コミュニケーション
2025.5.27
目次
職場に必ず一人はいる。そんなふうに感じてしまうほど、「不平不満ばかり言う人」というのは身近な存在かもしれません。何かにつけて愚痴や文句が口をついて出てしまう人。その発言を聞いているこちらが、気づけば気分を害してしまったり、仕事のパフォーマンスにまで影響が出てしまうということもあります。
こうした人にどう向き合えばいいのか。今回は、そうした不平不満ばかりを口にする人の心理的背景を明らかにした上で、無理なく対応する方法について解説します。もしあなたの身近に、このタイプの同僚や上司がいるのであれば、ぜひ読み進めていただきたい内容です。
まず押さえておきたいのは、「不平不満ばかり言う人=性格が悪い」という単純なレッテルは誤解だということです。実はこうした人たちは、自分の中の不安やストレスと折り合いをつけるために、無意識のうちに愚痴や文句を口にしていることが多いのです。つまり、不平不満の発言は、心のバランスを保つための自己防衛の手段なのです。
本人には悪気がないことも多く、自分でもそれが癖になっていることに気づいていないケースも少なくありません。ですから、まずはそうした背景を知るだけでも、相手への見方が少し変わるかもしれません。
不満を言う人の代表的な特徴の一つが、承認欲求の強さです。つまり、「誰かに認めてほしい」「自分の存在を分かってほしい」という気持ちが強い人ほど、文句を言うことで存在を主張しようとするのです。
「自分はこれだけ頑張っているのに、正当に評価されない」「誰も話を聞いてくれない」そんな思いが積もり積もって、文句や愚痴という形で発散されていきます。本人にしてみれば、「ただ正しいことを言っているだけ」なのです。
これは、話を聞いてもらいたい、わかってもらいたいという欲求の裏返しでもあります。
もう一つの背景には、強い無力感があります。自分がどれだけ頑張っても、上司の方針が変わらなかったり、会社の制度が非効率なままだったりと、「どうにもならない」という状況に置かれると、人はストレスを抱えます。
そのストレスを吐き出す手段として愚痴や文句が使われるのです。「こんな働き方はおかしい」「またあの人が変な指示を出している」といった形で、変えられない現実への不満をぶつけるのです。つまりこれは、環境に対する防衛反応でもあるのです。
また、そもそも思考の癖として「ネガティブ思考」が染み付いてしまっている人もいます。何を見ても悪い面ばかりに目が行ってしまうというのは、幼少期からの否定的な経験の蓄積が影響していることもあります。
このタイプの人は、「物事を素直にポジティブに受け止める」ということ自体ができないのです。前向きな言葉を聞いても、「嘘くさい」「そんな甘くない」と感じてしまう。その結果、「悪く見ておいた方が傷つかずに済む」という心理が働き、先回りして文句を言うようになってしまうのです。
さらに、不満を口にする人の中には「自分ばかりが損をしている」「他の人よりも自分だけが不当に扱われている」という、被害者意識が強い人もいます。
このタイプの人は、自分の行動や立場を客観的に見つめるのが苦手です。常に損得の観点で物事を判断し、「損をしたくない」という気持ちから、あらかじめ誰かのせいにしておくことで自分を守ろうとします。「私はこんなに大変なのに」「どうして誰も分かってくれないのか」という言葉が口癖のようになっている場合は、この傾向が強いかもしれません。
不平不満を口にすることで、周囲との一体感を求めるという行動もよく見られます。たとえば「あの上司、またこんなこと言ってたよね」と愚痴をこぼすことで、「わかる、私もそう思ってた」と共感が得られ、そこに仲間意識が生まれます。
このようなコミュニケーションは「愚痴コミュニケーション」と呼ばれることがあります。まるで「共通の敵を作って絆を深める」という手法のようなもので、これが日常化してしまうと、組織の中にネガティブな空気が蔓延してしまうことにもなりかねません。
前向きな言葉で関係を築けばいいのにと思うかもしれませんが、文句というのは「共感されやすく、話題にしやすい」という点で、実は非常に手軽な手段でもあるのです。しかも、愚痴には行動が伴わないため、「何かを変える必要もない」という楽さもあります。
ここまで紹介したように、不平不満ばかり言う人にはさまざまな心理的背景があります。けれど、いずれも「悪意を持ってやっている」というよりは、「本人も気づかずに、心のバランスを取ろうとしてやってしまっている」ことが多いのです。
つまり、本人にとっては日常的な言動であって、自分が周囲に悪影響を及ぼしているとは考えていないケースがほとんどだということです。そう考えると、無理にやめさせることが難しいことも理解できますし、「なぜこの人はこういうことを言うのか」という疑問に対しても、少しだけ受け止めやすくなるかもしれません。
とはいえ、それによって自分の気持ちやパフォーマンスが落ちてしまっては元も子もありません。やはり、現実的には「どうやって距離を取るか」「どう付き合うか」を考えていくことが必要になってきます。
まず最も大切なのは、「その人を変えようとしない」ことです。文句を言っている人に対して、「そんなこと言ってても仕方ないよ」「もっと前向きに考えようよ」と正論をぶつけたくなる気持ちは分かります。ですが、それを言ってしまうと高確率で衝突になります。
