マネジメント
2026.5.18

目次
管理職として部下と向き合う中で、このような場面に出くわしたことはないでしょうか。
改善点を伝えようとすると、「でも自分はちゃんとできているはずなんですが…」と腑に落ちない顔で返してくる部下。
あるいは、評価面談の場で自己評価を尋ねたところ、こちらの想定をはるかに超える高得点を堂々とつけてきた部下。
内心では「この結果でなぜA評価だと思えるの?」と驚きつつも、どう伝え返せばよいか分からず、結局その場を曖昧にしてしまった。こうした経験は、管理職であれば一度や二度、あるいはそれ以上経験されているかもしれません。
そして、問題はその後です。うまく伝えられなかった結果、部下は相変わらず「自分はできている」と信じたまま仕事を続けます。改善されないままチームのパフォーマンスは停滞し、やがて本人がより大きな失敗という現実に直面したとき、「なぜ言ってくれなかったんですか」と逆ギレされ、かえって関係が悪化してしまうことさえあります。
できれば避けたい状況ですが、この問題から逃げずに正面から向き合うことが重要です。

ここで少し視点を変えてみましょう。「自分はできている」と思い込んでいる部下は、一見すると厄介な存在に映りますが、見方によっては上司にとってチャンスにもなります。
考えてみてください。改善点を指摘したとき、「どうせ自分はダメだから」「何をやってもうまくいかない」と思っている部下と、「自分はできている」と感じている部下。どちらの方が成長の可能性が高いでしょうか。
答えは後者です。自己評価が高いということは、自己効力感(「やればできる」という感覚)が高いということでもあります。問題はその方向性がズレているだけであり、そのエネルギーをうまく方向転換させることができれば、大きく伸びる可能性があるのです。
これはちょうど、川の流れを変えるようなイメージです。勢いの弱い、細い川の流れの向きを変えたところで大きな力は生まれませんが、大きなエネルギーで流れている川の向きを変えれば、それは大きな力になります。自己評価が高い部下のエネルギーは決して悪いものではありません。上司の仕事は、その水の勢いを止めることではなく、正しい方向へ導く岸辺をつくることだと言えます。
難しいのは、その「伝え方」です。伝え方さえ間違えなければ、この部下は確実に動き始めます。
まず取り組むべきは、テクニックではありません。上司自身の「頭の整理」です。
そもそも「フィードバック」という言葉は、「フィード(食べ物・糧)をバック(返す)する」という意味を持っています。つまり、「相手の成長の糧になるものを伝え返す」という行為です。
多くの管理職が陥りがちな罠は、フィードバックを「注意すること」「批判すること」と捉えてしまうことです。相手を批判するために言葉を選ぶのか、相手の成長の糧を届けようと言葉を選ぶのか。このスタンスの違いだけで、選ぶ言葉はまったく変わってきます。
フィードバックの本質的な目的は、「部下が自分でできていると思っている水準」と「上司が部下に求めている水準」のギャップに気づきを与えることです。
自己評価が高い部下ほど、このギャップが大きい傾向があります。「できていない」と批判するだけでなく、「本来ここまでのレベルが求められている」ということを分かってもらうために伝える。責めるためではなく、気づきを与えるために伝える。この前提を自分の中にしっかり持っておくことが、フィードバックの出発点となります。
フィードバックにおいて最も重要なポイントは、「事実だけで伝える」ということです。
部下ができていないことを伝えようとするとき、多くの方が無意識のうちに感情や評価の言葉を使ってしまいます。たとえば次のような表現です。
これらの言葉を受けた部下は、どう感じるでしょうか。「積極性がないって、どういう意味ですか?」「遅いって、ちゃんと間に合わせているじゃないですか」このように、防衛本能が強く働き、反論したくなります。自己評価が高い部下ほど、この防衛本能はより強く出ます。
なぜなら、「評価」や「感情」の言葉には解釈の余地があるからです。「遅い」という基準は人によって異なりますし、「積極性」という言葉の定義も曖昧です。共通の基準がないところに評価だけ伝えても、部下は自分の物差しで反論してきます。
では、どうすればよいのか。答えはシンプルで、「事実だけを淡々と伝える」ことです。
たとえば「報告が遅い」という課題を伝える場合の悪い例と良い例を比べてみましょう。
【悪い例】 「あなたは報告が遅くて困ります。」
【良い例】 「先月の〇〇の件で、私が確認を求めたのが月曜日の朝でした。報告をもらったのが水曜日の夕方でした。その間にお客様から問い合わせが入り、私がすぐに回答できない場面がありましたね。」
この違いがお分かりいただけるでしょうか。日時、出来事、その結果として何が起きたか。これはすべて事実です。事実だけを並べられると、部下は反論のしようがありません。「そうは言っても自分はちゃんとやっています」という言い訳が成立しなくなるのです。
行動・影響・事実をセットで伝えることが、非常に効果的なフィードバックの形です。「あなたがこういう行動をした結果、こういうことが起きました」という構造で伝えることで、感情や評価を交えることなく、相手の防衛本能を封じることができるのです。
事実を伝えた後に「だからあなたはダメなんだ」という流れになってしまうと、せっかくのフィードバックが台なしになります。部下は萎縮するか反発するかのどちらかになり、気づきにはつながりません。フィードバックを成長につなげるためには、伝える「順番」と「構造」が非常に重要です。
まず最初に行うべきことは「承認」です。ネガティブ要素ではなく、ポジティブ要素から伝えます。ここで注意したいのは、承認とは必ずしも褒めることではないということです。
「あなたがしっかりこの仕事に向き合っていることは、ちゃんと見ています。」「この部分は丁寧に取り組んでいると感じます。」このように、部下の姿勢や努力をきちんと見ていることを伝えるだけで十分です。
特に、自己評価が高い部下に対しては、先に承認を伝えることは大きな意味があります。「上司は自分のことを認めてくれている」という安心感があると、その後にやってくる課題や指摘に対して防衛本能が働きにくくなります。否定されているのではなく、見てもらえているという前提があるからこそ、次の言葉を素直に受け取れるのです。
承認の後に伝えるべきは「期待する水準」です。ここも抜け落ちがちですが、非常に重要なポイントです。
部下が「自分はできている」と思い込んでしまうのは、そもそも「どのレベルを求められているか」を正しく理解していないからでもあります。例えて言うなら、「コンビニの接客レベルをマニュアル通りに丁寧に実行しているのに、実際に求められているのが老舗料亭のようなきめ細やかな接客だった」というような状況です。これは部下の能力の問題だけではなく、「期待値の共有ができていない」という上司側の問題でもあります。
「できていない」と指摘する前に、「私はあなたにこのレベルのことを求めています」「チームではこういう基準でやっていきます」と、期待する水準をあらかじめ伝えておくことが大切です。

