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2020.3.16

キャリアを形成するための「山登り」と「波乗り」~計画された偶然をつくる~

2/25の配信で、自律的なキャリアデザインを行うために、次の4点が前提として求められるというお話をいたしました。

  1. 自分の頭で考える
  2. 自分にとっての仕事の意味と意義を考える
  3. 偶然を生み出し、チャンスに変える
  4. 決めたことを実行する

今回は3点目である「偶然を生み出し、チャンスに変える」について解説いたします。

▼これまでの流れはこちらから▼
希望退職募集と定年70歳から、自律的なキャリアデザインの重要性を考える(2/25)
「自分の頭で考える」力を鍛える(3/2)
お金のために働くのか、自分のために働くのか(3/9)

キャリアは計画できるのか

これまでこのブログでも、人生100年時代を迎えるにあたり、私たちには自律的なキャリアデザインが必要だという話を繰り返し述べてきました。

キャリアデザインというと、「人生のゴールを決めて、そこに至るまでの計画を立て、計画に基づいて行動に移す・・・」というイメージを持たれるかと思います。

後述する通り、計画は確かに必要になるのですが、実際のところ「自分が立てた計画通りに、自分の人生が送れる」という人はほぼいないだろうと考えられます。

どれだけ精緻に計画を立てたとしても、自分が予期していなかった異動や転勤、担当の変更などによって、計画が崩されることはたびたび起こります。会社が吸収合併になったり、倒産したりなど職場環境そのものがなくなる可能性もゼロではありません。

仕事以外での側面でも、結婚や出産、その他ライフイベントによって、仕事に割ける時間や労力が変化したり、そもそも自分の価値観が大きく変わってしまったりすることもあります。

事業主やフリーランスの場合、さらにリスクが高くなります。取引先の人事変更によって関係性が変化することもありますし、経済状況が悪化して仕事を選んでいられないケースに陥ることも考えられます。

ましてや、このたびの新型コロナウィルスを巡る騒動のように、市場そのものが沈黙してしまっては、何もかもが計画倒れになります。大きな環境変化の前では、個人で描いた計画などとても無力です。

キャリアデザインをする上では、まず前提として、「人生は必ずしも計画通りにはいかない」ことを心得ておく必要があります。

しかし、だからといって、流れに身を任せれば良いというものでもありません。環境に身を委ねるだけでは、天に運命を定められたような人生を送ることになってしまいます。自分の意思を持たなくては、自分の望むような生き方は送れないと言えるでしょう。

つまり、キャリアデザインには自分の意思に基づく「計画性」と環境にうまく適応する「柔軟性」の両方が必要なのです。

「山登り」と「波乗り」

研修やセミナー、個別コンサルティングなど、私がキャリアデザインについて説明する際には、この計画性と柔軟性をしばしば「山登り」と「波乗り」に例えます。

山登りは「登る山を決め(キャリアビジョン)、頂上を見据え(目標設定)、ルートを選んで所要時間を見積もり(計画策定)、装備を整え(スキルや人脈)、計画に基づいて山に登る(行動)」というアプローチです。

キャリア開発の伝統的なアプローチであり、望ましい人生を送るためには、ある程度の計画性も必要です。しかし、こうした計画性が実際にキャリア形成に与える影響は、せいぜい2割くらいと捉えるのが妥当だと思います。

山登りの過程で、波(環境変化)がやってきます。波の勢いは強く、個人が抵抗できるレベルでないことが大きいです。そして、この波の影響がキャリア形成の8割に影響を与えます。

例えば、会社から人事異動を命じられた際、それに抵抗していまの部署に残りたいと訴えたところで、残れるとは限りませんし、残ったとしてもその後の人事評価はおそらく悪くなります。あるいは、もっと意にそぐわない部署への異動を命じられる可能性も考えられます。

波がきたら、抗うのではなく、乗りこなすことです。

たとえ、言い渡された人事異動が自分の望むものでなかったとしても、異動先で与えられた役割を果たすべく懸命に仕事をするのです。

懸命に仕事をすれば結果が出ます。そして、結果が出れば仕事はおもしろくなります。

それまでイヤだと思っていた仕事が、実際にやってみたら意外とおもしろく、ただの食わず嫌いだったことに気づくこともあります。「案外、こっちの方が自分にあっているかもしれない」と思うことすらあるでしょう。

そして、さらにおもしろいことに、波を乗りこなすことで別の山(キャリアビジョン)が見えるようになることもあります。

どれだけ考え抜いて作ったキャリアビジョンや計画だとしても、それは「いまの自分が知っている世界」の中でしか作れないものです。当然、自分の視野が狭ければ、見える山も限定的になります。たかが知れているのです。