本人は「文句を言っている」という意識ではなく、「正しいことを言っている」「正当な指摘をしている」と考えている場合がほとんどだからです。そんな時に「間違ってる」と言われたら、当然ながら防衛反応を起こします。
ですから、相手を否定したり矯正しようとするよりも、「この人はこういう考え方の人なんだ」と割り切って受け入れることが大切です。そしてその上で、「また始まったな」と天気のように捉えて、自分の感情が巻き込まれないようにする。これが現実的かつ有効なスタンスだと言えるでしょう。
次に意識したいのが、「話を受け流す」「同調しない」ということです。不平不満を言う人は、自分の愚痴に対して共感してくれる相手を求めています。そこで「そうだよね」「分かるよ」と乗ってしまうと、相手はどんどんエスカレートしていきます。
あなたがその愚痴の味方だと思われると、どんどん依存されて、時間も気力も奪われてしまいます。ですから、相手が不満を口にしてきたら、軽くうなずく程度で留め、「へえ、そうなんだ」「大変なんだね」と、あくまで中立の反応に徹することがポイントです。
場合によっては、「ごめん、ちょっと今集中したい仕事があって」と物理的にその場を離れることも選択肢として有効です。露骨に無視したり、反発したりする必要はありませんが、自分の感情を守る距離感は大切にしましょう。
不平不満を言う人と関わっていると、どうしてもその言葉に引き込まれてしまいがちです。毎日そのような言葉を聞き続けていると、「もしかして自分がおかしいのかな?」と自信が揺らいでしまうこともあるかもしれません。
そうならないために大切なのは、「自分の軸を持つ」ことです。つまり、相手は相手、自分は自分としっかり分けて考えること。相手の考え方や価値観に同調する必要はないのです。
相手の愚痴や不満を聞きながらも、「私はこう考える」「私はこうありたい」と、内心では自分の価値観を保ちましょう。自分と他人の境界をはっきりさせることで、相手のマイナス感情に振り回されなくなっていきます。
相手の愚痴を受けて、心がざわついたり疲弊してしまった時は、ぜひ心の浄化のような時間を意識して取ってみてください。たとえば一人になれる時間を少し作って、「私は前向きに進もう」「私は明るい未来を信じている」といった肯定的な言葉を自分に投げかけることです。
これは「アファメーション」と呼ばれる手法で、思考のクセをリセットするのに非常に有効です。愚痴を聞いて落ち込みそうになったときこそ、こうした自分を支える言葉を繰り返すことで、気持ちを切り替えることができます。
アドラー心理学でいう「課題の分離」にも通じます。相手が不満を言うのは相手の課題。あなたがそれを引き受ける義務はありません。相手は相手、自分は自分と割り切ることで、感情の境界をしっかり守りましょう。
実は、文句や不満を口にする人も「誰に言うか」を選んでいます。言いやすい相手、共感してくれそうな相手に話しかける傾向があるのです。だからこそ、普段から「愚痴を言いにくい人」になる努力も有効です。
たとえば、日頃から前向きな発言を心がけていたり、建設的な視点で物事をとらえている人には、ネガティブな話題が寄ってきにくくなります。文句を言っても「この人には通じない」と思われれば、自然と距離を取られるようになるのです。
ポジティブな姿勢を貫くことで、結果的に自分を守ることにつながります。そしてその姿勢が、周囲からの信頼や評価にもつながっていくでしょう。
もう一つ大事な視点は、「自律した人材として問題に向き合う」ということです。愚痴を言うだけで終わらずに、「自分だったらどうするか」「自分には何ができるか」と主体的に行動を起こすことが大切です。
たとえば、職場に改善すべき課題があるなら、信頼できる上司に建設的に提案をしてみたり、小さな改善を自分から始めてみるという選択肢もあります。愚痴を言って終わるのではなく、前に進める姿勢があるかどうかが、大きな差になります。
「文句を言われない人になる」と同時に、「自分の人生や仕事に責任を持つ人になる」こと。それが、不平不満を受け流すだけではなく、自分自身の人生をより良くしていくための土台になるのです。
不平不満ばかり言う人は、どんな職場にも一定数存在します。そしてその人たちを無理に変えることはできません。だからこそ、こちらの受け止め方、向き合い方を工夫することが必要です。
大切なのは、「相手を変えようとしないこと」「共感しすぎないこと」「自分の軸を持ち続けること」。そして、愚痴を聞いたあとは、自分自身の中で気持ちをリセットしていく。そうやってマイナスのエネルギーを受け流し、前向きに変えていく力が、結果的にあなたの心とパフォーマンスを守ってくれるはずです。
愚痴を聞かされてばかりで辛いときこそ、自分を守る術を知ることが大切です。自分の心の健康を保ち、前向きな働き方を続けていくために、今日から少しずつでも実践してみてください。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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