人に投資しない会社は終わります

先週8/20より、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の対象地域が拡大されました。期限が9/12までとされておりますが、状況を見るとこのまま延長が繰り返されることも想定されます。

私が住んでいる兵庫県も再び緊急事態宣言の対象範囲となり、先週末は児童館で予定されていたイベントも中止になりました。雨天と猛暑を繰り返す日々の中、幼児を抱える身としては室内で遊べる機会や場所は非常に貴重なのですが、昨年以降ずっと厳しい状況が続いています。子どもたちがのびのびと遊べる場所が、制限なく使用できる状態に早くなって欲しいものです。

ワクチンの普及はもちろんのこと、治療薬が適用されるようにならない限り、状況が打開される目処はたたないでしょう。医療機関や製薬メーカーの方々が日々奮闘されている成果が実ることを、祈るように期待することしかできませんが、いち早く日常生活が支障なく送れる時が訪れるのを祈るばかりです。

コロナ以降に見られる、経済のK字回復

コロナとの戦いが長期化する中、企業業績は業種や業態によって二極化している状況にあります。昨年1−2月のコロナ初期を起点とした場合に、それ以降に増益している企業と収益が悪化している企業の差が著しくしくなっています。この現象は「K字回復」と呼ばれています。好調な企業と不調な企業の差が開いていく様が、アルファベット「K」の字に似ていることに由来します。具体的には、製造業や情報通信業、通信販売など巣ごもり需要の恩恵を受けた業界は業績が良好である一方、デパートなどの小売業、観光や運輸、飲食業、イベントやテーマパークなどは大きく収益が悪化しています。

この両者の差を生み出しているものの一つが、デジタル化・オンライン化への対応です。商品やサービスの提供がデジタル・オンラインで可能なものは、今後もなお成長を見込むことができますが、物理的に接点を持たないとビジネスが成立しない業種や業態は、まだまだ苦しい状況が続くことが見込まれます。仮にコロナ感染の状況が落ち着いてきたとしても、この1〜2年で急激に起こったデジタル化・オンライン化の流れは、今後も人々の行動様式として定着し続けていくことになると考えられます。これからは何かしらの形で商品やサービスをオンライン提供することを考えていかないと、事業の継続は難しくなるでしょう。

そして、デジタル化・オンライン化を含め、従来のやり方を改めて、新しいやり方を模索し、挑戦していくことができるかどうかは、組織を構成する人材の質によって左右されます。すなわち、人材の優秀さによって、苦しい状況を打開できるかどうかが決まるのです。私の言葉で言えば、「デキる人」がどれだけ多くいるかどうかが、組織の命運を握ります。

最高の投資資源は人材

事業とは、組織が保有する経営資源を効果的、効率的に配分することによって価値を生み出し、それを顧客に提供することで収益を生み出すことです。したがって、収益の差を生み出すのは、保有する経営資源の質にあると言えます。

経営資源は大きく、有形資源(実体のあるもの)と無形資源(実体のないもの)に分けれれます。有形資源は人材(ヒト)、商品や建物・設備(モノ)、資金(カネ)の3つで構成されます。無形資源には、組織が保有する知識や情報、ノウハウ、制度やシステム、顧客リスト、信用、ブランドイメージなど様々なものがありますが、総じて「情報」と括られます。つまり、経営資源とは大きく「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の4つに大別されます。

いずれの資源も事業を行う上で重要ですが、この中で最も重要なものを一つだけ選ぶとしたら、私は間違いなく「ヒト」を選びます。なぜなら、この中で資源としての価値を向上させることのできるものは「ヒト」だけだからです。

モノの価値は取得した時点が最も高く、基本的には時間の経過とともに下落していく一方です。どんな商品も生産された直後が、設備や建物も入手した直後が最も価値が高い状態です。不動産は価値が向上することもありますが、少なくとも少子高齢化が著しい日本の中では、価値が向上する土地は都心の一等地に限られます。よほど特別な状況でない限り、それ以外の土地の価値は、今後下がり続けていく一方であり、上がることはあまり期待できません。

カネの価値は、原則として一定です。もちろん、為替相場の変動やインフレなどで価値が増減することはありますが、それはすべての人が同じ条件で影響を受けます。したがって、社会全体の中においては、カネの持つ価値は相対的に常に一定にあると考えられます。

情報の価値も、基本的には目減りしていきます。知識や情報は取得した直後の価値が最も高く、時間の経過とともにその鮮度が低下して価値が低下していきます。信用やブランドイメージなどは、時間の経過とともに価値が上がっていくことがありますが、これを維持し、向上させていくためには、長期間にわたって誠実に地道に実績を重ねていく必要があります。決して容易にできることではありません。

組織にとって、最も重要な資源は人材です。人材だけが唯一、その価値を意図的に向上させることができる経営資源だからです。危機的な状況を迎えている時こそ、資源としての人材の価値を向上させることが必要です。苦しい状況を打開するためには、新しい商材や手法を生み出し、これまでとは異なるアプローチで事業を行っていくことが求められます。その実現には、ヒトの持つ知恵や創造性、意欲が欠かせません。すべて人が行うことだからです。意欲が減退し、思考が硬直し、過去のやり方を惰性で続けているだけの仕事では、もはや収益があげられない状況に直面しているのです。

人材への投資が状況の打開策

先日、ある企業(小売業)を訪問した際、事業の収益が著しく悪化し、教育予算が大幅に削減されることになったとの報告を受けました。進行していた案件はすべて頓挫し、私も影響を受けることになりましたが、自分の心配はさておき、余計なお世話ながらも、この企業の今後はますます苦しいことになるだろうなと思いました。