たとえ山登りの過程で波にさらわれても、その波を乗りこなすようになることで、かつてとは違う位置から社会を見ることになります。その結果、別の山を見つけることもありますし、場合によっては最初に目指していた山の頂上をすでに超えてしまっていることすらあるのです。

波に乗る

ただし、大切なことは波に「乗る」ことです。決して波に「流される」のではありません。

波に「乗る」ためには自分の意思が必要です。「想定していたものとは違うけども、これも経験だと思って一生懸命やってみよう」という前向きさや積極性がなければ、波に向き合い、乗りこなすことはできないでしょう。

やってきた波にただ身を委ねて、「はいはい。言われたとおりにやればいいんでしょ」というような消極的な姿勢では、波の強さに負けてしまいます。とんでもないところに流されることもあれば、溺れてしまうこともあるでしょう。

例えば、商品開発をしたくて外食メーカーに入社したら、店舗スタッフとして配属されてしまったとします。

そこで「自分がやりたかったのは、商品開発なのに」と嘆いて、お店の仕事に消極的な態度で取り組んでいたらどうなるでしょうか。

「やる気がない」「気が利かない」「使えない」と悪い評価をされ、昇格も昇進も滞ります。希望していた商品開発部に行く道も完全に途絶えるでしょう。

何より、周囲から冷たい目で見られることになって居心地が悪くなり、自ずと退職の道を選びます。そして、「あの会社はダメだ」と自分のことを棚に上げて、相手を悪く言うようにさえなってしまいます。これが波に「流される」人生です。

一方、「いずれは商品開発がやりたいけど、その前にまず現場を知らないとな」と積極的な態度でお店の仕事に取り組んだとします。お客様のニーズは何なのか。もっと喜んでいただくためには、どのような商品やサービスが必要なのかを考えて、自分でできる限りの工夫や改善を図ります。

こうした姿勢で仕事をしていれば、確実に力がつき、良い結果を生み出します。何より、こういう姿勢で仕事をしている人は他の人を惹きつけます。当然、評価も高くなり、じきに店長を任される機会もやってくるでしょう。

その頃には、お客様との直接の接点を持ち、スタッフと協力して良いお店をつくっていく「店長の仕事」が楽しくなり、そこに自分の生きる道を見出す場合もあるでしょう。

あるいは、念願がかなって商品開発部門に異動することもあるかもしれません。「優秀な店長」という実績を携えての異動になりますので、高いポジションで異動することもあるかもしれませんし、場合によってはマネジャーとして異動することもありえます。

何より、現場経験を通じてお客様のニーズを直接見ているので、商品開発のレベルの高さがまるで違います。新入社員として商品開発部に配属されてスタートするのと比べたら、与えられる裁量、企画の着想と説得力、実現できることが桁違いに優れているのです。急がば回れで、結果的に最初の計画よりも高い位置から、早く山を登ることができるのです。

これが、波に「乗る」ということです。

偶然を計画する

スタンフォード大学の故ジョン・クルンボルツ博士によれば、キャリア形成は「予期しない偶然の出来事」によって、その8割が形成されます。

成功したキャリアを持つ方々のインタビューなどを見ても、「チャンスがやってきた」「たまたまうまくいった」「当初とは違う方向になった」という声も少なくありません。

共通しているのは

  • あの時、あの出来事があったから、いまの自分がある
  • あの時、あの出会いがあったから、いまの自分がある
  • あの時、あのタイミングだったから、いまの自分がある

といったように、自分の成功を「偶然の産物」として位置づけているということです。

しかし、これは本当に偶然の産物なのでしょうか。その人たちは、やってきた波をうまく乗りこなしてきたのではないかと私は考えます。

波は誰にでもやってきます。波に乗るのか、流されるのか。それは仕事に対する姿勢や心構え次第だというのは前述の通りですが、実はさらに重要なことがもう1つだけあります。それは、やってきた波に「気づけるかどうか」ということです。

転勤や異動、結婚や出産など、目に見えるような大きな変化をもたらすことだけが「波」になるとは限りません。

・同僚が退職したので、その仕事を自分が引き継ぐことになった
・上司が異動になって、新しい上司がやってきた
・ITシステムが動作不良になって、手作業で仕事をしなければならない状況になった
・新事業プロジェクトのメンバーが公募されることになった
・取引先から新しいお客様を紹介された

いずれも、どこにでもあるような話です。しかし、これらを「自分にとってのチャンス」と見るか「取るに足らない話」と見るかによって、キャリアに与える影響が大きく変わってきます。

