コミュニケーション
2026.6.15

目次
職場に一人はいる「何がきっかけで機嫌が変わるかわからない」上司や同僚。
近づくのが怖く、ただ我慢し続けている方も多いのではないでしょうか。
しかし、地雷を回避することは「運」でも「性格」でもなく、知識とスキルによって対処できる問題です。
この記事では、行動科学・組織心理学の知見をもとに、職場の難しい人間関係を乗り越えるための具体的な3つの方法を解説します。経営・人材育成の現場で培ってきた実践的なアドバイスを、明日からすぐに活用できる形でお届けします。

どのような職場にも、一定数の「地雷を踏むと怖い人」がいるものです。
例えば、急に冷たくなるタイプがあります。昨日まで普通に話していたのに、今日はなぜか妙に冷たい。特別に何かをした覚えはないのに、空気が重くなるというケースです。
機嫌の波が激しいタイプもいます。機嫌が良かったと思ったら急に不機嫌になる、何がきっかけでスイッチが入るかわからない人です。
表向きは普通にしていて、陰で嫌がらせをするタイプもいます。直接的に何かを言うわけではないものの、影でじわじわと悪口を言ったり、嫌がらせをしてきたりするケースです。
また、ちょっとした頼みごとを極端に嫌がり、その後でこちらが悪者にされてしまうケースもあります。些細なことが尾を引き、気がつくと職場内で孤立してしまうということもあるかもしれません。
こうした方々に対して、「なるべく近寄らない」「当たり障りのない対応をする」「ひたすら我慢する」という対処をしている方も多いかと思います。しかし、その場はやり過ごせるかもしれませんが、それでは根本的な解決にはなりません。
ここで考えてみていただきたいのは、同じ職場の同じ相手に対しても、地雷をうまく回避できている人がいるということです。
「なぜ自分はこの人の地雷を踏んでしまうのに、あの人はうまく回避できているのだろう」と感じた経験はありませんか。
回避できている人がいるということは、それは自分の行動や関わり方を変えることで対処できるということを意味します。
行動科学者のクリスティーン・ポラスは、職場における礼儀正しさの重要性を研究した人物ですが、彼女はこのように述べています。
「地雷を踏むかどうかは、運や性格の問題ではなく、知識とスキルで変えられる。」
「地雷」を文字通り戦場に例えてみましょう。闇雲に走り回り、自分のやり方を変えないまま手当たり次第に行動していると、地雷の場所を考えずに動くことになり、いつかきっと踏んでしまいます。
一方で、地雷の仕組みや定石を知っている人は、「これは危ないかもしれない」と察知し、正しい行動パターンで安全に回避することができます。
では、人間関係における地雷とは何なのでしょうか。具体的な3つの方法とともに解説していきます。
難しい人の嫌な言動や態度の多くは、「自分が認められていないのではないか」という不安が引き金になっています。これが承認欲求の観点から見た、地雷の正体です。
承認欲求が満たされている人は、そもそも他者を攻撃する必要がありません。「周囲は自分のことを認めてくれている」「自分の功績はきちんと評価されている」と感じている人は、他者を悪く言ったり攻撃したりする必要がありません。
一方、承認欲求が満たされていない人は、「もっと自分を見てほしい」「こんなに頑張っているのになぜ気づいてもらえないのか」というエネルギーが高まり、それが攻撃性を帯びてきます。嫌な態度や言動は、その表れである場合が多いです。
ここで参考になるのが、エイミー・エドモンドソンの「心理的安全性」という概念です。心理的安全性とは、職場の中で「自分の思ったことを率直に言っても受け入れてもらえる」と感じられる状態のことです。
心理的安全性が低い状態では、次のような不安が生じます。
こうした不安があると、人は自分の発言や行動を引っ込めてしまいます。難しい人の言動の背後には、「素の自分では受け入れられないかもしれない」という心理的不安があり、そこに承認欲求の未充足が絡み合うことで、歪んだ表現や言い回しになってしまうのです。
では、具体的にどのように対処すればよいのでしょうか。答えはシンプルで、相手を立てる言葉をさりげなく添えることです。
たとえば、次のような言い方が有効です。
「以前、山田さんにおっしゃっていただいたことにヒントを得まして、今回このようにまとめました。あなたのおかげです。助かりました。」
このように、相手の貢献を認める一言を加えるだけで、相手の承認欲求を満たすことができます。あからさまなお世辞にならない程度の自然な表現で十分です。
また、自分の中では結論が出ている場合でも、相手を立てるために意見を求めるという方法も効果的です。
「私はこのように考えているのですが、山田さんのご経験を踏まえると、これについてどのようにお感じになりますか?」
相手に意見を求めるということは、相手の存在を承認し、尊重していることの表れになります。
このように聞いた上で、相手の意見を受け取ったとしても、必ずしもそれに従う必要はありません。「そういうお考えもありますね。ただ、今回は期限もありますし予算の制約もありますので、一旦この方向で進めさせていただきます。またご意見をいただければ幸いです」という形で、丁寧に引き下がることができます。
重要なのは「あなたの存在を大切にしている」というメッセージを相手に伝えることです。承認欲求が満たされた相手は、攻撃性を弱めていきます。