お金がないのでは外部講師を招いての教育は実施できないので、致し方ない面はあります。とはいえ、ここで人材への投資をさらに縮小することで、ますます従業員の方々の「稼ぐ力」が低下し、収益悪化に歯止めがかからなくなるのではないかと危ぶまれます。教育を抑制するということは、すなわち今までの仕事を、今までのやり方で、今まで通り行うようにすることに他ならないからです。

上層部の戦略策定や、マネジメントの強化によって業績は変わるのではないかと思われるかもしれません。しかし、人は本能的に変化を嫌い、避けようとするものです。いかに上層部が声高に路線変更を唱えようとも、現場の人たちの意識や行動が変わらない限り、それが現場業務に浸透することはありません。たとえ、考えるのが上層部だったとしても、実行するのは現場の人です。現場の人が変わらない限り、すべて「絵に描いた餅」として形骸化して終わりです。

そもそも、これだけ変化が激しい環境の中では、状況を打開するヒントは現場にしかありません。顧客の声を聞き、顧客を観察し、顧客の心の奥底を読む。顧客がまだ見ぬ未来を、先に見る。現場の人が自ら考え、それを実行に移す組織でなければ現代では収益を上げることは困難です。

こうして考えると、事業が順調で、お金に余裕がある時ほど、人材にしっかりと投資をしておくべきなのです。事業が苦しくなれば、当然、教育予算を確保できなくなります。しかし、教育にお金をかけないようにするということは、自社の経営資源(=稼ぐ力)を弱らせていくことに他なりません。

取得した時点で最も価値が高い物質資源とと違って、人材は投資すればするほど、資源としての価値が向上します。ましてや、環境が激変して過去の経験があまり役に立たなくなっている今の状況では、従業員に新たな刺激を与えて、意識変革や発想の転換、考える材料としての知識付与、新たな挑戦の機会などを促していかなくては、いつまで続くかわからないコロナ状況で、業績を向上させる打開策など生まれてくるはずもありません。

現代ほど、過去の成功体験が役に立たない時代はないのではないかと思います。もちろん、原理原則や本質はいつの時代にも変わらないかもしれませんが、それを実際のビジネスに適用していく上では、社会情勢や人々の価値観、進化し続けるテクノロジーなどを踏まえた「応用」が求められます。意識や知識をアップデートしていかなくては、せっかくの過去の経験も活かしきれないのです。新人からベテランにいたるまで、常に自分自身を刷新し、再生することが必要です。経験の価値が低下したことは、中高年にとっては厳しい面もありますが、これが現実です。常に学び、挑戦している人にしか明るい未来はやってきません。

そのためにも、毎年一定の教育予算をかけて、定期的に人材への投資を行っていくことが、長期にわたって事業を成功させる上での必要条件となります。そして、ここでいう投資とは必ずしも教育だけではなく、優秀な人材を採用し、確保すること。離職を防止するために環境を整備することも含まれます。優秀な人を雇い、優秀でい続けてもらうことが、事業を成功させる秘訣なのです。どんな会社も、採用するためには多大なコストを支払います。しかし、雇った後の人材に投資するかしないかは、企業にとって大きく差があります。雇った人にも投資し続けていかないと、優秀さは失われていきます。何事も、放置していると状態が悪化していくのです。まさに「エントロピー増大の法則」です。

絶えず新しい人材を採用して、新しい考え方や価値観を取り入れるとともに、すでにいる人材に現場業務以外の側面からも新しい刺激を与えることによって、組織や業務の硬直化を防ぐことが、組織を絶えず変化、成長させていくことが理想です。ただし、退職者がいない限り、事業規模が一定であれば採用できる数には限りがあります。すでにいる人たちを「生まれ変わらせる」ことも必要なのです。

先の見えない状況だからこそ、企業や団体を経営されている方々には、人材へのさらなる投資をしていただきたいと願うばかりです。また、個人においては、たとえ組織からの刺激や支援がなくても、自ら危機感を持って新しい知識や情報を収集し、新しい経験を積んで自己変革に取り組むことが必要です。これが長期的には、自分のキャリア実現にもつながります。

私は自らの仕事を「デキる人を増やす」ことと定めました。志の高い人、向上心のある人、自ら学び、成長できる人が一人でも多く増えることが、停滞感、閉塞感が蔓延する世の中を打開することになると信じています。とはいえ、私は本来、とても怠惰な人間です。自分を厳しく律していかないと、朝から晩までゴロ寝してYouTube見て1日を終えてしまうような人間なのです。なので、まずは自分自身が望ましい人物像でいられるよう、サボりたい気持ちを統制して、自ら変化、成長していけるよう自己管理の努力を重ねていきたいと思っています。

先行きが見えない世の中ですが、プラスのエネルギーは物事を良い方向に進めてくれるはずです。それぞれのフィールドで、やれることをやっていきましょう。今週もみなさまにとって充実した一週間となりますよう。

本日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

  

投稿者プロフィール

小松 茂樹
中小企業診断士・キャリアコンサルタント。株式会社ビジネスキャリア・コンサルティング代表取締役。人材派遣会社、健康食品会社を経て、経営コンサルタントに転身。営業力強化・業務改善・生産性向上・ビジネススキル向上など幅広い範囲で、業績向上や人材育成の支援を行っている。理論的な背景と情熱的な語り口を交えた講演スタイルに定評があり、セミナーや研修で高い支持を得ている。

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