかったね。ちなみに、あれはどういう視点で考えてみたの?」
「お客様の立場に立った時にどこを見比べるかを考えてみた、ということか。それは良いアプローチだったね。お客様もあれをご覧になって、よく分かってくれていると感じるはずだよ。つまり、顧客目線で書いたということだね。」
「次に企画書を書く時も、その顧客目線を軸にして今回と同じようにまとめてみてください。」
このやり取り、おそらく1分もかかりません。それでも田中さんは、「ちゃんと見てくれているんだ」「このやり方で良かったんだ」「うまく言えなかったけど、言葉にすると顧客目線ということか、では次も同じようにまとめてみよう」と感じ、自分の気づきが整理されてモチベーションも上がります。これが1分コーチングです。
会議室を予約しなくても、30分や1時間を確保しなくても、たまたますれ違った1分間の問いかけやフィードバックの積み重ねが、塵も積もれば山となるように、信頼関係と部下の成長をもたらしていくのです。

1分コーチングの考え方は理解できたとして、実際にはどのような声かけをすればよいのかと迷われる方もいらっしゃるでしょう。そこで、今日からすぐに使える1分コーチングのフレーズを3つご紹介します。そのままお使いいただけます。
1つ目は「承認の1分」です。フレーズはシンプルで、「〇〇さん、助かったよ」これだけです。
部下を褒める際に、何か大きな成果を出した時にだけ褒めていないでしょうか。大きな成果を褒めることはもちろん大切です。しかし、そのような成果は年中出し続けられるものではありません。むしろ大切なのは、当たり前のことを認め、褒めることを積み重ねることです。
たとえば、「会議の資料をまとめてくれてありがとう、助かったよ」でも、「今日早めに来て準備しておいてくれてありがとう、助かったよ」でも構いません。当たり前のように見える些細な行動を見逃さずに、きちんと言葉にして伝えることです。
承認とは、大げさに褒めることではなく、その人がやったことに気づき、認めること。それで十分なのです。これを積み重ねることで、相手は「見てもらえている」という感覚、いわゆる「他者受容感」を得ることができます。そしてこの感覚の積み重ねが自己肯定感を高め、前向きかつ積極的に仕事に取り組む姿勢へとつながっていきます。
2つ目は「振り返りの1分」です。フレーズは「ここ、どう工夫したの?」
部下が良い仕事をしてきた際に、「よくやった」という承認だけで終わらせず、そこに「どう工夫したの?」という一言を加えるのです。
部下本人は、無我夢中で、あるいは無意識にやったことかもしれません。しかし、仕事の成果が良かったのであれば、その再現性を高めてほしいわけです。「どう工夫したの?」と問いかけることで、本人が自分のやったことを言語化する機会が生まれます。言語化ができると再現性が上がり、次回も同じようにできるようになります。
この積み重ねによって、様々なことを意図的にできるようになり、仕事ができる人材へと成長していきます。承認にこの振り返りの問いかけを加えることで、内省を促す効果が生まれます。
3つ目は「未来への1分」です。フレーズは、「次はどうしたい?」
最終的に目指したいのは、言われたことを言われた通りにただこなすだけではなく、何をすべきかを自分の頭で考え、自分の意志に基づいて行動できる「自律型人材」に育てることです。
リーダーが何かと指示を出さなくても、部下が目的や目標から逆算して必要なことを自発的にやってくれる。これがマネージャーとして最も理想的な状態です。
そのためには、部下が報告をしてきた時に、すぐに次の指示を出すのを一度止めてみてください。「なるほど、了解、状況は分かった。田中さんは、これ次にどうしたいと思っている?」と問いかけるのです。
もちろん、すぐには答えが出ないこともあります。その場合には、相手が考えやすいようにヒントを出したり、具体的な問いかけを重ねたりしながら対話を続けることが大切です。重要なのは、本人自身に考えさせることです。考える習慣を身につけてもらうことで、自ら考えて行動する自律型人材へと育っていきます。2つ、3つの質問を重ねたとしても、1分もかかりません。

お互いが忙しく仕事をしている日常の中で、たまたま生まれた1〜2分の時間に、「承認」「振り返り」「未来への問いかけ」を取り入れたちょっとした会話をする。それを毎日のように積み重ねていくことが、数ヶ月に一度30分〜1時間会議室で話をするよりも、よほど大きな効果をもたらしてくれます。
私もマネジメント研修の場で1on1の重要性や必要性をお伝えしていますが、実際には定期的に1on1を続けることは難しく、まとまった時間がなかなか確保できないという声を多くいただきます。
しかし、そのことを理由に諦めてしまうのではなく、「時間をかけずにできるにはどうすればよいか」を考えてみましょう。塵も積もれば山となります。まとまった時間が取れないのであれば、1分コーチングを積み重ねていけばよいのです。1回1回のやり取りは小さくても、その微差が大差になっていきます。
ぜひ今回ご紹介した3つのフレーズを活用して、部下との間に生まれた1分間を、貴重なコーチング・フィードバックの機会として活かしてみてください。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役社長。「デキる人を増やして社会をもっと快適にする」を理念に、人事・組織コンサルタントや研修講師として活動。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。登壇実績 862件、1,015日間(のべ受講者数17,334名)*2025年12月末現在

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