難しい人、苦手な人に対しては、避けようとしてしまいがちです。会話が減り、挨拶もしなくなり、徐々に疎遠になっていく。この流れは非常に自然な反応でしょう。
しかし、疎遠になればなるほど、相手の攻撃性は増していくという側面があります。これは一見すると逆説的に思えますが、心理学的には十分な根拠があります。
社会心理学者のロバート・ザイアンスは、単純接触効果(ザイアンスの法則)という理論を提唱しています。これは、人は接触する回数が増えるほど相手に好意を抱きやすくなる、という原理です。
実際に、初対面の方や馴染みのない方に対してはどうしても緊張が生じます。どのような人かわからないため、距離感を探りたくなるのです。
一方で、毎日職場で顔を合わせている人に対しては、好き嫌いとは別に「安心感」が生まれます。良し悪しは別として、知っている人だからです。これは、顔を合わせる頻度、つまり接点の回数によるものです。
また、SNSで顔を知らない有名人に対して辛辣な言葉を書き込めるのに、顔を知っている職場の同僚や友人にはなかなか同じことができない、というのが多くの人の行動パターンでしょう。それは「相手を知っているから」に尽きます。「知った仲」になることが、最強の防御になるのです。
とはいえ、苦手な相手への接触頻度を上げることは、頭でわかっていても実践が難しいものです。最初は形式的な接触で十分です。
「おはようございます」という一言だけでよいのです。これが立派な接点になります。そこから徐々に質を上げていきましょう。挨拶の後に「だいぶ暑くなりましたね」といった他愛もない雑談を一言添えるだけで、相手との共通点や関心を探る雑談の突破口が見えてきます。そうした雑談の積み重ねが、関係性の土台を形成していくのです。
挨拶は「私はあなたの存在を認識しています」というサインです。挨拶をしないということは、「あなたのことはどうでもいい」というメッセージになりかねません。だからこそ、嫌いな相手であっても、こちらから先に挨拶をすることが、関係改善の第一歩となります。
接点が増えれば話しかけやすくなり、その延長線上に報告・連絡・相談が機能するようになります。情報共有量が増えるほど関係性は深まり、仕事を進める上での信頼関係の構築につながっていきます。
ドイツの文豪ゲーテはこのような言葉を残しています。
「人間の最大の罪は不機嫌である。」
裏を返せば、上機嫌でいることは最大の武器ということになります。
日頃からニコニコしている人に対して、いきなり嫌なことを言いかけるのは心理的なハードルが高いものです。一方、無表情で暗い雰囲気を出している人ほど、攻撃の対象になりやすい傾向があります。
プラスのエネルギーにマイナスのエネルギーをぶつけると、マイナスのエネルギーを持っている側が消耗してしまうからです。マイナスの人にマイナスをぶつける方が心理的に楽であるため、機嫌の良い人は攻撃の対象から外れやすくなるのです。
では、どのようにして感情の温度を一定に保てばよいのでしょうか。3つの習慣をご紹介します。
挨拶は「先手必勝」です。廊下で相手が歩いてくるのが見えたとき、こちらから先にやや大きめの声で「おはようございます」と挨拶をする。これだけでこちらの心理的なゆとりが生まれます。
待って相手から声をかけられてから応じるよりも、自分から主導権を取る方が、精神的な余裕をもたらします。
相手がイライラしていたり、嫌なことを言ってきたりする場面で、一緒に感情的にならないことが大切です。相手の感情の波に引き込まれないことが、自分を守ることにつながります。
相手が不機嫌にしているとき、「そうですか」「なるほど」「はい、わかりました」と淡々と接することで、自分の感情の温度を保つことができます。無理にニコニコする必要はありませんが、穏やかさを保つことが防御になります。
相手が極端にネガティブだったり、攻撃的な言動をしてきたりした場合、こちらもどうしても感情が揺れることがあります。そのような場合は、いったん深呼吸をするか、物理的にその場を離れることが有効です。
場を離れることで、相手のマイナスのエネルギーを直接受け続けずに済みます。一旦感情をリセットし、自分を整えた状態で戻ることが、その後の対応をより落ち着いたものにします。
いずれにせよ、大切なのは相手の悪いペースに巻き込まれないことです。感情の温度を一定に保つことは、難しい相手との関係においてもっとも重要な防御手段です。

今回は、職場の難しい上司・同僚との関係を乗り越えるための3つの方法を解説しました。
① 承認欲求を先読みして相手を立てる。嫌な言動の多くは、認められたいという欲求の裏返しです。相手の存在を認める一言を、自然な形で添えていきましょう。
② 接触量を意識的に増やす。避けるほど敵意は強まります。嫌いな相手だからこそ、こちらから小さな接触を積み重ね、「敵認定」を早期に解除してもらうことが大切です。
③ 感情の温度を一定に保つ。上機嫌は最大の武器です。相手が不機嫌でも、こちらは穏やかさを保ち、マイナスのエネルギーに飲み込まれないようにしましょう。
これらはいずれも、一朝一夕で完璧にできるスキルではありません。しかし、意識して練習を続けることで、少しずつ身についていきます。地雷回避は、性格の問題でも運の問題でもなく、習得可能なビジネススキルです。
実際にこれらのスキルを磨いていく中で、「頭では理解できているのに、いざとなると動けない」という壁に直面することがあります。それは多くの場合、知識が行動に変換されるまでのトレーニングが不足しているためです。
人間関係のスキルは、インプットだけでなく、ロールプレイや実践フィードバックを通じて初めて定着します。経営・人材育成の現場でのビジネス研修では、こうした対人スキルを実践的に鍛えるプログラムをご提供しています。ご関心のある方は、ぜひ研修サービスの詳細をご覧ください。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役社長。「デキる人を増やして社会をもっと快適にする」を理念に、人事・組織コンサルタントや研修講師として活動。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。
著作『指示待ち人間からの卒業〜自ら考えて行動する「自律型人材」になる方法〜』
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