思考忍耐力を鍛える

企業や団体で行うセミナーや研修の中では、たびたび演習を行います。ケース事例に基づいて解答を考える演習もあれば、課題設定や計画づくり、あるいはキャリアプランなど、自分のことについて考える演習もあります。

演習のインストラクションを行っていると、「考え続ける力」が不足しているように見える方が時折いらっしゃいます。

じっと紙に向かって考えて手を動かす集中力が保てず、隣の人と話しはじめてしまう方もいれば、考えることを放棄して時間が過ぎるのをただ待っているように見える方もいます。

若い人に限った話ではなく、中堅層、ベテラン層でもこの傾向は見受けられます。手持ちの材料で「考え続ける」ことができないのです。

今日のテーマは「考え続ける力」です。

限られた情報で仮説を立てる

どんな業種・業態でも、ビジネスを進める上で求められる汎用的な能力の一つとして、問題解決能力が挙げられます。問題解決を行うためには、解決策を考える発想力や企画力も必要ですが、問題を引き起こしている原因を分析する力も求められます。

問題の原因を突き詰めるためには、仮説構築が必要です。問題解決とは仮説構築と仮説検証の繰り返しによって行うものです。

仮説構築とは「限られた情報をもとにして、その時点で考えられる仮の結論を導き出す」ことです。実際の仕事の場面で、結論を出すために必要な情報がすべて揃うことは極めて稀です。たとえ判断や意思決定に必要な情報が十分な量を得られていなかったとしても、その時点で考えられるベターな結論を論理的に導くことが求められます。

ビジネスのスピードがはやい現代においては、いかに早く次の行動に移れるかが成否を大きく左右します。情報量が不足しているからと、いつまでも情報収集を行っているようでは、いつまで経っても結論が出ません。そうこうするうちにタイミングを逃し、他の存在がチャンスを奪っていってしまいます。

また、時間を膨大にかけたとしても、必要な情報を100%集めることは容易ではありません。調べれば調べるほど、細部を説明するためのより詳細なデータが必要になり、ますます時間を要するようになってしまいます。

調査自体が目的になっている場合は別として、問題解決を行う上では、ある一定の情報量が入手できた段階でその範囲から言える仮説を構築して、早々に次の手に打って出ることが必要です。

そして、仮説を構築するためには、不足情報を補うためにどうような代替案を用意できるかを考える思考力が必要です。そのためには論理的な思考力も問われますが、実はそれ以上に大切なのが思考の「忍耐力」です。

思考忍耐力を鍛える

不十分な情報量で仮説を立てることは決して、容易ではありません。すでに持っている情報をどのように転用すれば、不足情報を補えるのかを考えなければなりません。

「フェルミ推定」をご存知でしょうか。

実際に調査するのが難しいようなとらえどころのない量を、いくつかの手掛かりを元に論理的に推論し、短時間で概算することです。(Wikipediaより)

 

例えば、あなたがビール会社のマーケティング担当だとします。来期の販売計画を立てる会議の中で、ある企画を検討するために「東京都のビールの年間消費量」という情報が必要になったとします。

政府や民間調査会社の統計資料を調べれば、データを入手できるかもしれませんが、それには何時間も要するかもしれませんし、調査のために長い時間会議を中断するわけにもいきません。

おおまかな規模がわかれば十分ですので、正確なデータは必要ありません。仮に2分間で、「東京都のビールの年間消費量」の仮説を立てるよう命じられたとしたら、あなたは保有している知識の中で、どのようにこれを計算しますか。

適当な紙を手元に取り出し、2分間計測して考えてみてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いかがでしたでしょうか。

参考までに、「都道府県別統計とランキングで見る県民性」の資料をご紹介しておきます↓
https://todo-ran.com/t/kiji/10822

ここで問いたいのは、答えが合っているかどうかということではありません。持っている知識の組み合わせで、2分間、頭と手を休めることなく、ずっと考え続けることができたかどうかです。

実際、上述のビールの消費量のように、2分も時間があればかなりのことを考えることができます。一方で、物事を考えるためには、とても集中力が必要です。2分間ほかに雑念が入ることなく、ただこれだけを一心に考え続けることが、いかに難しいかを感じていただけたかと思います。

それから考えれば、1時間や2時間、集中して物事を考え続けることなど、そうそうできるものではありません。仕事をしている中で、本当に頭をフル回転している時間はごくわずかなのです。したがって、忍耐強く集中して何かを考え続けられる時間が長くなれば、その分だけ仕事の生産性は大きく向上します。

「考え続けること」自体は能力ではなく、行動です。行動するか/しないかには先天的な資質は必要ありません。求められるのは意思と訓練です。忍耐強く考え続ける訓練の積み重ねによって、「思考忍耐力」という能力が後天的に身につくのです。

現代はインターネットで容易に情報が入手できるので、何かわからないことがあれば、すぐに検索をしようとしてしまいます。それゆえ、どうしても自分の頭を使って仮説を立てるという訓練が不足してしまいます。何かを考え抜こうとしても、すぐに気が散ってしまったり、飽きてしまったり、投げ出したくなってしまうのです。

思考力を磨きたい方は、1日に何か1つでも2つでも、2~3分間集中して考え続ける訓練をしてみてはいかがでしょうか。

毎日繰り返し「考える」訓練を積んでいけば、無意識のうちに仮説を立ててから仕事をする習慣が身につき、きっと問題解決や成果の質やスピードが大きく改善されることでしょう。

 

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

  

投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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