ここまでの3つのポイントを統合すると、フィードバックの流れは次のような構造になります。
この順番で伝えることで、部下は「責められた」という感覚ではなく、「自分が分かっていなかったところがクリアになった」という感覚で面談を終えることができます。結果として、反発されにくくなり、気づきが生まれやすくなるのです。
最後に、すぐに実践できる具体的なテクニックを一つご紹介します。それは、「フィードバックを伝える前に、部下自身に自己評価を先に言葉にしてもらう」ことです。
「今回の仕事、自分ではどのくらいできたと思いますか?5段階評価で言うと何点くらいですか?」
このように先に聞くことで、二つのことが明らかになります。
一つ目は、上司側と部下側のギャップがどれほど大きいかを事前に把握できるということです。ギャップの大きさによって、その後の伝え方や段取りを調整することができます。
二つ目がより重要です。部下自身に自己評価を言葉にしてもらうことで、自分の認識を言語化する機会を与えることになります。
自己評価を言葉にするという行為そのものが、メタ認知(自分を客観的に見る能力)をトレーニングする機会につながります。上司が一方的に「ここが足りない」「これができていない」と指摘するよりも、部下自身が自分の口で評価の理由を述べ、そのやり取りの中でギャップに気づいていく方が、はるかに深い成長につながります。
フィードバック面談では、まず「自分でどう思いますか?」と問いかけるところから始めてみてください。
自分ではできていると思っている部下への対応は、正直なところ簡単ではありません。気を遣いますし、時間もかかります。
しかし、難しいからといってその場を曖昧にしてしまうと、最も損をするのは部下本人です。正しい自己認識ができないまま仕事を続けた結果、数年後により大きな失敗や厳しい評価に直面したとき、誰も助けてくれない状況に陥ってしまうのです。
何かの縁で自分のチームに来た部下に、今きちんと伝える。それは部下を守ることであり、上司としての自分自身の器を広げることにもつながります。
ぜひ今回ご紹介した3つのポイント「フィードバックの目的を整理する」「事実だけで伝える」「承認→期待の順で伝える」を活用しながら、気づきを与えるフィードバック面談に取り組んでみてください。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役社長。「デキる人を増やして社会をもっと快適にする」を理念に、人事・組織コンサルタントや研修講師として活動。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。
著作『指示待ち人間からの卒業〜自ら考えて行動する「自律型人材」になる方法〜』
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