リーダーシップ
2025.11.11

目次
今回は、リーダーシップ理論がどのように発展してきたのかを見ていきます。
リーダーシップ研究は特にアメリカで盛んに行われてきました。アメリカは「成功」や「リーダー」といったテーマを非常に好む文化があり、その中で数多くの理論が生まれてきたのです。
歴史をさかのぼると、第二次世界大戦前の1940年ごろまでは「特性理論」という考え方が主流でした。これは、「リーダーとは、生まれながらにしてリーダーの素質を持っている人である」という理論です。平たく言えば、「世の中には2種類の人間がいる。リーダーの星の下に生まれた人と、そうでない人だ」という考え方です。
当時は、優れたリーダーを育てるために、まず人を選別する必要があると考えられていました。知性、意欲、粘り強さなどの特性を分析し、「あなたはリーダーに向いている」「あなたは向いていない」とふるいにかけ、リーダーの素質がある人を早期に発見して英才教育を行うという発想だったのです。
この考え方に基づくと、リーダーシップは生まれつきの資質であり、後天的に身につけるものではないとされていました。

しかし、時代が進むにつれて、この理論には疑問が投げかけられるようになります。
もしリーダーシップが生まれつきの特性によって決まるのだとすれば、「リーダーの星の下に生まれた人」は一生リーダーであり続けるはずです。逆に、リーダーに向いていないとされた人は、一生フォロワーのままで終わるはずです。
けれども、現実はそうではありません。子どもの頃に活発でクラスやクラブの中心人物だった人が、大人になるとあまり目立たない存在になることもあります。
逆に、学生時代は大人しく教室の隅で本を読んでいたような人が、社会に出てからカリスマ経営者になるケースもあるのです。こうした現実を見ると、「リーダーシップは生まれつきの才能では説明できない」と考えざるを得ません。
こうした気づきから、優れたリーダーとは「特別な素質を持っている人」ではなく、「リーダーらしい行動をしている人」ではないかという視点が生まれます。こうして登場したのが「行動理論」です。
行動理論では、リーダーシップを「行動パターン」として分析します。つまり、リーダーにふさわしい行動を取っているかどうかが、リーダーとしての成果を決定づけると考えるのです。
代表的な理論の1つとして、三隅二不二の「PM理論」があります。これは、リーダーの行動を2つの軸で評価するものです。ひとつは「業績を上げるための行動(Performance)」、もうひとつは「人間関係を構築・維持するための行動(Maintenance)」です。
リーダーとして成果を出すためには、この両面のバランスが欠かせません。目標達成ばかりを重視し、チームメンバーの関係を顧みないと、組織はギスギスして長続きしません。
逆に、仲が良くても成果が出ないチームはユルユルの集団になってしまいます。理想のリーダーは、この2つの行動をどちらも高い水準で維持できる人なのです。

このPM理論における「M=メンテナンス(Maintenance)」という表現は、とても重要な意味を持っています。人間関係というのは、一度築いたら終わりではありません。関係を維持し続けるためには、絶えずエネルギーを注ぎ続ける努力が必要です。
例えば、恋愛に置き換えると非常に分かりやすいと思います。 「好きな人ができました」となれば、最初は一生懸命にアプローチします。プレゼントを贈ったり、喜んでもらうためのサプライズをしたり、毎日のように気持ちを伝えたりするでしょう。
しかし、いざ交際が始まるとどうなるでしょうか。「もう付き合っているから安心」とばかりに努力をやめてしまうと、関係は少しずつ冷めていきます。相手からは「なによ。前はあんなに大事にしてくれたのに、最近は何もしてくれない」と不満が生まれるのです。
人間関係を良好に保つには、付き合った後もエネルギーを注ぎ続ける必要があります。これは恋愛だけでなく、仕事のチームでも同じです。
新入社員の頃は、誰もが上司や先輩から手厚いフォローを受けます。教育にも力が入りますし、「辞めてもらっては困る」と周囲が丁寧にサポートしてくれる時期です。
ところが、2年目・3年目になると、「もう自立してもらわなければ」と任せるようになります。これは当然の成長過程ですが、リーダーが関心を失って放置してしまうと、メンバーのモチベーションは下がります。
チームを率いるリーダーにとって、メンバーとの関係を維持する努力は欠かせません。仕事を任せることと、無関心になることはまったく違います。関心を持ち続け、適度に関わりながら支える―これがまさにメンテナンスです。
この考え方は、何十年と経過した現在でも十分に通用します。リーダーシップは「結果を出す力」だけでなく、「関係を育む力」によっても磨かれるものなのです。