自分の周囲に起こる大小さまざまな出来事に対し、「これも自分にとってのチャンス」だと思って積極的に向き合うことで、結果として「あの時、あれがあったから」といった「人生を変えた偶然の産物」になることがあるのです。

クルンボルツ博士はこれを「計画された偶然(Planned Happenstance)」と呼んでいます。言葉として、おかしなネーミングですが、「計画」と「偶然」という矛盾する2つの言葉を組み合わせた、人生の奥深さを表現する素敵な名称だと私は思います。

周囲に起こる出来事に対し、見過ごしてしまったり、無関心でいたりすると、積極的な行動に結びつきません。行動しなければ何の結果も得られないので、それが後になって「偶然の産物」になることは決してありません。

しかし、それらに対して積極的な態度を示し、行動に移すことによって、何かしらの結果を得ます。それが、後からキャリアを振り返って考えた時に「あの時の○○」になるのです。

つまりこれは、ささいな「周囲の出来事」を「偶然の産物」に作り替えたと言い換えることができます。そして、それは自分の心構えによって生み出されたものであり、言わば自分の意思で「計画的に」行ったことになるのです。これが「計画された偶然(Planned Happenstance)」の意味です。

クルンボルツ博士は、偶然を計画的に作り出すためには「好奇心」「持続性」「柔軟性」「楽観性」「冒険心」が必要だと説いています。

まずは「やってみよう」という意思を持ち、様々なことに挑戦し、行動に移す。この心構えがキャリア形成にとって有益な偶然を生み出します。

とは言え、ただ闇雲にやればいいのではありません。それでは波に流されているのと同じになっていまいます。行動するにあたっては、自分の人生をより豊かに、幸せにするための前向きさが必要です。

そのためには、自分にとっての豊かさや幸せのイメージがある程度は必要です。キャリアビジョン、大事にしたい価値観など、大まかでいいので「自分にとっての望ましい人生」を描いておくことが求められます。自分の人生に明るく、前向きな展望を抱いていなければ、心が前向きにならないからです。これが2割の「山登り」に相当します。

最初に登る山に固執する必要はありません。波に乗りながら山を転々とし、自分の世界観を広げていくことで、キャリアは多様性を持ちながら柔軟に形成されていきます。これが、キャリアデザインが「山登り(計画)2割:波乗り(偶然)8割」で構成されるという意味です。

仕事の「意味」は、後からやってくる

前回の投稿で、自分の仕事の意義や意味を持つことの重要性をお話しいたしました。

とはいえ、自分の仕事に明確な意味を持つことが難しい場合も少なくありません。「自分は何のために働いているのか」に迷い、悩むことは、特にキャリアの浅い頃には当然のことだと思います。

自分のキャリアにおけるミッションやビジョン、価値観、すなわち仕事の「意味」は、計画された偶然を積み重ねた結果として見えてくる場合があります。

あるプロジェクトでご一緒している仕事のパートナーさんの一人に、日本企業の海外事業をご支援しているコンサルタントの方がいらっしゃいます。その方は、もともと海外への憧れが強く、外資系企業に勤めたり、海外でお仕事をなされてたりされていたそうですが、海外に触れれば触れるほど日本の良さが見えるようになり、今では日本企業を応援したいという志向になったそうです。

かくいう私自身も、人材派遣会社から健康食品会社に移り、経営コンサルタントに転身するという脈絡のないキャリア形成を経てきました。当然、はじめからコンサルタントになるつもりはなく、営業、総務・人事、情報システム、販促企画、物流など、会社からの「波」によって職務を転々としてきました。それぞれの職場で仕事をしていった結果として、「たまたま」いまコンサルタントになったと言えます。

しかし、コンサルタントになったからにはと、自分の仕事の意味を改めて再考した時、「それまでの仕事の経験」と「いまやっていること」が結びついて、「人の成長と成功を支援する」「デキる人を増やす」「長時間労働から人々を解放する」「最高の自分になるお手伝いをする」といった、いま唱えている主張にたどり着いたと言えます。

加えて、様々な職務を経験してきたことが、コンサルタントになった今では非常に役立っています。当時は度重なる異動で自分のキャリアや専門性がまるで安定せず、「いいように使われている」と自分の状況に後ろ向きでしたが、今となっては「営業・企画・スタッフを一通りやったことがある」ということが重宝し、様々な仕事の機会を作り出してくれています。

「今までやってきたことの意味」「いまやっていることの意味」は、自分の歴史が後から作ってくれます。まずは、計画的な偶然を作り出し、自分の見ている世界観を広げるためにも、目の前にある社会との接点(=いまの仕事)に潜むチャンスに目を光らせ、前向きに積極的に取り組んでいくことが有効ではないかと、私は考えます。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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