マネジメント
2026.3.15

目次
部下に指示を出したのに、まったく想定と異なるアウトプットが上がってきた。「自分なりに考えて動いてほしい」と伝えているのに、いつまでも指示待ちのままになってしまっている。マネージャーであれば、このような悩みを一度は経験されたことがあるのではないでしょうか。
これは決して特別なケースではなく、多くの企業でよく見られる状況です。しかし、こうした状況を単純に部下の能力不足と断言してしまうのは早計です。実は、マネージャー側の伝え方にも改善の余地があることが少なくありません。
今回ご紹介する伝え方を身につけていただくことで、半年後には部下が驚くほど自律的に動くようになり、マネージャーご自身も本来注力すべき仕事に集中できる環境が生まれます。今回のテーマは、部下を自立人材へと育成する極意である「抽象と具体の往復」です。

「抽象と具体の往復」と聞くと、少し難しく感じるかもしれません。しかし、これはGoogleMapのルート検索と同じ考え方です。
ルート検索をする際、まず現在地と目的地、そして全体のルートを俯瞰して確認しますよね。これが「抽象」です。目的、ビジョン、全体像を示すものだと理解してください。大まかにどのようなルートでどこへ向かうのかが分からなければ、人は不安を感じます。
一方で、全体像だけを示されても、実際に車を走らせることは難しいです。「次の交差点を右折してください」というような具体的な案内がなければ、実際には動けないのです。これが「具体」であり、個別の事例や行動を指します。どこかへ移動するためには、抽象と具体の両方が必要になります。
仕事における指示出しも、まったく同じ構造です。うまくいっていないマネージャーの多くは、全体像だけを伝え続けるか、個別の話だけをするか、どちらか一方に偏りがちです。この両方をセットで示すことで、部下は全体像を理解しながら個別の行動を取れるようになります。
つまり、一流のマネージャーの役割とは、「ズームイン(具体)とズームアウト(抽象)のスイッチを部下の代わりに押してあげること」に他なりません。
では、具体的な例で見てみましょう。部下に資料作成を依頼する場面を想定します。
うまくいかない指示の典型例はこのようなものです。「田中さん、例の資料いい感じにやっておいてね。クオリティを高くしておいてね。期待しているよ。」これは、抽象的に伝えすぎている例です。
「クオリティが高い」「いい感じ」という表現は、人によって解釈がまちまちです。部下としては自分なりに考えようとしても、どのように着手すればよいか迷子になってしまいます。その結果、悩んだあげく「すみません、これはどうしたらいいですか」と持ち帰らざるを得なくなるか、あるいは確認できないまま見当違いの資料を作ってしまうかのどちらかになります。
これに対して、抽象と具体の両方をセットで伝えると次のようになります。「田中君、今回作ってほしい資料の目的は、役員が3分で意思決定できるようになることだ。だから具体的な構成として、1枚目に結論、2枚目にコストの比較を入れておいてもらえるか。」
ここでは、「役員が3分で意思決定できる」という目的が抽象であり、「1枚目に結論、2枚目にコストの比較」というのが具体です。この両方があることで、部下は迷わず何を作るべきかが分かります。
さらに、「役員が意思決定しやすいように数字を強調した資料を作ればよいのだな」と、自分で工夫する余地も生まれます。これが自律性へとつながっていくのです。
つまり、指示を出す際のポイントは、「何のためにそれをするのか」という抽象的な話と、「実際に何をどのようにすればよいか」という具体の話を、必ずワンセットで伝えることです。

抽象と具体をワンセットで伝えるための、実践的なセリフを3つご紹介します。
1つ目は、最もシンプルなパターンです。「目的は〇〇で、具体的には〇〇してください」という形で、指示を出す際に必ずこのワンセットで伝えます。
例えば、会議の進行を部下にお願いする際は、「今回の会議の目的は合意を形成することです。だから先に反対意見を出してもらうように進行してください」というように、目的と行動、抽象と具体を必ずセットで伝えます。
2つ目は、「今の話をあなたの言葉で言うと?」という確認です。何かを説明した後、「分かりましたか?」と聞いても「分かりました」という返答が返ってくるのは当然です。しかし、本当に理解しているかどうかは確かめなければ分かりません。
相手が自分の言葉で「これはこうで、こうすればよいのですね」と答えられれば、具体的に理解できている証拠になります。これができていれば認識のズレは起きにくくなります。もし見当違いの答えが返ってきた場合は、まだ伝わっていないということですので、より丁寧に説明してすり合わせていきましょう。
3つ目は、「目的は〇〇です。具体的にどう進めますか?」と相手にボールを渡すアプローチです。抽象(目的)だけを伝え、具体的な進め方を本人に考えさせる促し方です。
組織で仕事をする上で、目的や全体像を部下が一から自分で考えることはあまりありません。経営戦略や事業計画は、経営層や上位の幹部が策定するものです。
しかし、それを具体的にどう実行するかを考えることこそ、部下に身につけてほしい力です。自ら考えて行動するとは、「抽象を具体に落とし込む力」を持つことに他なりません。
この3つのセリフを活用した育成の流れとして、最初はすべてを説明した上で確認しながら認識をすり合わせ、慣れてきたら少しずつ具体の説明を減らして本人に考えてもらうパートを増やしていきます。この繰り返しによって、メンバーは自ら考えて行動する自律性人材へと成長していきます。
また、部下のレベルに応じて抽象と具体のバランスを調整することも重要です。業務経験が豊富で知識や経験が備わっている方には具体の説明を少なめにして自ら考えてもらい、経験が浅く知識が乏しい方には抽象と具体の両方を丁寧に伝えるようにしましょう。
最初から完璧にこれを実践するのは難しいかもしれません。まずは抽象と具体をセットで伝えることに慣れていくことから始めましょう。
認識がかみ合わずにズレてしまうこともあるかもしれません。しかし、それはむしろ確認がうまく機能している証拠です。
「今の伝え方では伝わらなかった。では次にどう伝えるか」と試行錯誤を繰り返すことで、少しずつ自分の意図を的確に部下へ伝えられるようになっていきます。今回ご紹介した魔法のセリフ3つを、ぜひ明日からの現場で試してみてください。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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