行動理論は、リーダーの行動を「成果」と「人間関係」という2軸で説明するものでした。その後、時代が進むにつれて、この行動理論をベースとしつつも「それだけでは説明しきれない」問題について考慮が及ぶことになりました。それは、リーダーに求められる行動は「状況によって異なる」というものです。
例えば、部下に対して「これをやりなさい」「こうやって進めなさい」と細かく指示を出すリーダーがいたとします。このような指示型のマネジメントは、一見すると押しつけがましく見えますが、必ずしも悪いとは限りません。実は、状況によっては有効な手法なのです。
あなたが5人の部下を率いるチームリーダーだとしましょう。そして、その部下は全員が新入社員だとします。全員が入社したばかりで、仕事の知識も経験も乏しい。
そんな状態で「これからは主体性や自律性の時代だから、自分で考えて動いてね」と仕事を委任しても、うまくいくはずがありません。新入社員たちはどう動いていいかわからず、混乱してしまうでしょう。
だからこそ、この段階では「君はこれを担当して」「これはこうやって進めて」と、ある程度細かく指示を出す必要があります。明確な方向性と手順を示し、手をかけながら育てていく。これは「条件」に適したリーダーシップの形なのです。
一方で、メンバーが成熟してきた場合、同じ指示型のリーダーシップを続けるとどうなるでしょうか。経験を積んできて、自分の仕事を十分に理解してきたメンバーに対して、依然として細かく指示を出すと「うっとうしい」「信用されていない」と感じさせてしまいます。
特に中堅やベテランのメンバーにとっては、リーダーが逐一口を出すことはモチベーションを下げる要因になります。人間は本来、自由意志に基づいて動きたい生き物であり、中堅やベテランになれば、その能力が十分にあるのです。
彼らに求められるのは、細かい指示ではなく、方向性とビジョンの提示です。つまり、「何をすべきか」ではなく「なぜそれをするのか」を共有し、任せて信じる姿勢が大切になります。
このように、リーダーシップのスタイルは部下の成熟度や状況によって変化するという考え方が「条件適合理論(コンティンジェンシー・セオリー)」です。つまり、最適なリーダーシップの形はひとつではないということです。状況に応じて柔軟に行動様式を変えることが、優れたリーダーの条件なのです。
そして、実際には1つの職場の中でも、リーダーシップスタイルを使い分けることが重要です。部下一人ひとり、性格も知識や経験も違います。すべての部下を同じやり方で導こうとすると、必ず無理が生じます。ある人には細かく指導する必要があり、別の人にはあえて自由にやらせて学ばせる方が有効。リーダーシップとは「相手」と「状況」に合わせた最適化の積み重ねなのです。

ここまでの内容を整理すると、リーダーシップ理論は大きく3つの段階で進化してきました。
まず、「特性理論」では、リーダーは生まれながらにして特別な資質を持つ存在だと考えられていました。しかし、現実の社会を見れば、それでは説明できないことが多く、行動や経験によってリーダーシップは変化することが明らかになりました。
次に、「行動理論」では、リーダーシップは「どのような行動を取るか」によって評価されるようになります。成果を上げる力と、人間関係を維持する力―この2つの軸がリーダーの成否を分ける要素とされました。
そして「条件適合理論」では、その行動の度合いを「状況によって変化させる」という考え方に進化します。つまり、部下の成熟度、チームの状態、業務の内容などに合わせてリーダーシップの形を変えることが、成果を上げる方法だとされているのです。
リーダーシップ理論の歴史は、「固定された資質から、変化に対応できる柔軟性へ」という進化の物語です。特性理論が生まれつきの資質を前提とし、行動理論が行動に焦点を当て、条件適合理論が状況対応を重視するようになった。そして現代では、リーダーシップは「変化を読み、適応する力」として捉えられるようになっています。
私たちが組織を率いるときに意識すべきことは、「正解のリーダー像はひとつではない」ということです。チームの成熟度、目標、環境によって最適なリーダーシップは常に変化します。固定観念を捨て、状況に合わせて自分の行動を変えられる人こそ、これからの時代に求められる真のリーダーなのです。
本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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